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大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)50号 判決 1982年3月26日

控訴人

藤井信一

右訴訟代理人

香川公一

被控訴人

南税務署長

指熊悟

右指定代理人

高須要子

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから右記載を引用する。

1  <省略>

2  控訴人は、帳簿書類の不提示を青色申告承認取消の事由とする旨の明文の規定がないのに帳簿書類の不提示を理由として青色申告の承認を取消すことは許されないと主張する。

しかし、引用にかかる原判決認定事実によれば、被控訴人は、控訴人が税務職員の再三にわたる要求にもかかわらず帳簿書類を終始提示しなかつたことは、青色申告にかかる帳簿書類の備付け、記録又は保存が所得税法一四八条に定めるところに従つて行なわれていないことになるとし、同法一五〇条一項一号により青色申告の承認を取消したものであるが、右のような評価認定は、右各規定の解釈適用上当然許されるものと解すべきである。けだし、所得税法一五〇条一項一号は、青色申告の承認を受けた納税者がその帳簿書類の備付け・記録・保存を同法一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従つて行なつていないことを青色申告の承認の取消事由としているが、徴税当局が帳簿書類の備付け・記録・保存が右法令に従つて行なわれているか否かを調査し判断するためには、当該帳簿書類の存否を確認しこれを閲覧することが不可欠であり、通常の場合納税者の提示なくしては右の確認、判断をすることができず、所得税法上の帳簿書類の備付け・記録・保存といつても納税者の提示があつてはじめてなんらかの効用を発揮できるものであるから、所得税法一四八条一項所定の帳簿書類の備付け等の義務は税務職員の所得税法二三四条一項に基づく質問検査に応じて帳簿書類を提示する義務をも当然に包含しているものと解すべきである。したがつて、税務職員の右質問検査の一環としての帳簿書類の提示要求があつたにもかかわらず納税者がいわれなくこれに応じなかつた場合、事実問題として当該納税者は帳簿書類の備付け・記録・保存のいずれかまたは全部をしていないと推認されてもやむをえないばかりでなく、右法理よりしてその納税者には所得税法一四八条一項所定の義務の違反があることになり、同法一五〇条一項一号に該当することを免れないと解するのが相当である。

よつて、控訴人のこの点の主張は理由がない。

3  控訴人は、次に本件の税務調査については質問検査権の濫用があつた旨主張するが、引用にかかる原判決認定事実によれば、そのようなことは認められず、控訴人のこの点の主張も理由がない。

4  控訴人は、更に本件青色申告承認取消処分は予め控訴人に警告書を発することなくなされ、また一片の口頭報告のみを基礎としてなされているから違法であると主張するが、青色申告の承認の取消しにあたり予め警告書を発するというようなことはなんら法律上の要件ではないから、これをしないことは青色申告承認取消処分を違法ならしめるものではないし、その他本件青色申告承認取消処分が内部手続において慎重さを欠いた違法な処分であることを窺わせるような証拠は存しない。したがつて、控訴人のこの点の主張も理由がない。

二よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(今中道信 露木靖郎 庵前重和)

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