大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2447号 判決 1984年3月15日
第二四四七号事件控訴人
第二四六二号事件被控訴人(以下「被告」という)
長尾豊
第二四四七号事件控訴人
第二四六二号事件被控訴人(以下「被告」という)
井出倉蔵
第二四四七号事件控訴人
第二四六二号事件被控訴人(以下「被告」という)
大屋庄三
第二四四七号事件控訴人
第二四六二号事件被控訴人(以下「被告」という)
長畑平八郎
右被告ら訴訟代理人弁護士
巽貞男
第二四四七号事件被控訴人
第二四六二号事件控訴人(選定当事者、以下「原告」という)
和田真一
第二四四七号事件被控訴人
第二四六二号事件控訴人(選定当事者、以下「原告」という)
渡辺博
右原告ら訴訟代理人弁護士
赤沢博之
同
春田健治
主文
一 被告らの控訴に基き、原判決中被告ら敗訴の部分を取消す。
二 原告らの請求を棄却する。
三 原告らの本件各控訴を棄却する。
四 訴訟費用は第一、二審とも全部原告らの負担とする。
事実
第一申立
一 被告ら
主文同旨
二 原告ら
1 被告らの本件各控訴を棄却する。
2 原告らの控訴に基き、原判決中原告ら敗訴の部分を取消す。
3 被告らは連帯して原告らに対し、三七五八万八〇二一円及びこれに対する昭和五三年五月二六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも全部被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言
第二主張
次のように訂正、付加、削除するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二枚目裏六行目の「原告ら」を「「原告ら」」に、七行目の「布施教習所」を「「布施教習所」又は「会社」」に、一〇行目の「組合」を「「組合」」に、一一行目の「分会」を「「分会」」に、三枚目裏四、五行目の「本件入所受付停止」を「「本件入所受付停止」」に訂正する。
二 四枚目裏三行目、一〇行目、五枚目表六行目、末行、八枚目裏九行目、九枚目表六行目の「別紙」を「原判決添付」に訂正する。
三 六枚目表末行の「収入源」を「収入減」に訂正する。
四 八枚目裏六行目の「商法」の前に「昭和五六年法律七四号による改正前の」を付加する。
五 一四枚目裏一行目の「入所受付」を「入所受付停止」に訂正する。
六 一五枚目裏九行目の「受付を」を「受付の」に訂正する。
七 一六枚目裏一〇行目の「教宣をし」を「どなり」に訂正する。
八 二〇枚目表三行目の「昭和五七年」から九行目末尾までを「昭和五三年四月分から同五八年一〇月分までの賃金として合計五億四一五九万九六二八円を仮払いし、以後一か月七六二万二四四三円ずつ賃金の仮払いを続けている。」に訂正する。
九 二三枚目表九行目の「以降」から一〇行目の「一五日まで」までを削除し、同行の「決議に」の次に「基く措置に」を、一二行目の末尾に「そして被告らの昭和五三年四月一五日の取締役会における決議に基く事業所閉鎖によって、その支払不能が確定的になった。」を付加する。
一〇 二四枚目裏二、三行目の「甲第一六七号」を「甲第一六七号証」に訂正する。
一一 被告らの主張
1 違法行為の不存在
(一) 布施教習所では、在籍教習生の人数調整の手段として昭和五二年四月に一か月間教習生の入所受付停止をしたことがあるが、不当労働行為として問責されたことはなく、昭和五二年一一月一日から一か月間の予定で開始された本件入所受付停止も同一目的で始められたものであって、技能指導員の稼働時間が組合員である技能指導員の争議行為及び組合活動等によって極端に減少したゝめ、これを調整し、教習生に迷惑をかけないようにするためであった。昭和五二年七月頃から原告らの稼働時間がストライキのため目立って減少する一方、ストライキの度毎の予約の取消し、教習時における組合員の職制に対する抗議行動等を嫌忌し、教習生に、苦情や欠席が多く、昭和五二年九月の空席は六〇七名にも達した。原告ら組合員のスト権行使は、労働条件に関する要求事項の貫徹のための圧力手段ではなく、単に会社の業務阻害のみを目的としたもので、教習所内の業務用マイクを組合活動に使用して業務遂行を妨害するなど、教習生にも多大の迷惑を及ぼしたゝめ、止むなく入所受付停止の措置を執らざるを得なかったものである。従って、被告らはその開始について何ら不当労働行為を問責されるべきいわれはなく、少くとも取締役個人の責任を問われる理由は存しない。
(二) (1)昭和五二年の春斗における運転技能指導員の月間稼働時間を九〇〇〇時間としたいとの会社の申入れは、当時の指導員数(四五名以上)の法定月間労働時間を八時間超過するに過ぎず、労使間の協議事項として右提案を違法というべきではなく、(2)団交要員を五名とするよう申入れたのは、労働協約所定の人数制限を再確認して実行を求めただけであるし、(3)小林副分会長の処分問題は純粋な人事権の行使であって、労使間の協議事項として処理することができ、(3)労働協約の事前の改定申入れは、労働協約の改正手続に従ったものであり、(4)夏季一時金の支払については分割払も提案していたのであって、労使間の協議事項に属するものであった。
このように原告らが本件入所受付停止の違法性を推測させると主張する各事実行為は、労使間の協議で解決を委されていた事項に属し、被告らの所為に違法性は存しない。それゆえ、本件入所受付停止は、被告ら個人の不法行為及び取締役の忠実義務違反を構成する事実ではない。
(三) 原告らは、被告らが故意過失により又は取締役としての忠実義務に違反して、昭和五二年度夏季及び冬季一時金並びに同五三年四、五月分の賃金等の支払を不能にしたと主張するが、右主張は誤っている。
被告らは、本件入所受付停止を決定した段階では、賃金を支払わないようにするとか、支払えなくなるとかの意識はなく、経営者である被告長尾個人の信用力により資金捻出は可能と思っていた。しかるに、(1)教習稼働時間の激減、(2)仮処分決定に基く教習所教材等の差押えによる授業の支障、(3)競売申立による組合側の会社閉鎖をも辞さない態度の表示、(4)労使間の確執、原告らのスト及び抗議行動の激化、(5)ストによる教習生の予約取消を連絡する人員の不足、職制の退職、疲労困憊、(6)稼働時間の減少により教習開始後六か月以内の教習終了ができず資格取得に支障を来す教習生の出現が予想されたこと、(7)しかるに昭和五二年一二月末頃から翌五三年二月頃まで十数回にわたって行われた会社側の入所受付再開のための団交申入れを組合側は一方的に拒否したうえ、大阪府公安委員会からの教習所指定返上の要請に対し会社の回避努力を無視し組合側は歓迎する態度に出たこと等のため、昭和五三年四月被告らは経営継続を断念するの止むなきに至り、もはや営業再開は望みえないものとなった。それでも、昭和五三年一月以降会社が無収入になりながら、被告長尾は、自己の信用力により同月から三月まで賃金を支払ったが、原告らは被告らに対し、「馬鹿」、「ごきぶり」などと罵倒を繰り返すのみで話合いに応じず、このような当事者間にはもはや正常な労使関係は生まれないと観念した被告長尾は、同年二月中頃から営業譲渡の交渉に入ったが、原告らは一顧だにせず、遂に同年同月一一日の地労委における組合側の一方的拒絶による和解決裂のため営業譲渡は実現できなかった。
(四) 日産プリンス大阪販売株式会社は、日頃関連事業として自動車教習所を持ちたいと念願し、布施教習所についても、株式が全部取得できれば、争議状態にあっても営業譲渡を引受ける積りであったが、組合が協力せず、従業員持株の譲渡を承諾しなかったゝめ、営業譲渡は不能となった。
このように、組合は、営業譲渡の拒否により被告らの努力を徒労に帰せしめ、本件未払賃金等の即時完済を受けられる機会を自ら喪失させたのであるから、被告らがその支払不能による損害を負担すべき理由はない。
2 抗弁
(一) 原告らは昭和五三年六月以降現在まで布施教習所の建物(仮処分により占有を認められた部分を除く)を勝手に占有し、教習所コースを使用し「布施自動車教習所練習所」と称し、自動車運転の練習所を開設し授業料を徴収して違法な生産管理を行い、昭和五三年六月から同五八年二月までの間に右営業により別紙のとおり取得した三億五四九〇万七五〇〇円(乙第一〇五号証によれば原告らは、昭和五三年から同五八年三月までに二億一二九九万〇四六〇円の収入があった旨自認する)の収入から、燃料費、車輛維持費等の経費三〇パーセントを控除した純益二億四八四三万五〇〇〇円を得た。右純益は、原告らが布施教習所の従業員として得た会社の利益であるから、これを収受したことにより原告ら主張の損害は全額補填されたものというべきである。
(二) 仮に右利益の収受が損害補填にならないとすれば、布施教習所又は別件仮処分においてその同一体とされた長尾商事株式会社(以下「長尾商事」という)は、原告らの右生産管理により原告らに対し少くとも二億一二九九万〇四六〇円の不当利得返還請求権を有することになる。そして被告らに本件損害賠償の責任があるとすれば、被告らはその債務につき布施教習所又は長尾商事と不真正連帯の関係にあるから、右不当利得返還請求権をもって右債務と対当額につき相殺する旨の意思表示を昭和五八年三月二日(当審第一回口頭弁論期日)になした。
仮に右不当利得返還請求権が発生しないとすれば、布施教習所は、原告らの右違法な生産管理による教習用車輛の使用によって七一四万八〇〇〇円に相当する車輛の減価を蒙り、また原告らが教習用土地建物を占有しているため賃貸人たる長尾商事にこれを返還することができず、七八〇〇万円の敷金返還請求権を失ったから、原告らに対し八五一四万八〇〇〇円の損害賠償債権を有する。被告らは昭和五八年五月一三日(当審第三回口頭弁論期日)に右債権をもって前記債務と対当額につき相殺する旨の意思表示をした。
(三) 前記のとおり原告らは賃金の仮払いをうけつゝ違法な生産管理により巨額の利得をし、更に今後も一か月四五九万四二〇〇円ずつの収益を挙げる見込みであるのに、本訴請求が認容されると、まさに屋上屋を架する救済となる。
これに対し被告らについてみると、(1)被告長尾は個人資産から三五八一万円を投じて本件入所受付停止期間中の賃金等の支払いをしたが、これらは回収の見込みのない立替金であり、会社からは昭和五二年以降報酬も貰っておらず、年令七二歳の老人では将来収入を得る業務につける見込みもなく、(2)被告井出は、昭和四九年会社に入社し、同五一年七月取締役に就任したが、役員とは名ばかりで実質は月給三二万円の技能指導員に過ぎず、会社の解散に伴う退職金も貰えず、年齢六八歳の老人では定職にもつけず、不動産の管理などをして細々と生計を立てている状況であり、(3)被告大屋、同長畑は、昭和五二年七月技能指導員から取締役になったが、役員とは名ばかりで実態は月給約三〇万円(手取り)の技能指導員に過ぎず、個人資産は皆無であることなどの事情を比較考察すると、原告らの本訴請求は権利の濫用に該当するというべきである。
一二 原告らの反論
1 不当利得返還請求権及び損害賠償請求権の不存在
(一) 原告らの教習用コース等の占有、利用は、真の使用者である長尾商事に対する雇用契約に基づく就労請求権の行使としての占有であり、法律上の原因がある。
すなわち、原告らは、長尾商事、布施教習所及び被告らによる、組合壊滅を狙った事業所閉鎖に対抗し、正常な業務の運営を目指し、職場の施設、設備を保守点検し、業務が再開されれば直ちに就労し得るよう閉鎖前の就労状態を維持する強制就労(争議行為)を行っているのであり、労働関係調整法七条、憲法二八条により保護されるものである。
(二) 原告らが占有利用している教習用コースは、長尾商事の所有であり、布施教習所の財産ではないから、会社は原告らの右占有利用によっては何らの損失も蒙っていない。
(三) 仮に会社に何らかの損失が生じているとしても、原告らは右教習用コースを会社が昭和五三年五月二七日一旦長尾商事に返還した後に占有利用を開始したものであるから、原告らの教習用コース占有と会社の損失との間には因果関係がない。
(四) 昭和五三年六月から同五八年三月までの間の教習用コースにおける原告らの活動による収入についての被告らの主張は、二億一二九九万〇四六〇円の範囲で認めるが、同期間における教習用車輛購入費、ガソリン代、教材費、教習台帳費、コース整備費等の経費は、一億七七五一万四二七八円に達し、これに原告らの斗争経費三九八八万〇五六九円、広報、支援要請等経費五六五万七二四〇円を合すると、経費の総額は二億二三〇五万二〇八七円となり、むしろ赤字状態である。
(五) 原告らが昭和五三年六月以降使用している教習用車輛は原告らの出捐により購入したものであって、原告らは会社所有の車輛の価値を減少させたことはなく、また会社は長尾商事に対する土地建物の返還が遅れたため敷金七八〇〇万円の返還請求権を失ったのではなく、その一部と長尾商事に対する借受金等の債務とを相殺し、敷金残額が二七〇〇万円余になったのである。
2 被告らの相殺援用適格の不存在
仮に被告ら主張の布施教習所、長尾商事の原告らに対する不当利得返還請求権又は損害賠償請求権が存在するとしても、被告らは、布施教習所、長尾商事の負う賃金支払債務とは異質の損害賠償義務を負担するものであって、両債務は連帯債務の関係にあるものではないから、右請求権に基づく相殺を援用する適格を有しない。
仮に右主張が認められないとしても、被告らによる相殺の主張は、民法五〇九条に違反するから許されない。
3 被告らの権利濫用の主張について
右主張中原告らが大阪地方裁判所の仮処分判決により長尾商事から昭和五三年四月分以降の賃金の仮払いをうけていることや、被告らの年令、取締役就任時期の点は認めるが、その余の主張は争う。
被告長尾は、布施教習所の親会社である長尾商事の筆頭株主兼取締役であって役員報酬を受け、不動産等多くの資産を有し、被告井出は現在不動産会社を経営し、同大屋、同長畑は現在他の自動車教習所に就労し、収入を得ている。
これに対し原告らは、被告らの不当な教習所閉鎖、解雇処分により賃金の支払を受けることができなくなり、これまで妻子をも犠牲にした苦しい生活を余儀さ(ママ)れてきたのであり、昭和五三年四月分以降の賃金の仮払いはうけているものの昭和五二年当時の低水準のものであり、その一部は長い斗争期間中に生じた借金の返済に充当されており、長期化する争議のため不安感はむしろ増大しているのである。
本件損害賠償請求は、加害者である被告らに対する窮余の手段であり、権利濫用にあたらない。
第三証拠関係
原、当審の訴訟記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 本件の当事者及び事件の経過等に関する当裁判所の認定判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほか原判決三三枚目表二行目から四三枚目表九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三三枚目表八行目の「一五四号証、」の次に「原審における」を付加する。
2 三四枚目表一行目の「一二号証、」の次に「原審における」を付加し、一、二行目の「同長尾豊(第一回)、原告和田真一」を「原審(第一回)及び当審における同長尾豊、原、当審における原告和田真一」に訂正し、裏五行目の「一二九号証、」の次に「原審における」を、一〇行目の「このことは、」の次に「前掲」を付加する。
3 三五枚目表二行目の「反する」、一二行目の「副う」の次に「前掲」を付加し、裏三行目の「被告らの責任」を「本件の経過」に訂正し、四行目から八行目末尾まで及び九行目の「1」を削除し、同行の「同」を「甲」に、一〇行目の「甲第四二、四三号証」を「甲第四一ないし第四三号証」に訂正する。
4 三六枚目表三行目の「同一六九号証」から四行目の「同第一七七号証」までを「同第一六九ないし第一七三号証、同第一七五ないし第一八一号証」に、六行目の「同第二九号証」から九行目の「甲第一九五号証」までを「同第二七号証、同第二九号証、同第五〇号証の一ないし一〇、同第五三号証、同第五五号証の一ないし一〇、同第五七号証、同第五八号証の一ないし四、同第六〇号証の一ないし三、同第六一ないし第九七号証、同第九九ないし第一〇二号証、同第一〇五号証、昭和五七年一一月撮影した布施教習所の現場写真であることにつき争いのない検乙第二ないし第五号証、同五四年七月撮影した布施教習所周辺の写真であることにつき争いのない同第六、第七号証、同五四年一二月に撮影した右現場の写真であることにつき争いのない同第八ないし第一三号証、同第一五ないし第一七号証」に訂正し、九行目の「被告大屋」の前、一〇行目の「一五号証の一、二」の次に「原審における」を付加し、末行の「二、」の次に「当審における被告長尾豊本人尋問の結果により被告井出倉蔵が後記期間に撮影した右現場(但し、検乙第一八、第一九号証は小坂駅周辺)の写真であると認められる検乙第一八ないし第三九号証(昭和五八年二月六日から同月二〇日まで)、同第四〇ないし第五二号証(同年二月九日から同年三月九日まで)、同第五三ないし第六〇号証(同年三月一一日から同月二二日まで)、同第六一ないし第七〇号証(同年四月一日から同月五日まで)、」を付加し、末行の「原告渡辺」から裏四行目の「総合すると」までを「当審証人風見博太郎の証言、原審における原告渡辺博(一部)、原、当審における同和田真一(一部)、原審における被告大屋庄三、同井出倉蔵、原審(第一、二回)及び当審における被告長尾豊各本人尋問の結果を総合すると」に訂正する。
5 三七枚目裏末行の「小林」から三八枚目表六行目の「などから」までを「小林満成指導員が教習生蔵田昭に対し侮辱的言辞を浴びせたとして、同教習生が教習予約を取消し受講しなかったゝめ、布施教習所が就業規則に基き賞罰委員会を開き、小林に対し始末書の提出を求めたが同人がこれを拒否したので、昭和五二年六月三〇日付で譴責処分をし、技能指導員を解除したところ、組合は副分会長である小林に対する処分を組合潰しの陰謀であるとして激しく反発し、さらに布施教習所が昭和五二年夏季一時金の団体交渉につき交渉委員を五名以内にすることなどを分会に求め(労働協約において団体交渉の交渉委員は双方五名以内を原則とする旨定められている)、また同年八月三一日付で労働協約の全面的に改訂したい旨右協約の規定に基き新労働協約案を添えて分会に申入れたことなどを、分会はその組織の弱体化を意図した不当な所為であると解し」に、七行目の「スト」を「分会員の全員もしくは一部の参加するスト」に、九行目の「増える」から一〇行目末尾までを「増え、昭和五二年九月の空席(指導員の不就労)は延べ六〇七名にも達し、布施教習所は、教習生の予約の取消等の応待に追われるのみならず、頻繁な予約の取消、教習所施設における組合員の抗議行動等により教習生の布施教習所に対する不満が累増し、教習業務の円滑な運営は著しく困難になった。」に訂正する。
6 三九枚目表三行目の「教習業務」から同行末尾までを「教習業務の正常な運営は甚だ困難となり、」に訂正し、六行目の「あって、」の次に「被告らは事業の継続が難しく、右状況の下では教習生に対し多大の迷惑を及ぼすとして、」を付加し、七行目の「被告らが」、八、九行目の「現実に」を削除し、裏一行目の「その旨」の前に「昭和五二年一一月二六日」を付加し、三行目の「その一部」から七行目末尾までを「教習用自動車を含むその大半を競売に付し、その結果布施教習所は教習業務実施のためにその競落人に賃料を支払ってこれを使用するほかない状態にたち至った。」に、八行目の「次に、」から四〇枚目表四行目末尾までを「以上のような事情から、布施教習所は、在籍教習生の教習開始後六か月の法定期間内における全教習終了の可能性について自信を喪失し、教習未了となって失格した場合の教習生に対する迷惑を憂慮し、昭和五二年一一月二八日頃から数回にわたり在籍教習生に対し転退校を勧告した。」に訂正する。
7 四〇枚目表一〇行目から裏四行目までを削除し、五行目の「(10)」を「(9)」に、同行の「被告長尾」から一〇行目の「ので」までを「被告長尾らは、分会の協力を得て布施教習所を再建しようと考え、会社再建協定案を分会ないし組合に示し、昭和五二年一二月末頃から同五三年二月頃まで再三にわたり組合に対し団体交渉を申入れて、その協力を求めるなどの努力を試みたが、分会及び組合は、これに応じなかったのみでなく、大阪府公安委員会からの自動車教習所指定返上の要請に対し、会社側の回避努力を無視してこれを歓迎する態度を示したので」に訂正する。
10(ママ) 四一枚目表一行目から七行目末尾までを次のように訂正する。
「(10) そして被告らは、経営者の交替と原告らに対する未払賃金等の完済を目的として、昭和五三年三月日産プリンス大阪販売株式会社外一社を譲渡先に選定し、これらと営業譲渡の交渉をはじめ、同月末頃組合に対し営業譲渡と負債支払の計画を伝え、会社は、同年四月四日の取締役会で営業譲渡の決議をしたほかその頃組合にも趣旨説明を行ったが、組合は営業譲渡に反対し、右営業譲渡についてその交渉先が布施教習所全株式の譲受を応諾の条件としていたところ、右反対によって従業員持株の譲渡の見込もなくなりそのため営業譲渡は実現しなかった。」
11 四一枚目表八行目の「(12)」を「(11)」に訂正し、一二行目の「の一部」を削除し、裏六行目から四二枚目裏二行目の「ところ、」までを「そこで布施教習所では、」に訂正する。
12 四二枚目裏一〇行目から四三枚目表九行目末尾までを次のように訂正する。
「(12) 原告らは、昭和五三年五月会社解散後から現在に至るまでの間、布施教習所が以前使用していた教習コース等の施設を使用し、「布施自動車教習所分会」と称して自動車運転を教える練習所を開設し、練習生から授業料を徴収して相当の利益を収受している。
以上の事実が認められ、原、当審における原告和田眞一、原審における同渡辺博各本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲他の証拠と比較して措信し難く、他にはこれを覆えすに足る証拠は存しない。」
二 右認定事実によれば、教習生の入所受付停止、在籍教習生の転退校、事業所閉鎖等が布施教習所の収入の途を閉すものであり、かつ被告らが布施教習所の取締役として右措置に関与したことは明らかである。しかしながら、先に認定したとおり、布施教習所は、労使間の対立激化による正常な教習業務継続の困難及び教習生や受講を希望する一般公衆に対する迷惑回避のため、取締役会の決議により昭和五二年一一月一日から教習生の入所受付を停止し、在籍教習生に転退校を勧める措置をとったが、その後も労使関係が改善せず、原告らから教習所資産の強制執行を受け、会社再建についても組合の協力を得られなかったゝめ、被告らは会社の経営に自信を喪失し、他への営業譲渡を試みたもののこれも組合の反対にあい、遂に事業所閉鎖の止むなきに至ったものであり、右のような本件の経過に鑑みると、入所受付停止等前記一連の措置は会社の経営管理上の必要と配慮からとられたものであって、それが専ら分会の組織破壊ないし組合活動の抑圧を目的とし、その手段としてなされたとは認めがたく、他に右措置が不法行為に当る違法な所為であると解すべき資料はなく、また被告らに取締役の会社に対する善管義務及び忠実義務に違反する任務懈怠があると認めることもできない。
三 そうすると、その余の判断をなすまでもなく、被告らに対し、不法行為もしくは昭和五六年法律七四号による改正前の商法二六六条の三に基く損害賠償を求める原告らの本訴請求は、すべて失当として排斥を免れない。
四 よって、原判決中被告ら敗訴の部分を取消し、原告らの本訴請求を棄却することとし、第一、二審の訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 仲江利政 裁判官 蒲原範明)
別紙
一 一時限当りの授業料
1 昭和五三年末まで
<省略>
2 昭和五六年末まで
<省略>
3 昭和五八年二月まで
<省略>
二 教習実績
昭和五八年二月六日(日)から同月一一日(祭)まで六日間の一日当り平均稼働台数 七九台
三 利得額
1 昭和五三年六月から同年一二月まで約二一〇日間 三八一五万七〇〇〇円
計算式=総稼働台数×普通車授業料(以下同じ)
2 昭和五四年一月から同五六年末まで一〇九五日間 二億一六二六万二五〇〇円
3 昭和五七年一月から同五八年二月まで四二四日間 一億〇〇四八万八〇〇〇円
1、2、3の収入合計 三億五四九〇万七五〇〇円
経費(燃料費、車輛維持費等) 三〇パーセント
純益(不当利得額) 二億四八四三万五〇〇〇円