大阪高等裁判所 昭和56年(行ス)12号 決定 1981年7月07日
抗告人
大阪入国管理局主任審査官
中市二一
右指定代理人
澤田英雄
相手方
許慶男
主文
一 原決定を取り消す。
二 大阪地方裁判所昭和五三年(行ク)第七号退去強制令書執行停止決定申立事件について、同裁判所が昭和五三年二月二八日になした相手方送還部分に関する執行停止決定は、これを取り消す。
三 本件取消申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。
理由
<前略>
二当裁判所の判断
(一) 一件記録によると、抗告人と相手方間の大阪地方裁判所昭和五三年(行ク)第七号退去強制令書執行停止決定申立事件につき、同年二月二八日同裁判所が「被申立人(本件抗告人)が申立人(本件相手方)に対して発布した昭和五三年二月一日付退去強制令書に基づく執行は、その送還部分にかぎり、本案訴訟(同裁判所同年(行ウ)第三号)の判決の確定に至るまでこれを停止する。」との決定(以下「本件停止決定」という)をしたこと、同裁判所が右本案訴訟につき昭和五六年二月二七日「原告(本件相手方)の請求をいずれも棄却する。」との判決を言渡したことが認められる。
(二) 抗告人は、右本案訴訟において請求棄却の判決が言渡されたので、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)二六条一項に定める「事情の変更」が生じたから本件停止決定は取り消されるべきであると主張する。
そこで考えるに、行政処分の執行停止は本案について理由がないとみえるときにはすることができない(行訴法二五条三項)のであるから、一たん本案判決確定まで執行を停止する旨の決定がなされたとしても、その後本案訴訟において請求棄却の判決が言渡され、それが上訴審で取り消されるおそれがないと判断される場合には、本案判決の確定をまつまでもなく「事情の変更」が生じたものとして、さきになされた執行停止決定を取り消すことができると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、一件記録によると、本案訴訟における相手方の主張の要旨は、「相手方は昭和二七年法律第一二六号該当者であり、右該当者は出入国管理令、特にその二四条の適用は排除されるから、相手方が同条四号リにあたるとした法務大臣の裁決及び抗告人の相手方に対する退去強制令書発布処分は違法であり、また、法務大臣が相手方に在留特別許可を与えなかつたことは平等原則や離散家族保護の国際慣習法に反し、裁量権を逸脱ないし濫用した違法があり、これをうけてなされた抗告人の相手方に対する退去強制令書発布処分も違法であるから取り消されるべきである。」というにあるが、第一審では三年にわたる審理の結果、相手方の右主張は認容されず、請求棄却の判決が言渡され、相手方はこれを不服として当裁判所に控訴を提起したことが明らかである。そして、第一審における相手方の主張内容や立証の経過からみると、控訴審において第一審判決が取り消されるおそれはないものと判断される。
判旨そうすると、本件停止決定は本案訴訟の請求棄却の判決言渡しにより「事情の変更」が生じたものというべきであるから、その取り消しを免れない。本件抗告はその理由がある。
(三) よつて、本件停止決定取消申立を却下した原決定を取り消し、本件停止決定を取り消すこととし、行訴法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(今富滋 藤野岩雄 坂詰幸次郎)