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大阪高等裁判所 昭和58年(う)234号 判決 1985年9月24日

本店所在地

京都市中京区木屋町通三条下る材木町一八四番地

商号

株式会社マンモスクラブメトロ

代表者

代表取締役 太田孝

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五七年一二月一〇日京都地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 大井恭二 出席

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金二〇〇万円に処する。

本件控訴事実中、昭和四〇年一一月一日から同四一年一〇月三一日までの事業年度における法人税ほ脱の点(別紙(四)の公訴事実)については、被告人は無罪。

原審における訴訟費用は、昭和四八年一〇月一七日証人守上正孝に支給した分を除くその余の分の三分の二を被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人林幸二、同山崎武徳、同家近正直共同作成の控訴趣意書及び追加控訴趣意書並びに同林幸二作成の上申書各記載のとおりであり、これに対する答弁は、大阪高等検察庁検察官検事能登哲也作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。ただし、本件控訴の趣意につき、主任弁護人は、次のとおり釈明した。

「(一) 控訴理由は、原判決に、(1)損金認定の誤りに基因する所得計算の誤りがあること、(2)太田清に法人税を免れる犯意がなかったのに犯意があったと認定したこと、に基づく判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があることを主張するに帰する。

(二) 所得計算に関して主張する事実誤認の根拠は、控訴趣意書第一点二、三、四、五、六、第二点並びに追加控訴趣意書第一点一の(三)、(四)、(六)、(七)、(八)、(九)記載のとおりである。

(三) 犯意に関して主張する事実誤認の根拠は、控訴趣意書第一点一記載のとおりである。

(四) 控訴趣意書第二点に指摘した事由は、理由不備、理由のくいちがいの絶対的控訴理由としては主張せず、指名料、給料に関する損金計算に、会計原則の違背に基づく事実誤認があることの根拠として主張する。

(五) 追加控訴趣意書第一点一の冒頭部分及び一の(一)にいう違法性に関する主張は、独立の控訴理由として主張する趣旨ではなく、所得計算に関する事実誤認が判決に影響を及ぼすことを明らかにする趣旨である。」

そこで、所論及び答弁にかんがみ、まず、控訴趣意のうち、原判決に損金認定の誤りに基因する所得計算の誤りがある旨の事実誤認の論旨について、以下(一)ないし(六)のとおり、各論点ごとに順次検討する。

(一) 被告人株式会社マンモスクラブメトロ(以下被告会社ともいう)における売上高に対する人件費率は、原判決認定のように四五%程度ではなく、五〇%である旨の主張について

原判決は、簿外の人件費の存在を認めたうえ、「フラミンゴ」の開店当初の人件費率(検乙50号・当庁昭和五八年押七八号の四一の「損益計算書及び経費内訳明細書」によるものと解せられる)、被告会社の昭和四六年一一月以降の公表決算における人件費率(原審証人杉崎和一が第四五回公判で内容の正確なことを認める趣旨の供述をしている「原審弁護人作成の昭和五〇年九月一八日付争点整理の意見書(その2)」に添付されている被告会社の決算報告書中の損益計算書によるものと解せられる)、その間の人件費上昇傾向の割合等関係各証拠を総合検討して、本件各事業年度当時の人件費率を四五%程度と認定する旨判示しているのであるが、それ以上具体的にその算定の根拠を示していない。ところで、(1)右被告会社の損益計算書によれば、同会社の人件費率は、昭和四六年一一月一日から同四七年一〇月三一日までの事業年度(以下、単に四七年一〇月期と称し、他の年度についてもこの例による)は五九%、四八年一〇月期は六〇・一%、四九年一〇月期は六五・九%であると認められるところ、右四八年一〇月期及び四九年一〇月期の二事業年度における各人件費率の対前年度比上昇分の和が六・九%であることから単純に毎年度の人件費率の対前年度比上昇分を三・四五%と算出し、この割合で人件費率が長期間上昇し続けたものと仮定して計算すると、二九年一〇月期のそれがほぼ零%、五八年一〇月期のそれがほぼ一〇〇%になるという不合理な事態となるのが明らかであって、そのよってきたるところは四九年一〇月期における右のような人件費率の急上昇にあるのであるが、それは、むしろ公知の事実である昭和四八年一〇月のいわゆるオイルショック以後の経済混乱に伴い、人件費がクラブの売上に先行して急上昇したという特殊事情によるものと推認され、四九年一〇月期の人件費率の対前年度比上昇分五・八%を本件各事業年度の人件費率の算定資料に供すべきではないと考えられるが、かかる特殊事情の認められない四八年一〇月期の人件費率が前年度より一・一%上昇しているという事実は、一年間だけのものではあるが、ある程度長期にわたる人件費率の変動を認定するための一資料にはなるものというべく、この一・一%という数値を用いて算定すると、三九年一〇月期にはほぼ五〇%という人件費率が算出されること、(2)「フラミンゴ」の右「損益計算書及び経費内訳明細書」その他関係証拠によれば、「フラミンゴ」は、本件当時被告会社の代表取締役であった太田清が経営(昭和四一年四月開店)していたクラブであるところ、開店後二か月目の同店の人件費率は約四二・五%であると認められるが、開店当初は祝儀客や義理の客が多く来店し、ウイスキーのボトルのキープを新規に始める等の理由で、人件費に対する売上が普段よりは多くなり、人件費率が普段より低くなるので、この人件費率をそのまま被告会社の本件当時の人件費率にあてることはできず、その人件費率はより高率であったと認められること、(3)有限会社クラブビーエンドビーに対する法人税法違反被告事件における検察官と弁護人の合意書写(弁甲7号)によれば、右会社は被告会社と同種営業で、売上高は被告会社よりやや少ない程度であるところ、本件と同じころである昭和三九年二月から同四〇年一月までの事業年度の人件費率が約五二%であると合意されていること、(4)本件当時被告会社の経営課長をしていた証人杉崎和一及び当時同会社の専務と称せられ監査役として登記されていた現被告会社代表取締役太田孝は、原審公判において、本件当時の被告会社の売上高に対する人件費率が五〇%以上であった旨供述していること、以上の諸事情を総合しその他関係証拠を併せて考えれば、本件当時の被告会社の売上高に対する人件費率は、三事業年度を通じて所論のいうように、五〇%であると認めるのが相当である。とすれば、人件費率を四五%程度と認定した原判決には、所得計算の前提たる損金を過少に、従って所得額を過多に認定したという事実誤認があるものというべきである。

(二) 原判決は、売掛金と買掛金の相殺について全く考慮していないので、その仕入・修繕費・備品消耗費・広告宣伝費・芸能費などについて計上もれが生じている旨の主張について

原審で取り調べた国税査察官作成の調査事績集計表(検甲14号)その他関係証拠を検討しても、控訴趣意書第一点三(一)において指摘されている各買掛金について、それらが債権者である各業者に対する被告会社の売上(飲食代)と相殺されているのに、売上は売上として計上されている一方これに対応する経費が計上されていない、という所論主張の事実に沿う証拠はなく、結局所論の主張するような買掛金の計上もれがあった疑いがあるとは認められない。所論は理由がない。

(三) 原判決は、昭和三九年一二月までの福利厚生費・交通費・交際接待費・公租公課・賃借料(都会館への支払分)の各科目は、小口経費の科目にまとめて計上されているものと認定しているが、小口経費というのは常時一定の現金を会社に保管し、日常の小口の債務、当時の金額でせいぜい二、三千円のものの支払いを現金でするものをいうのであり、交際接待費は二、三万円以上となり、公租公課は毎月一〇万円以上一括して納税のための準備預金から支払っており、賃借料は月五万円の多額に達しているのであるから、また福利厚生費・交通費を小口経費に含ませる合理性もないのであるから、これらの科目がいずれも小口経費に含まれているものと認定しているのは誤りである旨の主張について

しかしながら、仕入経費集計表(支出内訳書、検乙5号、前同押号の四六)によれば、被告会社の当時の経理課長が同会社の経費を把握するための帳簿類に基づいて作成したもので、本件で被告会社の経費を立証するための基本的な証拠である右集計表には、同四〇年一月から、交際接待費等の右の五科目と雑費の各科目が新たに設定され、同三九年一二月まで記載されていた小口経費及び諸経費の各科目がなくなっていることが明らかであり、以上各科目の金額を対照して関係各証拠を検討すれば、所論指摘の交際接待費等の五科目は、右集計表上同三九年一二月までは小口経費及び諸経費の科目にまとめられて計上されていたものと認めるのが相当であるから、同三九年一二月までのこれら五科目の経費に計上もれはないと認めた原判決の判断は相当であって、右主張は理由がない。

(四) 人件費のうち指名料未払分増減、給料未払分増減の科目を設けるべきである旨の主張について

この点に関しては、原判決が、(争点に対する判断)中別紙(四)の補足説明において説示しているとおりであって、継続的経理処理のもとでは、各期末の指名料及び給料未払分は翌期において経費として確定し計上されるのであるから、右主張は失当である旨の原判決の説示は、当裁判所も首肯することができる。

(五) 芸能費とくに第二期(四〇年一〇月期)のそれについては、前示調査事績集計表(検甲14号)(発生額も支払額もはっきりしている買掛帳よりひろったものである)から集計すれば、合計二四九二万九〇四〇円となるから、原判決の認定は誤っている旨の主張について

この点に関しても、原判決が補足説明において説示しているとおりであって、右集計表No.39、40は各期末の未払金残高確定のための集計表であって期中発生額についての正確な資料となりえないというべく、前記のように被告会社の経理課長が同社の経費を把握するため帳簿類に基づいて作成した仕入経費集計表(支出内訳書、検乙5、前同押号の四六)は十分信用に値するものであり、これによれば原判決の認定は十分首肯できる。

(六) その他の諸点の主張について、記録及び証拠物を調査して検討しても、原判決には所論の事実誤認はない。

次に、太田清に法人税を免れる犯意がなかった旨の事実誤認の論旨について検討するのに、所論は、ことに四一年一〇月期の申告についてるる説明して犯意のなかったことを強調するが、この期については後に説示するとおり、所得額そのものが認められないのであるから、判断を省略することとし、その余の期(三九年一〇月期と四〇年一〇月期)については、原判決挙示の各証拠によれば、本件当時被告会社の代表取締役であった太田清は売上金の一部を自宅に持ち帰り、多数の架空名義で預金に入金するなどの不正の方法によりその所得の秘匿行為をし、右各期に所得のあることを十分知りながら、法人税の支払いを免れる意思で、あえて法人税確定申告書を提出しなかったものと認められるから、犯意は十分あったものというべきである。

その他所論及び答弁にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調の結果を併せて検討しても、右(一)以外に事実誤認はない。

そこで、前掲(一)の事実誤認の判決に及ぼす影響について検討するのに、右事実誤認の結果、原判決別紙(一)ないし(三)の損益計算書の各簿外人件費が増加し、従って各期利益が減少することになり、その損益計算書は別紙(一)ないし(三)となるところ、これによる各期の所得金額及び正当税額を原判決認定のそれと比較すると、三九年一〇月期については所得金額において約八七〇万円(約五八%)、税額において約三三〇万円(約六〇%)、四〇年一〇月期については所得金額において約九八〇万円(約五七%)、税額において約三六〇万円(約五九%)原判決の認定より減少する結果となり、また四一年一〇月期については所得金額がマイナス約一四五万円、税額が零円となるので、この点の事実誤認は、有罪の認定及び量刑に影響を及ぼすことが明らかである。従って、所得計算に関する事実誤認の論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法第三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決挙示の各証拠及び上野富司・大槻龍馬共同作成の合意書写(弁甲7号)により、原判決認定の罪となるべき事実第一の実際所得金額を六〇九万六五二九円、法人税額を二一六万六四〇〇円とし、同第二の実際所得金額を七二八万〇六二四円、法人税額を二五一万三六〇〇円とするほか、原判示罪となるべき事実第一及び第二と同一の事実を認定し、右各事実について原判決挙示の各法条を適用し、原判示罪となるべき事実第三と同一の別紙(四)の公訴事実については、上記説示のとおり犯罪の証明がないので、同法三三六条後段を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 鈴木清子 裁判官田中明生は、差支のため署名押印することができない。裁判長裁判官 石松竹雄)

別紙(一)

損益計算書

自 昭和38年11月1日

至 昭和39年10月31日

<省略>

別紙(二)

損益計算書

自 昭和39年11月1日

至 昭和40年10月31日

<省略>

別紙(三)

損益計算書

自 昭和40年11月1日

至 昭和41年10月31日

<省略>

別紙(四)

(公訴事実)

被告人株式会社マンモスクラブメトロは、京都市中京区木屋町通三条下る材木町一八四番地に本店を置き、同所においてマンモスクラブ「メトロ」名義でキャバレーを経営する株式会社であるが、同会社の当時の代表取締役としてその業務全般を統括していた太田清において、同会社の業務に関し法人税を免れようと企て、昭和四〇年一一月一日から同四一年一〇月三一日までの事業年度におけるその実際所得金額が二四九〇万五七六三円で、これに対する法人税額は八七七万〇八〇〇円であるのにもかかわらず、昭和四一年一二月三〇日中京税務署長に対し、右事業年度における所得金額は零円(欠損金額二五〇七万〇七五五円)で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右法人税額を免れたものである。

昭和五八年(う)第二三四号

控訴趣意書

被告人 株式会社マンモスクラブメトロ

代表者代表取締役 太田孝

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は次のとおりである。

昭和五八年五月九日

弁護人 林幸二

同 山崎武徳

同 家近正直

大阪高等裁判所第五刑事部 御中

第一点 原判決には次のような事実誤認があって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、被告会社には判決の理由中「罪となるべき事実」第一ないし第三の犯意、ことに第三(昭和四〇年一一月一日から同四一年一〇月三一日までの事業年度についての申告)については明確に犯意がない。

(一) この点については、被告会社代表者が第一審の被告人の供述(昭和五六年三月一六日第五〇回公判)において説明し、第一審結審にあたり最終陳述書(昭和五七年八月五日付)で陳述している。また、昭和五六年五月一四日付上申書で事実取調の請求をしているのに無視されている状況にある。

(二) その内容は次のとおりである。

昭和四一年四月ころ、つまり「罪となるべき事実」第三の事実発生の前であるが、当時、被告会社社長は故太田清であった。

その昭和四一年四月ころから、中京税務署の係員によって約一年間被告会社の税務調査が行なわれた。

そして、その結果、昭和四二年四月、中京税務署の小林署長及び同中野法人税課長が警察署長森川英雄立会の下に、被告会社社長太田清と次のとおりの合意に達した。

1. 昭和四一年度は赤字申告する。

2. 税務署はそれに対し三五〇万円を支払う旨の更正決定をし、被告会社はそれに従って支払う。

被告会社はそれに従って赤字申告をし、正式の更正決定を待っていたところ、昭和四二年五月一六日突然、国税局査察部の査察をうけ、検察庁の取調へと進んで今回の事件に発展したのである。

その当時から税務官吏と警察官の被告会社の飲食が過度となり、昭和四三年六月二五日当時で、当時の金で三〇〇万円にも及んだ。

(三) 被告代表者は素人であり、前記(二)の事実のうち後段の税務官吏の飲み食いにとかく「義憤」を感じ、そのことを裁判所に訴えるのに急になりがちである。

しかし、重要なのは、何故被告会社が税務署長をはじめ税務官吏、警察官らとつきあいが深くなったか、何故多額の飲み食いを彼らがしたのかである。その答えは前段にある。

(四) 前段の事実を確認するため、現在の被告会社の代表者太田孝、当時の中京税務署長である小林署長、当時の警察署長である森川英雄の取調を是非お願いしたい。

(五) 右の(二)の事実は少くとも「罪となるべき事実」の第三についての犯意を失わせるに充分である。

二、原判決はその理由の(争点に対する判断)において、被告会社の売上高に対する人件費率は「四五パーセント程度」との認定をしている(判決文一八頁)。その理由は「・・被告会社の昭和四六年一一月以降の公表決算における人件費率、その間の人件費上昇傾向の割合等関係各証拠を総合検討した結果・・」であるとしている。

しかしながら、右事実認定は次の諸点において明らかに誤まっているといわなければならない。

(一) 被告会社の公表決算における人件費率は

昭和四七年度 五九パーセント

昭和四八年度 六〇・一パーセント

昭和四九年度 六五・九パーセント

である。このことは五〇パーセント以上が恒常的であることを示すことにおいてのみ意味をもつ。

右数字が二年間で六・九パーセントの上昇を意味するとの解釈から、一年平均を出し、逆算することは誤った理解である。定率で計算すると、昭和二九年で人件費は○に近くなり、本年(昭和五八年)には全て人件費になる。

また、右各年度の比率は、昭和四八年度のオイルショック時の人件費の急上昇が異例であることを考慮しなければいけない。

従って、右公表決算は判決のいう「四五パーセント」を導びく根拠になりえない。また、判決自身、昭和三八年一一月~昭和四一年一〇月までの三年間に各年度毎に例えば、昭和三九年度四四パーセント、昭和四〇年度四五パーセント、昭和四一年度四六パーセントとせず、一率四五パーセントとしているのは矛盾である。

自らの云う「上昇傾向」を自ら否定していることに他ならない。

結局、昭和四七年からの三年間の人件費率は被告会社が恒常的に人件費率が五〇パーセントを超えていること以上の意味を持ちえない。

(二) 被告の属する業界では、当時人件費が五〇パーセント以上であることは常識であった。

第一審弁護人が自ら経験した(有)クラブビー・アンド・ビーに対する法人税違反事件において、合意書面が作成され、

昭和三九年度〔昭和三九年二月一日から 昭和四〇年一月三一日まで〕五一・一二%

昭和四〇年度〔昭和四〇年二月一日から 昭和四一年一月三一日まで〕五二・二六%

の人件費率が認められている。

また、検察官は被告会社と同種同規模企業であるベラミやカジノの比較権衡調査の結果を明らかにしていないが、是非とも明らかにされたい。

また、御庁においても刑事訴訟法二七九条に基づいて、人件費率を税務署あるいはベラミ、カジノに照会し、事実を究明されたい。

三、原判決は、売掛金と買掛金の相殺について全く考慮していない。

そのため、その仕入・修繕費・備品消耗費・広告宣伝費・雑費・芸能費について計上もれが発生し、事実誤認をしている。

被告会社に出入りしている業者に対し、被告会社が支払ったものは、仕入・修繕費・・・等の経費として計上されている。

ところが、その出入り業者が被告会社で飲食することがあり、その場合、仕入・修繕費・・・等と相殺されることになる。

この売掛金と買掛金の相殺分のあることは、被告会社において第一審当時からつとに指摘していたところである。

(一) その一部は第一審弁護人の昭和五七年四月一六日意見書一二頁に指摘しているところである。

「売掛金と買掛金とを相殺したものにつき『振』の字を付して表示しているが、なお次の金額分が計上もれである。

第一期 一六七、〇四〇円

第二期 二四三、四〇〇円

第三期 一、三八六、〇一〇円

『振』の表示もれの例

イ 東京都 40/6 四〇、九九〇円

(検甲一四号証三九頁)

ロ 丹後精美堂 40/7 五、四五〇円

(同四六頁)

丹後精美堂 40/7 六、四一〇円

(同四六頁)

丹後精美堂 40/9 五、〇一〇円

(同四六頁)

ハ 千成堂 合計 七五、二九〇円

(同三三頁)

合計 三六四、〇五〇円

(同三七頁)

合計 五七、六〇〇円

(同四三頁)

ニ、北山サービスステーション 合計 八五六、一八〇円

(同四四頁)」

(二) しかし、第一審においてこの相殺の問題を説明していたところ、裁判が「和解」となり、この相殺の問題は「赤字」を増加させ、折角の「和解」に水を差すとのことで一時棚上げとなっていた。

ところが、和解が結局できずじまいになり、急拠判決となったため、右相殺の問題を充分検討しないままとなり、判決はその点を全く見逃した内容になってしまっている。

いずれも買掛金未払金集計表(検甲第一四号証)およびその集計表の基となった買掛帳を詳細に検討することによって明白となるものである。

今回、その抽出したものを表にまとめ末尾に添付した。○で囲っているものは第一審弁護人において既に指摘したもの、○で囲っていないものはその後の右証拠の検討にかかるものである。

さすれば、右結果として、

第一期 三六三、五四〇円

第二期 九八八、四六〇円

第三期 二、五九五、四六〇円

の金額の計上もれがある。

右金額を要素に振り分け、適切な経費の種目別数字に置き換えたものが次の表である。

<省略>

(三) 検察官はこれにつき「支払とみて処理しているのであるから期末残高に影響はない」と説明している。しかしながら右の例のように

<省略>

本来は一〇万円経費として支払っているのに七万円しか支払っていないことになっている。支出として処理していないこと明らかである。

(四) これを売上げの関係でいうと、税金を計算する際売上げについては発生主義を採らされ、この相殺に供された売上げも売上げとして計上させられている。他方、経費についてはその相殺に供された部分が全く計上していないことになる。明らかに不当である。

四、原判決はその(争点に対する判断)の別紙(四)補足説明「公租公課」の欄(判決文四一頁)で

乙5には損金とならない法人税等が含まれていると認められるので、第2期において同上額一、一〇〇、〇〇〇円、第3期において同上額四〇八、三五〇円を各減算した。

旨判示している。

(一) 法人税が損金にならないとの判決について、そのこと自体は争うつもりはない。

そうすると、公租公課の内容は具体的には次のとおりとなる。

1. 固定資産税

2. 遊興飲食税

3. 自動車税

4. 収入印紙税

このうち、実際は2.遊飲税がほとんどである。

(二) 判決は第一期に公租公課のあることを全く認めていない。この種の営業をしていて遊飲税ゼロはありえないので明らかに事実誤認である。二、三期の推計から考えて四〇〇万円程度は最低支払っていると考えられる。

(三) 検察官は数字的に四〇〇万円程度を認めるもののいずれも小口経費に含まれると考えている。

しかし、遊飲税の支払は毎月毎月一〇万以上の支払を一括してするもので、小口(当時ではせいぜい二~三千円の支払で一万円を越えることは考えられない)の支払になるはずはない。

被告会社は遊飲税は納税準備預金から支出していることからも小口経費に含めるのは誤りである。

(四) 検甲第一四号証のNo.26・No.27・No.28をみると、京都銀行三条支店納税預金として遊興飲食税のみでも

第一期 合計 三、六二三、九〇〇円

第二期 合計 三、六二五、九四六円

第三期 合計 三、四五九、二九二円

が計上されている。これらは銀行関係調査の結果であるから確実な資料に基づくものである。

判決は

第一期 〇円

第二期 三、一七五、六八一円

第三期 三、六〇二、〇八二円

とし、第一、第二において証拠上確実な遊興飲食税の金額すら認めていないのは証拠上明らかに誤りである。

五、原判決はその(争点に対する判断)三、小口経費についてのところで次のように認定している(判決文二〇頁)。

(イ) 「ところで、仕入経費集計表によれば、福利厚生費・交通費・交際接待費・公租公課・賃借料(都会館への支払分)の各科目は昭和四〇年一月から設定され、逆に小口経費の科目は昭和三九年一二月まで記載されており、これと右小口経費の科目にまとめて計上されていたものと認められる。」

(ロ) また、別紙(四)補足説明の小口経費の欄において(判決文四三頁)、「損金とならない法人税等が含まれていると認められるので、第一期において一三、八八〇円、第二期において二二〇、〇〇〇円を各減算した」

旨判示している。

(ハ) さらに、別紙(四)補足説明の賃借料(都会館分)の欄において(判決文四一頁)、

「月額五〇、〇〇〇円。ただし、前判示のとおり昭和三九年一二月までは小口経費中に計上されていると認め・・・」

と判示している。

しかしながら、次の諸点において右は事実誤認がはなはだしい。

(一) そもそも、小口経費というのは、常時一定の現金を会社に保管し、日常の小口の支払を現金でしていることを示す。一回の支払が当時の金でせいぜい二~三千円までのものを云う。

定期的に一定額を毎月支払うものや、金額の大きいものは小切手で支払い、銀行帳に載っているのが常識で、被告会社においても同様である。一定額の現金を会社に保管しておくことにより、円滑な支払を確保しているのであるから、金額の大きいものの支払に充てられるとその日の小口の日常支払に支障を来たすし、決った期日に定期的に支払うものに充てるのもおかしい。

(二) 交際接待費は人を招待する際の費用で、金額的には二~三万以上のものとなる訳で決して小口ではないし、また小切手による支払をするので銀行帳(当座元帳)にもあらわれており、この小口経費に含めるのは誤りである。

(三) 公租公課についても前述のように被告会社は京都銀行三条支店に納税のための準備預金を昭和三八年一一月(第一期)当初から設けており、そこから支払っていることが明らか(検甲第一四号証No.26・No.27・No.28)であるからこれを小口経費に含ましめることは誤りである。

(四) 賃借料(都会館への支払分)についても月額五〇、〇〇〇円と多額で、しかも毎月決った額であるから小口経費に含ましめるのは誤りで、銀行帳(当座元帳)にもあらわれている。

六、原判決は(争点に対する判断)三のうち芸能費および同判決別紙(四)補足説明の芸能費に関する記述部分「なお、弁護人は第二期の支払額についても争うが、甲第一四号証No.39・No.40は各期末の未払金残高確定のための集計表であって期中発生額についての正確な資料となりえない・・・」(判決文四三頁)

と判示している。

(一) しかし、右集計表は買掛帳よりひろった集計表である。買掛帳は、発生額も支払額もはっきり出ているのであるから、右説明は証拠の持っている意味を明らかにとりちがえているといわざるを得ない。

第二点 原判決には理由不備または理由にくいちがいがあり、刑事訴訟法三七八条四号の事由がある。

一、原判決はその(争点に対する判断)の別紙(四)補足説明「指名料未払分増減、給料未払金増減」の欄(判決文四一頁)において

継続的経理処理の下では、各期末の未払分は翌期において、経費として確定し計上されるのであるから弁護人の主張は失当である。

旨判示している。

これは明白に失当な理由といわざるを得ない。

(一) 売上げについては、全て発生主義がとられている。

従って、経費についても発生主義がとられるのは当り前である。

企業会計原則上当然であるし、我が国の商法も「会社の計算」の節でそのことを明らかにしている。税法についても同様で、売上げについては発生主義をとりながら経費について別の考え方をとる理由は全くない。

判決の考え方を押しすすめると、売掛金も買掛金もともになくならなければおかしい。

(二) 実質的にも、被告会社の給料は二五日締切、月末払である。二五日~三一日の分が未払となるのは当然である。

ことに、指名料は売掛金はすべて資産として計上しているのであるから、売掛に伴なって発生する指名料を対応させて計上させない理はない。

全く不合理な結論となる。

第三点

一、なお、被告会社本人から裁判所に対し是非とも説明したいことがあるとのことで、本日付「陳述書」を提出していますので是非一読賜りたい。

なお、弁護人は御庁に対し、本件が昭和四二年以来一六年の長きに亘って審理され、記録も莫大となっており弁護人も第一審の弁護人とちがい昭和五八年三月下旬に受任したことに慮み、本年三月二四日控訴趣意書を一ケ月余延長を申請しました。その延長が認められて今回の五月九日となり、その後、被告会社の方々を事務所に何度となく呼び、事情聴取を重ね今回控訴趣意書を提出したのですが、まだ充分とは云えず、追加控訴趣意書を提出する予定ですのでよろしくお願い致します。

昭和五八年(う)第二三四号

追加控訴趣意書

被告人 株式会社マンモスクラブメトロ

代表者代表取締役 太田孝

右の者に対する法人税法違反被告事件の追加控訴趣意書は次のとおりである。

昭和五八年六月二日

弁護人 林幸二

同 山崎武徳

同 家近正直

大阪高等裁判所第五刑事部 御中

第一点 原判決は、次のような事実誤認があって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、被告会社には、判決理由中「罪となるべき事実」第一ないし第三(以下、第一期・第二期・第三期という)の違法性および犯意がない。

(一) 右は以下詳細に被告会社P/Lの各項目ごとに検討した結果、第一期、第三期には所得なく、そもそも構成要件に該当せず、第二期の所得も僅少で、あえて刑罰をもって望む程度のものでなく、いずれについても違法性ならびに犯意がない。

(二) 収入の部について

判決自身「……売上高等収入面については争いがない……」旨判断され、そこに示された売上高、すし部売上高、雑収入、受取利息について弁護人は特に異論を唱えない。

(三) 支払の部の報酬給料・指名料・簿外人件費(ホステス引抜支度金等)について

売上高に対する人件費率が五〇パーセント以上であることは既提出の控訴趣意書記載のとおりである。

その内容は次のとおりとなる(第一審弁護人主張による)。

<省略>

各期とも報酬給料・ホステス引抜料支度金等(簿外人件費)・指名料の合計額は売上高の五〇パーセントとして計上した。

報酬給料と指名料の内訳は検乙第五号等によって確認できる。報酬給料および指名料売上高の五〇パーセントとの差額が、ホステス引抜料支度金等(簿外人件費)である。

原判決は、人件費割合を四五パーセントとし、報酬給料と指名料については、第一審弁護人より多額の数字を認めている。その余の数字については簿外人件費として少額認めている。その状況記せば次のとおりとなる。

<省略>

(多)とは弁護人主張よりも多額を、(同)は同額を、(少)は少額を示す)

弁護人は、原判決の報酬給料・指名料については異論を唱えるつもりはない。検乙第五号証等により証拠に基づき、より多くの数字を給われたと考えられるからである。

しかしながら、原判決は人件費総額を売上高の四五パーセントと定め簿外人件費は報酬給料・指名料との差額より計算したものである。既提出の控訴趣意で記載したとおり人件費総額を四五パーセントとする根拠はない(業界の常識として五〇パーセント)。従って簿外人件費を右額とする根拠もないといわなければいけない。

(四) 人件費のうち指名料未払分増減、給料未払分増減の項を設けるべきことについて

既提出の控訴趣意書でも説明したが、原判決の「継続的経理処理の下では、各期末の未払分は翌期において経費として確定し計上されるのであるから弁護人の主張は失当……」との判旨は、はなはだしい論理矛盾といわなければいけない。

この考え方は売掛金については発生主義、(債権主義)買掛金については結果主義(現金主義)をとることを意味する。これは健全な企業会計原則に反していることになり商法をはじめとする企業における帖簿、会計に関する規則に違反している。

現金の支出をもってのみ経費と考えるとの論理をつきすすめれば、あらゆる負債は将来現実に支払った時にのみ計上することになり、借入金など存在しえないことになる。明らかに誤りといわなければいけない。右指名料および給料の未払分は次のとおりである。

<省略>

この金額のうち給料は毎月二五日締切、月末払であるので各事業年度末の一〇月二六日~三一日の土、日間の分が計上されていないことになりそれが未払分である。

同様に指名料についても、各事業年度末の一〇月三〇日及び三一日の指名料は一一月一日および一一月二日に支払われていたことが明らかであるのでそれらも計上すべきは当然である。

給料未払については、検甲第一四号証・検甲第三二号証及び杉崎和一作成の「前貸金控除額内訳書」に基づいて計算すると次のとおりとなる。

<省略>

指名料未払については、自昭和四〇年一月一日至昭和四一年一〇月三一日の資料(検甲第一四号証三頁・四頁・九三頁)により次のとおり推定計算される。

<省略>

<省略>

(五) すし部仕入について

被告会社ではすし部は、一般の売上仕入と別に管理されている。原判決でもその点承認しているので、弁護人は特に異論はない。その内容は弁護人の昭和五五年三月二五日付意見書のとおりである。

(六) 第一期における福利厚生費、交通費、交際接待費、公租公課賃借料について

原判決はこれらを結局小口経費にまとめて計上されていると判示している。

しかし、これは二つの意味で誤まっている。第一はこの会社で小口経費となった場合、それは経費であればなんでも盛り込める性質のものを意味するのではない。まず「小口」であること、そして「現金払い」であることがこの要件である。金額の大きい支払、定期的で必ず銀行を通す支払いなどはこれに入らないこと明白である。その詳細は控訴趣意書記載のとおりである。

第二に「合理性」の追及を怠っている点である。何でも放り込める項目を設け、そこに認定にこまる経費を混入させるのはたやすい。しかし、それでは各経費の特性を生かせない。できるだけ経費内容を細分化し合理的な数字を追及したうえで積み上げていかなければ内容において説得的でないといわざるを得ない。

弁護人は福利厚生費、交通費、交際接待費について売上に対する比率を検討し、それに基づいてそれぞれの数字を提出した。

むろん、完全なものではないかも知れない。しかしこの業界では「人」的な要素が大部分のウエイトを占めている。先に人件費率について五〇パーセントといわれていることをここでも考えざるを得ない。「福利厚生・交通・交際接待」いずれも「人」的な色彩の濃いものである。従業員が増えれば増えるほど増加することはだれも否定しないであろう。売上と人件費が一定の割合(比率)でとらえられることを肯定する以上、これらのものとの間でも一定の割合を肯定する方が合理的である。

また、この対比に関し売上より他に適切なものをみいだすことができなければ、売上げによらざるを得ないと考える。

(七) 備品・消耗品・広告宣伝費について

検乙第五号は完全なものでなく、洩れなく記載され、かつ各支出が厳格に一貫した区分により各勘定科目にふり分けられている保障もない。

原判決の備品・消耗品欄の第一期と第二期を数字を比較すると第二期に比べ第一期は「補正」を考慮しても極端に少ない。これは備品・消耗品の特性からみて不合理である。同一規模のフロアーであるし、カウンターやボックスも数が固定されているのでこのような極端な変化はありえない。広告宣伝費についても同様で、第二期、第三期に比べ第一期が極端に少ない。クラブの経営は米や野菜など生活必需品を売るのとは訳がちがう。広告宣伝のもつ意味は大きい。第一期から第三期までの売上をみてその数字の状況をみると第一期の売上げのためにかようなわずかの宣伝で済むはずはない。

結局、弁護人のこれまでの主張のように売上に対する比率を計算するのが一番合理的である。

(八) 芸能費について

第二期の芸能費については、発生額も支出額もはっきりしている買掛帳よりひろって集計した結果左記のとおりと判明した。

(弁護人の昭和五七年七月一五日付意見書)

第一企画 一、九七八、〇〇〇円

総合企画センター 九、一二五、五八〇円

東芝 一八九、二二〇円

セキド 三五〇、〇〇〇円

金剛 一、〇二六、〇〇〇円

ターゲット 一、五〇一、四三〇円

カタバミ 四〇四、七四〇円

新星 二一五、一三〇円

関西芸能 六、四五三、〇〇〇円

スターダスト 一三〇、〇〇〇円

国際 九七、三四〇円

日弘 二、三一五、〇〇〇円

その他 四二、〇〇〇円

開勢館 一、一〇一、六〇〇円

合計 二四、九二九、〇四〇円

原判決はこの点につき誤った内容理解をしていることについては控訴趣意書記載のとおりである。原判決においてその内訳を詳細に検討されると弁護人と同意見になるはずである。

また、第一期についても第二期、第三期の売上高に対する芸能費の比率を各検討したうえで第一期を合理的に推算すべきである。

(九) 小口経費、表勘定支払額、社長支払経費について

小口経費の性質、被告会社の経理上の取扱については既に繰り返し述べてきたところである。

第一期については福利厚生費、交通費、交際接待費等に分類し、推定計算を行なうべきであることも既述のとおりである。いわば合理性に基づきツメれるところまではツメるべきであると考えたのである。

第二期については福利厚生費、交通費、交際接待費等の勘定科目を設定しているにかかわらず小口経費の科目の支出があったのであるからそのとおり主張する。

以上各項目についてある程度説明を加えたが、現時点での弁護人主張の各期におけるP/Lは次のとおりである。

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