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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2286号 判決 1984年9月28日

控訴人

近江屋窯業株式会社

右代表者

島田武志

右訴訟代理人

三木善続

被控訴人

モリタ建設株式会社

右代表者

森田勇

右訴訟代理人

曽我乙彦

有田義政

金坂喜好

影田清晴

佛性徳重

清水武之助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人は、控訴人に対し、金二〇、〇五五、二〇〇円及びこのうち金一三、九四〇、七八〇円については昭和五五年八月二一日以降、うち金三、六〇六、三〇五円については同年一〇月二一日以降、うち金二、五〇八、一一五円については昭和五六年二月二〇日以降、各支払い済まで年六分の割合による金員を支払え(当審において請求を減縮)。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

仮執行の宣言。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者の事実上の主張

一  控訴人の請求の原因

1  控訴人は生コンクリート及びセメントの販売を業とする会社であり、被控訴人は建築の請負を業とする会社である。

2  被控訴人は、同じく建築の請負を業とする会社である訴外阪口建設株式会社(「阪口建設」という)及び訴外株式会社井上組(「井上組」という)とともに、阪口・井上・モリタ共同企業体(「本件共同企業体」という)を結成し、本件共同企業体は昭和五四年一一月一三日訴外大蔵省近畿財務局から枚方市中宮北町一四番地所在の北ケ丘合同宿舎新築工事(「本件工事」という)を請負つた。

3  控訴人は、昭和五四年一一月初め頃本件共同企業体の代表者である阪口建設との間で、本件共同企業体に対し本件工事に必要な生コンクリート、モルタル及びセメントを代金は毎月二〇日締切翌月二〇日に同日起算五か月後を支払期日とする約束手形(振出人は阪口建設)をもつて支払うとの条件で売渡す旨の契約を締結したが、その際本人兼井上組及び被控訴人の代理人である阪口建設は控訴人に対し右代金債務は右三社が連帯して負担する旨約した。

そして、控訴人は右約定に基づき本件共同企業体に対し昭和五四年一二月一二日から昭和五五年二月二〇日までの間に別紙一覧表(一)のとおり金一三九四万〇七八〇円相当の生コン類を売渡し、同年二月二七日から同年四月七日までの間に別紙一覧表(二)のとおり金三六〇万六三〇五円相当の生コン類を売渡した。

4  ところが、昭和五五年四月一八日に阪口建設が大阪地方裁判所に対し自己破産の申立をしたため、控訴人はその頃本件共同企業体の爾後の代表者である井上組との間で、約束手形の振出人を井上組とするほかは前記と同一内容の契約を締結したが、その際井上組は本人兼被控訴人の代理人として控訴人に対し本件共同企業体が控訴人から買受けるセメント類の代金債務は右二社が連帯して負担する旨約した。

そして、控訴人は、右約定に基づき本件共同企業体に対し昭和五五年五月六日から同年八月九日までの間に別紙一覧表(三)のとおり金二五〇万八一一五円相当の生コン類を売渡した。

5  仮に前記のような連帯債務負担の約定が認められないとしても、本件共同企業体はジョイント・ベンチャーの中でも団体性の強いもの、いわゆる甲型共同企業体(全構成員が一体となつて合同計算により工事を施行する共同施行形式のもの)であつて、その法的性格は民法上の組合と解すべきものであり、前記生コン類の売買契約(一括して「本件売買契約」という)に基づく代金債務は組合の債務というべきところ、本件売買契約は本件共同企業体にとつてもその構成員たる被控訴人らにとつても商行為であるから、右代金債務は商法八〇条、五〇四条、五一一条の適用ないし準用により被控訴人らの連帯債務となるものである。仮に右各法条の適用ないし準用がないとしても、被控訴人は民法六七五条により右代金債務のうち昭和五五年四月七日までに生じたものの三分の一と同年五月六日以降に生じたものの二分の一につき支払義務を負担する。

6  仮に、本件売買契約が控訴人と本件共同企業体間の契約でなくして控訴人と阪口建設(昭和五五年四月七日までの分)ないし井上組(同年五月六日以降の分)との間の契約であるとしても、被控訴人は阪口建設及び井上組と本件共同企業体を結成していたのであり、そのことによつて信用力・融資力の増大、危険負担の分散、技術力の拡大、工事施行の迅速確実化等の利益を享受していたのであるから、一部の構成員が脱退した場合に残存構成員に工事完成の義務があり、ある構成員が工事施行に際して通行人等の第三者に損害を及ぼした場合に他の構成員に連帯損害賠償義務があるのと同様に、本件共同企業体の他の構成員が仕入れた工事材料の代金債務についても右構成員と連帯責任を負うべきものである。

7  仮に右主張も理由がないとしても、本件売買契約は本件共同企業体の代表者である阪口建設ないし井上組が締結したものであり、本件共同企業体は、控訴人が生コンクリートを納入する上で必要な書類(甲第六号証)を被控訴人ら三社共同名義で発行し、生コン類の発注及び受領を右代表者以外の構成員が行うことを許諾ないし黙認し、本件共同企業体宛の代金請求書を異議なく受領するなど右代表者に本件共同企業体の名義を使用して控訴人と取引することを許諾ないし黙認していたものであつて、控訴人はそれゆえに本件売買契約は本件共同企業体との間の契約であると信じたのであり、そう信じたについては正当の事由を有したものである。したがつて、本件売買代金債務については、被控訴人ら三者は商法二三条ないし外観法理により連帯支払義務を負うことになる。

8  よつて、控訴人は被控訴人に対し、順次予備的に、(一)連帯債務負担の合意(二)組合契約及び商法八〇条、五〇四条、五一一条民法六七五条(三)共同企業体契約(四)商法二三条ないし外観法理に基づき、前記売買代金二〇〇五万五二〇〇円及びこのうち金一三九四万〇七八〇円については昭和五五年八月二一日以降、うち金三六〇万六三〇五円については同年一〇月二一日以降、うち金二五〇万八一一五円については昭和五六年二月二〇日以降、各支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被控訴人の答弁と主張

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実も認める。

3  同3の事実中、阪口建設が本件共同企業体を代表して控訴人と売買契約を締結したとの点及び被控訴人を代理して控訴人に対し連帯債務負担の合意をしたとの点は否認する。控訴人と阪口建設との取引内容は知らない。

4  同4の事実中、阪口建設が自己破産の申立をしたことは認めるが、井上組が本件共同企業体を代表して控訴人と売買契約を締結したとの点及び被控訴人を代理して控訴人に対し連帯債務負担の合意をしたとの点は否認する。控訴人と井上組との取引内容は知らない。

5  同5の事実中、本件共同企業体がいわゆる甲型共同企業体であつてその法的性格が民法上の組合と解すべきものであることは争わないが、その余の事実及び主張は争う。

6  同6の主張は争う。

7  同7の事実及び主張は争う。

8  本件共同企業体は、大蔵省から受注した本件工事を四〇ないし五〇の種別の部分工事に区分し、その各部分工事を本件共同企業体の各構成員に下請させていたのであり、工事材料の購入は、この各構成員がそれぞれ単独に納入業者を選定して行つていたのであつて、これを構成員下請方式と称していた。また納入業者の方でも従来から取引関係のあつた下請構成員の過去の取引実績、信用力をもとに取引をしていたものであつて、自己に対する発注者以外の共同企業体構成員の信用などは全く考慮に入れていなかつたものである。したがつて、本件売買契約は控訴人と阪口建設、又は控訴人と井上組との間の契約にほかならないのであつて、本件共同企業体や被控訴人がこれについて責任を負うことなどあり得ない。仮に控訴人が阪口建設ないし井上組との間の契約を本件共同企業体との間の契約と誤信したとすれば、それは控訴人の過失によるものであり、そのような信頼は保護に値するものではない。

三  控訴人の反論

被控訴人は「構成員下請方式」なる主張をし、これを前提に控訴人ら下請業者・資材納入業者は共同企業体と直接契約関係に立たないというが、構成員の行つている行為は「下請」でなくして「担当」と解すべきものである。けだし、「利潤をとらない下請」という概念自体吾人の常識に反する。また、本件工事のうち六〇パーセントを阪口建設が下請しその余を井上組と被控訴人が下請するというのに利益の配分が平等であるというようなことは利にさとい商人間でありうべきことではない。各構成員会社は本件共同企業体と右業者らとの仲介役ないしパイプ役をしていたのにすぎない。

第三  当事者の証拠の提出援用認否<省略>

理由

一控訴人が生コンクリート及びセメントの販売を業とする会社であり、被控訴人が建築の請負を業とする会社であること、被控訴人が同じく建築の請負を業とする会社である阪口建設及び井上組とともに本件共同企業体を結成し、本件共同企業体が昭和五四年一一月一三日大蔵省近畿財務局から本件工事を請負つたことは、当事者間に争いがない。

二そして、<証拠>を綜合すると、阪口建設ないし井上組が単独で買受けたかそれとも本件共同企業体を代表して買受けたかの点はしばらく措き、控訴人は昭和五四年一一月初め頃阪口建設との間で本件工事に必要な生コンクリート、モルタル及びセメントを代金は毎月二〇日締切翌月二〇日に同日起算五か月後を支払期日とする約束手形(振出人は阪口建設)をもつて支払うとの条件で売渡す旨の契約を締結し、右契約に基づき昭和五四年一二月一二日から昭和五五年二月二〇日までの間に別紙一覧表(一)のとおり金一三九四万〇七八〇円相当の生コンクリート類を売渡し、同年二月二七日から同年四月七日までの間に別紙一覧表(二)のとおり金三六〇万六三〇五円相当の生コンクリート類を売渡したこと、ところが同年四月一八日阪口建設が大阪地方裁判所に対し自己破産の申立をして倒産したため、控訴人は同年五月初め頃井上組との間で代金支払のための約束手形の振出人を井上組とするほかは前記契約と同一内容の契約を締結し、右契約に基づき同年五月六日から同年八月九日までの間別紙一覧表(三)のとおり金二五〇万八一一五円相当の生コンクリート類を売渡したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三ところで、控訴人は、前記控訴人と阪口建設との間の契約締結に際しては、井上組及び被控訴人の代理人である阪口建設が控訴人に対し井上組及び被控訴人も阪口建設と連帯して売買代金債務を負担する旨の合意をし、また前記控訴人と井上組との間の契約締結に際しては、被控訴人の代理人である井上組が控訴人に対し被控訴人も井上組と連帯して売買代金債務を負担する旨の合意をした旨主張する。しかし、阪口建設ないし井上組が控訴人に対し明示的に右のような合意をした事実を認めるに足る証拠はなく、被控訴人が阪口建設ないし井上組に対し明示的に右のような代理権を授与した事実を認めるに足る証拠もない。そして、黙示的に右各合意及び代理権の授与がなされたと認めるべきか否かは、前記のとおり被控訴人が阪口建設及び井上組とともに本件共同企業体を結成していた点よりして、阪口建設ないし井上組が本件共同企業体を代表して前記各売買契約(本件売買契約)を締結したと認められるか否かにかかるものというべきである。

四そこで、阪口建設ないし井上組が果して本件共同企業体を代表して本件売買契約を締結したものと認められるかどうかについて検討する。

1  本件共同企業体がいわゆる甲型共同企業体(全構成員が一体となつて合同計算により工事を施行する共同施工方式のもの)であることは当事者間に争いがない。

2  そして<証拠>を綜合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件共同企業体の構成員三社は、いずれも建設工事の綜合請負業者であつて特別な専門分野があるわけではなく、自ら又は下請業者を使つて工事を施行するものである。その企業規模は、順位を付すれば被控訴人、阪口建設、井上組の順であるが、さしたる径庭はなく、大阪周辺における業界での地位は四ランクに分類すれば第二ランクに属する程度の会社である。

(二)  本件共同企業体は、本件工事を共同して完成することを目的とし、期間を昭和五四年一一月一三日から本件工事が完成し精算事務が完了した日まで、出資及び持分の割合を各構成員三分の一宛、代表者を阪口建設と定めて結成されたが、前記のとおり阪口建設が倒産したため、その後は代表者は井上組となつた。なお、井上組も昭和五五年七月二〇日自己破産の申立をして倒産した。

(三)  本件共同企業体は、本件工事を施行するにあたり、本件工事を四〇ないし五〇種類に区分し、その各部分を構成員のいずれかないしその下請業者に担当施行させることとした。そして、本件工事全般の管理運営のために最高議決機関として構成員各社二名ずつの委員から成る運営委員会を設け、その下に右委員会で定めた方針の実施を協議する機関として阪口建設二名、井上組、被控訴人各一名の委員から成る施工委員会を設けた。

(四)  下請業者・資材納入業者の選考及びこれらの業者の提出する見積書の査定は施工委員会が行い、これに基づいて主要下請業者・資材納入業者並びにこれら業者に対する発注取引金額の決定は運営委員会が行つた。

(五)  しかし、下請工事の発注及び資材の発注は、本件共同企業体が直接下請業者・資材納入業者に対し注文書を交付するなどして行うのではなく、次のような手続により行つていた。すなわち、(1)まず、施工委員会は前記四〇ないし五〇種類に分けた工事区分ごとに構成員三社分の見積依頼書を作成して構成員三社にこれを交付し、これを受けて各社はそれぞれ取引関係のある下請業者・資材納入業者に下請工事価額・納入資材価額の見積りをさせたうえ、これに基づいて施工委員会に各工事の見積額を提示する。(2)そうすると、施工委員会は前記各工事区分ごとにこの構成員から提示された見積額を比較検討して当該工事の担当構成員したがつてまたその下の下請業者・資材納入業者及びこれらに対する発注金額を内定し、運営委員会が最終的にこれを決定する(実際上安い見積額を提示した業者に決定される)。(3)そして、本件共同企業体の代表者である阪口建設から同社名で当該工事の担当構成員たる井上組または被控訴人に注文書が交付され(本件共同企業体の代表者としての阪口建設が構成員としての阪口建設にあらためて注文書を交付することはない)、注文書の交付を受けた井上組または被控訴人は下請業者・資材納入業者に対し更に注文書を発行しあるいは電話などで発注する(阪口建設も自ら担当することになつた工事については下請業者・資材納入業者に対し同様の方法で発注する)。

(六)  また、下請工事代金及び納入資材代金の支払は、次のような手続で行われていた。すなわち、下請業者・資材納入業者が当該工事の担当構成員のもとへ代金支払請求書を提出すると、当該工事の担当構成員は自らが直接施行した工事の代金をも含め毎月これをまとめて(ただし、支払先・支払金額の内訳・明細は明らかにして)本件共同企業体に代金の支払請求をする。施工委員会は工事の出来高・支払金額を査定し、代表者である阪口建設が構成員三社からそれぞれ右査定金額合計の三分の一にあたる出資金の交付を受け、右出資金をもつて各構成員に担当工事の出来高合計額を支払い、これを受領した各構成員は担当工事の下請業者・資材納入業者に下請工事代金・納入資材代金の支払をする(各構成員が本件共同企業体の代表者である阪口建設から受取る金額は、各構成員が直接施行した工事の代金を除けば、右各構成員が下請業者・資材納入業者に支払う金額の合計額と同一金額であり、そこには利潤はない)。右代金の支払が手形でなされる場合は、共同企業体の代表者である阪口建設から各構成員への支払は阪口建設振出の単名手形で、各構成員から下請業者・資材納入業者への支払は各構成員振出の単名手形でなされる。もつとも、右の阪口建設振出の手形は本件共同企業体の代表資格を表示するものではなく、したがつて阪口建設が自らの担当工事につき下請業者・資材納入業者に交付する手形も同一形式である。

(七)  以上の諸手続は、阪口建設倒産後も、本件共同企業体の代表者が阪口建設から井上組に変り、出資割合が三分の一から二分の一に改められたほかは、変化がなかつた。

(八)  阪口建設は、前記の四〇ないし五〇種類に区分された工事のうち一二、三種類、全工事のうち約六割を担当し、その余を井上組及び被控訴人が担当した。本件売買の目的物たる生コンクリートは業界に統一価格があるため納入価格競争の余地はなかつたが、阪口建設がこれの購入を担当し、従前から取引関係のあつた控訴人より買入れることにした。阪口建設と控訴人との取引は昭和四八年頃からで、月間の取引高は七〇〇万円から一五〇〇万円程度であり、井上組及び被控訴人は控訴人とは従来から取引はなかつた。阪口建設が倒産した後、井上組は一時訴外東海産業から生コンクリートを買入れる手筈にしたが、控訴人がこれを知つて抗議を申入れたため、東海産業は手を引き、従前どおり控訴人から納入させることとした。

以上のとおり認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

3  右認定の事実関係によれば、本件共同企業体と各下請業者・資材納入業者との間に法律上の契約関係が存在したとみることは困難であつて、むしろ、共同企業体は、その請負にかかる本件工事のうち一定範囲の仕事を構成員各社に下請させ、構成員各社は、自ら工事を施工する場合を除いては、その傘下の下請業者との間に請負契約を締結して仕事を施行させ、もしくはその傘下の資材業者との間に売買契約を締結して建設資材を納入させ、これらを共同企業体に引渡していたものと認めるのが相当である。共同企業体の機関である施工委員会や運営委員会が下請業者・資材納入業者及びこれらに対する発注金額を決定していたことはさきにみたとおりであるけれども、これは請負・売買の契約締結の意思表示というよりも共同企業体の各構成員に対する統制作用であり、構成員傘下の業者中最も安い見積額を申出た者に対し構成員が発注することの承認であると理解され、さきの判断を左右できない。前記乙第八号証の一(本件共同企業体結成の協定書。建設省が定めた協定書ひな型に従い作成されたもの)の第一四条に「……本工事施工のため第三者に損害を及ぼした場合の賠償金等の出費は第五条に規定する割合(注・各社の出資割合たる三分の一)により構成員が分担する」との規定があるが、その文辞、前後の規定との関連及び原審証人和田善次の証言に照らすと、これは本件工事の施工に伴ない構成員各社及び下請業者らが近隣者・通行人等の第三者に不法行為上の損害を及ぼした場合の規定であつて、下請業者らに対する契約上の代金支払に関連する規定ではないと解されるから、さきの判断の妨げとならず、ほかに右乙第八号証の一(協定書)及び同号証の二(協定書細則)に右判断と相容れぬ規定はない。控訴人は構成員各社は共同企業体より分担した仕事をそのまま下請業者らに担当させるのであつて構成員に利潤はないから構成員下請方式と呼ぶに値しない旨主張するが、「下請」は一の譬喩であつて法律上の請負と同性質の合意である必要はなく、その場で利潤がないとしても最終的には共同企業体の構成員として利益の配分に預るのであるから、「構成員下請方式」「利潤のない下請」なる用語も必ずしも不当ではない。控訴人はまた、阪口建設が全工事の六割程度を下請しながら利益の配分が平等というのはあり得べきことではないとも主張するが、共同企業体を構成して工事を受注しこれを分担して工事を施行することによる利益・不利益はしかく単純なものではなく、たとえば、他社と共同してはじめて官公庁等より大規模の工事を受注できる利益、他社の技術・経験・信用・得意先を利用できる利益、自社傘下の下請業者らに仕事を与え得る利益、他の機会(別の建設工事共同企業体を結成した場合など)に利益を調整する可能性等が考え得られ(成立に争いのない乙第二二号証、検甲第二号証、原審証人和田善次の証言などもこの理解にそうものである)、阪口建設が本件工事の施行に伴ない負担する労力、出費等は工事の「担当」であると「下請」であるとにより当面差異はないことでもあるから、控訴人主張のごとくには解することはできない。また、控訴人の援用する証人の証言中には控訴人ら下請業者は共同企業体全体の支払能力に信用をおいて取引に入つたとの趣旨の部分もあるが、前記乙第一、第二、第二一号証(阪口建設より構成員各社に対する出資金請求書添付の材料・外注費明細書)によれば、各下請業者・資材納入業者からの請求代金の中にはさして多額のものでないものないし零細なものも相当あることが窺われるのであつて、これら業者が常に本件共同企業体を相手どつて取引をする必要があつたものとは解し難く、むしろ従前から取引があつた構成員一社を相手方として格別支障はなかつたものと認められる。ただ、当該構成員会社が本件共同企業体を結成して大蔵省近畿財務局より本件工事を請負つたことは当然下請業者らも知つていた筈で、このことが代金支払が確実であるとして取引に入る動機をなしたとはいえようが、これが直ちにその取引の相手方が共同企業体になると認識する根拠になるものとは解し難く、もとより下請業者・資材納入業者と共同企業体との間に直接に授受された見積書、契約書、注文書、注文請書、手形の類は存しない。もつとも、本件訴訟で問題になつているのは生コンクリート類の代金であり、生コンクリート類は本件工事の重要資材であるとともに金額的にも相当多額のものであるが、この代金が他の種の代金と法律上の性質を異にするものと認めるに足る証拠もない。なお、成立に争いのない甲第六号証は「報告書」と題する阪口建設、被控訴人、井上組連名の書面で「本件工事の発注は他工区との関係により書類上昭和五四年一一月一三日付となつているが実際は同年一一月九日には決定していたものである」との趣旨の記載があるが、原審証人和田善次、原審及び当審証人細田重信の各証言によれば、生コンクリートの単価は業界の申合わせにより昭和五四年一一月一〇日以後値上げされたところ、右書面は本件工事に使用する生コンクリートを従前の単価により生コンクリート製造業者より納入させる目的をもつて作成されたものにすぎず、従前の単価により納入させることが結局は井上組や被控訴人の利益に合致するところから、阪口建設の求めにより右両社が連署に応じたものであることが認められ、成立に争いのない甲第二号証の一ないし二〇、第三号証の一ないし一六、第四号証の一ないし一六は訴外枚方小野田レミコン株式会社又は枚方生コンクリート工業株式会社用箋たる納品書控(形式は受領書)であつて、その宛名は阪口建設倒産前は「共同企業体殿」倒産後は「井上組殿」となつており、原審証人日高保、同宇野守、同和田善次の各証言によれば、これらには本件共同企業体を構成する三社のいずれかの職員の受領のサインのあることが認められるが、他方右各証言によれば、本件工事現場には右三社が共同で設置した現場事務所が存在していて、生コンクリートは右各製造業者より直接現場事務所に納入されていた(法的には控訴人が一たん右各製造業者より買受けて納入したことになる)ので、現場事務所に駐在する三社のいずれかの職員が便宜右書面に受領を証するサインをしてトラック運転手に交付していたものであり、ほんらいこれらは右各製造業者が当該生コンクリートが間違いなく納入場所たる共同企業体工事現場に搬入されたことを確認するためのものであること(したがつてこの書類の所持者は右製造業者であつて控訴人ではないこと)が認められ、当審証人宇野守の証言により成立を認める甲第七号証の一ないし八(請求書)には「阪口、井上、モリタ共同企業体様」なる記載があるが、その体裁、編綴順序及び右証人の証言によれば、右書類はその作成日付の頃作成されたものではなくして本件の争いが生じた後控訴人の台帳から売掛高を月別にまとめたものであることが認められる。したがつて、以上の書証はいずれも本件生コンクリート類の買受当事者が本件共同企業体であることを証明するに足るものではない。更に成立に争いのない甲第一号証の一ないし七(財団法人日本建築綜合試験所作成のコンクリート圧縮試験の報告書)はその宛名が「阪口、井上、モリタ共同企業体殿」となつているが、この書類は本件共同企業体により施行される本件工事に使用されるコンクリートが規格どおりの品質を有することを施主その他に証明することを主眼とする文書であることがその文面により明らかで、本件生コンクリートの売買契約の当事者を判定する資料となし難い。ほかに本件生コンクリートの売買契約が控訴人と本件共同企業体との間に成立したことを証するに足る証拠はない。

4  以上の次第であるから、阪口建設ないし井上組が本件共同企業体を代表しないしは被控訴人を代理して控訴人と本件生コンクリート類の売買契約をしたとは認め難く、右売買代金債務の連帯負担の合意が黙示的にも存在したと認めることはできない。むしろ、本件生コンクリート類の売買契約は控訴人と阪口建設又は井上組との単独契約であり、控訴人は右売買契約の当事者ではなかつたと認めるべきものである。

五控訴人は、仮に連帯債務負担の合意が認められないとしても本件共同企業体はいわゆる甲型共同企業体でありその法的性格は民法上の組合と解すべく、本件代金債務は組合債務であり、本件売買契約は商行為であるから、被控訴人は商法八〇条、五〇四条、五一一条、民法六七五条等により責任をまぬがれない旨主張する。本件共同企業体がいわゆる甲型共同企業体であつてその法律上の性質が民法上の組合であることは被控訴人も敢て争わないところであるけれども、建設工事共同企業体を結成して施主に対し工事完成の連帯責任を負い民法上組合契約を締結している各員がその事業目的達成の必要上別に第三者と単独で請負・売買等の契約を締結することを妨げられる理はなく、これはいわゆる乙型共同企業体(対象工事を分割し各構成員がそれぞれの分担工事につき自己の責任と負担において施行し、共同経費は拠出するが損益については合同計算を行わないもの)においては自明のことであるが、甲型共同企業体においても構成員の合意によりかかる形態・方式を採ることが可能であることは明らかであり、その私法上の効力が否定される根拠は発見し難いところ、本件は甲型共同企業体を構成している阪口建設又は井上組がその事業目的たる本件工事を施行する必要上別に資材供給業者たる控訴人と単独で売買契約を締結した事案と認められるのであるから、その代金債務は組合債務や連帯債務となるものではなく、控訴人の主張は失当である。控訴人はまた、被控訴人が阪口建設及び井上組と共同企業体を結成しこれによつて信用力・融資力の増大、危険負担の分散等の利益を享受していた以上本件代金債務について当然連帯責任を負うべきである旨主張するが、前に認定した事実関係及び前説示に照らし、この主張もたやすく採用することができない。

六控訴人は更に、被控訴人は阪口建設ないし井上組に本件共同企業体の名義を使用して控訴人と取引することを許諾ないし黙認していたものであつて、控訴人はそれゆえに本件売買契約を本件共同企業体との間の契約であると信じたのであり、そう信じたについては正当の事由を有したから、被控訴人は商法二三条ないし外観法理により本件売買代金債務につき連帯支払の義務を負う旨主張する。しかし、報告書と題する甲第六号証の作成経過、生コンクリートの受領書(納品書控)たる甲第二号証の一ないし二〇、第三号証の一ないし一六、第四号証の一ないし一六の成立の経緯は前認定のとおりであつて、右事実関係をもつて被控訴人が阪口建設ないし井上組に被控訴人の名義ないし本件共同企業体の名義を使用して控訴人と取引することを許諾しもしくは黙認していたものと認めることはできず、ほかに被控訴人が自己の商号を使用して控訴人と取引することを許諾したことを認めるに足る証拠はない。控訴人はまた外観法理をも主張するけれども、その法理上及び事実関係上の根拠は明白でなく、右主張をもつて被控訴人の責任を肯定することはできない。

七以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よつて本件控訴を理由なしとして棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(今中道信 露木靖郎 下司正明)

別紙一覧表(一)、(二)、(三)<省略>

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