大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)239号 判決 1981年9月30日
控訴人
ハッピー商事株式会社
右代表者
山内安晴
右訴訟代理人
巽貞男
被控訴人
鈴木のり子
右訴訟代理人
鈴木勝利
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因事実は総て当事者間に争いはない。
二本件は売買契約締結と同時に商品の引渡と代金全額の支払を了した場合である。そこで斯様な場合にも法六条一項による契約の解除ができるか否かについて検討する。
法六条一項は、販売業者が営業所等以外の場所で売買契約(指定商品についてである。以下同じ)の申込を受けた場合のその申込者、販売業者が営業所等以外の場所で売買契約を締結した場合の購入者は、同項一、二号の場合を除いて右申込の徹回又は契約の解除をなし得る旨定めている。
ところで
1 法四条は、販売業者が営業所等以外の場所で契約の申込を受けた場合を規定しているが、この場合
(一) 契約の申込の段階に止まるときは、販売業者は販売価格その他法四条所定の事項についての申込内容のほか、書面受領の日から起算して四日を経過する日までは、商品の引渡と代金全額の支払を了した場合を除き、申込の撤回をなし得ること等をも記載した書面を申込者に交付すべきものと定めるが(法四条本文、規則六条)、
(二) 右申込を受けて直ちに売買契約を締結し且商品の引渡と代金全額の支払を了した場合には右(一)の書面の交付を不要であるとし、
2 法五条一、二項は、販売業者が購入者の住居で売買契約を締結した場合を規定しているが、この場合も
(一) 契約締結の段階に止まるときは、販売業者は「右1の(一)の場合と同内容(但し「申込内容」は「契約内容」となる)を記載した書面を購入者に交付すべきものと定めるが(法五条二項、規則六条)、
(二) 契約締結と同時に商品の引渡と代金全額の支払を了した場合には単に販売価格、販売業者の氏名等、販売担当員の氏名、販売年月日及び販売商品名と数量を記載した書面を購入者に交付すれば足りるものとし(法五条一項、規則五条)、
3 法五条三項は、販売業者が営業所等以外の場所(購入者の住居を除く)で売買契約をした場合又は営業所等以外の場所で売買契約の申込を受け営業所等でその売買契約を締結した場合を規定しているが、この場合も
(一) 売買契約締結の段階に止まる場合は販売業者は右2の(一)の場合と同内容を記載した書面を購入者に交付すべきものと定めるが(法五条三項本文、規則六条)
(二) 契約締結と同時に商品の引渡と代金全額の支払を了した場合には右書面の交付を要しないものとしている(法五条三項但書)。
そして法六条一項一号は、右1ないし3の各(一)の書面の交付を受けた場合においてその受けた日から起算して四日を経過したときは、右申込の撤回又は契約の解除ができない旨を規定している(法六条一項一号の法文は申込者等が前条二項又は三項の書面を受領した日(その日前に四条本文の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)以後において販売業者から申込の撤回等を行う場合の方法について通産省令で定めるところにより告げられた場合において、その告げられた日から起算して四日を経過したとき、とされているが、右通産省令の定めである規則六条によると、法六条一項一号の規定により契約の申込の撤回等を行うことができる旨及びその申込の撤回等を行う場合の方法の告知の仕方は、法四条本文又は五条二項、三項に規定する書面に記載して行うこととされているから、結局右各書面の交付のときに告げ判旨たこととなる。)。これらの規定からすると法は訪問販売につき現金売買の場合とそうでない場合とを区別して取扱い、申込者又は購入者が申込の撤回又は契約の解除をなし得るのは後者の場合に限定し、契約締結と同時に商品の引渡と代金全部の支払を完了した場合は最早や解除をなし得ない(契約は既に成立しているから申込の撤回の余地はない)趣旨であると解するのが相当である。これを反対に解して、現金売買の場合にも購入者において解除をなし得るものとすると、現金売買以外の場合には購入者は前記1ないし3の各(一)の書面の交付を受けた日から四日間しか解除をすることができないのに、これよりも更に契約関係が進行して最早や双方の履行が完了している現金売買の場合においては無期限にいつまでも解除できる結果となるのであつて、その不合理性は明白である。
又実質的に考えても、売買契約に基づく双方の義務の履行が完了した後において、右契約の成立及び履行に何等の瑕疵もないのに(これらに瑕疵のある場合は民法の一般原則によつて解除し得る)その効果の覆滅を認めることは法的安定の点からも好ましくないことは云うまでもない。
尚、割賦販売法四条の三には、割賦販売業者が営業所等以外の場所において割賦販売契約を締結した場合その購入者は次に掲げる場合を除き右契約を解除できるとし「購入者がその契約にかかる割賦金全部の支払義務を履行したとき」と規定しているのに対し、法六条はこれに類する規定がないが、これは割賦販売においては契約締結と同時に代金全額の支払を完了すると云うことがなく訪問販売の場合と取引の形態を異にしているのであるから、法六条に割賦販売法四条の三に相当する規定のないことを以つて、前記と反対の解釈を採る根拠とすることはできない。
三そうすると被控訴人のなした解除の意思表示はその効力を生ずるに由ないものであるから、その有効であることを前提とする被控訴人の請求は失当である。<以下、省略>
(大野千里 林義一 稲垣喬)