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大阪高等裁判所 昭和58年(う)1378号 判決 1984年6月06日

裁判所書記官

杜多邦彦

本店所在地

大阪市北区曽根崎新地二丁目三番一三号

若杉興産株式会社

右代表者代表取締役

加藤一彌

本籍

大阪市旭区中宮三丁目一一二番地

住居

同市都島区東野田町一丁目二一番四一号

会社役員

加藤一彌

昭和一八年七月一七日生

右両名に対する法人税法違反各被告事件について、昭和五八年七月二〇日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、原審弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 沖本亥三男 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人安木健作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官沖本亥三男作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

一  本件各控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨はいずれも要するに、原判決は被告人若杉興産株式会社(以下被告会社という)の収入でなく、被告人加藤一彌(以下被告人という)の収入であるのに、被告会社の収入と認定したり、架空経費でないのに架空と認定したり、利益から差引くべきものを否定するなどして被告会社のほ脱額の算定を誤って事実を誤認しているというのである。

そこで所論にかんがみ記録を精査して検討するのに、原判決が弁護人らの主張に対する判断(以下原判決の判断という)で説示するところはすべて相当であり、原判決挙示の各証拠によるとその認定にかかるほ脱額はすべてこれを認めるのに十分であり、右認定に所論のような誤りは存しない。

(1)  若杉ビル一〇階部分の売上収入について

所論は、原判決の挙示する証拠によっては若杉ビル一〇階部分の所有権が被告会社にあることを認めるのに十分でないと主張する。

しかし右一〇階部分の賃貸借契約の当事者が被告会社になっており、被告人となっていないこと、被告人が収税官吏に対し右部分の賃貸料が被告会社に帰属することを認めている(昭和五六年七月一七日付質問てん末書)ことをあわせて考えると、右部分の所有権が被告会社にあり、これよりの収入が被告会社に帰属することを認めるのに十分であり、これに反する被告人の原審公判廷における供述はこれを裏付けるに足る証拠が全くなく、右各証拠に比し信用し難く、昭和五四年度の被告個人の修正申告には法人の収入として起訴されているものも含まれているとしても結論を左右するものではなく、右主張は採用できない。

(2)  加藤育代の給与について

所論は原判決が加藤育代のニュー若杉ビルにおける勤務を無視し本社勤務のみを給与支払の根拠としているのは不当であると主張する。

しかし、右主張は原判決の判断二で「加藤ハツ子が昭和五四年四月頃本社に勤務するようになった」旨加藤ハツ子について述べた部分を加藤育代について述べたものと誤解したもので、原判決の判断が加藤育代の本社勤務を給与支払の根拠としたものでないこと明らかであるから、右主張はすでにこの点で失当であるばかりでなく、加藤育代の検察官に対する供述調書、同人の母の加藤登母子に対する収税官吏の質問てん末書、被告人の検察官に対する昭和五六年一一月二日付供述調書を総合すると加藤育代が昭和五三年七月以降同年一一月までニュー若杉ビルで働いたことのないことを認めるのに十分であり、原審証人加藤育代の「昭和五三年七月以降ニュー若杉ビルに毎日働きに行っていた」との供述は右各証拠に比し信用し難く、右主張は採用できない。

(3)  修繕費について

所論は新明和工業作成名義の領収書の但し書が後日書き加えられたか否かにかかわらず、原審証人青木正幸の「駐車場のパレット部分を変更したことがある」との供述、被告人の原審公判廷における「右変更は納入を受けた後に補修を依頼して行われた」との供述を総合すると新明和工業に対する二〇〇万円の修繕費の支払が架空でなかったことを認めるのに十分であると主張する。

しかし、原審証人青木正幸は、「駐車場の設置工事代九〇〇万円以外に二〇〇万円を受領したことはなく、パレットの部分変更も右工事にともなう無料サービスとして行なわれた」と明確に供述しており、これに新明和工業作成名義の領収書の金額欄に九〇〇万円と明記されていて、原判決の判断五のとおり「但し内二〇〇万円は修理費」との但し書が後日記入されたものと考えられることをあわせ考えると、被告会社が修繕費として二〇〇万円を計上したのが架空であることを認めるのに十分であり、これに反する被告人の原審公判廷における供述は信用できないので右主張は採用できない。

(4)  減価償却費について

所論は、(イ)シャトー若杉について個人で専有登記した分を会社の減価償却の対象として計上したのは被告人の過失によるもので故意を欠き、(ロ)同和対策費として八〇〇万円支出した点は被告人の原審公判廷における供述を信用すべきであると主張する。

しかし、(イ)について被告人は収税官吏に対し、「個人が専有登記した部分については会社の減償却費に入らないことをよく知っていましたが、会社の資産としてそのまま減価償却計算をしました」と供述しており(昭和五六年七月二一日付質問てん末書)、右供述の信用性を疑わせる証拠は何ら存しないから、右供述により故意を認めた原判決に何ら誤りはない。また(ロ)については被告人の原審公判廷における供述を裏付ける客観的証拠が全くないことに加えて被告人の検察官に対する昭和五六年一〇月二七日付供述調書にてらし、被告人の原審公判廷における供述は信用し難く、右(イ)(ロ)の主張はいずれも採用できない。

(5)  雑収入について

所論は(イ)シャトー若杉モータープールは加藤ハツ子が経営していたものでその収益は被告会社に帰属しないし、(ロ)新堂島モータープールの収入は被告会社とは別個独立の城北企業に帰属すると主張する。

しかし、(イ)については被告人が収税官吏に対し詳細に自白しているところであり、(昭和五六年八月一四日付、八月一七日付各質問てん末書)、右自白には土地賃貸借契約書、工事請負契約書等の裏付けがあって十分信用でき、これによると、地代が適正になされていること、加藤ハツ子が従来本件土地で駐車場を経営していたことと本件モータープールを被告会社が経営するに至ったことが何ら矛盾しないことが明らかであるから、(イ)の主張は採用できない。また(ロ)については原判決の判断八(3)において説示するとおりであるばかりでなく、所論のとおり城北企業が被告会社と別個独立に昭和五四年五月設立されたとしても昭和五三年一月から昭和五四年五月までの新堂島モータープールの収入が被告会社に帰属することは明らかであり、さらに被告会社と城北企業との間に取りかわされた覚え書(当審昭和五八年押第五五一号の五八)によれば城北企業名義で契約した賃貸借契約に基づく同モータープールの一切の収入と費用、損失はすべて被告会社に帰属する旨の取決めがなされているので、昭和五四年五月以降も新堂島モータープールの収入が被告会社に帰属すると認定した原判決に誤りは存せず、(ロ)の主張も採用できない。

(6)  支払利息について

所論は、(イ)被告会社が小坂井組に支払った五億九〇〇〇万円中一五〇〇万円は支払利息であり、(ロ)被告会社の被告人及び加藤ハツ子からの借入金については当然支払利息を計上すべきであると主張する。

しかし、原判決の判断九1、2において説示するところはすべて相当であり、右(イ)については具体的な元本額、金利の利率、期間等について何らの話し合いがなされていない以上、また(ロ)については利息に関する約定を認めるに足る証拠がなく、被告会社の加藤ハツ子に対する債権について受取利息が計上されていない以上所論の諸点を考慮しても右判断を左右するに足りないので、右各主張も採用できない。

(7)  簿外経費について

所論は、被告人らの主張する簿外経費について同和対策費等一切認めなかったため損益計算法による所得と貸借計算法による所得が著しく相違し、ことに昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの所得については約五〇〇〇万円もの不突合額が発生していると主張する。

しかし、被告会社においては帳簿、伝票の記載が正確に行われておらず、計画的に売上げを除外し、架空経費を計上する等して長期間継続していたから、損益計算法による所得と貸借計算法による所得との間に約五〇〇〇万円もの不突合が生じたとしても必ずしも不合理ではなく、右不突合が所論指摘の簿外経費を全く無視したことによるものということはできないから、右主張は採用できない。論旨はいずれも理由がない。

二  各控訴趣意中量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を精査して検討するのに、本件は被告人が代表取締役をしている被告会社が売上げの一部を除外し架空経費を計上するなどの方法により昭和五二年一〇月一日から三事業年度における合計七一三六万九〇〇〇円の法人税をほ脱したという事案で、犯行の動機にとくに酌量すべき点はなく、本件ほ脱の手段、方法、ほ脱金額等の情状にてらすと、被告会社が本件公訴提起後税務署より更正通知のあった金額をすべて納付したこと、被告人において反省していること等所論指摘の情状を十分考慮にいれても、原判決の量刑が重きにすぎるものとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

よって刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松井薫 裁判官 村上保之助 裁判官 木谷明)

○ 控訴趣意書

被告人 若杉興産株式会社

加藤一弥

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴の理由は次のとおりである。

右弁護人 安木健

大阪高等裁判所 第二刑事部 御中

第一、原判決には、次のとおり事実誤認があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄されるべきである。

一、若杉ビル一〇階部分の売上について

1. 原判決は、右部分の所有権の帰属について、被告人(加藤一弥を指す。若杉興産株式会社をいう場合は被告会社と表示する)の供述以外に直接の証拠は存しないことを認めつつ、被告人の公判廷における供述より、捜査段階における供述の方が信用できるとして、会社の所有であると認定している。その根拠の主なものは、建築に従事した業者に証明を得ることが容易であるにもかかわらず、これを提出しないとする点である。

しかしながら、被告人も第九回公判廷で述べているように、被告人は個々の工事ごとに直接各業者に発注したのであり、その関係資料を紛失してしまっているのである。その再発行あるいは証明書の作成を求めるにしても、多数の業者に五年余を経過した後になると実際上は困難であるうえ、業者からすれば(零細な工事業者の場合はことに)、会社と個人の区別はあいまいなものであり、その証明をえたからといって格別の資料となるものでもない。

捜査段階における供述といっても、裏付け資料をもとにしたものではないのであり、その方がより信用性が高いとはとうてい言うことはできず、結局一〇階部分が被告会社の所有であることの証明はないというべきである。

2. 右部分の賃貸借契約の当事者が被告会社になっているとの点も根拠にならない。本件は、昭和五四年分の被告人個人の申告(修正申告)に際して、法人の収入として公訴提起されているものについても、これを個人の収入として行なっている(被告人の第一一回公判廷における供述)ことからもわかるように、個人と会社の混同ははなはだしいケースである。したがって、契約当事者の記載も便宜的であって、これをもとにして認定するのは問題である。

二、加藤育代の給与について

この点は結局被告会社の仕事をしていたというのはどういうことか、あるいは被告会社への勤務というのはいかなる状態をいうのか―これらの解釈にかかってくる。

加藤育代は昭和五三年七月に婚約して以来、被告人の居住するニュー若杉ビルに出かけては、電話の取り次ぎをしたり、一部家賃の集金をしたり、あるいは夜電灯を消してまわるなどの雑務をしていたのである(原審証言)。原判決は、同人が本社に勤務するようになったのは昭和五四年四月頃であるとする、加藤登母子の捜査段階における供述をもとにして認定しているが、これは右のような点を無視し、本社勤務のみを給与支払いの根拠としており、不当である。

三、修繕費について

新明和工業に対する立体駐車場の施設について、原判決は領収書の但書が後日書き加えられたことを根拠にして、被告人の主張を排斥している。しかしながら、問題は修繕費に該当するような支払がなされたかどうかである。この点については新明和工業の従業員である青木正幸も証言しているように、同社もパレットの部分に変更を加えたというのであり、被告人の第九回公判廷における供述によれば、これは納入を受けた後に補修を依頼したというのである。したがって、領収証の記載を云々するまでもなく、二〇〇万円については修繕費の計上をするのは決して不自然ではない。

四、減価償却費について

1. シャトー若杉について個人で専有登記した分を会社の減価償却の対象として計上したのは、被告人の過失による。

本件は会社と個人の区別がきわめてあいまいであり、被告人自身シャトー若杉の区分所有の詳細について正確に認識していたわけではない。したがって、被告人は故意を欠いている。

2. いわゆる同和対策費について

たしかに原判決摘示のように、その支出を裏付ける客観的資料は存在しない。しかしながら、これは問題の性質上当然のことである。結局、被告人の原審における供述(第九回)や捜査段階における供述をどのように評価するかであり、捜査の実態やこれに対する被告人の心理状態を考えると、原判決の認定は不当である。

五、雑収入について

1. シャトー若杉モータープール

原判決は次の点で不当である。第一に、本件モータープールは、加藤ハツ子が地上にマンションが建築される以前から経営していたのであり(同人の原審証言)、建築後もその経営にあたってきたのであり(駐車場利用者との契約も個人で行なっている同証言)原判決はこれを無視している。第二に、被告会社と被告人らの土地の賃貸借契約には、敷金、保証金の授受はなく、地代にしても著しく低額となっており(被告人の原審第九回公判廷における供述)、土地を被告会社が全面的に独占的に使用することを予定していない。第三に、被告会社は同土地上にマンションを建築するに際し、加藤ハツ子の駐車場施設をとりこわしている(同供述)。したがって、マンション建築後被告会社がその代償として、駐車場設備を負担したのであり、この経過を無視して、同設備を被告会社の負担により設置したことだけをとり上げるのは不当である。

以上を総合すれば、モータープールの敷地は、その地上のいわば空中権の部分は会社がもつが、地面に接した部分は個人が使用権をもっており、会社と個人が使用の権限を共有しあっているものと考えるべきであろう。

2. 新堂島モータープール収入

城北企業は昭和五四年五月に設立された株式会社である。原判決は同社には従業員もいないとしているが、同駐車場で働いている従業員は同社の従業員である(検察官請求番号三三の証拠によれば、城北企業の銀行口座から毎月二八日に三十数万円が引出されており、右従業員の給料やその他の経費にあてられていたことを示している)。

また、モータープールの収入の記帳、管理、支出も被告人または被告人の指示によって加藤ハツ子がしていたとの点も、根拠にならない。なぜなら、加藤ハツ子は城北企業の代表取締役であり、被告人も取締役であるから、これらの者が右のような行為をするのは当然であり、これをもって同モータープールの経営が被告会社によるものであるとするのは乱暴な議論である。

その他、城北企業は被告会社と別個の帳簿を作成し、その記帳事務も被告会社の事務員は関与しておらず、同モータープールの収入、経費とも被告会社とは別勘定になっていた(以上については、原審第六回公判の奥証人の証言等参照)。同モータープールの契約も城北企業の名で行なっていた(原判決も昭和五四年五月頃より城北企業名義の領収証を発行するに至ったとして、何かそれが不自然なことのように言うが、城北企業の設立がその頃であるから、これは当然のことである)。

新堂島モータープールの敷地を被告会社が購入しながら、これを城北企業が使用収益するについて被告会社と城北企業の間に何らの取り決めもなく、使用料の授受もなされていないことなど、確かに不正常な点は存在する。しかしながら、設立登記がなされ、前記のような活動がみられる会社を、実態がないとして否定し去ってしまうのは正当ではなく、これらの点は被告会社の土地使用料の不申告および城北企業の駐車場収入の未申告の問題として処理すべきである。

六、支払利息について

1. 小坂井組関係

原判決は、若杉大阪駅前ビルの建設請負代金額の決定に際して、被告人から請負業者である小坂井組に対し、金利込みで五億九、〇〇〇万円にしてほしいとの申し込みがあったこと。小坂井組としては名目上はともかく入金されればよいと考えて代金額を確定したことを認めながら、具体的な元本、利息等について定めがなされていないとして、利息の計上を否定している。

右のような経過にてらすと、五億九、〇〇〇万円のなかにはいくらかの利息分が含まれていたと考えるべきであり(少くとも被告人はそのように認識するのは当然であろう)、小坂井組が社内で請負金額をどのように処理したかは、当事者間の約定の存否とは無関係である。ところで、金利の額であるが、小坂井組側で被告人との接渉にあたった筒井敏夫の証言によれば、被告人側は五億九、〇〇〇万円のうち、一、五〇〇万円から二、〇〇万円とみていたというのであり(同人の原審における証言)、小坂井組側はその算定根拠を検討することなく、請負代金額の決定に応じたというのである。そうして、小坂井組は代金支払いの際被告人から一、五〇〇万円を金利分とする領収証を作成するよう求められて、異議なく承諾しているし、前記筒井も被告人からの申し出を意外なものとは受取っておらず、そういう話があったな思い出したというのである(前記証言)。このような経過にてらすと、少くとも一、五〇〇万円を利息として取り扱うことには小坂井組も異存はなかったのであり、税務上もこれを利息として扱うのは何ら不自然はないはずである。

なお、本件工事は最終的には六億数千万円の代金額であるが、第一回の支払いから最終的な支払いまでの間に約二年六カ月を要しており(工期も長期間にわたっている)、仮に一、五〇〇万円をその金利であるとしても、その率はきわめて低い。もし高率の金利を計上しているのであれば、前記以上の明確な金利に関する約定が必要かもしれないが、右のようなきわめて控え目な金利の計上についてまで厳格な約定の成立を要求するのは酷であろう。

2. 被告人および加藤ハツ子からの借入金関係

被告会社の計算書類(検察官請求証拠番号四ないし六参照)には各期とも、被告人および加藤ハツ子からの借入金が計上されている(但し、加藤ハツ子については第一期=昭和五二年九月期=は計上されていない)が、これらに対する支払利息は計上されていない。原判決は、利息支払いに関する約定が認められないとして支出利息の計上を認めるべきであるとする主張を排斥した。

ところで、右貸借はその都度借用証を作成して行なうようなものではなく、被告人らの個人預金を会社の資金に流用する等して継続して発生した債権・債務関係である。したがって、個々の債権発生ごとに利息に関する約定はとり交していない。しかしながら、このような貸借に利息の約定が含まれることは当然のことであり、被告人らが被告会社に利息金の請求をしても何ら不自然ではない。個人的な色彩の強い会社の場合、このような貸借の際に利息の計上は通常当然に認められており、被告会社においても昭和五六年九月期以降このような支払利息を計上し、それが法人税の申告において認められているのである(被告人の原審第一〇回公判廷における供述)。

被告会社のような小規模で個人的な色彩の強い会社の場合に、一々明確な利息に関する約定(結局書面による約定が必要となるであろう)がないと支払利息の計上は認められないとすれば、現に行なわれている法人税の実務において、合格となるのはごくわずかとなるであろう。

七、簿外経費について

原判決は、被告人らの主張する簿外経費について、前記のようないわゆる同和対策費(本件では直接には減価償却の対象としたことが否認されている)のみならず、被告会社の営業活動に必要な交通費、交際費、会議費、雑費等の一切を認定していない。

被告人が個人として被告会社のために右のような種々の支出をしながら、被告会社にこれを請求していないことについては、これを具体的に裏付ける書面は存在しない(だからこそ簿外経費となる)。しかしながら、個人と会社の収入、支出関係が渾然となっている本件において、収入面のみ個人への帰属を否認し、経費の支出について個人の負担を一切否定するのは片手落である。このようなケースでは明確な立証資料がなくても、会社の営業活動の内容、会社の経費として計上したものの売上に対する割合等を考慮して、ある程度の割合の簿外経費の計上を認めるのが税務実務のようである。

本件ではこれを一切認めないために、後記のような損益計算法による所得と貸借計算法による所得とが著しく相違する結果となっている。

八、検察官は、本件を損益計算法によって立証しようとしている。他方で、検察官提出の資料の中には被告会社の修正貸借対照表を作成し、貸借計算(財産増減法)により被告会社の所得を算定したものがある(検察官請求番号三二号)。

被告会社の所得について、損益計算法による所得と、貸借計算による所得を比較すると、昭和五三年分では、後者の方が四、二〇一、〇八八円過大となっているのに対し、昭和五四年分については約一、七〇〇万円(修正貸借対照表には貸付金は一七、七九九、一〇一円の増とされているが、他の年とちがいこれが不突合額だけを計上したとの説明はない。しかし他に貸付金が大はばに増額計上される要素はないので、その大部分が不突合額とみてさしつかえない)、昭和五五年分については四九、八一一、九〇九円前者の方が過大となっている。国税局はこれを昭和五三年分については被告人個人からの借入金を増加させ、昭和五四、五五年分については、被告人に対する貸付金を増加させることによって処理し、修正貸借対照表が作成されている。

理論的には両計算法により算出した所得金額は一致するものとされているが、現実には資料の散逸等の理由により、両計算法により一致した結果を得ることはむずかしいとされている。しかしながら、それは程度の問題であり、昭和五三年と昭和五四、五五年で正反対の経過となり、昭和五五年に至っては約五、〇〇〇万円もの不突合額が発生するというのは異常というべきである。

このような不突合額を被告人からの借入金としたり、あるいは貸付金としたりするのは全く恣意的と言わなければならない。ことに約五、〇〇〇万円もの貸付金が生じたというのであれば、それはどのようにして被告人に帰属したのか(どのように隠れているのか)当然つきつめて捜査されるべきであるにもかかわらず、その分析が全くおこなわれていない。

なお、昭和五六年七月二七日付質問てん末書(検察官請求証拠番号九一号)によれば、被告人は、個人名義の預金のうち国税局職員が被告会社に帰属する預金として計算したものについて、「(これと)損益計算の結果会社の簿外資金となる金額との差額は、私と会社の貸借勘定として処理してください」と述べており(同調書第九問答)、これを根拠に前記のような貸付金の処理を行なっている。しかしながら、被告人自身このことについて正しく意味を理解しているわけではなく(原審第一〇回公判廷における被告人の供述)、査察官の説明を被告人の口を借りた形で記載しているにすぎず、証拠としての価値はないと考えるべきである。特定の被告人名義や他人名義の預・貯金が被告会社に帰属すべきものであるとするならば、その預・貯金がどのような手段・方法により被告会社から個人に流出したのか、不正手段と預・貯金の対応関係が具体的に明らかにされなければならないが、この点については明確な立証はされていない。結局、右のように貸付金として処理されたものの実態は不明のままである。

このような不合理な結果を生んだ原因の第一は収入面で前に述べたとおり、被告会社の収入が過大に計上されていることであり、第二には簿外の経費が一切認定されていないためである。

この点は認定にあたり十分考慮されるべきである。

第二、量刑

本件は、以下に述べるような犯行の動機、脱税分納税の事実、改悛の状況等を考慮すれば、原判決の量刑は不当である。

一、背景・動機

被告人は、被告会社で新しいビルを建設するのに資金が必要であること、不況時に耐えるだけの力を備える必要があることなどのために、本件のような脱税を思いたったものである(このことは原審の論告において一部検察官も述べたところである)。もちろん、動機が何であれ、このようなことが許されるべきではなく、被告人の納税意識の欠如は当然非難されるべきである。

しかしながら、他方で被告人が個人としてこれを遊興費など私的な目的のために費消しようとしたものでないことは、十分考慮に価するのではないかと考える。当然のことながら企業の経営にあたり、利益が出たときには納税しなければならないが、不景気になって欠損が生じた場合には誰れも助けてくれるわけではなく、中小企業の場合は結局経営者が個人資産もすべて投げ出して企業を維持していかなければならないのである。したがって、中小企業の経営者は利益の上ったときには何とかして企業の体質を強化しようと考えるのであり、その心情は理解できるのである。

また、本件の場合、被告会社とその代表者個人が明確に区別されておらず、被告人の意識もその点が極めてあいまいである。そのために、適正な経理処理と申告をおこなう必要性が乏しく、本来適正な処理すれば、本件のような違法な手段を弄することなく節税の実をあげることができたところを、種々の違法な手段により脱税を図ったという側面がある。たとえば、株式会社の経費を個人で支出することなく必ず会社で支出するとか、あるいは被告人らの会社に対する貸付金の利息を計上するなどすれば、相当額の節税が可能であったはずである。先に述べたような諸点が認められないとしても、このような点は考慮に価するのではなかろうか。

二、脱税分の納税

1. 法人と個人の混同の結果であるが、昭和五四年分については被告人が脱税を認めている部分についても、個人(大部分がハツ子名義)で修正申告し、納税している(弁請求六、七、一一、一二)。したがって、本件で問題とされる部分は右のように申告、納付した分と相当重複することになる(被告人の当公判廷における供述参照)。しかも、被告人が修正申告の準備をしたのは、本件について調査が開始される以前のことである(少なくとも被告人は査察を知らずに準備を開始している)。したがって、被告人は必らずしも全面的に違法を放置しようとしたのではない。

2. 本件公訴提起後被告会社は、一方では公訴事実を争いながら、他方では賦課されたものを納付している(弁請求番号一五ないし二六)。したがって、本件犯行による被害という点ではすでに回復されている。

三、改悛の情

被告人は本件犯行を深く反省するとともに、本件を契機に本件に至る根本的な原因を除去しようとして、経理スタッフを充実させ、法人と個人の混同を厳に戒めている。被告人も述べるように、二度と本件のような行為を繰返すことはないと思われる。

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