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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)930号 判決 1981年12月25日

控訴人 白石政隆

右訴訟代理人弁護士 藤田恭富

被控訴人 更生会社日興観光株式会社管財人 井上隆晴

右訴訟代理人弁護士 中本勝

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の主位的請求を棄却する。

控訴人が更生会社日興観光株式会社に対し、不当利得に基づく一〇〇〇万円の更生債権及びこれと同額の議決権を有することを確定する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

原判決を取消す。

(主位的請求)

控訴人が更生会社日興観光株式会社に対し、貸付金一〇〇〇万円の更生債権及びこれと同額の議決権を有することを確定する。

(予備的請求)

主文第三項同旨

(さらに右請求が認められないとき)

控訴人が右更生会社に対し、不法行為に基づく一〇〇〇万円の更生債権及びこれと同額の議決権を有することを確定する。

(訴訟費用)

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

二  当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  再抗弁

控訴人は、本件金員貸与の当時、日興観光が会社更生手続開始の申立を受けていたこと、保全処分命令により、保全管理人が選任され、裁判所の許可なしに借財ができなかったこと及び保全管理人が本件借財につき裁判所の許可を受けていなかったことの諸事実につき知らなかったのであるから、善意の第三者に該当し、被控訴人は、本件借入れにつき、裁判所の許可がなかったことを理由に控訴人に対抗することはできない。

なお、被控訴人が日興観光が控訴人から本件借入れをするのを黙認していたことは、前後の諸事情より明らかである。

(二)  日興観光の不法行為の賠償責任

日興観光の代表取締役であった梅本昌男及びサンイーストゴルフ倶楽部の支配人であった大塚鯉喜男は、被控訴人の黙認のもとに本件不法行為をなしたものであって、日興観光は、梅本昌男については商法第二六一条、第七八条により、大塚鯉喜男については民法第七一五条により賠償責任がある。

2  被控訴人の主張

(一)  抗弁

仮りに日興観光が控訴人より金員を借受けたとしても、右金員貸借は、無効である。即ち、大阪地方裁判所は、昭和五〇年七月二一日、日興観光につき保全管理人による管理を命じ、保全管理人に弁護士井上隆晴を選任する旨の決定をした。したがって右決定以降日興観光の事業経営、その財産管理、処分の権限は、保全管理人に専属していたのである。しかも右保全決定主文第三項第五号によれば、金員の借入れは、更生裁判所の許可を得なければならないものとされている。よって日興観光の金員の借入れは、保全管理人が全く関知せず、いわんや更生裁判所の許可を得ることもなくなされた違法、無効なものである。

(二)  控訴人の予備的主張について

更生債権者は、更生債権者表に記載した事項についてのみ、権利確定の訴を提起することができる(会社更生法――以下法という。――第一五〇条)。控訴人は、主位的請求原因で主張する消費貸借に基づく更生債権を裁判所に届出でその旨更生債権者表に記載されたものであるから、更生債権確定訴訟においてそれと異って予備的に不当利得及び不法行為に基づく債権の確定を求めることは、不適法である。

なお、債権者表に記載したのと異なる原因であっても、その権利の実質的関係が同一である限り更生債権確定訴訟において主張を許すべきであるとの見解によっても、控訴人の本件予備的主張は、届出更生債権の請求原因とは全く別個の社会的経済的利益に基づくもので、権利の実質的関係を全く異にするものであるから、同条に違反し、不適法であることは、明らかである。

(三)  大塚鯉喜男の不法行為

大塚鯉喜男は、梅本昌男と控訴人との間で一〇〇〇万円の貸借の話がまとまった後、同五〇年一〇月二一日、控訴人が右金員をサンイーストカントリークラブまで持参したので、これを受領したにすぎないものであり、大塚鯉喜男自身には何ら不法行為責任を負うべき理由はなく、いわんや日興観光に使用者責任はない。

3  証拠関係《省略》

理由

一  日興観光について大阪地方裁判所昭和五〇年(ミ)第八号更生事件において、昭和五一年四月一五日午前一〇時更生手続開始決定がなされたこと、控訴人は、更生債権者として一〇〇〇万円の貸付債権の届出をしたが、同年一〇月二一日の更生債権調査期日において、管財人が控訴人の右届出債権全部について異議を述べたことは、当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、控訴人は、同五〇年一〇月二一日、日興観光の代表取締役梅本昌男に対し、同会社の従業員の給料等の支払にあてるため、一〇〇〇万円を貸付けたこと(もっとも金銭借用証は、同会社経営のサンイーストゴルフ倶楽部支配人大塚鯉喜男作成名義になっているが、右は、控訴人が突然同クラブ事務室へ前記金員を持参して、支配人大塚鯉喜男に手渡したので、同人が前記代表者梅本昌男の指示を受け、とりあえず右借用証を作成し、早急に代表者作成名義の正式の借用証と取替える約で、渡したものである。)が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  ところで、前記会社更生事件において、同五〇年七月二一月保全管理人による管理を命ずる旨の決定(管理命令)がなされたことは、当事者間に争いがない。右管理命令があったときは、会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した保全管理人に専属し(法第四〇条第一項)、取締役は、これらの権限を失う。したがって、控訴人が右管理命令があった後、日興観光の代表取締役梅本昌男との間で締結した前記金銭消費貸借契約は、被控訴人の主張する保全管理人が裁判所の許可を得たか否かを論ずるまでもなく、効力を有しないものといわざるを得ない。

控訴人は、右金銭消費貸借について保全管理人は、これを黙認していたと主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はないのみならず、かえって、《証拠省略》によれば、保全管理人は、右金銭消費貸借の事実を知らなかったものと認めることができる。

四  控訴人は、右金銭消費貸借の無効をもって善意の第三者である控訴人に対抗できないと主張する。しかしながら、前記管理命令につき、そのころ登記がなされたことは、当事者間に争いがないところ、管理命令は、登記すべき事項であるから(法第一八条の二)、保全管理人は、商法第一二条に基づき、管理命令の登記がなされたときは、これをもって善意の第三者に対抗することができ、第三者は、同条所定の正当事由のない限りこれを否定することはできない。しかるに控訴人は、管理命令がなされたことにつき善意であったと主張するのみで、同命令の登記を知らなかったことにつき同条所定の正当事由があったことにつき何らの主張立証はない。したがって控訴人の再抗弁は、採用するに由ないものである。

五  以上の次第であるから、控訴人の金銭消費貸借に基づく一〇〇〇万円の更生債権を有する旨の主張は理由がない。

六  次に不当利得に基づく更生債権の確定を求める予備的請求について判断する。

更生債権者が訴により更生債権等の確定を求めうるのは、届出、調査を経て、異議のある旨が更生債権者表に記載されている事項に限られる(法第一五〇条)。これは更生債権確定訴訟において更生債権者表に記載されたのと異る権利、給付の内容、数額等を主張できることとすると、その事項については、訴訟当事者となっている者だけで確定することになり、権利の確定を管財人および他のすべての関係人の意思にかからせることとした法の趣旨に反するからである。しかし他方、権利の届出に際しては、更生債権の原因により権利の実体法上の同一性を識別しうるよう記載しなければならないが(法第一二五条)、事実関係の不明確あるいは法的意味の理解困難性の故に成立可能な数個の実体権の中から真に存在している一個の権利を的確に選び出して、これを届出ることを期待することは、一般債権者に難きを強いることもありうる。そしてかかる場合に、債権者がその後に的確な権利に変更しようとすれば、種々困難な手続を要し、終には救いの道を閉されることになる(法第一二七条第一項、第一四〇条、第一二七条第三項)。更生債権者がこのような不利益を受けるのにくらべれば、届出、調査の対象となった権利につき異議を述べなかった管財人、他の関係人は、債権者が届出た権利をもって更生権利者となることには異論がないのであるから、法律上は別のものであるとはいえ、同一内容の、しかも社会的経済的に同一の利益を目的とする権利について改めて異議を述べる機会が与えられないからといって、不当に利益が害されるとはいいえないであろう。よって届出た権利につき異議を述べられた更生債権者は、更生債権者表に記載された債権に代えて、実体法的には別の権利とみられるものであるが、給付の内容が等しく、社会的経済的に同一の利益を目的とすると認められる権利につき訴によりその確定を求めうるものと解すべきである。

本件についてこれをみるに、前叙(第一項)のとおり、控訴人は、主位的請求原因で主張する一〇〇〇万円の貸付債権を更生債権と届出、その旨更生債権者表に記載されていることがうかがわれるところ、予備的請求の請求原因で主張する不当利得に基づく債権は、更生債権者表に記載された前記貸付債権とは、その金額が等しいばかりでなく、社会的経済的に同一の利益を目的とするものと認められるから、前記予備的請求は適法ということができる。

七  そこで右予備的請求について検討する。《証拠省略》によれば、日興観光は、控訴人が前記無効の消費貸借契約に基づいて貸付金の名目で交付した一〇〇〇万円を受取り、そのころ、同社の従業員の給料支払等のため支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば、日興観光は、法律上の原因なくして一〇〇〇万円の利益を受け、他方これがため控訴人は、同額の損失を受けたものといわなければならない。

よって、控訴人は、日興観光に対し、不当利得に基づいて一〇〇〇万円の更生債権を有するものというべきであるから、右更生債権及びこれと同額の議決権を有することの確定を求める予備的請求は理由がある。

八  以上の次第であるから、控訴人の主位的請求は、理由がないから、これを棄却すべく、不当利得に基づく予備的請求は、理由があるから、これを認容すべきである。

よって、原判決は、右と判断を同じくする限度において相当であるが、その余は不当であり、本件控訴は、その限度において理由があるから、原判決を主文のとおり変更することとし、民事訴訟法第三八六条第八九条第九六条第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 惣脇春雄 山本博文)

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