大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)483号 決定 1981年12月26日
抗告人 石田金属株式会社
右代表者代表取締役 石田直和
右代理人弁護士 奥西正雄
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。」との裁判を求めるというものであり、その抗告の理由は別紙記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 本件記録によれば、昭和五五年一〇月一日、吉村宝潤(売主)と抗告人(買主)との間で原決定添付別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という)につき買戻の特約付売買契約(売買代金六、〇〇〇万円、買戻期間昭和六一年九月末日まで)が締結され、同月三日付で抗告人に右売買を原因とする所有権移転登記が経由されたこと(ただし、買戻の特約の登記はなされていない)、その後抗告人は、吉村に対し、別途に金四、〇一八万二、〇八七円の約束手形金債権を有していることが認められる。
2 ところで、抗告人は、売主たる吉村に対する債権者であるから同人の有する買戻権を代位行使しうるものであるが、一方買主でもあるから買主の立場から民法五八二条の規定により買戻目的物件である本件不動産の現時の価額より売主が返還すべき金額を控除した残額につき、抗告人の前記債権額と相殺して買戻権を消滅させたいので、本件不動産評価の鑑定人の選任を求めるというのであり、たとえ買主が売主の債権者と同一人に帰した場合にも民法五八二条の適用があり、買主の対応によって買戻権を消滅させうるというのである。
よって考えるに、買戻権も一種の財産権であるから債権者代位権の目的となりうるものであるが、本件においては、抗告人が売主である吉村の債権者であるにしても、同人の有する買戻権を代位行使するにつき、果して債権者代位権行使のための要件を具備しているかどうかは定かでなく、仮に右要件を具備しているとしても、一方抗告人は買主の地位にあって、買戻権の代位行使を受ける相手方になるから、自己自身において権利を代位行使してその相手方となる(反面からいうと、自己の一身において権利を行使し義務を負担する)関係にあり、この場合には債権者代位権としての買戻権の代位行使は無意味であって許されないというべきである。のみならず元来買戻の特約付売買は、売主が当該不動産を担保に金融を得る手段として機能することが多いのであるが、買主が別途に売主に対して債権を有するにいたった場合、買主が自己に対する売主の買戻権を債権者代位権の目的として代位行使し、一方で買主の地位において民法五八二条の規定に従い買戻権を消滅させて、当該不動産の所有権を自己に確保するとともに、売主に対する別途の債権の満足をも図ることは、もともと売主と買主の当事者間で売主に一定の期間当該不動産の買戻の権利を認めておきながら、他方で買主自らがこれを奪う結果を招来させることになり、売主に買戻権を認めた趣旨に反する。
そうすると、本件においては、買主たる抗告人に民法五八二条により買戻権を消滅させて保護しなければならない必要は見出せない。従って買戻権を消滅させうることを前提に本件不動産評価の鑑定人の選任を求める本件申請は理由がなく却下を免れない。
よって本件申請を却下した原決定は相当であって、本件抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 坂詰幸次郎 亀岡幹雄)
<以下省略>