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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2184号 判決 1984年9月27日

控訴人 東邦興業株式会社

右代表者代表取締役 磯部信義

右訴訟代理人弁護士 樫本信雄

同 竹内敦男

同 田宮敏元

同 桜井健雄

同 正木孝明

同 井上英昭

被控訴人 八幡産業株式会社

右代表者代表取締役 小川弘

右訴訟代理人弁護士 荻矢頼雄

同 山本恵一

同 川下清

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)(1)  被控訴人は控訴人に対し、原判決添付第一物件目録記載の土地につきなされた原判決添付第一登記目録記載の各登記の、原判決添付第二物件目録記載の(1)、(3)、(6)、(8)、(9)の各土地につきなされた原判決添付第二登記目録記載の各登記の、原判決添付第三物件目録記載の各土地につきなされた原判決添付第三登記目録記載の各登記の、原判決添付第四物件目録記載の(1)、(2)、(4)の各土地につきなされた原判決添付第四登記目録記載の各登記の各抹消登記手続をせよ。

(2) 被控訴人は控訴人に対し、右第一物件目録記載の土地、右第二物件目録記載の(1)、(3)、(6)、(8)、(9)の各土地、右第三物件目録記載の各土地及び右第四物件目録記載の(2)の土地を明け渡し、昭和四六年六月一日以降右明渡ずみまで一か月五〇〇万円の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  (二)の(2)項につき仮執行の宣言。

2. 被控訴人

主文と同旨。

二、当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1. 原判決の付加、訂正

(一)  原判決四枚目表一行目末尾の「下らない」を「下らず、控訴人は右賃料相当額の損害を蒙り、被控訴人は同額の利得をしている」と改める。

(二)  同一七枚目表一二行目末尾から一三行目にかけての「本件一の土地の所有権に基づき、同」を「本件の各貸金を弁済することを条件に本件一の」と改める。

(三)  同二二枚目表三行目末尾の「本件」から五行目の「八月一八日」までを「求めた被控訴人の昭和五五年八月一一日付準備書面が控訴人に送達された日の翌日である同年同月一三日」と改める。

(四)  同二二枚目裏八行目の「再抗弁4」を「再抗弁3」と、同二三枚目表四行目の「支払わねければ」を「支払わなければ」と各改め、同二三枚目表九行目の「認めるが」の次に「(ただし、再抗弁3の(二)の後段の主張は争う)」を加える。

(五)  同二三枚目裏末行の「成立は」の次に「、乙第三号証の二については」を、同行の「知らない」の次に「、乙第四号証の二については否認する」を各加える。

(六)  同二四枚目裏四行目の次に行を改め、「三 引受参加人金鎮源(ただし、同引受参加人に対する訴は昭和五六年六月一九日取下)を、さらに行を改め、「同引受参加人」を各加える。

2. 当事者の当審における主張

(一)  控訴人

(1)  弁済供託について

ア 仮に本件一の貸金の昭和三四年五月一日現在における債務が残元本七四八万九二六七円及びこれに対する昭和三四年二月一八日以降支払ずみまで日歩八銭二厘の割合(ただし、うるう年は年三割の割合、以下同じ)による遅延損害金であるとしても、昭和三四年二月一八日以降昭和五八年五月二〇日までの遅延損害金は五四三九万三三四七円となる。控訴人は昭和五六年六月三〇日本件一の貸金について三〇六五万八八〇〇円の弁済供託したが、更に昭和五八年五月二〇日不足分三一二二万三八一四円を弁済供託した。

イ 仮に本件二の貸金の昭和三四年五月一日現在における債務が残元本二七七万三四四七円及びこれに対する同年三月一日以降支払ずみまで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金であるとしても、昭和三五年二月一〇日本件二の(2)、(4)の土地が西宮市に一二〇万七三二〇円で買収され、同年三月八日右金員は本件二の貸金債権に当然に充当され、更に昭和四六年九月二八日本件二の(5)、(7)、(10)の土地が関西電力株式会社に七八〇万八六七四円で売渡され、同日右金員は本件二の貸金債権に当然に充当された。そして控訴人は更に昭和五八年五月二〇日残債務の支払として一一三九万六六三六円を弁済供託した。

ウ 仮に本件三の貸金の昭和三四年五月一日現在における債務が残元本一八一万九四五六円及びこれに対する同年四月一日以降支払ずみまで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金であるとしても、同年四月一日以降昭和五八年五月二〇日までの遅延損害金は一三一五万一七五四円となる。控訴人は昭和五六年六月三〇日本件三の貸金について七四四万八三〇四円の弁済供託をしたが、更に昭和五八年五月二〇日不足分七五二万二九〇六円を弁済供託した。

エ 仮に本件四の貸金の昭和三四年五月一日現在における債務が残元本二二八万一七四六円及びこれに対する同日以降支払ずみまで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金であるとしても、昭和三五年二月一〇日本件四の(3)の土地が西宮市に四二万九〇四〇円で買収され、同年三月八日右金員は本件四の貸金債権に当然に充当され、更に昭和四二年一一月一五日本件四の(1)の土地が金鎮源に一七四万四五〇〇円で売渡され、同日右金員は本件四の貸金債権に当然に充当された。

控訴人は昭和五六年六月三〇日本件四の貸金について七二五万三一〇五円の弁済供託をしたが、更に昭和五八年五月二〇日不足分九二九万二三四〇円を弁済供託した。

オ 以上の弁済供託により、本件一ないし四の各貸金債権はいずれも消滅している。

(2)  取戻権の消滅時効について

仮登記担保については、債務者は換価処分までは債務を弁済して目的物を取り戻すことができ、取戻しの期限については何らの制限も受けない。仮登記担保法一一条も清算金の支払を受けるまでは所有権を受け戻すことができるとしている。したがって本件の取戻権については、民法五八〇条の類推適用はなく、民法一六七条の時効にもかからないというべきである。

(3)  公租公課等の未供託について

ア 仮に控訴人が本件各土地に関する公租公課等を負担しなければならないとしても、清算金の支払時期たる換価処分時までは債務の全額を弁済して仮登記担保権を消滅させ、その目的不動産の完全な所有権を回復することができるのであり、右費用は取戻権行使に当って債務者が弁済すべき債務の中には含まれない。またこのことは仮登記担保契約に関する法律一一条、二条二項からも明らかである。

イ 目的物に関する費用の負担関係は、収益の帰属者が同時に費用の負担者とみられるべきであり、地方税法三四三条一項に、質権者もまた固有の納税義務者とされていることに徴するならば、昭和五八年五月二〇日控訴人が本件債務全額を供託して取戻権を行使するまでの公租公課は、当然に被控訴人の負担に帰すべきものであり、このことは被控訴人が本件各土地において現に収益を得ていようといまいと控訴人の収益が制限されている以上、何らこれを左右しない。

ウ 昭和五八年五月二〇日以降の公租公課については、被控訴人は同日以降本件各土地を不法に占拠しているものであり、控訴人に対し賃料相当額の損害金を支払うべき義務を負っている。賃料相当額が公租公課の額よりも高額であることは明白な事実であり、控訴人は昭和五八年一二月一四日の当審における第六回口頭弁論期日において控訴人の右損害賠償債権を自働債権とし、被控訴人の負担した右公租公課の償還請求債権を受働債権とし、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(二)  被控訴人

(1)  控訴人の負担すべき費用の未供託

ア 公租公課

控訴人は被控訴人が出捐した昭和三五年度から昭和五五年度までの公租公課合計四二六三万五六五〇円及びこれに対し被控訴人が控訴人に対し支払を催告した日の翌日である昭和五六年八月一八日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員をも支払わなければ控訴人は本件各土地を取戻すことはできないが、被控訴人はさらに昭和五六年度六五七万五六二〇円、五七年度七六七万九五八〇円、昭和五八年度(三期分まで)六七二万九五二〇円合計二〇九八万四七二〇円を支払い、昭和五八年度(四期分)二二四万三一〇〇円を同年一二月二七日に支払った。したがって控訴人は右二〇九八万四七二〇円に対しては被控訴人がその支払いをした後で、控訴人に対しその支払いを求めた同年一〇月二六日から、右二二四万三一〇〇円に対しては被控訴人がその支払いをした後で、控訴人に対しその支払いを求めた昭和五九年二月一四日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による金員をも支払わなければ控訴人は本件各土地を取り戻すことはできない。

イ 登記手続費用等

控訴人は、昭和三四年六月上旬に、被控訴人に対し、本件各土地の所有権移転登記手続費用三一万五〇〇〇円及び不動産取得税一七万円を、同年六月末日までに償還する旨約した。したがって控訴人は右金額合計四八万五〇〇〇円及びこれに対する同年七月一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による金員を支払わなければ、本件各土地を取り戻すことはできない。

ウ 維持・管理費用

李順任は昭和四一年に本件一の土地のうち北東側一六・七六平方メートル上に木造トタン葺平家建物置床面積二七・五六平方メートルを、そのうち南西側一六・七六平方メートルはみ出させて建築し、右土地部分を不法占有していた。そこで被控訴人は、李順任を被告として、同年神戸地方裁判所尼崎支部に昭和四一年(ワ)第三九三号建物収去土地明渡請求事件を提起し、昭和四三年一一月一日被控訴人が李順任に対し、立退料として三五万円を右土地部分の明渡と引換に支払う旨の裁判上の和解をし、昭和四四年二月二八日までに右立退料を支払い、右土地部分の引渡を受けた。

また木村徳次郎は昭和四一年に本件一の土地の北側一三二・二二平方メートル部分にバラックを建ててこれを不法占有していた。そこで被控訴人は、木村徳次郎を被告として、同年神戸地方裁判所尼崎支部に昭和四一年(ワ)第三六三号建物収去土地明渡請求事件を提起し(ただし、右事件は昭和四二年裁判所の勧告により調停に移行)、昭和四二年一〇月二四日木村徳次郎が昭和四三年五月三一日までに右土地部分を明け渡すことを条件に、被控訴人が木村徳次郎に対し、立退料として一三万円を支払う旨の調停を成立させ、昭和四三年二月一五日に右立退料を支払い、右土地部分の引渡を受けた。

被控訴人は右土地の維持・保存費用として以上の各金員を支出したものであるから、控訴人は右金員合計四八万円及びこれに対し被控訴人が控訴人にその償還を請求した昭和五八年一〇月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による金員を支払わなければ、本件各土地を取り戻すことはできない。

(2)  清算の終了について

ア 被控訴人は、本件四口の各代物弁済予約完結の意思表示後も、控訴人の代表者康琮次のいわゆる一人会社であり、控訴人と同一の人格を有するとみられる亜細亜工業株式会社に対し、原判決添付貸金計算書記載のとおり、昭和三四年一二月三〇日から昭和三六年二月二八日までの間に、合計二九回にわたり、元金合計一五〇八万一九六〇円を貸付け、また原判決添付手形割引計算書記載のとおり、昭和三四年九月五日に、右会社から二五万六〇〇〇円の約束手形一通を割引いた。そして右手形は満期に支払われなかったため、被控訴人は右会社に対し、右手形の買戻請求権を有している。

イ 被控訴人は右会社に融資を開始するに先立ち、本件各土地の価格鑑定をしたところ、その価格は昭和三四年五月一四日現在三四〇四万八六三〇円であり、他方被控訴人は控訴人に対し、貸金元金一七五〇万円、遅延損害金一〇〇万七〇〇〇円、不動産取得税一七万円、登録免許税三五万円合計一八九九万二〇〇〇円の債権を有し、右鑑定価格との差額は一五〇五万六六三〇円であった。

ウ 被控訴人は右鑑定価格との差額が存在することを念頭に置いて、前記会社に対し、右差額にほぼ相当する金額の融資を前記アのとおりなしたものである。右融資は実質上、控訴人に対する清算金として、前記会社に交付されたものであるから、その清算は完了している。

エ 仮に右主張が認められないとしても、前記会社が右融資金の返済を延滞した時点で、右融資金と右清算金とを清算する黙示の合意が、控訴人、被控訴人、前記会社の三者間で成立した。

オ 仮に右主張が認められないとしても、被控訴人は昭和五九年七月五日の当審第一一回口頭弁論期日において、右融資金債権を自働債権とし、右清算金債権を受働債権とし、対当額をもって相殺する旨の意思表示をした。

(3)  信義則違反について

昭和三五年九月、控訴人、被控訴人、前記会社間の示談において、本件一の土地の売却代金から前記会社の債権を弁済する旨の合意が成立した。したがって右債務を弁済しないまま本件取戻請求をするのは、信義則に反する。右債務についても、控訴人は弁済供託をすべきものである。

3. 新たな証拠関係<省略>

理由

第一、控訴人の本件各登記抹消登記手続請求について

一、当裁判所も、当審における双方の新たな主張及び証拠を加え、さらに審究するも、結局控訴人の本件各登記抹消登記手続請求を認容できないものと判断するが、その理由は次に付加、訂正、削除するほか、原判決理由第一の一ないし四(原判決二四枚目裏八行目から同三二枚目裏一二行目まで)説示と同一であるから、これを引用する。

1. 原判決二五枚目表七行目の「しかし」から九行目末尾までを、「当審における被控訴人代表者本人尋問の結果中には、被控訴人は昭和三四年五月中旬頃から本件各土地の占有を始めた旨の供述部分があるが、当審証人景山信子の証言及びこれにより本件各土地の状況を撮影した上空写真と認められる検甲第一号証に照らし、措信し難く、他に被控訴人が右日時から本件各土地の占有を開始したことを認めうべき確証はない。尤も、成立に争いのない乙第七四、第七五証、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第七六号証によれば、昭和四一年に李順任が本件一の土地のうち北東側一六・七六平方メートル上に木造トタン葺平屋建物置床面積二七・五六平方メートルをそのうち南西側一六・七六平方メートルはみ出させて建築し、また木村徳次郎は本件一の土地の北側一三二・二二平方メートル部分にバラックを建て右各土地部分をいずれも不法占有していたところ、被控訴人は右両名を被告とし、神戸地方裁判所尼崎支部に対し、右各建物収去土地明渡請求訴訟を提起し、李順任との間では、昭和四三年一一月一日裁判上の和解をして、昭和四四年二月二八日までには右占有土地部分の明渡を受け、また木村徳次郎との間では、昭和四二年一〇月二四日土地明渡の調停が成立し、昭和四三年二月一五日に右占有土地部分の明渡を受けたことが認められる。しかし右認定事実から、ただちに右日時頃以後被控訴人が本件各土地の占有を開始したと認めるに足りないというべく(なお右明渡を受けた土地部分については、その明渡受領後被控訴人の占有があったとしても、後記のとおり本件訴訟の提起により時効中断したものである)、そのほか右昭和四六年六月一日以前の特定日時より本件各土地を占有したことを認めうべき証拠はない。」と改める。

2. 同二五枚目裏九行目の「停止」を削除する。

3. 同二五枚目裏末行目から同二六枚目表一行目にかけての「争いがない。そして右争いのない」を「争いがなく、右各訴訟において控訴人は、本件各土地につき代物弁済予約をしたことを否認し、控訴人にその所有権があることを主張していることは、本件記録上明らかであるから、以上の」と改める。

4. 同二六枚目裏一一行目の「第四号証の各一」の次に「同第五〇号証、同第八〇ないし第八三号証」を、同二七枚目表一行目冒頭の「号証の各二」の次に「、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第七九号証」を各加え、同二七枚目表一行目の「抗弁1の(一)」から四行目末尾までを、「被控訴人が昭和三三年一二月一〇日に控訴人に対し三〇〇万円を弁済期昭和三四年二月二八日の約定で貸付け(本件二の貸金)、同日康琮沢が右債務につき連帯保証をしたこと、右各貸金についてはいずれもその利息を日歩一三銭前払と、遅延損害金を日歩二六銭(ただし、その後の話合いの結果日歩一七銭に減額された)と定めたことが認められる。控訴人は利息は月四分の定めであった旨主張(ただし、日歩一三銭を月利に換算すればほぼ四分となる)し、原審及び当審証人景山信子の証言中、原審における控訴人代表者本人尋問の結果中には、利率は当初月四分であったが後に三分五厘に下げてもらったとか三分五厘位であった旨の各供述部分があるが、前記乙第五〇号証の供述記載及び当審における被控訴人代表者本人尋問の結果に照らし措信し難い。なお前記乙第二ないし四号証の各一には、いずれも利息の定めについては無利息とする旨記載され、また前記乙第一ないし四号証の各一(公正証書)には、遅延損害金の定めを日歩八銭二厘とする旨とする旨記載されているが、前記乙第五〇号証の供述記載及び当審における被控訴人代表者本人尋問の結果によると、右公正証書の作成にあたっては利息制限法の手前便宜右のような記載を求めたにとどまることが認められるから、右各公正証書の右各記載部分は採用できない。そして以上のほか前記認定を覆えすに足りる証拠はない。尤も右認定事実にも拘らず、被控訴人は遅延損害金の約定については日歩八銭二厘と主張しているので、弁論主義の観点から、遅延損害金の計算については、日歩八銭二厘(ただし、うるう年にあっては利息制限法四条の制限により年三割と計算)とすべきものである。」と改める。

5. 同二八枚目表一一行目の「登記原因の存在」の次に「、仮登記担保権の実行」を加える。

6. 同二八枚目裏九行目の「右各供述部分は」の次に「前記乙第五〇号証の供述記載及び原審における被控訴人代表者本人尋問の結果に照らし、」を加える。

7. 同三一枚目裏五行目の「別紙計算表(五)」を「別紙計算表(A)」と改める。

8. 同三二枚目表一行目の「二四一万六六八七円」を「二四一万六六二五円」と、二行目の「五五九円」を「一二三円」と、一〇行目から一一行目にかけての「一一月一二日」を「七月五日」と、一一行目の「三二四円」を「三二三円」と、一二行目の「一一月一三日」を「七月六日」と、同三二枚目裏五行目の「別紙計算表(六)」を「別紙計算表(B)」と、五行目から六行目にかけての「九六五二万四七八〇円」を「九六七六万七三一九円」と各改める。

二、当審における控訴人の新たな弁済供託の主張について

1. 控訴人は、再抗弁2の(四)の(2)の弁済供託が無効であるとしても、昭和五八年五月二〇日さらに本件各貸金の弁済のため合計五九四三万五六九六円を供託し、昭和五六年六月三〇日に供託した前記四五三六万〇二〇九円と合計し、昭和五八年五月二〇日現在における総債務額一億〇四七九万五九〇五円は消滅した旨主張する。

前記認定のとおり本件各貸金の昭和五六年六月二〇日現在における残元本及び遅延損害金の合計額は九六七六万七三一九円であり、翌二一日から昭和五八年五月二〇日現在における遅延損害金は別紙計算表(C)のとおり八〇二万八五八六円となり、その合計額は一億〇四七九万五九〇五円となるところ、成立に争いのない甲第一一号証の一ないし四によれば、控訴人は昭和五八年五月二〇日において、先に供託した前記供託金合計四五三六万〇二〇九円の不足額として、本件一の貸金につき三一二二万三八一四円、本件二の貸金につき一一三九万六六三六円、本件三の貸金につき七五二万二九〇六円、本件四の貸金につき九二九万二三四〇円以上合計五九四三万五六九六円の供託をしたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はないから、以上の事実によれば、控訴人は、昭和五六年六月三〇日の前記弁済供託と相俟って昭和五八年五月二〇日、同日現在における本件各貸金残元金及び同日までの遅延損害金総額一億〇四七九万五九〇五円の弁済供託をしたものということができる。

2. しかしながら被控訴人は、本件各土地を取り戻すためには、単に右各貸金残元金及び遅延損害金総額の供託のみでは足りず、さらに仮登記担保権者である被控訴人が本件代物弁済予約完結後負担するに至った本件各土地の公租公課、本件一の土地の不法占拠者排除のために要した費用、その他登記手続費用等をも合せ提供しなければ、控訴人は本件各土地を被控訴人から取り戻しえない旨主張する。

(一)  被控訴人が本件各土地に対する昭和三五年度から昭和五五年度までの公租公課(固定資産税及び都市計画税、以下同じ)合計四二六三万五六五〇円を支払ったことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第七一ないし第七三号証、及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件各土地の公租公課として、昭和五六年度六五七万五六二〇円、昭和五七年度七六七万九五八〇円、昭和五八年度八九七万二六二〇円(第一期ないし第三期分合計は六七二万九五二〇円、第四期分は二二四万三一〇〇円)を支払ったことが認められ、被控訴人は右昭和五五年度までの公租公課四二六三万五六五〇円については、昭和五五年八月一三日控訴人に送達された準備書面により、昭和五六年度ないし昭和五八年度(ただし第一期ないし第三期分のみ)の公租公課二〇九八万四七二〇円については昭和五八年一〇月二六日の当審口頭弁論期日において、昭和五八年度第四期分については、昭和五九年二月一四日の当審口頭弁論期日において各その償還請求をしていることは、本件記録上明らかである。

また前記乙第七四、第七五号証及び弁論の全趣旨によると、当審における被控訴人の主張二の2の(二)の(1)のウの各事実を認めることができ、被控訴人は昭和五八年一〇月二六日の当審口頭弁論期日において、被控訴人が本件一の土地の不法占拠者排除のため支払った立退料合計四八万円の償還請求をしていることは、本件記録上明らかである。

(二)  ところで仮登記担保契約にあっては、それがいわゆる帰属清算の場合(原則)には、仮登記担保権者たる債権者(以下債権者という)が目的物件の評価清算により、目的物件の所有権を確定的に自己に帰属させるまでの間に、またそれがいわゆる処分清算の場合には債権者が目的物件を第三者に処分するまでの間に、債務者は債務及び費用を提供して目的物件を債権者から取り戻しうるものと解せられるが、右評価清算又は第三者への処分までは、換価処分は完了せず、債務者は債務及び費用を弁済して仮登記担保関係を消滅させ、目的物件の完全な所有権を回復することができるから、右評価清算又は第三者への処分までは、目的物件の所有権は、債権者の換価処分権によって制約されてはいるが、なお債務者にあると解せられる。したがって目的物件が不動産であって、弁済期徒過の結果、債権者が代物弁済予約完結権の行使あるいは停止条件付代物弁済の条件成就に基づき、あらかじめ債務者から交付を受けていた委任状等の登記手続に要する書面を使用し、目的不動産の所有権移転登記手続を受けたとしても、清算未了(換価処分未了)である限り、その所有権は右趣旨においてなお債務者にあるのであるから、この場合地方税法三四三条、七〇二条に基づき、債権者に対し不動産登記簿上の所有者として、固定資産税、都市計画税が賦課されても、債権者と債務者との内部関係においては、特段の約定のない限り、その実質に従って、このような費用は債務者の負担とみるべきであり、右費用は仮登記担保に伴う費用として清算されるべきと解するのが相当である。

また目的物件の保全に要した費用も、右と同趣旨において債務者が負担すべきものと解するのが相当である。したがってこれらの費用が民法二九五条にいう目的物件に関して生じた債権となるか否かの問題とは別に、債務者は右費用を換価費用と同種の費用として、債権者に提供しない限り、目的物件の取り戻しはできないといわなければならない。

本件一ないし四の各代物弁済予約は、右説示の仮登記担保契約と解せられるから、控訴人は本件各土地を被控訴人から取り戻すためには、本件各貸金残元金及びその遅延損害金のみならず、前記公租公課及び不法占拠者排除に要した費用(ただし、債権者たる被控訴人が控訴人に対し右費用の償還請求をしている場合は、その償還請求の日の翌日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をも含むと解せられる)を被控訴人に提供することを要するところ、控訴人は本件各貸金残元金及びその遅延損害金相当の金額を提供したにとどまるから、控訴人の本件各土地取戻しの請求は、その余の点についてさらに検討するまでもなく理由がないといわなければならない。

なお被控訴人は、控訴人が昭和三四年六月上旬に、被控訴人に対し、本件各土地の所有権移転登記手続費用三一万五〇〇〇円及び不動産取得税一七万円を同年六月末日までに償還する旨約したと主張し、乙第四六号証の一及び当審における被控訴人代表者本人尋問の結果中には、右主張にそう記載部分又は供述部分があるが、いまだ措信し難く、他に右主張を認めうべき証拠がないのみならず、右各費用は本件取戻しにかかる費用とは別個の費用といわなければならない。

(三)  控訴人は、被控訴人が昭和三四年五月一四日本件各仮登記担保権を行使し、遅くとも昭和四六年六月一日以降本件各土地を占有し、賃料相当の利益を得又は控訴人に対し賃料相当の損害を生ぜしめているから、右賃料相当の不当利得返還請求債権ないし損害賠償請求債権を自働債権とし、前記公租公課の償還請求債権を受働債権とし、対当額をもって相殺する旨主張するが、仮登記担保権者は、仮登記担保権を行使した場合、目的物件の換価手続の一環として債務者に対しその引渡を求めうるものであり、また引渡を受けた目的物件を換価の目的をもって保管しうるものであるから、仮登記担保権者が目的物件の引渡を受け、これを占有保管するからといって、債務者が仮登記担保権者に対し、当然に賃料相当の不当利得返還請求あるいは損害賠償請求をなしうるものではない。したがって控訴人の右相殺の主張は理由がない。

三、以上によると、控訴人が前記認定の各供託をしても、結局いまだ本件各土地の所有権をその担保目的から脱して完全に取り戻したということはできないから、右取戻しを前提とする控訴人の本件各登記抹消登記手続請求は、その余の点について判断をすすめるまでもなく、理由がないといわなければならない。

第二、控訴人の本件各土地明渡請求及び賃料相当の不当利得ないし損害金支払請求について

一、控訴人がもと本件一の土地、本件二の(1)、(3)、(6)、(8)、(9)の各土地、本件三の各土地、本件四の(2)の土地を所有していたこと、被控訴人の抗弁3(所有権の喪失)が理由のないことは、前記第一の一及び二に説示のとおりであり、被控訴人が昭和四六年六月一日以降各各土地を占有していることは、当事者間に争いがない。

二、そこで被控訴人の本件各土地占有の正当権限(抗弁2)について判断するに、本件一ないし四の各代物弁済契約は前記第一の二の2の(二)に説示のとおり仮登記担保契約であり、かつ同(三)に説示のとおり仮登記担保権者は、仮登記担保権を行使した場合、目的物件の換価手続の一環として、債務者に対しその引渡を求めうるものであり、また引渡を受けた目的物件を換価の目的をもって保管しうるものである。

ところで前記乙第五〇号証、原審及び当審における被控訴人代表者本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は本件各土地について仮登記担保権を行使し、その処分権能に基づく換価手続の一環として、控訴人より右各土地の引渡を受け、これを占有していることが認められる。そうすると被控訴人において右仮登記担保権の行使に伴う換価清算が未了のため、本件各土地の所有権を確定的に取得していないとしても、被控訴人は右各土地の処分権能に基づく換価手続の一環として、適法にこれを占有保管する権原を有するものであるから、控訴人は被控訴人に対し、前記各貸金残元金、遅延損害金、公租公課等の費用を提供しない以上、右各土地の引渡を求めることはできないといわなければならない。

また被控訴人の右各土地の占有は、結局正当な権限に基づくものであるから、控訴人は右被控訴人の占有を理由に賃料相当の不当利得金ないし損害金の支払いを求めることができないといわなければならない。

三、そうすると被控訴人の抗弁2は理由があり、控訴人の本件各土地の明渡請求及び賃料相当の不当利得ないし損害金の支払いを求める請求は、理由がない。

第三、以上によると控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれをいずれも棄却すべく、これと結論を同じくする原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。

よって本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 坂上弘 小林茂雄)

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