大阪高等裁判所 昭和57年(う)1511号 判決 1983年10月26日
主文
被告人両名に対しいずれも原判決を破棄する。
被告人金清を懲役一年六月及び罰金二〇〇万円に、被告人佐野清和を懲役一年二月及び罰金七〇万円に各処する。
被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。
被告人佐野清和に対しこの裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
理由
被告人金について、本件控訴の趣意は、弁護人細見利明作成の控訴趣意書(同補充書二通を含む)記載のとおりであり、被告人佐野について、検察官の本件控訴の趣意は、大阪地方検察庁検定官谷山純一作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人細見利明作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
被告人金について、論旨は要するに、無限連鎖講の防止に関する法律の趣旨、被告人金の地位、役割、本件による利得額、本件後の反省の情、本件と同種事犯の主犯格が受けた刑等にてらし同被告人に対する原判決の量刑は重きにすぎて不当であるというのであり、被告人佐野について、検察官の論旨は要するに本件犯罪の社会的影響、被告人佐野の経歴、本件における役割、利得額にてらし、同被告人に対し懲役刑の執行を猶予し、かつ罰金刑を併科しなかつた原判決の量刑は軽きに失し不当であるというのである。
よつて、各所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せて検討するに、本件は、被告人両名が阪本正寿、島村勝二と共謀のうえ、原判示の如き内容の人工宝石販売員募集に名をかりた金銭配当組織を考案して、株式会社「サンジュエリ」を設立し、被告人金が経理担当の責任者、被告人佐野が総務部長となり、代表取締役島村勝二、最高顧問阪本正寿と共に、昭和五四年一〇月三〇日ころから同五六年六月一五日ころまでの間、一、一〇三名を入会させて合計四億四、一二〇万円を同社に入金させ、同社から先順位表に配当金を送金するなどの方法により右金銭配当組織を主催してこれを活動させ、もつて無限連鎖講を運営した事案であるところ、右ねずみ講の運営により得た利益は「サンジュエリ」の仕入部門と認められる「日本人工宝石協会」だけでも一億七、二〇〇万円を下らないこと、入会員総員は登録料名下に一万円を支払えば加入できる「J会員」も含めると三、八一六名に及び、会員の範囲はほぼ全国に及んでいること(従つて被告人金の弁護人が指摘する他の同種事件とは異なり極めて大規模であつたと認められる。)、その勧誘方法は会員らをして、その友人・知人を甘言を用いて説明会場に誘わせたうえ、参会者の射幸心をあおり、一方では通産省の認可を受けているなどと説明したうえ、入会すれば直ちに莫大な利益が得られるかの如く錯覚させて販売員、組織の拡充、拡大を計つたもので、その社会的影響は無視できないこと、そして、被告人金は当初から本件ねずみ講の企画に参画しその運営資金の調達のほか、納入金の管理、配当金の送金などの業務を担当して、「サンジュエリ」、「日本人工宝石協会」、加工部門ともいうべき「日本プラチナ工芸株式会社」の各組織の財務面の実質的総括責任者として金銭の管理を一手に掌理しておつたものであり本件ねずみ講運営を支える枢要な地位にあつたものであり、又被告人佐野は本件犯行の当初の企画段階から関与したもので人工宝石の仕入れ、新規会員に対する人工宝石の発送などの業務を担当していたものであることなどの事情に照すと、被告人両名の犯情は悪質であり、刑責は重大といわざるを得ない。
そして、被告人佐野の本件ねずみ講についての加功の程度は原判決摘示のとおり、阪本正寿の配下として同人の従属的立場に終始したものと評価できることに徴すると、同被告人に対し、刑の執行を猶予した原判決の量刑はその点で決して軽きに過ぎるとは考えられないが、同被告人は前記期間中一、五〇〇万円を下らない利益を得ており、右は給与その他の名目であつても、結局は本件ねずみ講を運営したことにより得た利益の配分、報酬のいうべきであるから、無限連鎖講の防止に関する法律の規定する罰金併科の趣旨に徴すれば、同被告人に罰金を併科しなかつた原判決の量刑はその点で軽きに失し原判決は破棄を免れない。検察官の論旨は右の限度で理由がある。
一方、被告人金はその金銭の管理がルーズで不明朗であつたことから必ずしも正確ではないが右期間内に給料、賞与として約三、五七五万円の支払を受けたほか、仮払金、貸付金の名目により一億八千万円(個人の用途)および六五〇〇万円(上記以外に)、交際費の名目により二、〇〇〇万円をそれぞれ費消しているのであるが、右のうちには宮本直道の一、五〇〇万円の借金の肩代り分、運営資金として借入れた金員に対する利息分約一〇〇〇万円の支払或は一か月二〇万円の割合による武田会長に対する顧問料の支払いも含まれており、さらに右一億八千万円の金員によつて自己又は妻名義で取得した不動産についても本件ねずみ講運営資金調達のため金融機関に担保として提供しいずれは処分される状況にあること、昭和五六年七月以降は阪本、島村らと手を切り、本件ねずみ講運営から手を引いていること、ねずみ講運営に携わつたのは本件が初めてであり、前科、前歴のないこと、ベトナム難民の救済・自立の援助等の社会的貢献をして来たことなどの諸事情を考慮すると、前記刑責の重大性にかんがみ実刑は免れないものの、同被告人に懲役一年一〇月及び罰金二〇〇万円を科した原判決の量刑は右懲役刑の刑期においてやや重きに過ぎ原判決は破棄を免れない。被告人の論旨は右の限度で理由がある。
よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により、被告人両名に対し原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により直ちに判決すべきところ、原審が認定した事実に原判示の各法条を適用して、被告人金を懲役一年六月及び罰金二〇〇万円に、被告人佐野を懲役一年二月及び罰金七〇万円に各処し、被告人両名において右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置することとし、被告人佐野に対しては同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。
(松井薫 村上保之助 菅納一郎)