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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)1844号 判決 1983年3月24日

控訴人 谷口勇

被控訴人 久礼光学株式会社

主文

原判決を取り消す。

本件を大阪地方裁判所岸和田支部に差戻す。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2(1)  (主位的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、昭和五二年一二月から同五六年九月まで一か月金一五万円の割合による金員、及び右各月の金員に対する各当月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  (第二次的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、昭和五二年一二月から同五三年三月まで一か月金一三万二三二五円、同年四月から同五四年三月まで一か月金一三万二一〇〇円、同年四月から同五七年二月まで一か月金一三万三二四二円の割合による金員、及び右各月の金員に対する各当月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  (第三次的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和五七年七月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴及び第三次的請求を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏一二行目「予備的」の次に「(第二次的)」と加える。

二  控訴人の主張

1  控訴人が主位的請求及び第二次的請求により被控訴人に対して支払を求めている債権は、被控訴人主張の強制執行停止決定が発せられる前に、被控訴人において控訴人の取立命令に基づく取立に応じて支払をすべき義務を負担していたものであるところ、このように強制執行停止決定前にすでに第三債務者が執行債権者に対して支払の履行をすべき債務については強制執行停止決定の効力は及ばないと解すべきである。

2  仮に強制執行停止決定により控訴人の取立命令に基づく取立ないし本件取立訴訟の追行が妨げられるとすれば、取立命令が発せられた昭和五二年一二月から強制執行停止決定がされた昭和五七年四月までの四年余の間、被控訴人が理由もなく取立命令に基づく支払をせず、そのため控訴人において本訴の提起等の手段を講じなければならなくなり、これにより控訴人は本訴提起等に要する費用に相当する損害及び精神的苦痛による損害をうけたので、第三次的請求により被控訴人に対し、損害金一〇万円とこれに対する控訴人が損害を知つた日である原判決受領日の昭和五七年七月二九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被控訴人の主張

第三次的請求の原因事実は否認する。

理由

一  主位的及び第二次的請求原因1の事実、及び抗弁記載のとおり、強制執行停止決定がされ、その送達がされた事実は当事者間に争いがない。

債権差押、取立命令が発せられたのち、取立の届出がされるまでの間に、執行債務者が強制執行停止決定を得てその書面を執行裁判所に提出したときは、執行債権者は被差押債権の取立を一時禁止されるが、これは、執行債権者が自己または他の債権者のため被差押債権につき弁済(満足)をうけることを一時禁止されることを意味するにとどまるものであり、右取立禁止によつて、被差押債権につき取立命令の付与した執行債権者の取立権能が奪われるものではなく、執行債権者はその取立権能に基づき将来取立禁止が解かれた場合にそなえて取立訴訟の提起、追行等の方法によつて被差押債権を保全することを妨げられるものではない、と解するのが相当である。したがつて、本件においては、執行債権者たる控訴人は、執行停止決定が発せられた時にすでに係属している本件取立訴訟を続行することができるというべきである(この場合に、裁判所が、無条件の給付判決をすることができるか、または執行停止決定が効力を失うことを条件とする給付判決をなしうるにとどまるかは、問題として残るし、また、たとえ第三債務者たる被控訴人に対して無条件の給付を命ずる判決がされても、執行停止決定が効力を失わない限り、控訴人はその判決に基づき被控訴人に対して強制執行をすることはできないのではあるけれども、控訴人が本件取立訴訟を続行すること自体は妨げられるものではない。)。

二  以上のとおりであるから、控訴人は被差押債権の取立禁止命令により当事者適格を欠くにいたつたとの理由により本件訴を不適法として却下した原判決は、相当でなく、取消を免れない。よつて、原判決を取り消したうえ、民訴法三八八条にしたがい本件を原審に差戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎 井上清 岨野悌介)

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