大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)49号 判決 1986年2月27日

奈良市登大路町奈良合同庁舎

昭和五七年(行コ)第四九号事件控訴人

同年(行コ)第五七号事件被控訴人

(以下第一審被告という。)

奈良税務署長

北村佳和

右指定代理人

笠原嘉人

伊森操

清水文雄

河中恒雄

工藤敦久

奈良市秋篠町一二四九番地の一八-三〇一

昭和五七年(行コ)第四九号事件被控訴人

同年(行コ)第五七号事件控訴人

(以下第一審原告という。)

紙谷輝雄

右控訴代理人弁護士

吉田恒俊

佐藤真理

相良博美

右当事者間の所得税更正処分取消請求各控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  第一審被告の控訴に基づき原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

1  第一審被告が第一審原告に対し昭和五〇年三月一日付をもつてなした第一審原告の昭和四七年分総所得金額を金一一六万〇三八三円とする更正処分(ただし審査請求により一部取消されたのちのもの)のうち金九八万五七八〇円を超える部分を取り消す。

2  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審原告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その九を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  昭和五七年(行コ)第四九号

1  第一審被告

原判決中第一審被告敗訴部分を取消す。

第一審原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

2  第一審原告

第一審被告の控訴を棄却する。

控訴費用は第一審被告の負担とする。

二  昭和五七年(行コ)第五七号

1  第一審原告

(一) 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

(1) 第一審被告が第一審原告に対し、いずれも昭和五〇年三月一日付でなした

(イ) 第一審原告の昭和四六年度分所得金額を一〇〇万六九八二円とする更正処分(右金額は異議申立及び審議請求により一部取消された後のもの)のうち八五万円を超える部分、

(ロ) 第一審原告の昭和四八年分所得税につき総所得金額を一九三万三九六三円とする更正処分(前同一部取消された後のもの)のうち九五万円を超える部分

はいずれもこれを取り消す。

(二) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

2  第一審被告

第一審原告の控訴を棄却する。

控訴費用は第一審原告の負担とする。

第二当事者の主張

次に付加、補正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

一  原判決六枚目表一〇行目、七枚目表五行目、八枚目表九行目の各「別表2」の次にいずれも「及び別表6」と挿入する。

二  第一審原告の当審における主張

1  本件処分の手続的違法について

申告納税制度をとつている所得税について税務署長が更正処分を行うには、申告納税者から事情を聞き、その帳簿等の調査を行うことなく更正処分をすることを許容することは、見込み課税を許す結果となり、国民の財産権を侵害し、申告納税制度を没却するものである。

所得税法による税務職員の調査の裁量権といつても、それは調査を行う過程における裁量権であつて、調査を行うか否かについてまで裁量権を認めたものでないことは明らかである。仮に納税者において調査に非協力であつたとしても、税務職員としては納税者を説得して調査に協力するようすべきであり、非協力的な態度、状態があつたというだけで直ちに納税者に対する直接的調査を止めて反面調査を行うことは許されない。

第一審原告は、所得税申告につき奈良民商事務局員東信治の協力をえて行つたのであり、同人に対し経営状態を余さず話し、経理内容につき何ら秘密とすべきものはなかつた。このような関係にある東信治の調査立会は調査を円滑に進めるためのものであり、同人の調査立会が税務職員の負うべき守秘義務に反する結果となるものではない。税務職員としては調査にあたり東信治の立会を拒否する理由はなく、また同人ないし第一審原告が調査に非協力的であつたり、調査を妨害した事実もない。しかるに、第一審被告の担当職員は、東信治が立会うことを理由として第一審原告に対する直接の調査を全く行うことなく、反面調査のみにより本件処分を行つた。

右のように奈良民商事務局員の調査立会を拒否し、その立会を理由として納税者に対する直接の調査をなさず、直ちに反面調査によつて更正処分を行うのは、奈良民商の弾圧という違法な目的に出たものである。いずれにしても、右のような方法に基づいて行つた本件処分は手続的に違法であり取消されるべきである。

2  第一審被告主張の推計の不合理性について

第一審被告は、氏名を隠した同業者一者の所得税申告関係書類(乙第三〇、第三一号証)によつて右同業者の原価率を算定し、これに基づいて第一審原告の売上金額を推計しているが、右のような氏名が隠されて何人が作成したかも不明な書類はそもそも証拠としての能力に欠けるものであり、第一審原告としては同業者の氏名が不明である以上、その当否を検討し、これを争う手段を奪われたに等しく、このような書類に基づいて第一審原告の所得を認定することは民事訴訟における証拠法則にも反し、許されないところである。

しかも、右同業者の営業が第一審原告の営業と類似性ありとする原判決添付別表7についてみるに、営業場所として「奈良市中西部」とあるのみであつて、その範囲は広大で特定に難い。営業場所すなわち立地条件は商売の要であり、インテリア商品販売としては人通りの多い駅前商店街が最適であり、団地の真中とかバス停附近商店街なども良好である。第一審原告の営業していた市場「学園前ストアー」は近鉄学園駅前の西方約六〇〇メートルに位置し、他の商店街から離れた場所にあり、バスの運行もなく通勤客や一般客の通行する場所でもない。右表には顧客として「団地を中心とする一般家庭」とあるが、学園前ストアー周辺には団地もあるが、一般住宅の方が多い。また、販売商品についても右同業者が「インテリア商品」に限られているのに対し第一審原告はインテリア商品以外にフランスベツドの販売をしており、ベツドの展示商品は他のインテリア商品と比較して陳列の場所をとり、しかも利益の少ないものであつて、業態も異るところである。

したがつて右同業者なる者を第一審原告の比準同業者とするのは不適当なものであり、これに基づく推計は不当である。

3  フランスベツドの値引について

ベツドの値引率については、係争年度中に第一審原告の出したちらし広告(甲第二号証の一、二、第三号証)に広告しているとおり二〇ないし三〇パーセントの値引をして販売していたのであり、昭和四九年以降においても同様ちらし広告(甲第四号証、第五号証の二、三、六、第六号証)に広告のとおり右同様の値引販売をしていたことからして、最低二〇パーセントの値引につき第一審被告の主張する同業者の一つである株式会社森本家具(甲第五五号証)は大手小売業者であつて家具類とセツトでベツドを販売しており、その値引率を第一審原告の場合に適用するのは相当でなく、第一審被告の当審における値引の主張は争う。

4  経費について

原判決事実に第一審原告主張の経費として摘示されているものの他に次の経費を主張する。

(一) 広告費 三万円

年最低三回は行う大売出しにつき広告費が各回一万円を要した。

(二) 売残り品 一六万円

年間に四〇ないし五〇万円の売残り商品が発生し、たたき売りをしても原価を回収できないものが四〇パーセント程度あり、最低年間一六万円の損となつている。

三  第一審被告の当審における主張

1  昭和四七年分について

(一) 原判決事実摘示中第一審被告主張の収入金額のほかに、フランスベツド以外のインテリア商品の仕入金額として第一審原告の自認する現金仕入額五〇万円を加算し、これにともない右収入金額に八一万九六七二円(現金仕入金額五〇万円を昭和四七年の同業者原価率六一パーセントで除した額)を加算すべきである。

(二) フランスベツドの売上金額について

右商品売上金計算につき通年一五パーセントの値引を認めることは合理性を欠く。年数回程度の大売出しの値引率が年平均値引率に及ぼす影響は少なく、第一審被告において同業者二者について調査した結果は次のとおりである。

売上区分

値引割合

合計売上に対する百分比

一般売出し

〇・〇五

七〇

大売出し

〇・〇九七五

三〇

年平均率(加重平均)

〇・〇六四二五

一般売出し

〇・一〇

八〇

大売出し

〇・一五

二〇

年平均率(加重平均)

〇・一一

したがつて右両者の年平均率の平均値八・七一二五パーセント以上の八・七二パーセントをもつて第一審原告の値引率とするのが相当であり、これに基づき計算すればベツドの売上金額は四〇二万二二九〇円である。

4,406,541×(1-0.0872)=4,022,290

2  昭和四八年分売上金額について

右年度の収入金額合計一三七八万三一三一円からフランスベツド仕入金額三九五万一一七五円を控除した額に、前同第一審原告が自認する現金仕入額五〇万円を加算した一〇三三万一九五六円がベッド以外のインテリア商品仕入金額であり、この仕入金額に対し先に昭和四七年分の売上金額算定につき採用した同業者の昭和四八年分の原価率六九・四八パーセントを適用すれば、右商品の売上金額は一四八七万〇四〇二円となる。

ベツド売上金額は、右仕入金額三九五万一一七五円に対し、仕切率六八パーセント、年平均値引率八・七二パーセントを適用して算定される五三〇万三八七〇円である。

(3,951,175÷0.68)×(1-0.0872)=5,303,870

昭和四八年分の売上金額は右の一四八七万〇四〇二円と五三〇万三八七〇円との合計二〇一七万四二七二円である。

3  右両年分の所得金額につき、前記引用にかかる原判決事実摘示中の第一審被告主張のうち、売上金額、収入金額に関する主張を右のとおり改める。右訂正による金額に基づいても、右両年度における第一審原告の総所得金額は本件処分により認定された所得額以上になることは明らかである。

4  ストアー経費について

原判決は、ストアー経費について第一審被告主張額以外に各年につき広告代一四万八〇〇円、販売促進費(補助券代)三万四〇〇〇円を認定したが、右経費の支出は存在しないところである。

右各経費の立証として第一審原告の提出した甲第一二号証の一ないし三九、同第一三号証の一ないし九は、その作成過程に疑問があり、第一審被告提出の乙第一八ないし二一号証のストアー作成の領収証中に記載された広告代、補助券代以外に第一審原告が右のような経費を支出したことはなかつたというべきである。

第三証拠関係

原・当審記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所の認定及び判断は、次に付加、補正するほか原判決理由中の第一、第二及び第三の一ないし三(ただし、第三、三、3の後段を除く。原判決一六枚目表四行目から三一枚目裏一行目まで。)に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  第一審原告の当審における主張1について

右引用にかかる原判決理由第二において認定判示のとおり、第一審被告の担当職員は五回に及んで第一審原告方へ臨場して調査に必要な帳簿、記録等の提出を求めたのに、第一審原告は奈良民商事務局員の立会を要求し、或は右立会なくして右提出を拒んだのであり、第一審被告の担当職員において、第一審原告に対する直接の質問、検査等によつて必要な調査を行いえないとして、反面調査により資料を収集して本件処分を行つたものであるが、納税者としては税務署等の当該職員の質問、検査等を受忍すべき義務があり、その際に第三者の立会を求めうる法的な根拠はなく、反面当該職員において納税者の要求に従つて右の調査に第三者の立会を許すべき根拠もないのであるから、右のような状況下において第一審被告の担当職員が第一審原告に対する直接の質問、検査等によることなく、別途反面調査の方法によつて本件処分の資料を収集したことをもつて、その方法につき仮に当不当の問題を論じうるとしても、これをもつて手続的に違法とする理由はなく、また右調査ないし本件処分が第一審原告主張の如き奈良民商弾圧の目的に出たものと認むべき資料もないのであるから、右反面調査の結果に基づきなされた本件処分につき手続的な違法がある旨の第一審原告の主張は理由がない。

2  第一審原告の当審における主張2について

第一審原告は、同業者一者のみの所得税申告資料により算出した原価率により第一審原告の所得を推計することの不合理性を主張するが、この主張を採用しえないことは、左記に付加するほか原判決理由中の右同様主張に対する説示(理由第三、二、2、(一)、(二))と同一である。

(一)  第一審原告は、右同業者の営業場所が「奈良市中西部」というのみで特定に欠け、小売商における営業場所の持つ重要性からして、右同業者の営業とに類似性があるとはいえない旨主張する。

しかしながら、「奈良市中西部」とは旧奈良市街地からその西部に及ぶ範囲の地域であり、この地域は大阪のベツドタウン化した新興住宅地域であり、第一審原告の営業場所である近鉄学園前駅附近も右新興住宅地域であることは公知の事実であり、成立に争いない甲第一八号証、第一審原告本人尋問の結果(原審・当審第一回)によると、第一審原告の店舗は約四〇店舗の入居する学園前ストアーの中にあり、右近鉄学園前駅にも比較的近く、附近に団地、住宅地の存在することが認められるのであるから、営業所としての類似性がないとはいえない。

(二)  「顧客」についても、右営業場所の類似性からして類似性のあるものと推認でき、また「販売商品」につき第一審原告の場合にはベツドが加わつているとしても、他の類似要素において類似性があるのであるから、インテリア商品の原価率について大差があるとは考えられないところである。

(三)  第一審原告の当審における主張を考慮しても、第一審被告主張の比準同業者が不適当であると認めるに足らない。

3  昭和四六年、同四七年におけるフランスベツドの売上金額(当審における第一審原告主張3及び第一審被告主張1、(二)に関連)について

右の点に関する原判決理由第三、二、2、(三)(原判決二五枚目裏三行目表一一行目まで)を左記のとおり改める。

「フランスベツド販売株式会社からのフランスベツドの仕入金額が昭和四六年は二二九万八七八三円であり、右両年を通じ仕切率が六八パーセントであつたことは当事者間に争いがないから、右仕切率により算出する限り右ベツドの売上金額は昭和四六年が三三八万〇五六三円、同四七年が四四〇万六五四一円と一応推計できる。

第一審原告は、右ベツドは値引販売をしており、値引率は年間平均二〇パーセントを超えると主張し、第一審被告は右値引率を八・七二パーセントを超えないと主張する。

第一審被告は、同業二者に対する調査結果を根拠に右主張をなすので検討するに、その方式、趣旨から公務員が作成し真正に成立したと認めうる乙第五五、第五六号証によると、右調査対象は株式会社森本家具及び株式会社松井タンス店であつて、昭和四七、四八年当時における右両者の右ベツド販売における値引率、一般売出しと大売出しにおける売上の合計売上に対する百分比は第一審被告の当審における主張1、(二)に記載の表(先の表が森本家具、後の表が松井タンス店)のとおりであること、しかし森本家具のフランスベツド仕切率は他業者より五パーセント程度低く、総売上額に対する割合は三パーセント程度であることが認められる。

これに対し、前認定事実からして第一審原告の場合はフランスベツドの仕切率は六八パーセントであり、仕入金額より推計しうる全商品に対するベツドの割合は昭和四六年が約二五パーセント、同四七年が約三四パーセントとなる。

昭和46年 2,298,783÷9,100,102≒0.25

昭和47年 2,996,448÷8,780,101≒0.34

右のように、第一審被告が調査した同業二者と第一審原告とは右ベツド販売に依存する割合が著しく異るのみならず、第一審原告本人の供述(原審・当審第一回)とこの供述書により成立を認めうる甲第二号証の一、二、第三号証によると、昭和四六年、同四七年における第一審原告の大売出しにおける右ベツド割引率は原判決添付別表10記載のとおり三〇ないし二〇パーセントに及んだことが認められるのであつて、右同業二者の調査結果より推計した第一審被告主張の値引率を第一審原告の場合に用いるのは相当でない。

しかしながら、反面において第一審原告のベツド値引率が年平均二〇パーセント以上であるとの同原告主張を採用しうべき客観的資料も存在しない。

そこで、右認定事実に基づき、松井タンス店の一般売出し値引率〇・一〇(森本家具は仕切率が他の同業者より低いからとりえない。)、大売出し時を第一審原告の昭和四六年の平均率〇・二七二五、合計売上に対する百分比を右第一審被告調査結果の平均値(一般売出し七五、大売出し二五)によつて年平均値(一般売出し七五、大売出し二五)によつて年平均値引率(加重平均)を算出すると年平均率〇・一五一七五となる。

以上の認定の事実に第一審原告の供述(原審・当審第一回)の一部により、第一審原告の昭和四六年におけるフランスベツドの年平均値引率を〇・一五と認めるのが相当である。これに反する証人山田良男(当審)、第一審原告本人(原審・当審第一回)の各供述部分は、これを裏付ける客観的資料を欠き信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

昭和四七年については、原判決添付別表10記載の値引率〇・二〇三三は同年三月の大売出しの資料のみによつて計算したものであり、同年において前年の四六年における値引率と異る値引をなしていたと認めるべき事情はなく、かえつて第一審原告の供述(原審・当審第一回)と弁論の全趣旨からして右両年を通じて右ベツドの販売方法、値引率に差異がなかつたと認められるから、昭和四七年についても前年同様に年平均値引率を〇・一五と認めるのが相当である。

そうすると、第一審原告のフランスベツド売上金額は、前記仕入金額、仕切率により算出した金額から値引率〇・一五を控除し、昭和四六年は二八七万三四七八円、同四七年は三七四万五五五九円と認めるべきである。」

4  フランスベツド以外のインテリア商品収入金額に現金仕入額五〇万円を加算すべきであるとの第一審被告の主張について

右現金仕入額五〇万円の存在を認めうる客観的資料はないのであり、第一審原告が右現金仕入額を主張し、第一審原告本人が右主張に沿う供述をするが、これは売上金額算定において右インテリア商品につき第一審原告主張の仕入金額、仕切率により算出される定価に各値引率を適用してなすべきこと(原判決添付別表9参照)を前提としているものであることは、弁論の全趣旨から明らかであり、右第一審原告の主張と異り、引用はかかる原判決理由説示のように仕入金額に対し比準同業者の原価率を適用して売上金額を推計する場合においてまでも、何ら客観的資料のない現金仕入金額五〇万円を加算することは相当でなく、第一審被告の右主張は失当である。

5  昭和四八年分売上金額について

第一審被告は、昭和四八年分売上金額につき、前記引用にかかる原判決事実摘示と異り、フランスベツドとその他のインテリア商品の仕入金額と区分し、右インテリア商品売上金額につき同業者の同年度の原価率を適用するなどして、同年の売上金額合計二〇一七万四二七一円と主張(当審における第一審被告の主張2)するが、右各商品別仕入金額及び原価率を認めるべき何らの資料を提出しないのであるから、右第一審被告の主張は検討の余地なく失当である。

昭和四八年分売上金額は、原判決理由第三、二、3に判示のとおり、かつ右第一審被告主張の範囲内にある一九五六万七〇〇〇円と認めるのが相当である。

6  経費について

(一)  ストアー経費

第一審原告が本件係争年中に支払つたストアー経費額は原判決添付別表5に記載のとおりと認めるのが相当である。その理由は原判決理由第三、三、3の前段(原判決三〇枚目表一一行目から三一枚目裏一行目まで。ただし三〇枚目裏八行目の「別表5記載のとおりであること」の次に「(ただし昭和五七年一二月分は同年一月から一一月までの平均値)」を挿入する。)のとおりであるから、これを引用する。

第一審原告は、右認定以上にストアー経費として広告費、販売促進費を支払つた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。第一審原告提出の甲第一二号証の一ないし三九、第一三号証の一ないし九の各領収証を成立に争いない乙第一八ないし二一号証の各領収証と対比すると、乙号証の領収証には領収者として近鉄学園前ストアーとその代表者の記名押印があるのに甲号証の領収証は丸形の大型スタンプが押捺されているにすぎないほか、その用紙、形式、記載方法に差異が多く、甲第一二号証の各領収書にはその領収費目の記載もなく、その大部分の領収金が二一〇〇円であつて、これが第一審原告本人が供述(原審・当審第一回)するようなストアーを通じて行う大小各種の広告代の領収証であるとするには疑問があり、また、右乙各号証は昭和四六年二月から同年五月までのものであり、右甲各号証は同四六年八月以降の分であつて両者に関連がなく、右乙号証の期間に相応する右甲号証類似の領収証、逆に右甲号証の期間に相応する右乙号証類似の領収証がいずれも全く提出されていないこと、更に右乙号証の領収金には広告代、補助券代も含まれており、これに合せた合計金額にほぼ見合う金額がストアー経費としてその後も継続して支払われていること等に鑑みると、右甲各号証及び右第一審原告主張に沿う第一審原告本人の供述(原審・当審第一回)をもつてしては、いまだ前認定以上のストアー経費の支払を認めることは困難であつて、他に第一審原告提出の証拠を検討しても前の認定を覆すに足るものはない。

(二)  第一審原告の当審における主張4、(二)の売残り品について

右第一審原告主張に沿う第一審原告本人の供述(当審第一回)のみによつては、他に客観的資料もないから、右第一審原告主張事実を認めることはできない。

二  以上の認定に基づいて本件係争各年分の第一審原告の所得金額を算定すれば本判決添付別表Aのとおりとなる。そうすると、昭和四六年、同四八年については本件各処分は右認定の所得金額の範囲内でなされたものであるから取消すべき理由はないが、昭和四七年分に対する本件処分は、右認定の九八万五七八〇円を超える部分は違法であつて取消すべきである。

三  よつて右認定と一部異る原判決につき、第一審被告の控訴に基づいて本判決主文第一項のとおり変更し、第一審原告の控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 裁判官 磯尾正)

別表A

<省略>

別表B

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例