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大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)10号 判決 1984年10月30日

昭和五七年(行コ)第一〇号事件控訴人、同年(行コ)第一二号事件被控訴人(以下第一審原告という)

岩崎善四郎

昭和五七年(行コ)第一〇号事件控訴人、同年(行コ)第一二号事件被控訴人(以下第一審原告という)

小谷虎彦

昭和五七年(行コ)第一〇号事件控訴人、同年(行コ)第一二号事件被控訴人(以下第一審原告という)

井上善雄

第一審原告ら三名訴訟代理人

大原健司

佐井孝和

島川勝

辻公雄

津川博昭

中本勝

松岡康毅

三木一徳

山川元庸

安木健

昭和五七年(行コ)第一〇号事件被控訴人、同年(行コ)第一二号事件控訴人(以下第一審被告という)

大阪陸運局長勝野良平

昭和五七年(行コ)第一〇号事件被控訴人(以下第一審被告という)

右代表者法務大臣

住栄作

第一審被告ら指定代理人

松山恒昭

布村重成

外六名

右当事者間の昭和五七年(行コ)第一〇号、第一審原告らと第一審被告大阪陸運局長間の同年(行コ)第一二号近鉄特急料金認可処分取消等請求各控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原判決中、第一審被告大阪陸運局長に関する部分を取り消す。

二  第一審原告らの第一審被告大阪陸運局長に対する各訴えをいずれも却下する。

三  第一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一審原告らと第一審被告大阪陸運局長との間では第一、二審とも、第一審原告らと第一審被告国との間では控訴費用をいずれも第一審原告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1第一審原告ら

(一)  昭和五七年(行コ)第一〇号事件控訴の趣旨

(1) 原判決を次のとおり変更する。

(2) 第一審被告大阪陸運局長による昭和五五年二月一六日付近畿日本鉄道株式会社の特別急行料金改定申請に対する同年三月八日付認可処分はこれを取り消す。

(3) 第一審被告国は各第一審原告らに対し、それぞれ金一万円を支払え。

(4) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(5) (3)項につき、仮執行の宣言。

(二)  昭和五七年(行コ)第一二号事件控訴の趣旨に対する答弁

(1) 本件控訴を棄却する。

(2) 控訴費用は第一審被告大阪陸運局長の負担とする。

2第一審被告ら

(一)  昭和五七年(行コ)第一二号事件第一審被告大阪陸運局長の控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

第一審原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

(二)  昭和五七年(行コ)第一〇号事件控訴の趣旨に対する第一審被告らの答弁

(1) 主文三項と同旨。

(2) 控訴費用は第一審原告らの負担とする。

(3) 仮執行宣言が付せられる場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

二当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1第一審原告らの当審における主張

(一)  本案前の主張について

(1) 最高裁判所判決の射程距離について

イ 最高裁判所は最高裁判所昭和四九年(行ツ)第九九号審決取消請求上告事件(昭和五三年三月一四日判決、以下ジュース表示事件という)において、「国民一般が共通してもつにいたる抽象的、平均的、一般的な利益」を「公益」と表現し、最高裁判所昭和五二年(行ツ)第五六号保安林解除処分取消請求上告事件(昭和五七年九月九日判決、以下長沼ナイキ基地訴訟事件という)においては、「不特定多数者の……個別的利益を超えた抽象的・一般的な」利益を「公益」と表現している。個々人の具体的利益が、右のような「公益」に「完全に包摂されるような性質のもの」(ジュース表示事件)あるいは「公益」に「包含される」もの(長沼ナイキ基地訴訟事件)である場合は、その利益は「反射的な利益ないし事実上の利益」であるというのが最高裁判所の考え方である。したがつて、原告適格の有無を論じる場合は、当該原告の利益が右のような公益に包摂しつくされるものであるか否かを考察しなければならない。

ロ ジュース表示事件においては、処分の結果個々の消費者がうける不利益は、ジュースという商品を選択する自由というような抽象的・一般的なものにすぎず、しかもその選択の自由を奪われる可能性があるというにすぎない。これを原告となりうる者の範囲についてみても、国民は誰でもジュースの消費者となりうるところから、右事件で原告らに当事者適格を認めるならば、国民は誰でも同種事案において原告となることができる結果となり、その範囲は無限定となつてしまう。このような場合、原告の利益は「国民一般が共通してもつにいたる抽象的・一般的な利益」とみることが可能であり、個々人の利益は公益に「完全に包摂される性質のもの」ということも、できるであろう。

また長沼ナイキ基地訴訟事件にあつては、森林法によつて保護される公益は、保安林の周辺住民その他の不特定多数者が受ける自然災害の防止、環境の保全・風致の保存などの一般的利益である(最高裁判所判決)。これに対し原告適格を認められた原告らは、保安林の伐採による理水機能の低下により洪水緩和、渇水予防の点で直接に影響を被る地域に居住する住民である。このような地域住民の利益は右のような公益に包含されてしまうものでないことは明らかであり、保安林解除処分の取消しを求めた訴訟について、原告となりうる者もおのずと特定されることになる。したがつて、旧森林法以来の沿革等をまつまでもなく、原告適格が肯定されてしかるべき事案である。

ハ 以上に対し本件の場合は、次のような点で特異性がある。第一に、地方鉄道法二一条によつて保護される利益は利用者の経済的利益であり、これは結局個々の利用者の利益に還元されることになる。利用者一般の利益といつても、個々の利用者の利益の総和以外のなにものでもなく、これを離れた公益などというものは存在しない。すなわち、個々の利用者の利益は不特定多数にわたる一般利用者の利益すなわち公益に包摂されてしまうものではない。第二に第一審原告らは近鉄沿線に居住し、通勤のために日常的に近鉄を利用せざるを得ない立場にある者であり、また現に近鉄特急をほとんど毎日利用している者である。そのような第一審原告らにとつてみれば、本件認可処分によつて値上げされた分だけ経済的負担が増大するのであり、これらは「公益に包摂される」結果雲散霧消してしまうような不利益ではない。このように第一審原告らは近鉄特急の利用者という特定された存在であり、ジュース表示事件の原告らのように一般消費者というような抽象的存在ではない。同じような立場の者が多数存在することは事実であるが、これは認可処分によつて影響をうける者の範囲が著しく広いことを物語つているにすぎず、同じような立場の者が多数存在する結果その利益が公益に昇華してしまうというものではない。

(2) 地方鉄道法二一条の趣旨

第一審被告らは、運賃変更等の認可処分等をおこなう場合に開催される運輸審議会について、当該鉄道の個々の利用者は運賃変更認可について利害関係人に含まれない結果、公聴会の開催を求めることも、公聴会で意見を述べることも、いずれも権利として保障されていないと述べ、これを根拠に地方鉄道法二一条は個々の利用者の具体的利益を保護するものでないと主張している。しかしこれは本末を転倒した論理である。地方鉄道法は利害関係人について特に定めておらず、利害関係人の範囲は下位規範にあたる運輸審議会一般規則(運輸省令第八号)五条によつて定められている。第一審原告らは、このように鉄道の利用者を利害関係人に含めようとしない運輸省の姿勢こそ、地方鉄道法やその他の法律に照して違法、不当であると主張しているのである。したがつて第一審原告らが違法、不当であると批判している下位規範の存在をもつて、上位規範である地方鉄道法の解釈の根拠にすることはできない。

(3) 救済の必要性と当事者適格

「原告適格の有無は、個々の法規が原告に司法的救済を与えることを予定しているか否かを解釈し、判断することにより決定されるべきである」としても、「個々の法規が司法的救済を与えることを予定しているか否か」は、しかく明らかではなく、結局、制度全体を考察しなければならず、その際、国民の権利・利益の救済手段はどのように確保されているかも重要なポイントとなる。本件についていえば、地方鉄道事業は地域的独占事業でありながら、独禁法の適用除外事業とされており、利用者は事業者の定めた運賃・料金に無条件に従わざるを得ず、公正・適正な運賃・料金で地方鉄道を利用することができる制度的保障がない。そこで、一方的に利用者の権利・利益が侵害されるのを防ぐために、地方鉄道法二一条は運賃・料金の決定について運輸大臣の認可を必要とすることを定めているのである。したがつて、第一審原告ら近鉄特急の利用者が、本件認可処分を争う原告適格を否定されるならば、利用者の権利・利益は救済される場がどこにもないことになり、同条の趣旨は没却されることになる。このように、救済の必要性は同条を解釈する際の重要な要素となる。

(二)  特急利用の選択性、軽微性と認可権限について

(1) 第一審被告らは、特急科金については利用者側にそのサービスを利用するかどうかの選択の余地があるから、特急科金変更の認可権限は運賃のそれに比べて軽微性をもつと主張し、これを根拠に本件特急料金の変更認可に関する権限を陸運局長がもつことは、実質的にも妥当であると主張する。

しかし特急利用の選択性が利用者にあるからといつて、選択性が即軽微性の根拠となるものでもない。すなわち、

本件認可処分が軽微であるかどうかを考えるにあたつては、処分の影響の大きさを考えなければならず、近鉄特急利用者が現実にどの程度いるのかを考える必要があり、またその利用者に対し本件認可処分がどのような経済的負担を課するものかを考察しなければならない。そしてさらには、本件認可処分の申請者である近鉄にとつて、どのようなウエイトをもつものかも考える必要がある。

(2) 選択性の前提問題

イ 第一審被告らは、特急と一般列車の間に利用の選択性があるためには、①速度、②運転本数、③混雑率の点から一般列車の利用が極度に制限されていなければよいとするが、そのような主張はそれ自体不当である。第一審被告らは鉄道の運営からすれば極限状態を主張するものであつて、これを基準として特急と一般列車の選択性を論じるのは、出発点からすでに誤つているといわなければならない。近鉄は特急の運行について利用者の心理を巧みに利用し、客が特に特急に乗る必要がないときでも、ついこれに乗らざるをえないように仕組んでいる。選択性を論じるにあたつては、第一審被告らのいうような物理的側面だけでなく、このような心理的側面をもあわせて考察しなければならない。

ロ 近鉄特急の実態と鉄道運営上の問題点

(イ) 近鉄の輸送力増強について

近鉄を中核とする多数の近鉄企業グループの宅地開発等のためにも近鉄は輸送力の増強を図らざるをえないのである。このように営利追求の目的の下で、輸送力の増強計画がなされているため、一方では「特急商法」と呼ばれる特急路線の拡大と特急利用への誘導策がとられ、他方では混雑緩和策は遅々としてしか進まないということになる。

(ロ) 混雑率について

第一審被告らの混雑度に関する主張を争う。

第一審被告らは、地下鉄や国鉄と比較して「異状とはいえない」というが、一方は都市内輸送手段で乗客は短時間しか乗車しないのに対し、他方は郊外と都市あるいは都市間の輸送手段であつて、乗車時間が長く、乗客にとつて混雑度のもつ意味ははるかに重い。また本件の場合問題は特急の選択性であるから、特急が運行されている区間と対比しなければ無意味である。

なお一八八パーセントという近鉄の混雑率は、一時間の種別の異なる列車を平均化したものであるから、混雑の低い列車が平均数字を引き下げており、列車のなかには混雑率二〇〇ないし二五〇パーセントといつた例も珍らしくない。

このような混雑は、朝夕の通勤・通学のラッシュ時をピークにしてその前後に及んでいる。他方で、このように混雑する一般列車を尻目に、長連結の特急が優先的に走行している。このような状態からすれば、特急を利用することは、決して自由な選択によるものではなく、「特急を利用せざるを得ない」というのは誇大な表現ではない。

(ハ) 第一審原告らの利用路線の実態について

a 大阪線について

時刻表によると、九時台の快速急行ないし急行は二本しかなく、特急列車が六ないし一〇両で運行される一方で、三ないし四両の急行が運行されている状態である。さらには混んだ急行や準急を六ないし一一分間待避させて、大和八木駅から特急が先発することになる。このような特急優先のダイヤの下では、混雑による苦痛に加えて、時間の空費や心理的な圧迫から、特急列車利用への一種の「強制力」が働くことは否めない。

b 奈良線について

奈良線は運転区間が短かく、特急運行自体に疑問がある。しかも通勤時間帯にまで特急を運転させて、乗客に特急券を買わせて乗車させること自身が異状である。

c 南大阪線について

南大阪線の急行は吉野・橿原神宮前駅間では各駅停車の「普通」であり、区間急行はさらに尺土駅まで「各停列車」で、例えば橿原神宮前駅八時一四分発の区間急行は五一分も要して阿部野橋駅に九時五分到着する。準急に至つては、例えば橿原神宮前駅七時一八分発の準急は七〇分を要して八時二八分に阿部野橋駅に到着する。したがつて特急とは、大きな差があるといわなければならない。

d 以上のように、利用者はすき好んで特急に乗車しているというのではなく、特急優先のダイヤ、特急中心の車両増強、施設拡張やたくみな特急の宣伝、サービス等が組み合わされている結果であり、本質的にその選択は自由ではなく、特急に乗ることを余儀なくされている状態であるといつても、決して過言ではない。

(三)  損害賠償請求について

仮に通達に従つた第一審大阪陸運局長に過失がないとすれば、通達を出した鉄道管理局長は、陸運局長に特急料金変更認可の処分権限がないことを知らないことにつき過失があつたと考えるべきであり、鉄道管理局長も第一審被告国の公権力の行使にあたる公務員であるから、第一審被告国はいずれにせよ賠償責任を免れない。

2第一審被告らの主張

(一)  第一審被告大阪陸運局長の本案前の主張

(1) 法律が抽象的一般的な公益の保護を目的としている場合において、当該公益に包含される個別的利益の帰属する個々人についての行政処分取消訴訟における原告適格の有無について、長沼ナイキ基地訴訟事件判決は次のとおり判断している。すなわち、「一般に法律が対立する利益の調整として一方の利益のために他方の利益に制約を課する場合において、それが個々の利益主体間の利害の調整を図るというよりもむしろ、一方の利益が現在及び将来における不特定多数者の顕在的又は潜在的な利益の全体を包含するものであることに鑑み、これを個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益としてとらえ、かかる公益保護の見地から対立する他方の利益に制限を課したものとみられるときには、通常、当該公益に包含される不特定多数者の個々人に帰属する具体的利益は、直接的には右法律の保護する個別的利益としての地位を有せず、いわば右の一般的公益の保護を通じて附随的、反射的に保護される利益たる地位を有するにすぎないとされているものと解されるから、そうである限りは、かかる公益保護のための私権制限に関する措置についての行政庁の処分が法律の規定に違反し、法の保護する公益を違法に侵害するものであつても、そこに包含される不特定多数者の個別的利益の侵害は単なる法の反射的利益の侵害にとどまり、かかる侵害を受けたにすぎない者は、右処分の取消しを求めるについて行政事件訴訟法九条に定める法律上の利益を有する者には該当しないものと解すべきものである。」として、かかる利益を有するにすぎない者については、原告適格を否定している。

もつとも同判決は、かかる利益を有するにすぎない者についても、原告適格を認むべき場合があるとして、特定の法律の規定が一般公益と並んでこれらの利益の全部又は一部についてそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものと解されるときは、原告適格を有すると解することができる旨判示している。

そして、同判決によれば、特定の法律が個々人の個別的利益を保護する趣旨をも含んでいるものと解するためには、当該個々人に対して行政処分の申請権を認めるとか、あるいは行政処分に際し意見書の提出ないしは公開の聴聞手続への参加の機会を保障している規定によつて、個々人の利益が保護されていることが最低限必要であると解せられる。

公益と反射的利益の関係及び法律上の利益の認定の方法に関する以上のような最高裁判所の判断は、行政事件訴訟法九条の文理にもかない、妥当なものというべきである。

(2) 地方鉄道法二一条が運賃及び料金につき監督官庁の認可にかからしめているのは、地方鉄道事業の持つ公共的性格に鑑み、事業の適正な運営を確保するとともに、事業者が万一不当な運賃等の改定をしようとする場合に、これを抑制し、もつて不特定多数にわたる一般利用者の利益、すなわち公益を保護しようとしていることに基づくのである。したがつて、同条における保護の対象は地方鉄道を利用しうる国民の一般的利益(公益)であつて、地方鉄道法は公益保護を目的とする他の行政法規と同様、法目的達成の一つの手法として、個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益を想定し、その公益の保護を通じて、間接的に個々人の利益を保護しているにすぎないのである。したがつて、右公益について実体がない等、その内容について云々するのは、無意味なことであり、必しも必要ではない。

また、運賃・料金は個々の利用者が支払うものであるので、個々の利用者が認可された運賃・料金に拘束されるのは当然のことであり、この意味において、一般利用者が持つ共通の利益は、結局、個々の利用者の具体的利益に基礎があるといえるとしても、このことと法が抽象的・一般的な公益の保護を通じて、間接的に個々人の利益を保護しようとする手法をとつているということとは無関係であり、前者をもつて後者を否定することはできない。

(3) ところで、この公益に包含される個々の利用者の個別的利益も法律上保護されているとするためには、手続面その他で何らかの特定の規定により、これが明らかにされなければならないのであるが、地方鉄道法にはそのような規定は一切存しない。

また、運輸大臣が地方鉄道法二一条により基本的な運賃及び料金に関する認可等をなす場合の運輸審議会(運輸省設置法六条一項)の審議手続についてみるに、公聴会において審議される事項は、利害関係人(運輸審議会一般規則五条)の意見ないし公述人(同規則三五条)の公述であつて、利害関係人は勧告の申請(同法七条)、公聴会開催の申請(同法一六条)、報告書の提示を受けることができること(同法一六条の四)等についての規定があるが、この利害関係人には鉄道利用者は含まれていない(同規則五条)。この点について第一審原告らは、下位規範たる同規則によつて地方鉄道法の解釈の根拠とすることはできないと反論するが、同規則でこのように規定されているのは、地方鉄道法が個々の利用者の具体的利益までも保護しようとしているものでないことの反映であつて(運輸省設置法にもその旨の規定は存しない。)、当然の規定である。

結局、地方鉄道法及び運輸省設置法のいずれをみても、個々の利用者の具体的利益を保護すべき旨の規定は、一切存在しないのであつて、行政事件訴訟法九条の法律上の利益を認める余地はないものといわなければならない。

(4) 第一審原告らは、地方鉄道法二一条によつて保護される利益は利用者の経済的利益であり、公益に包含されてしまうものではなく、また第一審原告らは通勤のため日常的に近鉄を利用せざるをえない立場にあり、しかも近鉄特急の利用者であるから、本件処分の結果不利益を受ける特定された存在であると主張するが、同条により保護される利益が利用者の経済的利益であるから、公益に包含されてしまうことなく、特別に個々の利益として保護していると解すべき根拠はなく、また、第一審原告らが特急利用者という意味では現実の利用者が特定されうるとしたとしても、この点についてはジュース表示事件判決の判示するとおり、「単に反射的利益をもつにすぎない一般消費者の範囲を一部相対的に限定したにとどまり、反射的利益をもつにすぎない者であるという点においてはなんら変わりはない」のである。

(二)  特急利用の選択性及び特急料金変更認可の軽微性について

(1) 特急料金は付加的な輸送サービス(快適さ・速さ等)の対価としての性格を有し、このサービスを受けるかはひとえに利用者側の任意な選択に委ねられているものであり、料金の変更認可権限事項は、運賃・料金の認可権限事項のうちでも、内容的には軽微な性格を有していることから、この料金の変更認可権限は、陸運局長に委譲されている。本件の近鉄特急料金にあつても、快適さ・速さ等の点において一般列車とは異なる付加的なサービスの対価としての性格を有しているのであるから、これについて第一審被告大阪陸運局長が認可権限を有しているのであり、本件処分は適法である。

(2) 近鉄特急利用の選択性について

イ 特急と一般列車の間において利用の選択性があるといいうるためには、①一般列車の速度が特急の場合に比べて著しく遅く、鉄道としての効用が低いといつた状態にないこと、②一般列車の運転本数が著しく少なく、利用の可能性が制限されているため、事実上利用できないといつた状態にないこと(ただし需要の少ない路線については、採算上から本数を増やせない事態はありうる)、③一般列車が著しく混んでいて事実上利用できないといつた状態にないこと等の要件が充足されていることが必要である。

ところで近鉄の輸送力増強対策等により、一般列車の混雑率は漸次低下し、混雑を回避するために特急利用を余儀なくされるといつた状況は存しない。

ロ 近鉄の混雑率

近鉄の特急以外の一般列車の混雑率(輸送量を定員数で除した数値)は、逐年緩和され、ラッシュ時の混雑率は、最も混雑の著しい奈良線において、別紙のとおり、昭和五六年度一八八パーセントと大手私鉄主要線区の平均一八九パーセントを若干下回つている。

なお、大阪の地下鉄御堂筋線(難波ないし心斎橋)の混雑率は二二七パーセント、東海道線(新大阪ないし大阪)のそれは二〇九パーセント、環状線(京橋ないし桜ノ宮)のそれは二三〇パーセント、片町線(鴫野ないし京橋)のそれは二五二パーセントとなつている(昭和五六年度)。そして近鉄のピーク時をはずれた時間帯については、混雑率はさらに低くなるのであり、したがつて一般利用者が、混雑のために特急を利用せざるを得ないということは、一般的には言えない。

ハ 第一審原告らの利用する近鉄各線の列車の所要時間、運転度数等について

a 第一審原告岩崎善四郎の利用する奈良線の場合

第一審原告岩崎善四郎の通勤コースは菜畑駅から生駒駅を経て近鉄難波駅に至るものであり、特急を利用する可能性のある奈良線生駒駅ないし近鉄難波駅間について、まず所要時間を検討すると、特急で二〇分、快速急行又は急行で二二ないし二三分程度であつて、ほとんど差がない。また生駒駅からの一般列車の運転本数も快速急行が七時台に八本、八時台で七本、九時台で快速急行四本、急行二本、一〇時以降は快速急行三本、急行三本となつており、運転本数は極めて多く、一般列車の輸送サービスは十分に供給されている。なお、奈良線は比較的短い路線であるため、特急は一日一四本運転されているだけである。

右第一審原告の通勤時間帯が、一般のピーク時より遅いため混雑は、既にピークを過ていて、八時五九分生駒駅発の特急の直前の快速急行でも、混雑率は一八〇パーセント程度であり、その後の列車は更に低い一〇〇パーセント前後の混雑率となつている。

b 第一審原告小谷虎彦の利用する大阪線の場合

第一審原告小谷虎彦の通勤コースは、橿原神宮前駅から大和八木駅を経て近鉄難波駅に至るものであり、一般的に特急を利用する可能性のある大阪線の大和八木駅ないし近鉄難波駅(又は上本町駅)間についての所要時間を検討すると、大和八木駅ないし上本町駅間が特急で二八分であるのに対し、快速急行、区間快速及び急行では三二ないし三七分とわずかしかちがわず、また、大和八木駅からの一般列車の運転本数についても、快速急行、区間快速、急行あわせて七時台では五本、八時台で四本、九時以降でも二ないし三本が運転されており、このほかに準急が、一時間当たり三ないし四本運行されていることを考えあわせれば、基本的な輸送サービスは十分に供給されており、利用者は、特急を利用するかしないかの選択の自由を有しているといえる。

なお、右第一審原告の出勤時間帯は既にラッシュのピーク時を過ぎており、当該列車の混雑率は通常一五〇パーセント程度である。

c 第一審原告井上善雄の利用する南大阪線の場合

第一審原告井上善雄の通勤コースは、主に橿原神宮前駅ないし阿部野橋駅間であり、所要時間は特急三六分に対し、急行が四三分程度、区間急行が四八分程度であつて、右両者の間にそれほどの差はない。

一方橿原神宮前駅からの一般列車の運転本数は、七時台では急行(区間急行を含む。)四本、準急三本、八時台では急行三本、準急三本、九時台に急行一本、準急二本、一〇時台では急行一本、準急二本となつており、全体として本数が少なくなつているが、これは、南大阪線自体輸送需要の少ない路線であり、その中でも、通勤・通学客が増えるのは、長野線の接続する古市駅からであつて橿原神宮前駅では十分な旅客需要がないためである。ちなみに、古市駅からは、七時台に急行五本、準急九本、八時台に急行五本、準急が八本、九時台に急行三本、準急七本

一〇時台以降急行一本、準急五本がそれぞれ運行されている。

なお、八時一四分の区間急行が橿原神宮前駅を出るときの混雑率は一五〇パーセントに満たない程度である(同列車は、旅客の増える古市駅で増結し、阿部野橋駅へ入るときには、五両編成になつている。)。

d 以上のとおり、混雑率、所要時間及び運行列車本数のいずれの点からみても、第一審原告らが特急の利用を余儀なくされているとはいえないのであつて、特急の利用は利用者の自由な選択に委ねられているのである。

(3) 以上みてきたように、各路線について第一審原告らが主張するような「特急に乗ることを余儀なくされている」ような事態は存しないのであつて、近鉄特急は、あくまで、急行以下の列車によつて提供されている基本的な輸送サービスに対し、選択可能な付加的なサービスとして提供されているのである。

ところで、運賃等について認可制がしかれているのは、事業の適正な運営の確保という要請のほか、事業者による運賃等の不当な改定を抑制し、不特定多数の一般利用者の利益を保護する必要があることによるが、これらの運賃等の性格を分析すると、基本的な輸送サービスの対価たる運賃については、鉄道事業の地域独占的な性格により、利用者は不可避的にこれに従わざるを得ないという面があるのに対し、付加的なサービスの対価たる特急料金については、利用者側に当該サービスを利用するか否かの選択の余地があり、この点で、基本的に特急料金の認可処分は、運賃のそれに比し、軽微性を有するものといえる。

特急料金の右のような内容的な軽微性にかんがみると、本件特急料金変更認可に関する処分権限を陸運局長が有することは実質的にも妥当といえる。

3新たな証拠関係<省略>

理由

一  本案前の主張について

1法律上の利益について

行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、これを提起することができる(行政事件訴訟法九条)。右にいう法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者と解せられる。そして右にいう法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として、行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益であつて、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである(ジュース表示事件判決)。

法律が対立する利益の調整として一方の利益のために他方の利益を制約する場合、それが個々の利益主体間の利害の調整を図るというよりもむしろ、一方の利益が現在及び将来における不特定多数者の顕在的又は潜在的な利益の全体を包含するものであることに鑑み、これを個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益としてとらえ、かかる公益保護の見地からこれと対立する他方の利益に制限を課したものとみられるときには、通常、当該公益に包含される不特定多数者の個々人に帰属する具体的利益は、直接的には右法律の保護する個別的利益としての地位を有せず、いわば右の一般的公益の保護を通じて附随的、反射的に保護される利益たる地位を有するにすぎないとされているものと解され、ただ特定の法律の規定が、これらの利益を専ら右のような一般的公益の中に吸収解消せしめるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき趣旨を含むものと解されるときは、右法律の規定に違反してされた行政庁の処分に対し、これらの利益を害されたとする個々人においてその処分の取消しを訴求する原告適格を有するものと解せられる(長沼ナイキ基地訴訟事件判決)。

2地方鉄道法二一条の趣旨

(一) ところで第一審原告らが取消しを求める本件特急料金変更の認可処分は、地方鉄道法二一条に基づく処分であるから、右処分につき地方鉄道利用者が取消訴訟を提起する原告適格を有するかは、右二一条が地方鉄道利用者の利益を個別的利益として保護すべき趣旨であるか否かにかかることとなる。

(二)  地方鉄道は不特定多数の地域住民の交通手段として、一般住民の日常生活の利益に密接な関係を有するところから、公益事業とされ、同法はまず地方鉄道事業をもつて免許事業とし(同法一二条)、工事の施行(同法一三条)、運輸の開始(同法二〇条)、列車の運転速度・度数(同法二二条)等を監督官庁たる運輸大臣の認可にかからしめ、当該事業一般に対し広く監査・監督を行いうることとし(同法二三条)、その運賃・料金についても、その決定変更を地方鉄道事業者の一方的行為に委ねるならば、鉄道利用者の利益が不当に侵害されるおそれがあるため、同法二一条はその運賃・料金についても、監督官庁たる運輸大臣の認可を要するものとするとともに、監督官庁たる運輸大臣は公益上必要があると認めるときは、その運賃・料金の変更を命じうるものとしている。

地方鉄道は右のとおり一般住民の交通手段として、一般住民の日常生活の利益に密接な関係を有するところから、同法二一条は地方鉄道の運賃・料金を監督官庁たる運輸大臣の認可にかからせているが、地方鉄道法の目的とするところは、本来自由であるべき交通事業を規制することにより公益の実現を図ろうとしているものと解すべきであり、その一般利用者の利益の保護も、右による公益保護の一環として、換言すれば一般利用者の利益は一般的公益に包摂されたものとして、その公益の保護を通じ保護されるものと解せられる。

もとより一般利用者といつても、個々の利用者を離れて存在するものではないが、地方鉄道法上このような個々の利用者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じ、その結果として保護されるもの、すなわち公益に完全に包摂されるような性質のものにすぎないと解せられる。したがつて運輸大臣による地方鉄道法の規定の適正な運用によつて得られる一般利用者の利益は反射的な利益ないし事実上の利益であるから、単に一般利用者であるというだけでは、運輸大臣による地方鉄道法二一条の認可につき不服申立をする法律上の利益を有する者ということはできない。そしてこれを近鉄囲辺に居住する者あるいは定期券により常時これを利用する者と限定しても、それは単に反射的な利益を有するにすぎない一般利用者の範囲を一部相対的に限定したものというにとどまり、反射的な利益ないし事実上の利益をもつにすぎない者であるという点において何ら変わりはないのであつて、これをもつて不服申立をする法律上の利益をもつ者と認めることはできない。

(三)  ところで第一審原告らは、独禁法及び消費者保護基本法の法意に照らし、第一審原告らは地方鉄道法二一条により、近鉄の利用者として当然公正・適正な料金で特急を利用する権利あるいは法的に保護された利益を有する旨主張する。

地方鉄道事業は独禁法の適用除外事業であり、したがつて地方鉄道法二一条は自由競争の代替措置として機能すべき意義を有し、その解釈において独禁法及び消費者保護基本法を前提とすべきものとしても、独禁法及び消費者保護基本法によつて消費者が受ける利益は、特別の規定による場合を除き、一般にこれらの法律の適正な運用によつて実現されるべき公益の保護を通じ消費者一般が共通してもつに至る抽象的、平均的、一般的な利益であり、右各法律の規定の目的である公益の保護の結果として生じる反射的な利益ないし事実上の利益であると解せられるから(独禁法二五条一項は、同条項所定の行為((私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法))をした事業者に対する特殊の損害賠償責任を定めているが、同法二六条によれば、右損害賠償請求は、所定の審決が確定した後でなければ、裁判上これを主張しえない旨規定しており、これは事業者の右行為によつて個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることにより、審決において命ぜられる排除措置と相俟つて、同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとする目的に出た附随的制度に過ぎないと解せられるから、このことから消費者一般が価格等の取引条件の公正を要求する権利ないし利益が具体的に保護されたものと解することは困難であるし、また消費者保護基本法一一条は訓示ないし綱領規定であつて、消費者一般の具体的権利ないし利益を定めたものとは解されない)、独禁法及び消費者保護基本法を前提に置いても、地方鉄道法二一条が第一審原告ら一般利用者の具体的権利を定めあるいはその利益を具体的個別的な利益として保護しているものと解することは困難である。

(四)  また第一審原告らは、地方鉄道法二一条によつて保護される利益は経済的利益であり、個々の利用者の利益に還元されるものであり、第一審原告らは通勤のため日常的に近鉄を利用する者であつて、本件認可処分によつて値上げされた分だけ経済的負担が増大するから、これは公益に包摂されるものではない旨主張する。

しかし公益は、個々の住民・利用者の利益と離れては存しないが、その具体的内容、性質等に鑑み、法はこれを公益として包摂して保護することが行われるのであるから、当該利益が経済的利益であることを根拠に公益に包摂されつくされないとは当然にいいうるものではない。かえつてこのような利益の性質、程度、利用者が不特定多数に亘るものであることに鑑みると、公益として包摂される適性を有するものとさえいいうるのである。

3なお前記一の1のとおり、特定の法律の規定が個々人の利益を一般的公益の中に吸収解消せしめるにとどめず、これと並んでそれらの利益を個々人の個人的利益としても保護する趣旨であることが存するが、このような場合は、個々人の個別的利益として保護される者のための保障的手続規定が設けられるものであるところ、地方鉄道法を通覧しても、このような規定はみあたらない。

もつとも地方鉄道の基本的な運賃及び料金に関する認可又は変更命令の場合においては、運輸省設置法は公共の利益を確保するため運輸審議会にこれをはかり、その決定を尊重して行う旨規定し(同法五条、六条)、運輸審議会は右事項については、必要があると認めるときは、公聴会を開くことができ、運輸大臣の指示若しくは運輸審議会の定める利害関係人の申請があつたときは、公聴会を開かなければならない旨規定している(同法一六条)。そして運輸審議会一般規則五条一項は右にいう利害関係人を列記して定めているが、地方鉄道の一般住民・一般利用者は右にいう利害関係人に該当するものとはされていないのであつて、以上の各法条の趣旨に照らしてみても、一般住民・一般利用者の利益の保護については、それが基本的な運賃及び料金の認可又は変更の命令をする場合においても、運輸大臣は審議会委員の意見を吸収した運輸審議会の決定を反映させる形において、これを行うものとされているのであつて、この場合には、一般住民・一般利用者の個別的利益は抽象的・一般的な公益として把握され、その公益保護の見地からこれを決定するものであることを示していると解することができる。

第一審原告らは、右運輸審議会一般規則五条が地方鉄道法や他の法律に照らし違法、不当である旨主張するが、右条項は運輸省設置法が利害関係人の範囲を全面的に運輸審議会が定めるべきことを同審議会に委任したことに基づき定められたものであり、地方鉄道法においてはもとより、運輸省設置法においても利害関係人の要件等を定める規定はなく、したがつて右運輸審議会一般規則五条を違法、不当と解することはできない。

4第一審原告らが本件特急料金変更認可処分の名宛人に準ずるとの主張について

本件特急料金変更認可の結果は、第一審原告らが近鉄特急を利用しようとする場合には、事実上第一審原告らの利益に影響を及ぼすことを否定できないが、右は勿論直接の法的効果ではなく、第一審原告らの自由な意思に基づき近鉄特急の利用を選択した場合の事実上の結果というべきものである。したがつて、たとえ第一審原告らがしばしば近鉄特急を利用しているからといつて、そのことから第一審原告らが当然本件認可処分の名宛人ないしこれに準ずる立場に立つものということはできない。

5救済の必要性と原告適格について

前記一の1のとおり取消訴訟における原告適格は、当該行政処分の根拠となつた法規の解釈から定められる。このことは実質において救済の必要性と無関係な問題ではないと考えられるが、救済の必要性といつても、その程度において強弱に著しい差があり、限界も明確ではなく、したがつて実定規定を離れ、救済の必要性を強調して、ただちに原告適格を認めることは相当でない(本件においては、第一審原告らが被るとする不利益は後記6のとおり重大なものとは認め難く、第一審原告らに原告適格を認め、その救済を直接に図らなければならないような必要性も認め難い)。

なお本件認可処分を争わせる必要性から、近鉄の利用者に原告適格を認めるべきとする考え方は、取消訴訟を民衆訴訟化するものであり、処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、取消訴訟の原告適格を認める行政事件訴訟法九条の趣旨に反するものといわなければならない。

6利用者が受ける不利益が事実上の不利益であつても、それが直接かつ重大な不利益の場合には、原告適格が認められるとの主張について

原告適格の有無は、当該不利益自体の性質から論ぜられるものではなく、前記一の1のとおり、当該行政処分の根拠となつた法規の解釈から定まるものである。したがつて右主張自体採用し難いが、仮に右主張の観点に立つたとしても、本件特急料金は特急を利用することを選択した乗客が支払う特別料金であつて、その料金自体は一般住民・一般利用者の鉄道利用において日常的必然性、関連性の少ないものということができ、かつ第一審原告らの主張によつても、第一審原告らの近鉄特急利用は比較的短時間の通勤時間における通勤車両の混雑をさけ、座席に座るためというにあり、本件認可処分により第一審原告らがそれぞれ被る損害も一か月一〇〇〇円程度というにあるから、第一番原告に主張のような事実が認められるとしても、本件認可処分によつて第一審原告が被る不利益がただちに重大なものということはできない。

7以上のとおり地方鉄道法二一条は、地方鉄道の利用者の利益を具体的な法的利益として保護しているものとは解し難く、したがつて第一審原告らは、本件特急料金変更の認可処分を争う原告適格を有しないものといわなければならない。

そうすると第一審原告らの本件訴えのうち第一審被告大阪陸運局長に対する本件認可処分の取消しを求める訴えは、右の点において不適法として却下を免れない。

二  損害賠償請求について

前記認定のとおり、第一審原告らは本件特急料金変更の認可処分について権利ないし法的に保護された利益を有するものではないから、これを侵害されたとする第一審原告らの本件損害賠償請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないといわなければならない。

三以上によると、第一審原告らの第一審被告大阪陸運局長に対する訴えは原告適格を欠く不適法な訴えとして却下し、第一審被告国に対する請求は理由がないものとして棄却すべく、これと一部結論を異にする原判決は一部失当であつて、第一審被告大阪陸運局長の本件控訴は理由があり、第一審原告らの本件各控訴は理由がない。

よつて原判決中第一審被告大阪陸運局長に関する部分を取り消し、第一審原告らの同被告に対する訴えをいずれも却下し、第一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、九五条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小林定人 坂上弘 小林茂雄)

別紙 混雑度の推移<省略>

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