大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2015号 判決 1983年4月12日
控訴人
富岡康治
右訴訟代理人
辻武夫
被控訴人
平野克己
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は控訴人に対し、金九万一五七四円、及びこれに対する昭和五七年四月四日から右支払いまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決は第二項に限り仮に執行できる。
事実
一 控訴人の求める裁判
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、金五二万二四四四円、及びこれに対する昭和五七年四月四日から右支払いまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言。
二 控訴人の請求原因
1 控訴人、被控訴人及びほか七名は、昭和五一年一二月二日、西兵庫信用金庫に対し、平野興業株式会社が右金庫に対して将来負担すべき手形貸付、保証委託契約その他一切の取引上の債務を連帯して保証する旨を約した。
2 控訴人は同月二七日西兵庫信用金庫に対し、右1の債務について、控訴人所有の兵庫県揖保郡太子町矢田部字小倉二二三番宅地340.49平方メートルに極度額二五〇〇万円とする根抵当権を設定した。
3 平野興業株式会社は西兵庫信用金庫に対して、昭和五七年一月一六日の時点で、次のとおり、合計三五七二万三九七二円の手形貸付、保証委託契約上の債務を負つていた。
(一) 二二六八万四九五四円
昭和五三年八月三〇日に弁済期同年一一月七日、遅延損害金年14.75パーセントの約で手形貸付の方法で借受けた元金二五〇〇万円より同五四年三月三一日に弁済のあつた二三一万五〇四六円を差引いた残額
(二) 一四五万四七九四円
右手形貸付の借入金二五〇〇万円に対する昭和五三年一一月八日から昭和五四年三月三一日まで右割合による遅延損害金
(三) 九三五万九七一八円
右手形貸付の借入金の残元金二二六八万四九五四円に対する昭和五四年四月一日から昭和五七年一月一六日まで右割合による遅延損害金
(四) 一六三万七〇五三円
昭和五二年七月七日の保証委託契約にもとづき、西兵庫信用金庫が中小企業金融公庫に対し、平野興業株式会社の同日付借入金債務を保証し、昭和五四年八月一〇日右債務を代位弁済した求償債務
(五) 五八万七四五三円
右(四)の債務に対する昭和五四年八月一一日から昭和五七年一月一六日まで約定の年14.75パーセントの割合による遅延損害金
4 控訴人は昭和五七年一月一六日西兵庫信用金庫に対して、保証人として、平野興業株式会社の右3の債務のうち四七〇万二〇〇〇円を弁済した。
5 民法四六五条一項の負担部分とは、一定の割合と解すべきである。殊に、本件における連帯保証は、将来の継続的保証、根保証であるから、控訴人は主債務額がどれだけかとか、弁済額が自己の負担部分の額を超えるかどうかにはかかわりなく、被控訴人に対し、代位弁済額四七〇万二〇〇〇円を保証人の数九名によつて除した額五二万二四四四円について求償することができる。
仮に、同項にいう負担部分を一定の金額と解さねばならないとしても、控訴人の代位弁済額は、主債務三五七二万三九七二円を九で除した三九六万九三三〇円を七三万二六七〇円超えるから、この八分の一の九万一五八三円について被控訴人に求償することができる。
6 よつて、控訴人は被控訴人に対し、右求償金五二万二四四四円(予備的には九万一五八三円)、及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五七年四月四日から右支払いまで年六パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
理由
一被控訴人は適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、請求原因事実を自白したものとみなす。
もつとも、計算上、請求原因3(五)の金額は五八万八一一六円が正しく、従つて、請求原因3の債務合計は三五七二万四六三五円、その九分の一(控訴人の負担部分の額)は三九六万九四〇三円となり、弁済額はこれを七三万二五九七円超え、その八分の一は九万一五七四円となることになる。
二連帯保証人が数人存する場合に、主債務の一部を弁済した連帯保証人は、その弁済額が自己の負担部分の額、つまり主債務の額に自己の負担部分の割合を乗じた額を超えるときに限り、その超える額についてのみ、他の連帯保証人に対してこれを求償することができるが、弁済額が自己の負担部分の額を超えないときは、他の連帯保証人に対し求償することはできないものと解される。
控訴人は、民法四六五条一項の「負担部分」とは一定の割合を意味するのであつて、弁済をした連帯保証人は、主債務額がどれだけかとか、弁済額が自己の負担部分の額を超えるかどうかにはかかわりなく、弁済額を連帯保証人の数で除した金額について他の各連帯保証人に対して求償することができると主張する。
しかしながら、民法四六五条一項を右のように解するとすると、弁済をした連帯保証人は、その負担部分の割合が一〇〇パーセントであるときを除き、常に他の連帯保証人に対して求償できることになるが、これでは、民法四六五条一項が「一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ」と定めて、連帯債務者相互間の求償(民法四四四条)とは異なる規定をしたことを無視してしまうことになるから、控訴人の右解釈は採用することができない。
連帯債務者の場合には、連帯債務者自身が、各負担割合に応じて、最終的な負担者であるから、その一人が債務の一部のみにつき弁済をしたときでも、それを直ちに他の連帯債務者にも負担させるのが公平であると考えられる。これに比して、連帯保証人の場合には、最終的な負担者は主債務者であって、連帯保証人ではなく、弁済をした連帯保証人は弁済全額について主債務者に求償することができるから、法はこの点に注目して、他の連帯保証人に対する求償については右のような制限を置き、他の連帯保証人に対する求償ができない部分については主債務者に対する求償によつて満足すべきものとして、前記のような規定をしたものと解され、それはそれなりの合理性を有するものと考えられる。
もつとも、主債務者に資力のないときは、実際上は連帯保証人が最終的な負担者にならさざるをえないから、例外的にこの場合は、民法四四四条の規定を準用して、弁済した連帯保証人は、弁済額が自己の負担部分の額を超えないときでも、弁済額に自己の負担部分の割合を乗じた額を超える弁済部分について、他の連帯保証人に対して求償できると解する余地は存するが、本件においては、主債務者に資力のないことについては何の主張もないから、右の例外的適用をする余地はない。
なお、控訴人は本件における連帯保証が、将来の継続的保証、根保証であることを強調するが、根保証の場合でも弁済の時点における主債務の額は存在し、負担部分の額を明らかにすることができるから、根保証の場合についてのみ前記解釈を異にすべき理由はない。
三前記請求原因事実によれば、控訴人は被控訴人に対し、弁済額(四七〇万二〇〇〇円)から自己の負担部分の額(主債務三五七二万四六三五円を保証人の数の九で除した額、つまり三九六万九四〇三円)を差引いた残余(七三万二五九七円)をその余の連帯保証人の数の八で除した額、つまり九万一五七四円についてのみ求償することができるが、これ以上の求償はできないことになる。
そうすると、控訴人の請求は、九万一五七四円、及びこれに対する本件訴状送達の翌日の昭和五七年四月四日から右支払いまで、前記主債務についての約定遅延損害金率14.75パーセントの範囲内である年六パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるが、その余は理由がない。
四よつて、控訴人の請求を全て棄却した原判決を右の趣旨に従い変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(上田次郎 広岡保 井関正裕)