大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)63号 判決 1983年4月25日
京都市下京区室町通五条下る大黒町一九八番地の二
控訴人
大和住宅株式会社
右代表者代表取締役
熊井隆一
右訴訟代理人弁護士
上田信雄
京都市下京区間之町五条下る大津町
被控訴人
下京税務署長
国松和男
右指定代理人
高須要子
同
国友純司
同
木澤勲
同
述倉幸三
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
原判決を取消す。
上京税務署長が控訴人に対し昭和五三年九月三〇日付でした控訴人の昭和五一年八月一日から昭和五二年七月三一日までの事業年度分法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二主張
当事者双方の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決五枚目表一行目「二〇〇」を「二〇〇〇」と改める)。
第三証拠
当事者双方の証拠の提出、費用、認否は、原審及び当審訴訟記録中の証拠に関する目録の記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1、2前段、3(一)ないし(四)、(五)のうち控訴人主張の登記手続が経由されたこと、(六)ないし(八)の各事実は当事者間に争いがない。
二 控訴人の主張は、要するに、甲第四号証念書に「尚万一決済のない場合は錯誤にて元の所有者に差し戻す事を確約いたします。」と記載されているのは、本件土地の譲渡残代金が約定期限に支払われなかったときは、本件売買契約は当然解除となる旨の条件付合意解除の約定であり、結局、本件土地の売買残代金は約定期限に支払われなかったので、本件売買契約は右条件の成就により当然解除され当初に遡ってその効力を失ったものであるにもかかわらず、本件土地の譲渡があったものと認定してなした本件課税処分には重大かつ明白な瑕疵があるというにある。
しかしながら、成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、第二号証の二、第三ないし第六号証、乙第一号証、原審における控訴人代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件土地の登記上の所有名義は、昭和五二年五月二五日売買を登記原因として同月二七日小早川から大津安廣に、次いで同年同月二六日売買を登記原因として同月二七日小畑一夫に、更に同年七月一五日売買を登記原因として同月一六日大村善子に順次移転されたこと、控訴人の主張によっても、控訴人は小早川から「本件土地を金融機関へ抵当として差入れ融資を受け、それにより譲渡代金を支払うからまず所有権移転登記をして欲しい。」との依頼を受け代金支払前にとりあえず所有権移転登記手続を経由したというのであるところ仮に控訴人主張どおり約定期限に残代金の支払がなされずして本件売買が当然合意解除になったとしても、控訴人が右解除の効果を第三者に対抗しえないことは明らかであったこと、控訴人は本訴提起に至るまで(審査請求中も)本件売買契約につき解除権を行使した旨主張したことはなく(控訴人が小早川らに対し右各所有権移転登記の抹消登記手続を請求した形跡もない)、かえって、譲渡代金の担保として受領したという第三者振出の本件手形二通を昭和五二年九月一四日に取立てに回し(当事者間に争いのない事実)、かつ同年一二月頃から小早川が行方不明になった翌五三年三月頃まで同人に別途資金を貸与しながら譲渡代金の取立てに腐心していたこと、本件土地の譲渡代金支払に関して授受された本件手形二通も控訴人の手許に留保されていること、以上の事実を認めることができ、右各事実に照して考えると、念書中の右文言は、小早川が約定期限の昭和五二年六月二八日までに譲渡残代金を支払わなかったときは、直ちに、本件売買契約を解除されても異議はなく、既に経由された右所有権移転登記を錯誤を原因として抹消登記すべき旨を約したものであり、小早川は前記のとおり本件土地を他に譲渡し所有権移転登記を経由してしまったため右念書の約定を履行することができなくなり、他方控訴人としては小早川から本件土地の譲渡代金を取立てるほかない立場に立ち、契約解除の意思表示をせず、小早川が行方不明になるまでの間本件売買契約の存続を前提として同人に代金の支払を求めていたものと認めるのが相当であり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
すると、本件売買契約が代金の不払なる条件の成就によって当然消滅し当初に遡り効力を失った旨の控訴人の主張は失当である。
もっとも、本件手形二通が当期以後である昭和五二年九月一四日支払拒絶されたことは当事者間に争いがなく、原審における控訴人代表者尋問の結果によると、控訴人は本件土地の譲渡代金(手付金の内金五〇〇万円を除く)を小早川から回収しておらず、また本件手形の手形金の支払も受けていないうえ小早川が前記のように行方不明となったため代金の回収が困難な状況にあることを認めることができるが、これは次期事業年度において回収不能部分を損金に算入するか否かの問題であって、当期の所得に対する本件課税処分の瑕疵となるものではない。
二 以上の次第であって、控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 露木靖郎 裁判官 庵前重和)