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大阪高等裁判所 昭和58年(う)1345号 判決 1985年11月05日

本店所在地

大阪市生野区田島五丁目一三番三一号

大和不動産株式会社

右代表者代表清算人

上田辰見

右の者に対する法人税法違反、会社臨時特別税法違反被告事件について、昭和五八年五月一七日大津地方裁判所が言渡した判決に対し、昭和五八年五月三〇日被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 山下松男 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人吉田克弘、同井上博隆及び同南部孝男共同作成の控訴趣意書(但し、被告人大和不動産株式会社に関する部分)及び控訴趣意書補充書記載のとおりであって、これに対する答弁は、大阪高等検察官検事山下松男作成の答弁書記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

控訴趣意中理由不備の主張について

論旨は、原判示第二の一及び二の各罪となるべき事実は、いずれも、犯罪構成要件である「偽りその他不正の行為」の該当事実の摘示が不十分で、そのため犯罪事実の特定に欠けるところがあるから、原判決には理由不備の違法がある旨主張するものであると解される。

よって、考察するに、原判決は、罪となるべき事実第二の一において、(イ)税逋脱の意思(ロ)実察所得金額(その計算の基礎となる勘定科目の明細を記載した修正損益計算書を添付)、(ハ)所得の秘匿及び(ニ)虚偽過少申告及びその日の各事実、同第二の二において、右(イ)ないし(ハ)及び無申告の各事実をそれぞれ摘示しており、右は「偽りその他不正の行為」の摘示として十分であり、犯罪事実の特定にも欠けるところはない。なお、原判決は、所得の秘匿につき具体的事実を摘示していないけれども、本件においては虚偽無申告自体が偽りその他不正の行為にあたると解すべきであるから、右の原判示は右結論を左右するものではない。それで、原判決には所論の主張する理由不備の違法はない。論旨は理由がない。

控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨は、原判示第二につき、(一)被告会社は、同社が滋賀県土地開発公社(以下公社という。)に対し昭和四八年九月一〇日売買契約により売却した大津市上田上平野町字大塚五六三番保安林ほか同町及び草津市南笠町所在の一三筆公簿面積合計九、二四一坪の土地(以下大塚土地という。)の売上原価が六億二、七〇〇万円であると公表したが、右は逋脱の意思に基づき過大計上したものではない。すなわち、被告会社は、本来大塚土地とその周辺の土地と合わせて公簿面積一万三、〇六一坪の土地を一体のものとして公社に譲渡する予定であったところ、公社の予算上の都合で右土地のうち大塚土地を売買形式により、その余を交換形式により譲渡したものであって、被告会社としては、右売買及び交換を一体のものと考えており、また、右交換により被告会社が取得すべき土地については被告会社の負担で造成工事をする特約があったことから、右造成費用を負担し、交換を終えるまでは、大塚土地の取引は未完成であり、大塚土地及び右交換分の売上原価は右造成工事費用分を含めて算出しなければならないと認識していたが、当時右費用の算出が不能であったから、右売上原価としては、後の事業年度において精算修正すべく、昭和四九年九月期としては、暫定的に、大塚土地のうち右南笠所在の三筆五、二五〇坪について取得原価に裏金を加えた一億四、七〇〇万円、その余の土地についてはその大部分を占める土地の公簿一坪の取得価格四万円に実測面積一万二、〇〇〇坪を乗じた四億八、〇〇〇万円をそれぞれ計上したものである旨主張し、(二)被告会社が、同会社が山口八重に対し昭和四八年一〇月一一日同人に対する売買代金債務の一部の代物弁済に供した京都市右京区御陵池ノ谷一七、一八及び一八丙の各山林地積合計九〇九坪の土地(以下右京区土地という。)の売上高及び売上原価につき、売上一、五〇〇万円、売上原価一三六三万五〇〇〇円を計上しなかったのは、右土地が代物弁済であったため現金の入金がなく、右土地の取引は水谷開発部長補佐が担当していたものであって、上田茂男(当時の大和不動産株式会社代表取締役)は勿論、経理担当の大住正次も右京区土地を売却したとの印象が薄かったため、不注意により決算期において売上計上すべきことの認識を欠いたことによるものであって、逋脱の意思があったとは認められない旨主張し、(三)価格変動準備金繰入れにつき、(イ)昭和五一年八月一一日付で長浜税務署長がした被告会社に対する青色申告承認の取消処分は、被告会社が昭和四九年九月期の確定申告に際し、大塚土地の売上原価を過大に計上し、右京区土地の売上収益金を故意に繰延べ過少申告したことを理由とするものであるが、その理由とされる右の各事実はいずれも不存在であるから、右取消処分は理由がなく、違法、無効なものであり、(ロ)仮に右取消処分が有効であるとしても、右価格変動準備金の繰入れは、青色申告承認の取消処分以前になされたものであるから、行為当時は適法であったもので、右処分後さかのぼってこれを違法として逋脱額とすることは遡及処罰禁止の原則に反するものであり、また、被告会社としては当時逋脱の故意がなかった旨主張し、右(一)及び(二)につき逋脱の意思を認め、(三)につき、青色申告承認の取消処分が有効であること並びに逋脱の意思及び事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというものである。

よって、所論にかんがみ、記録及び原審証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せ考察するに、所論(一)については、原判決の挙示する関係証拠によれば、原判決が、弁護人の主張に対する判断の項の七における原審弁護人の右売上原価の計上が過大計上ではない旨の主張に対する判断中において、右計上が、上田茂男が法人税逋脱の意図をもってなした不正な行為である旨詳細な理由を付して説示するところは、すべて肯認することができ、原審の事実認定を肯認することができる。そして、右認定に反する原審及び当審証人大住正次の各証言は、積極証拠と対比して信用することができず、また、大塚土地の売買に至るまでに所論の経緯があり、交換につき所論のような特約があったことを考慮しても、右上田ら被告会社の担当者が本件売上原価を確定することができず、暫定的金額を計上しなければならないと考えるべき理由があったことを認めるべき証拠はないことに徴して、右判断を覆すに足らず、その他右判断を左右すべき証拠はない。所論(二)については、原判決の挙示する関係証拠によれば、原判決が、弁護人の主張に対する判断の項の八において、所論と同旨の原審弁護人の主張に対して詳細な理由を付して説示するところは、すべて肯認することができ、原判決の事実認定を肯認することができる。そして、右認定に反する原審及び当審証人大住正次の各証言は、積極証拠と対比して信用することができず、所論にかんがみさらに検討しても右判断を覆すに足らず(所論は、原判決が未成工事受入金勘定に計上していることをその認定の根拠としていることを非難するけれども、原判示の判断は正当であって、所論は採用することができない。)、その他右判断を左右すべき証拠はない。所論(三)の(イ)については、被告会社において所論指摘のような青色申告承認の取消事由が存したことは、前判示によって明らかであるから、右取消処分が理由のない違法、無効なものということはできず、同(ロ)については、被告会社が、右のような逋脱行為をする以上、右の事業年度の確定申告にあたり青色申告の承認を受けたものとしての税法上の特典を享受する余地はなく、本件価格変動準備金繰入れの計上行為は偽りその他不正の行為にあたるというべく、また、右上田としては、右の事理は容易に認識できることであり、青色申告の承認を取消されるであろうことも行為当時に当然認識できることであることを併せ考えると、右上田に右繰入れ計上行為ができないことの認識があったこと、すなわち逋脱の意思があったことを推認することができるから、所論は認めることができない。してみると原判決には、所論の主張する事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ、記録及び原審証拠を精査し、当審における事実取調の結果をも併せ考察するに、本件・脱額は合計二億六、四一〇万三、一〇〇円で、逋脱率は約九三パーセントと高率で、犯行の動機及び態様にも格別酌量すべき点があるとは認められないことに徴すると、被告会社の刑責は軽視しえないものであって、被告会社が、更正決定による国税及び地方税を完納しており、現在清算中で業務活動もできず、税法上及び社会的に制裁を受けていることなど所論の主張を含め、被告会社に有利な事情を斟酌しても、被告会社を罰金六、〇〇〇万円に処した原判決の量刑が重過ぎるものとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 環直彌 裁判官 高橋通延 裁判官 青野平)

昭和五八年(う)第一三四五号

控訴趣意書補充書

被告人 大和不動産株式会社

(代表者代表精算人 上田辰見)

右の者に対する法人税法違反、会社臨時特別税法違反被告事件について弁護人は、次のとおり控訴理由について補充する。

昭和六〇年一月九日

右弁護人(主任) 吉田克弘

同 南部孝男

同 井上博隆

大阪高等裁判所第一刑事部 御中

本件控訴事件は上田建設株式会社と被告人大和不動産株式会社両名につき控訴趣意書を提出していたところ、上田建設株式会社につき既に控訴の全部を取下げた為、上田建設株式会社についての控訴趣意書は不要となるので本補充書において大和不動産株式会社分についてのみ整理補充する。

控訴理由

第一、原判決にはつぎのとおり理由不備の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるので破棄されるべきである。

一、原判決の「罪となるべき事実」の記載には、法人税法第一五九条、第一六四条第一項、会社臨時特別税法第二二、第二七条に該当する事実が具体的に記載されていない。

1、「罪となるべき事実」には、構成要件に該当する事実を具体的に記載しなければならない。具体的な事実であるから、当然、日時・場所・方法などを具えた事実でなければならない。「罪となるべき事実」が特定した事実として記載されていない場合には事実理由の不備となる。原判決の「罪となるべき事実」の記載では、控訴会社らの如何なる行為が法人税法第一五九条、第一六四条第一項、会社臨時特別税法第二二条、第二七条に違反しているのか分らない。そもそも、控訴会社らの法人税法違反の行為、会社臨時特別税法違反の行為、そのものが記載されていないといわざるを得ない。したがって、原判決の「罪となるべき事実」の記載では、はたして法人税法違反の行為が存在するのか否かが不明であり、刑事訴訟法三七八条四号により破棄されるべきである。すなわち、

2、法人税法、会社臨時特別税法に定めるような租税逋脱犯(直税犯)の構成要件は、イ、法人税、会社臨時特別税の納税義務者が、法の規定によって計算された金額の租税を納付する義務があること、ロ、その税額を全く納付せず、またはそれより下回る過少の税額を納付して、右差額に当たる租税の納付を免がれること、ハ、右税額を免れる方法として「偽りその他不正の行為」(法人税法一五九条一項)に因ってなされること、である(松沢智、「租税刑事法の諸問題」所中「逋脱犯の訴追・公判をめぐる諸問題」五八頁)。そして、「偽りその他不正の行為」とは、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行なうことをいう」(最高裁昭和四二年一一月八日判決、刑集二一巻九号一一九七頁)。

3、原判決の「罪となるべき事実」の「第二」の記載方法は、単に、控訴会社らの事際所得金額とこれに対する法人税額を掲げ、控訴会社らが右実際所得金額および法人税額を過少に記載した虚偽の確定申告書を提出し法人税を免れたというのみの記載方法である。

4、しかし、このような記載方法では控訴会社代表者らが、具体的に、どのような「偽りその他不正の行為」をなしたのか不明である。

所得金額および法人税額を過少に記載した確定申告書といっても、過少に記載した申告書のなかには、不注意や思い違い等によって過少に記載された申告書もあれば、「偽りその他不正の行為」によって過少に記載された申告書もある。前者のような申告書を提出した場合には租税逋脱犯とはならないのであるから、所得金額および法人税額を過少に記載した確定申告書を提出した、というのみの記載では、「罪となるべき事実」の記載として不十分である。

5、また、原判決の「罪となるべき事実」には、修正損益計算書が掲げてある。しかしながら、修正損益計算書には各勘定科目の公表金額に対して当期増減金額(修正仕訳)の記載があるに過ぎない。いってみれば、数字の羅列があるのみである。修正損益計算書を見ただけでは、具体的にどのような「偽りその他不正の行為」があるのか不明であるし、当期増減金額に記載してある取引が、一個の取引であるのか、数個の取引であるのか、その取引が、いつ、いかなる相手方となされた、どのような取引であるのか、全く分らない。ましてや、当該取引によって過少に計上された収益または過大に計上された費用か、単なる不注意・思い違いによるものなのか、「偽りその他不正の行為」によるものなのかは全く明らかでない。

6、以上のように、原判決の「罪となるべき事実」の記載では、過少申告がイ、単なる不注意・思い違いによるものなのか、それとも「偽りその他不正の行為」によるものなのか不明であり、ロ、「偽りその他不正の行為」による過少申告であるとしても、その具体的な行為態様が特定して記載されていない、といわなければならない。また、本件においては、これらの行為を具体的に記載することは十分に可能なはずであると思われる。

第二、原判決には次のとおり事実誤認の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるので破棄されるべきである。

一、(大塚土地の売上原価について)

大和不動産は昭和四八年九月一〇日、滋賀県土地開発公社(以下公社という)に大塚土地公簿面積計九、二四一坪を売却したが、これは本来右売却部分及び交換部分を含めた公簿面積計一万三、〇六一坪を一体としてビワコニュータウン用地として公社に譲渡するはずであったものを、公社の買入予算事情により売買の形式をとるものと、交換の形式をとるものに分け、すなわち公社の買入予算の概算に見合う部分は売却形式をとり、その余の部分は交換形式をとることとして、同時に契約したものであり、大和不動産はもちろん、公社も、右売買及び交換を一体のものと考えていた。

そして、大和不動産としては、右交換分については、大和不動産の方で造成工事をなす特約がなされており、右交換分を含めた大塚土地の売上原価は、この造成工事費用を含めたものでなければならないと考えていた。

このため、大和不動産は、売買契約とした分の売上原価を算出するにあたり、草津市南笠所在の三筆の土地計五、二五〇坪については、公簿面積も実測面積も同一であったことから、合意書面別紙二の金額に、裏金を含めた金一億四千七〇〇万円を計上し(原判決は「むしろ端的に一坪当り二万八、〇〇〇円に五、二五〇坪を乗じて算出したと推認される」と認定しているが、これは証拠に基づかない全くの独断にすぎない)、その余の土地については、交換分を含めた土地のうち、実測面積一万二、〇〇〇坪を売買の形式とするため、前記のように実測坪数が公簿坪数の三倍程度あるということから、全体の土地から公簿面積が約四、〇〇〇坪になるよう適当に売買契約書記載の一〇筆を書き入れた(この結果、公簿面積合計三、九九一坪となった)。そして、経理部長大住において、造成費用の負担をし、約定に基づく交換移転を受け終るまで、全部が一体として取引された大塚土地の取引は未完成であると認識していた。従って売上原価としては本来は造成費用をも含めて算出しなければならないと認識していたところ、造成費用はその時点では算出不能のため後の事業年度において精算修正すべく、四九年九月期としては、暫定的に公社に売却する実測面積一万二、〇〇〇坪に、右草津市南笠所在の土地を除いた大塚土地の大部分を占める協和興業株式会社からの購入単価坪四万円を掛けた金四億八、〇〇〇万円を計上したのであって、何ら逋脱の意思に基づく行為ではないのである。

二、(右京区土地の売上高及び売上原価について)

1、大和不動産においては、不動産取引があった場合は、その取引の内容如何をとわず、とりあえず未成工事受入金としての経理処理をしており、その未成工事受入金のうちどれを売上に計上すべきかは、決算期において経理部長大住正次が、売上を計上すべきものを取り出して売上計上し、社長の上田茂男が決済するしくみになっていたのである。右京区土地については、代物弁済であったため現金の入金がなく、又山口八重との取引は水谷開発部長補佐が担当していたものであって、上田茂男はもちろん大住正次も右京区土地を売却したという印象がうすく、それゆえ決算期において、売上計上すべきであるという認識を欠いていたものであり、逋脱の意思は、全くなかったのである。単に不注意で売上計上しなかっただけである(原審の第六五回公判調書中の証人大住正次の供述部分)。

2、原判決は、昭和四八年一〇月一一日に未成工事受入金が計上されていることをとらえて、決算期にことさら売上計上させなかったと認めなければならないとする。しかし、前記のとおり、大和不動産は、不動産取引があった場合はその時点ではすべて未成工事受入金勘定を計上していたのであるから、昭和四八年一〇月一一日に未成工事受入金を計上しながら、決算期において売上計上しなかったことが、即、逋脱の意思に基づくものであるとはとうてい言えない。仮に逋脱の意思に基づき、売上計上しなかったと認定をしようとすれば決算期において、「ことさら」逋脱の意思に基づいて売上計上しなかったことが積極的に立証されなければならないのである。単に売上計上されなかったということのみで、逋脱の意思を認めるのであれば、過少申告の場合にはすべてが逋脱行為とされてしまうという不合理な結果を招くのである。

3、そこで本件について、逋脱の意思を認定すべきか否かを検討するに際し特に次の点を考慮すべきと考える。即ち、「偽りその他不正の行為」によって逋脱を免れることが、法人税法一五九条をはじめとする逋脱罪の構成要件としているが、「不正の行為」の概念内容は明確性を欠くものであることから、いかなる行為が「不正」と評価すべきか、構成要件の人権保障機能をそこなわないよう十分慎重に決定されねばならない。

イ、法は特に「偽りその他不正の行為」という限定的文言を使用している点。

ロ、いやしくも、刑事制裁の対象とされるべき行為は、社会的常規を逸脱した行為でなければならず、積極的な手此を用い、全体的にみて、実質的にみて、刑事制裁をかすに足りる行為でなければならない点。

ハ、以上の点からみて、単に売上計上しなかったという消極的な行為によってだけでは「不正な行為」と言えないと考える。前記第一、2、であげた最高裁昭和四二年一一月八日判決は「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」として単なる不申告だけでは足りず、積極的に「なんらの偽計その他の工作を行う」ことを要するとしているのである。

ニ、また、税法上過少申告者には過少申告加算税が課せられるにとどまり、事実の仮装、隠蔽という行為がなければ重加算税は課税されない。この点を考えると、他の積極的な工作をともなわない過少申告行為は、行政上の制裁措置としては過少申告加算税が課されるにとどまる。これとの均衡から言っても、刑事制裁においても、逋脱罪として刑罰を課す要件は「単に売上計上しなかった」だけでは足りない。「不正な行為」の概念は厳格に解すべきである。

4、このように大和不動産が逋脱の意思で計上していないということは、本件の金額が余りにも少額であり、逋脱をしているとしても税額が大して変わりがないことからも明らかである。

三、(価格変動準備金繰入について)

1、昭和五一年八月一一日付で長浜税務署長がした青色申告承認の取消処分は、大和不動産の昭和四九年九月期の確定申告に際し、大塚土地の売上原価を過大に計上し、また右京区土地の売上収益を故意に繰延べ過少申告したことを理由とする。しかし、この理由とされた事実はいずれも前記のとおり存在しなかったものであり、右取消処分は、いずれも違法無効なものである。

2、さらに、仮に右事実が存在するとしても、原判決が、青色申告承認の取消により、価格変動準備金繰入の損金算入を否定していることは、刑罰法規不遡及の原則からいっても、又、故意の点からいっても是認することはできない。

3、すなわち、刑罰法規不遡及の原則について論ずると、前記逋脱行為と目され行為及び価格変動準備金の繰入は青色申告承認の取消処分以前になれたものであり、事後的な青色申告承認の取消処分によって価格変動準備金繰入の損金算入が否定される。すなわち、逋脱額を過去に遡って増加させることはできないのである。この点につき、原判決は「逋脱行為をする以上、当該事業年度以降の確定申告にあたり右承認を受けたものとしての税法上の特典を享受する余地はないのであり」として、確定申告の当初からそのような所得計算上の特典はないとするようであるが、原判決自体がその後に続けて「その事業年度の初めに遡ってその承認を取り消された場合における・・・・・」と判示しているように、原判決自体も青色申告承認の取消処分があってはじめて価格変動準備金繰入の損金算入が否定されることを認めているのである(この意味で判決文自体矛盾している)。従って、青色申告承認の取消処分がない限り、裁判所が独断で逋脱額を計上できないのであり、しかも青色申告承認の取消処分は、法人税法第一二七条本文が「取り消すことができる」と規定しているように税務署長の裁量行為であり、税務署長の裁量によって青色申告承認の取消処分があってはじめて、価格変動準備金繰入の損金算入は違法となるのであり、それまでは適法な行為であるから、青色申告承認取消処分をまって、さかのぼって右損金算入を否定することは許されないのである。

4、次に故意について論じると、原判決は、「青色申告の承認を取り消されるであろうことは行為時において当然認識できることである」としているが、右のように、申告の当初から価格変動準備金の繰入が不可であるとするなら、故意の問題としてもこのようなことを判示する必要が全くないのであり、しかのみならず、仮にそのような犯意がいるとしても大和不動産は、青色申告承認の取消処分がなされないかぎり、価格変動準備金は、当然損金算入できるものであると確信していたものであり、行為時において青色申告の承認を取り消されることを認識できたとしても、価格変動準備金の繰入自体については、全く逋脱の意思がなかったのである。

5、以上のように、原判決には事実誤認の違法があるのみならず、刑罰法規不遡及の原則違反すなわち憲法三九条違反という重大な違法があり破棄されるべきである。

第三、原判決の量刑は不当であり、破棄されるべきである。

大和不動産は、国税総額五一五、七六〇、八〇〇円、地方税総額一八七、七七〇、五九〇円の更生決定された金額を既に完納している。

大和不動産は、昭和五六年一月一二日、解散決議をなし、もはや営業活動ができず、目下精算中である。本件刑事事件が存続しているため、未だ精算終了手続ができない状態である。

現在の大和不動産の状態では、六、〇〇〇万円という高額の罰金を完納することは不可能である。

このように、大和不動定は既に課税上の制裁及び社会的制裁をうけ、法人としての存続を許されない状態にある。このような状態にある大和不動産に対して、六、〇〇〇万円という極めて高額な罰金刑を科すことは、不可能を強いるものであり、あまりに過酷であり量刑不当により破棄されるべきである。

なお、大和不動産と資本関係を同じくする上田建設株式会社は、著しい財政状態にあって、原審で判決された罰金二億四、〇〇〇万円の納付に努力しているのでこの点も量刑にあたって考慮されるべきである。

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