大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和57年(ラ)141号 決定 1982年6月25日

抗告人 近畿日立化成住機株式会社

右代表者代表取締役 藤本勇

右代理人弁護士 山田庸男

同 松原伸幸

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨と理由は別紙に記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

抗告人の本件債権差押命令の申立は動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使としてなされたものであるところ、物上代位権の行使については民法三〇四条一項但書が、先取特権者はその払渡または引渡前に差押をなすことを要するものとしているが、右規定の趣旨は、差押によって物上代位権の対象となる債権を特定するとともに、物上代位権の存在を公示しこれにより取引の安全を図ることにあると解するのが相当であり、債務者破産の場合には破産宣告前に物上代位権の対象たる債権を差押えていなければ、差押申請が破産宣告前になされたときでも先取特権者は第三者たる破産財団の代表機関としての破産管財人に対し、別除権の行使として物上代位権を行使して優先権を主張することができないものというべきである。なお抗告人は、破産管財人は破産者の有していた財産の承継者として本質的に破産者と同一の地位に立っているものであり先取特権の行使が許されるかどうかの場面では破産管財人を対抗関係を有する第三者とみるべきではないと主張する。しかし破産宣告により破産者の有していたいっさいの財産は破産財団に属することとなり、破産財団の管理処分権は破産管財人に専属するにいたるものであり、破産管財人は破産財団を管理し、破産財団に属すべき財産を収集確保し、かつ破産財団の法律的整理をはかるとともにその増大に努め、なるべく有利に換価して配当財団をつくるべき法律上の任務を負うものであって、破産管財人は「破産者と本質的に同一の地位に立っているもの」ではない。しかして破産宣告後に破産財団に属する財産に関して権利を取得し又は対抗関係を具備しても破産財団ひいてはその代表機関である破産管財人に対抗することができない―破産法五四条、五五条―のであるから破産管財人の第三者性は肯認しうるというべく、この点の抗告人の所論は採用できず、先取特権者が破産宣告前に物上代位権の対象たる債権を差押えない限り第三者たる破産財団の代表機関としての破産管財人に対し別除権の行使として物上代位権を行使して優先権を主張することができないものと解すべきこと前記説示のとおりであり、抗告人が本件差押命令の申立に先立ち昭和五七年四月六日ころ第三債務者に対し債権者代位権に基づく支払請求をなし、第三債務者が先取特権の行使を既に知っていた等るる主張する事情を考慮にいれても、抗告人の右主張は採用できない。

民法三〇四条一項但書の解釈につき右説示と同旨の裁判例として、札幌高裁昭和五二年七月三〇日決定(判例タイムズ三六〇号一八四頁)、大阪高裁昭和五四年七月三一日決定(判例タイムズ三九八号一一二頁)、東京高裁昭和五六年三月一〇日決定(判例タイムズ四四一号一一八頁)東京高裁昭和五六年三月一六日決定(判例タイムズ四四一号一一七頁)その他多数存するところ、これと異なる抗告人の所論は採用できないし、抗告人が右の説示と異なる裁判例として引用する大阪高裁昭和五四年七月二七日決定(判例時報九四六号五七頁)、名古屋高裁昭和五五年六月三〇日決定(ジュリスト七三七号判例カード)には左袒し難い。

よって、右説示と同旨の理由で本件債権差押命令の申立を却下した原決定は相当であるから、本件抗告はこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例