大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)31号 判決 1982年3月11日

控訴人(原告) 西村勲

被控訴人(被告) 岸和田税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁

(一)  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人に対してなした次の各処分をいずれも取消す。

(1) 昭和五二年九月二〇日付け昭和五一年分所得税の決定処分のうち課税される所得金額金二八二万二〇〇〇円を超える部分に対する部分、及び、同日付け無申告加算税賦課決定処分(右各処分とも昭和五三年二月一六日付け異議決定による一部取消後のもの)。

(2) 昭和五三年九月六日付け昭和五二年分所得税の決定処分、及び、無申告加算税賦課決定処分。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二)  被控訴人

主文と同旨。

二  当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決一三枚目表二行目「11」を「10」と訂正する)。

控訴人

(主張)

1  控訴人については、所得税法第六四条第四項所定の「やむを得ない事情」がある。すなわち、

(1) 控訴人の兄西村剛明は、昭和五一年三月一五日の直前、本件土地の最初の売却に先立ち、岸和田税務署資産税課に赴き税金に関する相談をし、同税務署職員に対し、本件土地を複数の人に何回にも分割して売却する場合の所得税の申告をどうなすべきかと質問のところ、右職員から、「何回もの売却が終了し、全部弁済した後、申告すればよい」との返答を得たが、再度同税務署を訪れ、右申告に関し同様の質問をすると、同職員から「複数回の売却が予定されているなら、全部売却が終了した後、理由書をつけて申告すればよい」旨の回答を得たのである。この場合、右西村剛明は、土地の売却が数年度にわたることを予想して右問い合せをなし、売却期間につき何ら限定を加えていないし、同時に控訴人の保証債務の履行のため土地を売却する予定である旨の背景の説明をしているから、これに応対した同署職員としては、土地の売却期間が数年にわたり得ることを当然に認識したか、少くとも認識し得た筈である。そして、以上のような状況によれば、右西村剛明ひいては控訴人が、本件土地の売却が数年度にわたるとしても、売却が最終的に終了した段階で申告すればよいと信じたことは無理からぬことであり、また、右回答にあたつた同署職員は税務行政の専門家として著しく配慮を欠いたものというべきである。

(2) 被控訴人が、昭和五二年二月頃から同年六月頃にかけて、控訴人に対し、確定申告書の提出を促す旨の文書を数回発送しているからといつて、控訴人につき、右法条の「やむを得ない事情」がないとすることはできない。けだし、被控訴人が発送したとするこれらの文書(乙第二ないし第四号証)は、税務署における不動産登記簿等の調査により、当該年度に譲渡所得があつたと考えられる人々に、その背景事情につき特に調査することなく、無差別に配布される文書であつて、これを右やむを得ない事情不存在の根拠とすることはできず、むしろ、右職員の教示が具体的事案についての回答であつて、右配布文書に優先するものとして信ずるに合理的理由がある。このほか、控訴人が昭和五二年四、六月頃、控訴人宅に電話し、メモを置いた等の事実はなく、また、同年九月二〇日付けの無申告加算税付課決定処分後、大中税理士から昭和五二年分について法第六四条第二項の適用を受けるには、確定申告書の提出が必要である旨教示されたこともない。

2  控訴人につき、次のとおり所得税法第九条第一項第一〇号の適用の要件が存在している。

(1) 資産について

原判決別表一の12、13の宅地の価額については、約八五〇万円と評価されるべきである。けだし、右宅地上には、控訴人所有の同別表一の14ないし16の建物が存在しているところ、これが賃借権が設定されている土地の価格と比較して高くなるのは当然としても、更地として新規に利用するには右家屋の除去が必要であるから、地価公示法に基づく更地価格をもつてその価格とするのは正当でない。

(2) 負債について

興紀相互銀行に対する元本、利息の支払いはなく、この間に損害金免除の合意も成立していない。訴外関西興和株式会社の解散により、その後年一八・二五パーセントの損害金が発生しており、その債務額の変遷は原判決別表三のとおりである。その他、市中の金融業者に対する債務が、昭和五一年三月一五日金六〇〇万円であり、更に信用保証協会に対する債務額の変遷を同別表四のとおりとすれば、財産価額と債務額の対比変遷は、本判決別紙付表のとおりとなり、いずれの時点でも著しい債務超過となる。

(証拠)<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件各処分取消請求を棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一六枚目表二行目「証人西村剛明の証言」を「原審及び当審証人西村剛明の各証言(各一部)」と改め、同裏九行目「同証言」の次に、「及び、当審証人西村剛明の証言」を加える。

2  同一七枚目表八行目「質問内容にあり」の次に、「同職員が、土地の売却期間が数年度にわたることを認識しえたとすることもできないから、これが税務専門家であることを前提としても」を加える。

3  同一八枚目表九行目「証拠はない。」の次に、「右記のように被控訴人が発送した文書において、被控訴人の当該年度の譲渡所得についての確定申告を促しているのであるから、控訴人はこれを機に、同職員の教示についての認識と異るとして、再度その確認、連絡等の挙に出ることも可能であつたとみられるにもかかわらず、その誤解に基づく教示が右文書に優先するものと固執し、このため、かかる修正の機会を放棄しているものというべく、右のような理解による教示を文書に優先すると考えるにつき何の合理性もないというべきである。」を加え、同表一〇行目「以上認定の各事実のもとでは、」を、「してみると、」と改める。

4  同一八枚目裏六行目から七行目にかけ「証人西村剛明の証言」の次に「(一部)」を加え、同裏八行目「税課士大中某」を「大中税理士」と改める。

5  同一九枚目表七行目から八行目にかけ「右事実の存在すること」を「右事実の指摘のないこと」と改め、同表一〇行目「被告の部下職員の前記教示も同様であり」を、「また、当審証人西村剛明の証言中、昭和五一年分について教示が正しければ、当然申告していたとする部分も、前記(1)で認定したところによれば、右西村剛明の独断というべきであり、」と改める。

6  同二〇枚目表五行目「前記甲第七号証の二」を削除し、同表六行目「第七号証の」の次に「二及び」を加え、同裏一行目から二行目にかけ「同協定」とあるのを「同協会」と改める。

7  同二二枚目表六行目「弁論の全趣旨」とあるのを、「原審証人西村剛明の証言(一部)」と改める。

8  同二三枚目表四行目「となる」の次の「(」をとり、「官署作成部分」の前に、「控訴人は原判決別表一の12、13の宅地につき地価公示法による更地価格によるべきでないとして、建物の除去の必要をいうけれども独自の見解というべく、他方」を加え、同表九行目「認められる」の次に、「ところであるから、右認定の価額に影響はないということができ、他に」を加え、同行の「)。」をとる。

9  同二六枚目一〇行目「事実のもとでは」の次に、「申告書の不提出について正当事由(国税通則法第六六条第一項)があるとすることもできないから、」を加える。

二  してみると、原判決はすべて正当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法第七条、民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里 林義一 稲垣喬)

付表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例