大阪高等裁判所 昭和56年(う)1489号 判決 1982年3月19日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人南野雄二作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官吉岡卓作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。(なお、弁護人南野雄二は、当審公判廷において、本件控訴の趣意としては、本件古木材等の廃棄物が、産業廃棄物であるのに、原判決が一般廃棄物であるとして、その収集及び処分について処断しているのは、関係法令の解釈、適用を誤つたものであること及び右の関係法令は、その規定の内容が明確性を欠き、罪刑法定主義を定めた憲法三一条に違反した無効なものであることを主張し、その余の理由不備等の主張は撤回する旨釈明のうえ陳述)控訴趣意第一点、法令の適用違背の論旨について
所論は、被告人が収集及び処分した本件廃木材等の廃棄物は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下廃棄物処理法という)施行令一条九号所定の工作物の除去に伴つて生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物である、いわゆる建設廃材に該当し、右廃棄物処理法二条三項にいう産業廃棄物として取り扱うべきであるのに、原判決がこれを同法二条二項にいう一般廃棄物として取り扱い、その収集及び処分を業として行つた被告人の本件所為を同法七条一項本文、二五条一号に該当するものとして処断しているのは、明らかに右関係法令の解釈、適用を誤つたものである、というのである。
よつて、記録を精査し原判決挙示の各証拠等原審で取調べた関係各証拠を検討して考察するに、廃棄物処理法は、廃棄物を適正に処理して生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという目的に則り、同法二条一項によつて廃棄物の範囲を定めたうえ、同法二条二項及び三項によつて一般廃棄物と産業廃棄物とに分別し、産業廃棄物としては、事業活動に伴つて生じる廃棄物のうち、同法二条三項所定の六種類のものと、同法施行令一条所定の一三種類のものとの、合計一九種類のものを列挙し、廃棄物のうち右の産業廃棄物以外のものを一般廃棄物としていること、右の分別は、一般廃棄物の処理は市町村の管轄に属し、産業廃棄物の処理は事業者の管轄に属するとしていること等その処理体系の相違や、投棄禁止区域の相違等を考慮して定められているもので、その区分があいまいであれば、市町村や事業者の行為を適切に規制することはできず、行政上の混乱を招くので、そのような事態に陥らないように、産業廃棄物と一般廃棄物との区分は、法令の解釈としても当然明確にすべきものであり、文理に反する拡大解釈をするようなこと等は、国家機関による公権的解釈として許されないものであること、そして所論は、被告人が収集及び処分した本件廃木材等は、すべて右廃棄物処理法施行令一条九号所定の、工作物の除去に伴つて生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物である、いわゆる建設廃材に該当するというのであるが、右の如き廃棄物に対する処理体系の相違や投棄禁止区域の相違等を考究して勘案すると、右の不要物即ち建設廃材の中には、本件の如き廃木材等は含まれておらず、レンガ片、鉄筋片、瓦片等の不燃物、沈澱物をいうものであることは、その文理上からも十分解されるのみならず、同法施行令六条三号への規定によると右の建設廃材がそのまま海洋投入処分ができる廃棄物として定められていることに照らしても明らかであること、したがつて本件廃木材等の廃棄物は、可燃物、浮遊物であるから、右の不要物である建設廃材には該当せず、また他の産業廃棄物にも該らないので、一般廃棄物というべきであること、国(厚生省)の行政上の公権的な見解としても、右と同様に解されており、もとよりそれは正当なものと思料されること、なお右の公権的な見解として、工作物の除去に伴つて不要となつた廃木材等は右の如く一般廃棄物であるが、それがコンクリート破片等と密接不可分の状態で排出される場合には一般廃棄物と産業廃棄物との混合物として取り扱うことが困難であり、運用上建設廃材として一体的に取り扱つても差し支えがない旨の指針が示されているが、本件廃木材等は右の場合には該らないものであることが、それぞれ首肯される。
もつとも、原審で取調べた鑑定人小高剛作成の鑑定書によると、事業活動に伴つて生じた廃棄物は、それが産業廃棄物であるか一般廃棄物であるかを問わず、すべて事業者の責任で処理すべきであるとしている廃棄物処理法三条の趣旨から、家庭生活から排出される廃棄物と明確に区別できる事業系廃棄物は、すべて産業廃棄物として法定されているとの認識に基づいて本件廃木材等は産業廃棄物と結論づけ、所論の趣旨にそう見解が述べられているのであるが、それは産業廃棄物と一般廃棄物とを分別している廃棄物処理法の関連規定の文理に違背する独自の解釈ではないかと思料され、到底採用するに足りる見解とは認められない。
よつて、本件廃木材等の廃棄物を右廃棄物処理法所定の一般廃棄物と解した原判決に所論の如く関係法令の解釈、適用を誤つた違法があるものとは思料されない。論旨は理由がない。
控訴趣意第二点、憲法三一条違反の論旨について
所論は、原判決は被告人に対し、本件廃木材等の廃棄物の収集及び処分に関する所為につき、廃棄物処理法七条一項、二五条一号及び同法施行令一条等の関係法令を適用処断したのであるが、右の構成要件及び刑罰等を規定した関係法令は、その内容が不明確で、罪刑の法定として不十分なもので、罪刑法定主義を宣明している憲法三一条に違反しているというのである。
しかし、所論に鑑み検討するも、右各関係法令は、その規定の内容等に徴し、罪刑の法定に欠けるような不明確なものとは思料されないので、右主張は採用できない。論旨は理由がない。
よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。