大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1082号 判決
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【説明】
「二 当事者の主張
1 控訴人の請求原因
(一) 控訴人は昭和五六年四月二七日被控訴人から自動車一台(日産セドリック昭和五三年型・車台番号P三三一―〇三八六五六、以下「本件自動車」という。)を代金一四五万円で買い受け(以下「本件売買契約」という。)、その引渡を受けた。
(二) ところが、同年七月ころ本件自動車が突然動かなくなるという故障を生じたので、控訴人において修理業者に同車の点検をさせたところ、同車はそのエンジンにターボチャージャーを取り付けられない型の自動車であるにもかかわらず、これが取り付けられており、右故障の原因は右取付にあり、もはやエンジン自体を取り換える以外に修理方法のないことが判明した。
(三) そこで、控訴人は民法五七〇条に基づき被控訴人に対し、昭和五七年一月一三日付書面をもつて本件売買契約を解除する旨の意思表示をなし、右書面は同月一五日被控訴人に到達した。
(四) 控訴人は本件売買契約締結の際、国内信販株式会社との間で右売買代金の立替払契約を締結し、同社から右代金の立替払を受け、その後同社に対し、右立替額に保証委託手数料一七万二七四四円及び利息一七万五二五六円を加えた合計一七九万八〇〇〇円を毎月分割払で弁済している。
(五) したがつて、控訴人は、本件売買契約の解除に基づき、被控訴人に対し、国内信販株式会社が被控訴人に立替払した一四五万円の返還請求権を取得するとともに、同社に支払うべき前記保証委託手数料及び利息合計三四万八〇〇〇円について、これと同額の損害賠償請求権を取得した。
(六) よつて、控訴人は被控訴人に対し、瑕疵担保責任に基づき一七九万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年四月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
【判旨】
一まず、請求原因(一)及び(二)について判断する。
1 請求原因(一)の事実及び同(二)の事実中本件自動車のエンジンにターボチャージャーが取り付けられていることは、当事者間に争いがない。
2 控訴人は、請求原因(二)において、右ターボチャージャーの取付が本件自動車の故障の原因となつている旨主張するので、この点について検討する。
(一) <証拠>によると、ターボチャージャーは、これをエンジンに取り付けると出力が増大するのに伴つてエンジンの負担も増大するので、右負担に耐えられるように設計して製造されたエンジンに取り付けなければならず、これを普通のエンジンに取り付けたときは、その性能に注意して右負担が増大しないよう慎重な運転をする必要があるのであつて、右配慮をなすことなく通常の運転をするときは、エンジンについて故障を生ずる可能性の大きいことが認められる。
(二) 次に、<証拠>によると、本件自動車は、そのエンジンにターボチャージャーを取り付けることを予定して製造されたいわゆるターボ車でなく、普通のエンジンを積載して製造された自動車であることが認められ、この認定に反する証拠はない。
(三) 以上認定の各事実によると、本件自動車のエンジンにターボチャージャーを取り付けることは、その運転に特段の注意を払わない限り、故障の原因となるものであつて、これを取り付けた同車を売買することはその目的物に瑕疵があるものということができる。
二そこで、抗弁について判断する。
1 抗弁(一)について
(一) <証拠>によると、次の事実が認められる。
(1) 本件自動車は、控訴人の長男である正次が買い受けたものであるが、代金の支払を国内信販株式会社のローンを使用した関係で買受名義人を控訴人とした。
(2) 正次は、昭和五六年四月三〇日に自動車の運転免許を受けたものであるが、同年二月末ころから購入する自動車に関心を持ち、友人の山田道雄が勤務していた中古自動車の販売業を経営する被控訴人方に来て中古自動車の購入方を申し込んでいた。
(3) 正次は、当時若者の間で人気のあつたターボチャージャーを取り付けた日産セドリックの中古車の購入を希望し、被控訴人に注文していたため、被控訴人は正次の右希望に沿うよう二、三の業者にあたつているうち、本件自動車が見付かつたので、同年三月中旬ころこれを正次に見せたところ、同人は同車のエンジンルームを調べ、エンジンにターボチャージャーが取り付けられていることを確認し、希望の車が入手できたことに満足しこれを買い受けた。
<反証排斥略>
右認定事実によると、正次は本件自動車を買い受けるにあたり、同車が日産セドリックの普通車で、そのエンジンにターボチャージャーを取り付けたにすぎないものであることを知つていたことを推認することができる。
(二) ところで、控訴人は、仮に正次が本件自動車のエンジンにターボチャージャーの取り付けられていることを知つていたとしても、右取付によつて自動車の故障を誘発する原因となることまでは知らなかつたのであるから、同車には民法五七〇条所定の隠れた瑕疵がある旨主張するので判断するに、売買において買主がその目的物の欠陥によつて価値又は使用適性に消滅又は減少を来たしていることを知らなかつた場合においても、隠れた瑕疵があるものというべきであるところ、本件自動車のエンジンにターボチャージャーを取り付けたとき特別の注意をもつて運転しない以上、故障を誘発する虞のあることは既に認定のとおりであるが、右ターボチャージャーの取付によつて故障を誘発する虞があり、したがつて同車の価値又は使用適性に減少を生ずることまでも正次が知つていたものとは、これを認めるに足りる証拠がないから、右主張は理由があるものといわなければならない。
(三) したがつて、抗弁(一)は採用することができない。
2 抗弁(二)について
(一) 被控訴人は、正次が本件自動車のエンジンにターボチャージャーを取り付けることによつて故障を誘発する虞のあることを知らなかつたとしても、これを知らなかつたことについては過失があるから、本件自動車には隠れた瑕疵がない旨主張するが、右過失の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。
(二) かえつて、原審における被控訴人本人尋問の結果によると、中古自動車の販売業者である被控訴人でさえも、本件自動車のエンジンにターボチャージャーを取り付けることによつて故障を誘発する虞のあることを知らなかつたものと認められるから、通常の買主にすぎない正次がこれを知らなかつたとしても、同人に過失はなかつたものというべきである。
(三) したがつて、抗弁(二)も採用できない。
3 抗弁(三)について
(一) <証拠>によると、正次は本件自動車を買い受けたのち、約半年間乗り回し、その間被控訴人の責任で修理をした際、同人から使用上の注意を与えられていたものであるが、ターボチャージャーの取付に基因する故障とは関係なく、ハンドルを取り外し、左右の前タイヤ、左の後タイヤを入れ替え、車高を低くして暴走族向きの仕様とし、カーステレオのスピーカーを外し、マフラーの半分を脱落させるほか、車体の外側数箇所に傷を付け、廃車同様の姿にしてしまつている事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(二) 右認定事実によると、控訴人は、同人又は正次の責任において本件自動車の前記瑕疵とは関係なく同車を著しく毀損してその返還を不能にしているものということができるから、同車に隠れた瑕疵のあることを理由に本件売買契約を解除する控訴人の権利は既に消滅しているものと認めることができる。
(三) したがつて、抗弁(三)は理由があるものというべきである。
三してみれば、本件売買契約の解除を前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却すべきである。
よつて、これと結論において同旨の原判決は結局相当で、本件控訴は理由がないから民訴法三八四条によつてこれを棄却す<る。>
(石井玄 高田政彦 礒尾正)