大阪高等裁判所 昭和56年(ラ)485号 決定 1981年11月26日
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二当裁判所の判断
本件抗告理由の要旨は、本件不動産競売の基本たる債権が存在しないことを理由として不動産売却許可決定の取消を求めるものである。
よつて職権をもつて案ずるに、民事執行法における執行抗告はとくに法が定める場合に限り(民事執行法一〇条一項)しかも手続上の瑕疵を理由とするものに限り許されるものであつて、執行により実現されるべき実体上の権利の不存在ないし消滅は原則として執行抗告の理由となしえないものというべきである。担保権の実行としての不動産競売事件における売却許可決定に対する執行抗告は、民事執行法一八八条、七四条二項に従い同法七一条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由とすべきものであるところ、担保権実行による不動産競売の基本たる債権の不存在ないし消滅は、民事執行法七一条一号にいう「競売の手続の続行をすべきでないこと」に該らないし、その他同条各号のいずれにも該らないというべきである。もつとも、民事執行法施行前の担保権実行による不動産競売事件における競落許可決定に対する即時抗告においては、昭和五四年法第四号による廃止前の競売法(以下旧競売法という)三二条により準用の昭和五四年法第四号による改正前の民事訴訟法(以下旧民事訴訟法という)六八一条二項により、同法六七二条に列挙する競落許可についての異議事由を即時抗告の理由となしうるものであるところ、担保権実行による不動産競売の基本たる債権の不存在ないし消滅は、同法六七二条一号の「執行を続行す可からざること」に該当するものと解されているところである。しかし民事執行法は担保権実行による不動産競売開始決定に対し担保権の不存在ないし消滅を執行異議の理由とすることができる(同法一八二条)とするとともに、執行抗告においては執行の迅速性を確保する見地から、原則として手続上の瑕疵を理由とするものに限り許すものとしたのであつて、旧競売法、旧民事訴訟法のもとにおける「執行を続行すべからざる事由」についての解釈は民事執行法にそのまま妥当するものではない。
したがつて、抗告人の本件申立は不適法であるからこれを却下することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(今富滋 藤野岩雄 亀岡幹雄)