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大阪高等裁判所 昭和57年(ラ)235号 決定 1982年8月19日

抗告人 岡村忠夫

右代理人弁護士 平栗勲

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、三木農業協同組合に対する売却を不許可とする。」との裁判を求めるにあり、抗告の理由は別紙に記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

(一)  抗告理由第一点について

抗告理由第一点の要旨は、本件不動産競売手続は無効の担保権にもとづいてなされた違法のものであることを理由として不動産売却許可決定の取消を求めるものである。よって案ずるに、担保権の実行としての不動産競売事件における売却許可決定に対する執行抗告は、民事執行法一八八条、七四条二項に従い同法七一条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由とすべきものであるところ、担保権実行による不動産競売の基本たる担保権の不存在ないし消滅は、民事執行法七一条一号にいう「競売の手続の続行をすべきでないこと」に該らないし、その他同条各号のいずれにも該らないというべきである。もっとも、民事執行法施行前の担保権実行による不動産競売事件における競落許可決定に対する即時抗告においては、昭和五四年法第四号による廃止前の競売法(以下旧競売法という)三二条により準用の昭和五四年法第四号による改正前の民事訴訟法(以下旧民事訴訟法という)六八一条二項により、同法六七二条に列挙する競落許可についての異議事由を即時抗告の理由となしうるものであるところ、担保権実行による不動産競売における担保権の不存在ないし消滅は、同法六七二条一号の「執行を続行す可からざること」に該当するものと解されているところである。しかし民事執行法は担保権実行による不動産競売開始決定に対し担保権の不存在ないし消滅を執行異議の理由とすることができる(同法一八二条)とするとともに、執行抗告においては執行の迅速性を確保する見地から、原則として手続上の瑕疵を理由とするものに限り許すものとしたのであって、旧競売法、旧民事訴訟法のもとにおける「執行を続行すべからざる事由」についての解釈は民事執行法にそのまま妥当するものではない。したがって担保権の不存在ないし消滅の実体上の理由を売却許可決定に対する執行抗告の理由として主張しうるとする抗告人の所論は採用し難い。

(二)  抗告理由第二点について

抗告人は、本件不動産のうち原決定添付別紙物件目録(8)の建物(以下(8)の建物という)は、昭和五二年一一月一四日設定の抵当権(別紙の担保権目録2の抵当権、以下2の抵当権という)設定以前である昭和五〇年九月一五日に工事完了、引渡を受けたものであるから民法三八九条により抵当地上の建物を土地とともに競売をなしうる場合ではないと主張するので案ずるに、右(8)の建物が昭和五〇年九月一五日に新築工事が完了し抗告人が引渡を受けたものであることは鹿嶋土建作成の建物引渡(取毀)証明書(原審記録一八丁)によってこれを認めることができるところ、右建物の存する三木市大塚字下り松一五一番宅地二三二〇・一六平方米(原決定添付別紙物件目録(1)の土地、以下(1)の土地という)について昭和四九年九月一七日設定の根抵当権(別紙の担保権目録1の根抵当権、以下1の根抵当権という)が存し、右1の根抵当権の設定の後に設定者たる抗告人が抵当地上に右(8)の建物を築造したものであることが明らかであって、右1の根抵当権者たる三木農業協同組合が(8)の建物について民法三八九条に基づき土地とともに競売を求め、原裁判所が同法条に従い右(8)の建物についても競売開始決定をなしたうえ(1)の土地とともに一括売却の決定をなしたのは相当であり、(8)の建物の築造が2の抵当権の設定以前であることを理由に民法三八九条に基づく競売開始決定をなしえないとする抗告人の主張は採用できない。

なお抗告人は本件不動産を一括して最低売却価額五一四〇万円と定めて売却したことは超過売却であるとも主張するが、本件競売申立債権者三木農業協同組合の本件不動産に対する昭和四九年九月一七日設定の極度額金一五〇〇万とする根抵当権に基づく債権額は元金一、〇〇〇万円及び五〇〇万円の二口、昭和五二年一一月一四日設定の抵当権に基づく債権額は元金三、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一月一日以降同年一月三一日まで年八分四厘の割合による利息金、昭和五三年二月一日以降日歩四銭の割合による遅延損害金(但し内入金を一部控除)でありこれに執行費用を加えれば、本件不動産のあるものの最低売却価額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある場合に該らないことは明らかであるから抗告人の右の主張は採用できない。

(三)  抗告理由第三点について

抗告理由第三点の要旨は、本件土地の評価について本件土地が市街化調整区域であることの一事をもって本件土地の地域の規準とされた土地の公示価格の半分以下に評価されているのは不当であり、本件土地の最低売却価額の決定に重大な誤りがあるというものである。

よって案ずるに、評価人山岸達也作成の評価書によれば、本件土地はその評価の規準とされた(県)基準地の三木市大塚一丁目三一〇-三と近接し、右基準地価格が一平方米あたり金四万四、五〇〇円であることは抗告人指摘のとおりであるが、本件土地が市街化調整区域であり右評価にあたって同じく評価の規準とされた(県)基準地の三木市久留美字上野二九七-一の基準地価格が市街化調整区域であって一平方米あたり金六三九〇円とされていることとの対比からみても、あながち本件土地の評価が不当に低いものということはできないし、その他右評価人のなした本件土地の評価の算出について不当とすべきところは存しない。

したがって原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)

<以下省略>

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