大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)360号 決定 1983年1月28日
抗告人(申立人) 総合ファイナンス株式会社
右代表者代表取締役 三原重男
右代理人弁護士 辻中一二三
同 杉野弘
相手方 小田英二
相手方 小田治
右両名代理人弁護士 山田紘一郎
主文
原決定を取消す。
抗告人が相手方小田英二から譲受けるべき別紙目録(一)、(三)記載の株式及び相手方小田治から譲受けるべき同目録(二)記載の株式の各価格をいずれも一株につき七四九八円と定める。
理由
一、本件抗告の趣旨は「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というのであり、その抗告の理由は別紙記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
1. 鑑定人小野二郎作成の鑑定報告書(以下単に小野鑑定という)によれば、本件株式の譲渡は中野製薬株式会社の支配、経営を目的としない一般投資家間の譲渡であるから、本件株式の価格は原則として配当還元方式によって算定するのが適当であることが認められる。小野鑑定は配当還元方式の一つとして配当一定で内部留保が蓄積されていく場合の方式も採用しているが、同鑑定によれば会社の将来の利益は低下する傾向が認められるのに、同方式は昭和五四年一月期の利益が将来も維持されることを前提とし、右将来の利益の低下傾向を考慮に入れていないから、適当でなく、小野鑑定及び甲第一〇号証(河本一郎作成の意見書)、第一三号証(同人作成の追加意見書)によれば、本件株価はゴードン・モデル式による配当還元方式によって算定するのが最も適当であることが認められる。ところで、抗告人は会社の将来の収益は急激な低下が避け難いのに、小野鑑定の採用した数値は楽観的すぎると主張するが、将来の収益の予測は本件株式の売渡請求時点である昭和五四年一一月一〇日及び昭和五五年一月一五日において合理的に予測しうる範囲においてすべきであるところ、小野鑑定は総資本利益率の年々の低下率を昭和五一年からの実績より慎重にみて五パーセントとして計算した昭和五五年から昭和五七年までの三年間の総資本利益率の平均値を採用しているのであり、右時点において右低下率が右以上になることを合理的に予測しうる的確な資料はないから、抗告人の右主張は失当である。しかし、小野鑑定が総資本利益率の低下を予測しながら、内部留保率及び負債比率を過去の実績値に基づいて算定し、将来の利益の低下傾向を右各率に反映させないのは失当である。前記甲第一三号証によれば、小野鑑定が予測した右利益の低下傾向を考慮すれば、内部留保率は〇・八四八、負債比率は〇・一七三(=、負債構成比率は同号証六ページの五年基準の〇・一四八を採用する。)とするのが相当であることが認められる。この数値を用い、小野鑑定を参考にして前記ゴードン・モデル式による株価を算定すると、六四五一円(=)となる。
2. 抗告人提出の甲第九号証(木村増三作成の意見書)、前記第一〇号証、第一一号証(並木俊守作成の鑑定評価書)は前記売渡請求時点において証拠に基づいて合理的に予測しえたといえない将来の利益率等の数値を用いたり、又は小野鑑定により認められる会社の有する多額の内部留保を株価算定に十分考慮していないものであって、いずれも採用できない。
3. 本件記録によれば、日本エンタープライズ・デベロップメント株式会社は昭和五四年一〇月二六日一般投資家の立場で相手方小田英二との間で本件株式を一株当り九四五〇円で買受ける合意をしたこと、日本合同ファイナンス株式会社は同年九月頃同じく一般投資家の立場で相手方小田英二に対し本件株式を一株当り約八四四九円位の価格で買受ける意向を示していたことが認められ、これらの事情も本件株価算定の一つの資料としうる。
4. 前記算定の株価六四五一円は本件に最も適する方式によって算定したものであるから、最も重視すべきであるが、一つの理論上の数値であることは否定しえず、特に本件では右3認定の事情も考慮すべきであるから、小野鑑定が考慮した純資産時価方式による株価七八五三円、類似業種比準方式(二〇パーセント減価)による株価九二三九円も斟酌して株価を決定するのが相当といえる。従って、前記配当還元方式による株価二、右純資産時価方式による株価一、右類似業種比準方式による株価一の割合で加重平均して決定することとすると、本件株式の価格は七四九八円(、円未満切捨)となり、これを以って本件株式の一株の価格と決定するのが相当である。
5. よって、これと異なる原決定を取消し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 青木敏行 吉岡浩)
<以下省略>