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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1150号 判決 1986年8月27日

第一一〇一号、第一一九六号被控訴人・第一一五〇号控訴人(原告) ハンコウ興産株式会社 外一名

第一一〇一号控訴人・第一一五〇号被控訴人(被告) モノレール工業株式会社 外一名

第一一九六号控訴人・第一一五〇号被控訴人(被告) 野村貿易株式会社

原審 大阪地方昭和五二年(ワ)第五六八六号・昭和五六年(ワ)第六四五七号(昭和五八年五月二七日判決、一五巻二号四二九頁参照)

主文

(第一一〇一号、第一一九六号事件につき)

原判決中、第一審被告ら敗訴部分を取り消す。

第一審原告らの請求(当審における拡張部分を含む。)を棄却する。

(第一一五〇号事件につき)

第一審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。

(全事件を通じ)

訴訟費用は一、二審とも第一審原告らの負担とする。

事実

一  申立

1  第一審原告ら

(第一一五〇号事件につき)

(一) 原判決中、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審被告モノレール工業株式会社は、原判決添付別紙「被告装置(二)の図面及び説明書」記載のゴルフコース用ゴルフバツク搬送循環軌道装置を製造・販売してはならない。

(三) 第一審被告モノレール販売株式会社及び同野村貿易株式会社は、前項のゴルフコース用ゴルフバツク搬送循環軌道装置を販売してはならない。

(四) 第一審被告モノレール工業株式会社及び同野村貿易株式会社は、各自第一審原告ハンコウ興産株式会社に対し金七二二七万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五六年九月二二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(五) 第一審被告モノレール工業株式会社は、第一審原告横山宏史に対し金六九〇一万五一六六円及びこれに対する昭和五二年一〇月二〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員(同日から昭和五六年九月二一日までの分は当審における拡張部分)並びに金一〇七〇万六八三四円に対する昭和五二年一〇月二〇日から同五六年九月二一日まで年五分の割合による金員(当審における拡張部分)を支払え。

(六) 第一審被告モノレール工業株式会社は、第一審原告ハンコウ興産株式会社に対し金五五二六万五八〇〇円及びこれに対する昭和五六年九月二二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(七) 訴訟費用は一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(八) 仮執行の宣言。

(第一一〇一号、第一一九六号事件につき)

(一) 本件控訴をいずれも棄却する。

(二) 控訴費用は第一審被告らの負担とする。

2  第一審被告ら

(第一一五〇号事件につき)

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告らの負担とする。

(第一一〇一号、第一一九六号事件につき)

(一) 原判決中、第一審被告ら敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審原告らの請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は一、二審とも第一審原告らの負担とする。

二  主張

次のほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(一)  原判決六枚目表九行目末尾(編注、一五巻二号四三四頁一行目「九番ホール」の次)に「または一〇番ホールから一八番ホール」を加える。

(二)  同一二枚目表一行目(同上、四三七頁一六行目)の「右同日」を「訴状送達の日の翌日である昭和五二年一〇月二〇日」に改め、同行目の末尾(同上、四三七頁一六行目「遅延損害金」の次)に「(同日から昭和五六年九月二一日までの遅延損害金は当審における拡張部分)」を加える。

(三)  同一四枚目表末行目(同上、四三九頁八行目)の「搬送用モノレール」を「搬送モノレール装置」に改め、同裏三行目(同上、四三九頁九行目)の「従来」から同四行目(同上、四三九頁一〇行目)の「手段を、」までを「小型貨物(肥料・各種小型資材・収獲みかんなど)の運搬につき従来人力に頼ることが多く、また機械化したものとしては傾斜地上に設けた枕木の上にレール二本を平行状に固定したうえ、ウインチによつて操作する曳索によつてレール上のトロツコ型搬器を上下走行させるセミコースター(乙第一三号証の一・二、昭和四一年四月一日発行機械化農業)しかなかつたのであるが、昭和四一年一〇月」に、同六行目(同上、四三九頁一〇行目)の「搬送用モノレール」を「搬送モノレール装置」にそれぞれ改める。

(四)  同一五枚目裏一行目(同上、四三九頁末行)の「その」の次に「前後左右への」を加える。

(五)  同一六枚目裏一一行目(同上、四四〇頁一八行目)の「宣伝され」を「その汎用性が考えられており」に改める。

(六)  同一七枚目裏八行目(同上、四四一頁一〇行目)の「資材を」の次に「降して所要の作業をし終えると補修用資材を」を、同九行目(同上、四四一頁一〇行目)の「前進させ、」の次に「爾後」を加える。

(七)  同一八枚目表二行目(同上、四四一頁一三行目)から二〇枚目裏七行目(同上、四四三頁八行目)までを左記のとおり改める。

「2 『支柱上に、‥‥‥軌条を敷設し』の意味

本件考案において『支柱上に、‥‥‥軌条を敷設し』とは本来の字義どおり、また図面に示すとおり、支柱の上端面において軌条を支持し、軌条の直下に支柱が存する構成を指称し、それ以外の支持構造を含まないものと解すべきである。このことは、次の(一)ないし(四)のいずれの論拠によつても、合理的に帰結しうる。

(一) 右1のとおり、公知技術たる小型貨物搬送モノレール装置は、あらゆる各種小型貨物を搬送するために使用されるべきものとしてすでに考えられており、その利用範囲は無限である。環状に配置されているゴルフコースに沿い環状モノレール装置を敷設してゴルフバツクの搬送に用いるということは、従来公知の小型貨物搬送モノレール装置についてその利用対象をゴルフコースにおけるゴルフバツク搬送に特定しただけのことに帰着し、そこには創作的要素の入る余地が全くないのであるから、自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえず、技術的思想としてなんらの新規性も進歩性も存しない。したがつて、本件考案における「支柱上に、‥‥‥軌条を敷設し」との文言の本来の字義を拡張解釈することによつて本件考案の技術的範囲に公知の軌条支持構造をも包含せしめることは、実用新案法のもとにおいて合理性を欠くものとして許されない。

(二) 前1(六)記載のとおり、ゴルフコースに沿つて立設した多数の支柱の上部の一側方で、支柱と一定の間隔を置いて軌条を水平方向のボルトで支持した小型貨物搬送モノレール装置が設置され、軌条上を走行する自走車輛に芝生や補修用資材を積載し、公知の発進停止装置を用いて軌条上の所望の場所に随時これらの積載物を積みおろしすることは、本件考案の出願当時における公知技術である。右公知技術たる小型貨物搬送モノレール装置について、これにゴルフバツクを積載することとし、環状に配置されているゴルフコースに沿つて環状軌条を敷設することは、公知技術そのものかあるいは公知技術から極めて容易に推考しうる自由技術に属する。けだし、機械装置はすべて五感によつて認識しうる一面的な性質(属性)を有するに過ぎず、その属性の認識が直ちにその属性に着眼した各種用途への利用につながるため、一面的な既知の属性の認識と各種の利用対象とは密着しており、両者の間に創意的要素が入る余地がないからである(特許法・実用新案法上、機械装置についての用途発明・用途考案が認められないのは、この理由による。)。したがつて、機械装置である小型貨物搬送モノレール装置について、ゴルフコースに沿つて敷設せられた公知の小型貨物搬送モノレール装置をゴルフバツク搬送用として利用すること自体は、公知技術そのものか公知技術から極めて容易に推考しうる自由技術に該当する。

ところで、実用新案の技術的範囲を確定するに当つては、公知技術又はこれから極めて容易に想倒しうる技術、すなわち自由技術についてまで技術的範囲を及ぼしてはならず、しかも右公知技術・自由技術には均等論適用による拡大解釈をすることは許されない。

右の理由により、本件考案において『‥‥‥支柱上』とは、右に述べた自由技術を除外した構成、すなわち『支柱上』という文言の字義どおり、又は本件実用新案公報の第3図にも示すとおり、軌条が支柱の上端面によつて支えられている構成のみを意味し、朝倉パブリツクコースに沿つて敷設されていた小型貨物搬送モノレール装置のように、支柱の上部の一側方で支柱と一定の間隔をおき水平ボルトで軌条を支持する構成のものは、「支柱上」に含まれないものというべきである。

(三) 小型貨物搬送モノレール装置は、省力性、安全搬送性、設置幅の狭小性、地上物に対する非干渉性等につき有利な構造によつて小型貨物の搬送を可能とするという一面的な既知の属性を有するに過ぎず、たんなる機械装置として他に新しい属性を有しないから新しい属性の発見ということはありえない。また、小型貨物搬送モノレール装置が有する右属性の五感による認識が直ちにその属性に着眼した各種利用対象につながるのであつて、右属性の認識とその属性に着眼した各種利用対象との間には創作的要素の入る余地が存しない(乙第一二号証の二、日本工業新聞)。

本件考案はゴルフバツグ搬送モノレール装置に関するものであるが、朝倉バブリツクのゴルフコースに沿つて立設した多数の支柱の上部の一側方で、支柱と一定の間隔を置いて軌条を水平方向のボルドで支持した小型貨物搬送モノレール装置につき、環状に配置されているゴルフコースに沿つて環状モノレール装置を敷設してゴルフバツグの搬送に用いるということは、従来公知の小型貨物搬送モノレール装置についてその利用対象をゴルフコースにおけるゴルフバツグ搬送に特定しただけのことに帰着し、そこには創作的要素の入る余地が存しないこととなる。

したがつて、本件考案の技術的範囲を確定するに当つては、ゴルフコースに沿つてゴルフバツクを搬送するモノレール装置の構造につき、従来公知の小型貨物搬送モノレール装置の構造に対して傾斜がゆるく長大なゴルフコースに適応しうるように創作を加えた新規な構成を必須構成と考えるのでなければ、たんなる用途考案が成立しえない機械装置であり、また創作的要素も存しないゴルフバツク搬送のための小型貨物搬送モノレール装置一般について広く独占権を許容する法解釈に陥ることとなつて、実用新案制度上許しがたい不合理な結果を招来する。

すなわち、本件考案における『‥‥‥支柱上に、‥‥‥軌条を敷設し』とは、『支柱上』という文言の字義どおり、また本件実用新案公報3図に示すとおり、支柱の上端面において軌条を支持し、軌条の直下に支柱が存する構成のみを指称し、朝倉バブリツクのゴルフコースに沿つて設置使用せられていた従来公知の小型貨物搬送モノレール装置における支柱による軌条の支持構成は、『支柱上』の概念に含まれないものというべきであるし、右構成のものは均等論適用による拡大解釈からも除外されるべきである。

(四) 前記公知技術に照らすと、環状に配置されたゴルフコースに沿つて環状のモノレール装置を設置してゴルフバツグの搬送に用いるということには、なんらの新規性・進歩性がない。

ところで、前記のとおり、本件考案の出願時に公知であつた小型貨物搬送モノレール装置は、すべて支柱の一側方において支柱と間隔を置いて軌条を支持するタイプのものであり、このタイプのものは支柱や取付部材に対してレール・自走車の重い荷重が偏荷重として作用する短所を有していた。ゴルフ場のコースに沿つてモノレールを敷設する場合は、みかん山に比べると、地表面がほぼなだらかなために軌条の地上高さを随所で調節する必要がほとんどなく、総延長距離の長いゴルフコースに右のような従来技術の軌条を敷設するとすれば、偏荷重の問題を解決するに要する支柱の本数もかなり増大することとなる。

そこで、本件考案は、ゴルフコースにおけるゴルフバツグ搬送のためのモノレール装置に関し、『支柱上に、‥‥‥軌条を敷設』する構成として明細書第3図の実施例図のとおり支柱上面端部において軌条を支持する構成をとることとし、これによつて出願時公知であつた従来技術の短所である偏荷重の問題を解決するとともに、この構成の軌条をゴルフコースに沿つて敷設することにより小型貨物搬送モノレール装置が本来有する省力性・安全搬送性・設置幅の狭小性・地上物に対する非干渉性という一般的特性にもとづく明細書記載の作用効果を奏するとしたものである。

したがつて、前記『支柱上に、‥‥‥軌条を敷設し』の意義に関し、『支柱上』という文言の字義を拡張解釈したうえ、朝倉パブリツクのゴルフコースに沿つて設置使用せられていた従来公知の小型搬送モノレール装置における支柱による軌条の支持構成に本件考案の技術的範囲を及ぼしめる解釈をすることは、実用新案法解釈上合理性を欠くものというべきである。」

(八) 同二一枚裏七行目(同上、四四三頁末行)の「側方」の前に「前後方向及び」を加え、同八行目(同上、四四三頁末行)の「構造である」から同一一行目(同上、四四四頁三行目)末尾までを「構造であり、簡便確実な手段によつて自走車輛を軌条上に確実に支持して安全走行させることができず、そのための特別の技術手段が必要となる。」に改める。同一二行目(同上、四四四頁四行目)の「一方本件考案は、」及び同行目(同上、四四四頁四行目)の「戴置」を削る。

(九) 同二二枚目表九行目(同上、四四四頁九行目)の「モノレール」を「小型貨物搬送モノレール装置」に、同裏一一行目(同上、四四四頁一七行目)の「方法」を「という簡便確実な手段」にそれぞれ改め、同一二行目(同上、四四四頁一七行目)の「自走車」から同末行目(同上、四四四頁一八行目)の「反面」までを「自走車の軌条上からの転倒防止を確実にすることができ」に改める。

(一〇) 同二三枚目裏一二行目(同上、四四五頁九行目)から同二四枚目表一行目(同上、四四五頁一〇行目)までを左記のとおり改める。

「(3)ゴルフ場の管理上も、モノレールの敷設の有無に関係なく芝刈車輌の走行等所要の管理をなしえ、ゴルフ場の管理が迅速容易となる。」

(一一) 同二四枚目裏四行目(同上、四四五頁一八行目)の「方法」を「という簡便確実な手段」に改め、同五行目(同上、四四五頁一八行目)の「自走車」から同六行目(同上、四四五頁一九行目)末尾までを「自走車の軌条上からの転倒防止を確実にすることができ、傾斜地においてもスリツプすることが少なく、走行状態が安定している。」に改める。

(一二) 同二五枚目裏二行目(同上、四四六頁一〇行目)の「点において」の次に「支柱による軌条支持に関して」を加え、同一〇行目(同上、四四六頁一三行目から一四行目にかけて)の「緊締挟持方式を採る」を「軌条上下全面の緊締挟持方式という簡便確実な手段によつて自走車輌の前後方向及び側方への転倒防止を確実にすることができる」に改め、同一二行目の冒頭(同上、四四六頁一四行目「結果」の次)に「簡便確実な手段によつて自走車輌の安全走行を確実にすることができず、そのための特別の技術手段が必要となり、軌条に対する自走車輌の支持形態の著しい相違というモノレールの基本機構にまで大きく影響を及ぼし、」を加える。

(一三) 同二六枚目裏五行目(同上、四四七頁五行目)の「(二)の軌条(2)は」を「(二)においては」に改め、同九行目(同上、四四七頁六行目)の「使用し、」から同一〇行目(同上、四四七頁七行目)の「いる点、」までを「使用して軌条(2)を支持させている点及び軌条(2)は」に改める。

(一四) 同二七枚目表一行目(同上、四四七頁八行目)の「設け」の次に「、U字溝(5)の溝内において地表面(グランドレベル)とほぼ同レベルに敷設され」を加え、同四行目(同上、四四七頁一〇行目)の「地域の軌条(2)は、」を「地域においては、」に改め、同六行目(同上、四四七頁一一行目から一二行目にかけて)の「高さに」の次に「軌条(2)を」加え、同一一行目(同上、四四七頁一四行目)の「モノレール」から同一三行目(同上、四四七頁一四行目)の「使用されている」までを左記のとおり改める。

「軌条(2)は、土中に埋設されたU字溝の側壁によつて支持されていて軌条上面がU字溝内のほぼグランドレベルに敷設されている」

同裏四行目(同上、四四七頁一八行目)の「優れている」から同五行目(同上、四四七頁一八行目)の「コース」までを左記のとおり改める。

「非常に優れているのみならず、自走車輌の転倒の確実な防止を確保するについて上下車輌により軌条上下面を全面的な緊締挟持するという簡便確実な手段によることができ、被告装置(二)のうち構成B′IIの支柱立設地域では、軌条を支柱の上下方向に対して調節自在となしえて軌条の敷設、保守管理作業が著しく容易であるという数々のすぐれた作用効果を奏する反面、全コース」

同八行目(同上、四四七頁一九行目から二〇行目にかけて)の「数量を、」から同一五行目(同上、四四八頁二行目)の末尾までを左記のとおり改める。

「数量を、著しく増大させるという欠点を有している。これに対し、本件考案では、コースに沿つて敷設される長大な軌条を支持させるための支柱の数量をかなり少なくしうるというすぐれた長所を具有する反面、ゴルフプレーヤーのプレーと比較的密接な地域においてことに軌条装置の存在がプレーの障害となるのみならず、軌条装置をフエアウエイからできるだけ離して設置しなければならないためゴルフクラブの出し入れとその使用に不便であり、軌条装置がゴルフ場の芝生管理等の障害となるほか、簡便確実な手段によつて自走車輌の転倒防止を確保することができないこととなつて、そのための特別の技術手段が必要となり、また軌条の敷設・保守管理が容易でない点において、両者の作用効果上も著しく相違する。」

(一五) 同二九枚目裏末行目(同上、四四九頁八行目)の「異にし、」の次に「即ち、前者は上下二段レールを駆動輪とサイドローラーで抱持した跨座式のもので、バツテリー二四キログラムであるのに対し、後者(被告装置(一))は支柱の上部付近の一側方に設けられた一本の角レールを上下の車輪をもつて軌条の一側方から軌条の上下面に緊締挟持する挟持式のもので、バツテリー三二キログラムであり、なお後者は単軌条の支持装置に関する実用新案権者(乙第六号証)より第一審被告モノレール工業株式会社が実施許諾をえているのであり、」を加える。

(一六) 同三〇枚目表二行目(同上、四四九頁九行目)の「システム」の次に「ないしゴルフコース用ゴルフバツク搬送装置」を加え、同七行目(同上、四四九頁一一行目)と八行目(同上、四四九頁一二行目)との間に次のとおり挿入する。

「もともと、本件考案は支柱と軌条よりなる搬送循環軌道装置が権利内容であつて、自走車輌であるカートやターンテーブル、カート格納装置、自動停止装置等は本件権利の実施とは無関係な装置であるから、これらの分は販売利益の対象にできない筈である。試みに、被告装置(乙第三三号証の一ないし四)を五部門に分類すれば、カート関係三六パーセント、レール関係四〇パーセント、特殊施設関係一〇パーセント、カート格納関係六パーセント、諸経費関係八パーセントであるから、右レール関係に対応する実施料相当額以上のものではないというべきである。」

(一七) 同三一枚目表一二行目(同上、四五〇頁七行目)及び同裏一行目(同上、四五〇頁八行目)の「全額」を「金額」に改める。

(一八) 同三六枚目表二行目(同上、四五三頁七行目)と三行目(同上、四五三頁八行目)との間に左記のとおり挿入する。

「本件考案に対する無効審判請求事件の審決においても、第一審被告らの主張はすべて排斥されている(甲第三九号証)。即ち右審決は、そこで審究するに、まず本件登録実用新案の目的は『ゴルフコースに植成された芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いてゴルフバツクを運搬すること』であり、すなわちゴルフのプレーではゴルフバツクをプレヤーに随伴させなければならないが、カートを使用すると折角育成した芝生が損傷するので、これを損傷しないで搬送するにはどうしたらよいかとの発想から、本件登録実用新案の多数の支柱上に自走車輌を走行させる軌条を敷設した軌条運搬装置、すなわちモノレール式の運搬装置の利用が考えられたものと認められる。したがつて、本件登録実用新案のモノレール運搬装置の作用効果の判断に際しては、単に運搬機能面のみから検討すべきでなく、カート運搬手段との比較のもとに、ゴルフ場で使用したときの効果を判断すべきものである。と判示した上、請求人の提出した各甲号証に検討を加え、したがつて、本件登録実用新案がモノレール運搬装置をゴルフバツク搬送に用いることにより、請求人の主張するようなモノレール本来の効果のみでなく、ゴルフ場特有の顕著な効果を奏する以上、単なるモノレール用途の限定とはいえず、たとえその出願前にゴルフ場などで貨物運搬のためのモノレール装置が公知であり、また循環状のモノレールやカート専用道が公知であつても、これらに基づいて当業者が本件登録実用新案の技術的課題及びその全体構成を極めて容易に予測できたとは認め難く(本件考案を知つた上での判断であつてはならない)、結局、本件登録実用新案を甲各号証に記載のもとのと同一考案、またはこれらに基づいて極めて容易に考案をすることができたものと認めることができない。」と認定している。」

(一九) 同六五枚目裏六行目(同上、四七四頁三行目)の「または」の次に「一〇番ホールから」を、同行目(同上、四七四頁三行目)の「循環して」の次に「おり、テイグランドからグリーンまでのプレイグランド内容及びプレイグランドに隣接するOB杭外の地域(プレイグランド外の地域)並びに各ホール間の連絡通路において」をそれぞれ加える。

(二〇) 同六九枚目表(同上、四七八頁)の第4図を本判決添付の第4図(別紙(二))に改める。

(二一) 同七一枚目裏三行目(同上、四八〇頁二行目)の「密接でない地域において、」を「密接な地域を除いてテイグランドからグリーンまでのプレイグランド内及びプレイグランドに隣接するOB杭外の地域(プレイグランド外の地域)並びに各ホール間の連絡通路において」に改める。

(二二) 同七五枚目表(同上、四八六頁)の第4図を本判決添付の第4図(別紙(三))に改める。

2  当審における主張

(一)  第一審原告ら

(1) 本件実用新案の権利範囲

(イ) 権利範囲の解釈

最高裁判所昭和三九年八月四日判決に、「実用新案の権利範囲を確定するにあたつては『登録請求の範囲』の記載の文字のみに拘泥することなく、すべからく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである」とある如く(民集一八巻七号一三一九頁)、実用新案の権利範囲を解釈するには、当該考案が何を目的とするものであるか、その目的を達成するためにどのような手段が用いられているかを、出願当時の当業界における技術水準下に検討しなければならないのである。これは、通常、考案における「課題」とその「解決手段」と呼ばれており、

(a) 「課題」が先行技術と同じであつても、その「解決手段」が異なれば、それは、その「課題」の「解決手段」として新規な技術的思想の創作であり、

(b) 或る考案において用いられる「解決手段」が先行技術におけるそれと同じであつても、当該考案において解決せんとしている「課題」が先行技術におけるそれと異なれば、それは、その「課題」の「解決手段」としては、新規な技術的思想の創作なのである。

そして、説明書および添付図面全般の記載の検討においては、「考案の性質、目的を勘案して実質的に考案の要旨を認定しなければならない」のであるから、説明書記載の字句に拘泥することなく、考案の性質、目的に沿うように、当業界の常識の下に、合理的に解釈すべきことは云うまでもない。

(ロ) 本件考案は、カートによる従来のゴルフバツク搬送の欠点を除去することを目的とするもので、芝生を損傷せず、人手を省いて安全確実にゴルフバツクを搬送するため、モノレールシステムを利用しているのである。

この「課題」と「解決手段」について本件登録請求の範囲の記載を、

(a) 小型貨物搬送手段としてのモノレール装置に関する知識

(b) ゴルフは、あるがままの状態の球をプレーするものであるから、プレーグランド内における人工構築物の設置は極力避けなければならないとのゴルフ常識

(c) ゴルフ場の多くは、起伏のある地形で、谷や川の存在するものである事実の下に解釈すれば、「ゴルフコースに沿つて立設した多数の支柱上に、自走車輌を巡回走行させる軌条を敷設する」

とある支柱の立設個所は、大まかな意味で「ゴルフコースに沿つた場所」であり、プレーグランド内に限定されるものでも、プレーグランド外に限定されるものでもなく、また、地表上に垂直に立設するものに限られるものでもないことが明らかである。

すなわち、地形に応じて、プレーグランド内の側方に立設することも、プレーグランドに沿つたその外側に立設される場合もあるし、プレーグランドを或る程度離れた場所に立設されることもある。さらに、谷や川の橋の橋桁の側方に取付部材によつて軌条を取り付ける場合も考えられ、この場合は地表上に垂直に立設する支柱は存せず、軌条を保持するものは、橋梁の橋桁及び取付部材で、支柱に該当するものは取付部材ということになる。

また、支柱は軌条を中空に保持するためのものであるから、「支柱上に軌条を敷設する」とは、支柱の上端面であらうと、支柱上方の側面であらうと、それらは単なる設計上の微差にすぎないことも明らかである。

したがつて、本件実用新案の要旨は、以上の意味における「ゴルフコースに沿つて立設した支柱」によつて保持される軌条がゴルフコースを巡回一周し、該軌条上を自走車輌が走行するようになした、ゴルフバツク搬送循環軌条装置なのである。

本件考案と比較すべき公知技術は、「ゴルフコースにおけるゴルフバツク搬送方法」なのであるから、そして本件考案出願当時の「ゴルフコースにおけるゴルフバツク搬送方法」は人力による「手押しカート」或いは「電動カート」によるものであるのに対して、本件考案は支柱上の軌条を走行する自走車輌によるものであるから、本件考案には除外すべき何らの公知技術も存しないことが明らかである。

(ハ) 第一審被告らの用途考案であるとの主張は、本件考案における結論(モノレール装置の利用という解決手段)を知つた上で、この解決手段と課題とを結びつけた立論であつて論理が逆であり、まさにコロンブスの卵である。

いうまでもない事ながら、考案(発明)は、「解決すべき課題」とその「解決手段」として理解しなければならず、本件において解決せんとしている「課題」は従来のカートによるゴルフバツク搬送手段の欠点の除去であり、その「解決手段」がモノレール装置の利用なのであるから、その新規性・進歩性の検討は、従来のゴルフバツク搬送装置の欠点及びその除去という「課題」の面より出発しなければならず、これの「解決手段」としてのモノレール装置の特性の面より出発すべきではない。

また、「課題」の解決は、すべて、その解決手段の有する特性によるものであるから、第一審被告らの論法を以つてすれば、すべての考案・発明は、その「解決手段」の有する特性の利用対象の限定にすぎないこととなり、第一審被告ら主張の立論の誤れることは明らかである。例えば、或る炸薬によつて岩石を粉碎する方法が公知であつても、当該炸薬を用いて人体膀胱内の結石を粉碎する方法は、膀胱結石の除去方法として新規な発明であり、これを以つて、当該炸薬の新たな用途の発見であるとか、利用対象の特定にすぎないとか、評価すべきでないことは明らかである。

そして、本件考案出願当時のゴルフ業界においては、従来のカートによるゴルフバツク搬送方法に満足しており、その機能的欠点についての認識や将来のキヤデイ不足や人件費高騰に対する展望にかけていたため、新しいゴルフバツク搬送手段開発の必要性に迫られておらず、少なくともそのことを公に提唱する者はいなかつた。ただカートの重量が増加するにつれて、芝生の損傷の問題が深刻化し、その対策についての検討が行われたが、本件考案出願と前後してカート専用路を設置するゴルフ場が出現したにすぎず、カートによる搬送を他の機械的手段に置き換えてみようとの機運は生じていなかつた。

なお、右のカート専用路による方法と本件考案の装置とは、芝生保護の点では同様であるが、省力及び安全確実性の点において本件装置が遥かに優つており、また、本件装置において、U字溝を設ける場合であつても、その幅員は二四~三〇センチメートルであつてカート専用路の一二〇~五〇センチメートルに比してはるかに狭く、幅の狭いホールにおいても設置しうる利点を有している。

(2)(イ) 被告装置(二)は、オープン方式とU字溝方式とを組み合わせて設置されるものであるところ、U字溝方式は支柱がU字溝側璧の外側に埋設されている点においてオープン方式と支柱の立設形態を異にするが、該支柱によつて軌条を保持する方法形態においてオープン方式と異なるところはなく、従つて本件実用新案権の構成と均等ないしその利用(改良)である。

即ち、U字溝方式の図面ではパイプ(16)、オープン方式の図面では支柱(5)と説明されているが、両者は全く同一の物であり、U字溝方式でも軌条を保持しているのはオープン方式と同様に支柱に外ならない。U字溝の側璧だけでは一二五キログラムを超える自走車の走行する軌条を支えることはできないことからみても明らかである。

そして、支柱をU字溝内に設けるとすれば、支柱の立設されている地面はU字溝底に該当することになる。この関係は、別紙添付図面の説明及び図面についての考案並びに第1図ないし第8図記載のとおりである。

U字溝方式とオープン方式とで本件考案の課題・解決手段・作用効果を基本的に(美観の点を除き)異にするものではないというべきである。

(ロ) 被告装置(二)は、その大部分がオープン方式で設置されるのであり、かつオープン方式とU字溝方式とは軌条を支持する支柱の設置形態に若干の相違があるだけで、支柱に支持された軌条はゴルフコースを循環一周しており、自走車輌はこの軌条上を走行してゴルフコースを循環一周するものであるから、部分的・補助的にU字溝方式が存在しても被告装置(二)を全体として観察すれば、本件考案の課題と解決手段を具備するもので、これが本件実用新案権の権利範囲に属することは明らかである。

U字溝方式は必要不可欠のものではないし、まして、プレーと比較的密接な地域にU字溝方式が必要であるとはいえない。

(ハ) ゴルフコース内に立設した支柱に限るとする第一審被告らの主張は、自白の撤回であつて許されない。それが権利範囲の解釈の変更であるとしても禁反言の法理が働くというべきである。

ゴルフコースに沿つて立設した支柱という場合の立設したという要件は、地表上に支柱を突出させて立設したというように限定解釈すべきものではないし、ゴルフコース外に立設されたものを含まないと限定することを意味しない。

本件実用新案権公報に実施例として示されている第二図、第三図には支柱は地表上に突出するように立設されているが、これは支柱と軌条の関係を示すためのものであり、ゴルフコース外に立設されたものを含むことは本件考案が各ホール間の連絡通路等を含めた広い意味のコース内には芝生を必要としない部分のあることを前提にしているからである。

(二)  第一審被告ら

(1) 本件考案の技術的範囲を確定するにあたり、公知の小型貨物搬送モノレール装置の転用即ち新たな用途の発見に考案性を認めるべきものではない。蓋し右の機会装置に関する用途考案は自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しない(実用新案法二条一項、三条一項本文参照)からである。第一審原告ら主張の最高裁判決も限定解釈すべきことを判示しており、登録請求の範囲の項に記載されていない考案は、仮に明細書中に記載されていても実用新案権の保護範囲に含められるべきものではなく、登録請求の範囲の項に記載されていても、明細書中に考案として開示されていない技術は実用新案権の保護範囲に含められることがあつてはならないという実用新案権法解釈の基本原則を前提にしていることが明らかである。

従つて、本件考案の技術的権利範囲については、用語を拡張的に解釈することは許されず、文言の意義については字義どおりの趣旨に限定解釈し、更に文言の意義を実施例の記載どおりのものに限定して解釈すべきである。

(2)(イ) U字溝方式におけるパイプ(16)は、軌条(2)を支えるものではない。軌条(2)を支えるのはU字溝(5)自体である。パイプ(16)は、U字溝が土圧の変化によつて移動することを防止する補助部材にすぎない。

(ロ) 被告装置(二)のU字溝方式は、ゴルフプレーヤーのプレイと比較的密接な重要地域に限つて相当広範囲に設置されるうえ、U字溝方式部分とオープン方式部分とは、どちらが欠けてもゴルフコースにおけるゴルフバツクの搬送装置として全く機能しないので、両方式部分のいずれもが必須不可欠である。U字溝方式が部分的・補助的であるとはいえない。

(ハ) ゴルフコースに沿つて立設した多数の支柱とは、全ゴルフコースにわたつてゴルフコース内(プレイグランド内)に立設した多数の支柱を意味する。ゴルフ規則上ゴルフコースとはプレーが許されている全地域をいうからである。右につき第一審原告らは、自白の撤回にあたり、禁反言の法理が働くと主張するが、自白していないのみならず、右は本件考案の技術的範囲の要件をどのように理解すべきかの解釈問題であり、法律判断事項であるから自白の撤回や禁反言に当らない。

三 証拠<省略>

理由

一  請求原因一ないし四(但し、被告装置(一)、(二)が本件考案と同一の作用効果を奏するか否かの点を除く。)についての認定判断は、原判決理由一ないし三(原判決四〇枚目表二行目(編注、一五巻二号四五四頁一五行目)から同四二枚目裏一〇行目(同上、四五六頁一七行目)まで)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決四二枚目裏一行目(同上、四五六頁一三行目)の「又は」の次に「一〇番ホールから」を、同二行目(同上、四五六頁一三行目)の「循環して」の次に「おり、テイクグランドからグリーンまでのプレイグランド内及びブレイグランドに隣接するOB杭外の地域(プレイグランド外の地域)並びに各ホール間の連絡通路において」をそれぞれ加える。)。

二  そこで、被告装置(一)、(二)が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。

1  実用新案権の範囲を判断するについては、出願当時の技術水準(公知事項)を考慮すべきであり、実用新案の説明書により当該実用新案の権利範囲を確定するにあたつては、説明書中の「登録請求の範囲」の項記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的又は説明書のその他の記載事項及び添付図面の記載をも勘案して実質的に考案の要旨を認定すべきである。

2(一)  右観点のもとにおける第一審被告らの指摘する公知技術についての認定判断は、原判決四三枚目裏八行目(同上、四五七頁一二行目)から同四八枚目表六行目(同上、四六〇頁一七行目)までと同一であるから、これを引用する(但し、原判決四四枚目表九行目(同上、四五八頁一行目)の「甲第一〇号証」の次に「同第三九号証」を加える。)。

(二)  以上認定の事実によれば、前記指摘の公知技術は、本件考案が小型貨物搬送モノレール装置をゴルフバツクの搬送に転用した点において新規性・進歩性のあることからみて全部公知であるとはいえない。従つて全部公知であることを前提とする限定解釈はとりえない。

3  次に本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」について検討する。

(一)  本件考案は、右2に認定説示したとおり、その出願前に存した小型貨物搬送モノレール装置をゴルフコースに沿つて巡回するゴルフバツク搬送装置に転用した点に考案性ありとして登録されたものであるが、右転用は、ゴルフ場におけるゴルフバツク搬送に関するモノレールの用途の発見に基づく用途考案である。

(二)  右転用の技術につき、本件実用新案公報の「実用新案登録請求の範囲」の記載には、単に「支柱上に……自走者輛を……走行させる軌条を敷設した」とあるにすぎないが、「考案の詳細な説明」の記載には、「自走車11には、下面に軌条8を抱持する複数の車輪12があつて、該自走車11が軌条8上を離脱することなく走行させ」とあるうえ、支柱と軌条との位置関係及び軌条を抱持する複数の車輪の位置関係を示す第2図(軌条上に停止している運搬車の斜視図)及び第3図(軌条上の運搬車の要部正面図)が示されており、これによれば、軌条はその両側壁を貫通する連結棒を支柱と直交させ、支柱の上端部一側方に上下方向調節可能に固定することにより支柱と軌条との間に間隔を設けて取り付けてある技術構成ではなく、支柱の直上に軌条が設置されていて、車輪が軌条を抱持する技術構成であることが明らかである。

右の支柱と軌条の取付位置に関する技術は、軌条を支柱端面の軸線上で支える構成であり、軌条を抱持する複数の車輪の構成と相まつて自走車が軌条を離脱することなく走行できる作用効果を生じさせている。

(三)  成立に争いのない甲第六号証によると、自走式単軌道運搬装置(レールをその上下両面において挟持するように複数組の車輪を配置したもの)の発明が特許公報(昭和四一年九月二八日出願、同四六年一〇月二七日公告)に開示されており、成立に争いのない乙第六号証によると、支柱に、その軸方向における位置を調節可能に単軌条を固定するための取付部材と地面に接触することによつて上記支柱の地面に対する位置を規制するための位置規制部材とを取付けたことを特徴とする単軌条の支持装置の考案が別紙(一)のとおり実用新案公報(昭和四一年一〇月一三日出願、同四八年一月三一日公告)に開示されていることが認められる。

右考案は、モノレールの軌条を取付部材によつて支柱の上部付近の一側方に支持するものであることが明らかである。

(四)  被告装置(一)は、右(三)の技術構成と同一ないし類似しているが、右(二)の技術とは構成を異にしている。右の異同は、成立に争いのない乙第三一号証、被告装置(一)における軌道装置の一部であることに争いのない検乙第四号証及びサンヨーモノレール(第一審原告の下請製造)の軌道装置部分の模型であることに争いのない検乙第五号証に顕著に現われている。

(五)  以上により、前記自走式単軌道運搬装置の特許及び単軌条の支持装置の考案の存在を前提とし、本件考案の詳細な説明の記載及び同添付図面の記載を勘案すれば、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」は、支柱上方の適当な高さの「中空」或は単に支柱の上方に軌条を保持することを意味すると解することはできず、まさしく支柱そのものの上に、即ち支柱上に軌条を敷設してあることと認めるのが相当である。

蓋し、用途考案はもともと考案性のない物を、その物にとつて新しい用途に条件を付して利用することについての考案であるから、モノレールをゴルフコースに転用したというだけでは足りないことは明らかであつて、条件即ち技術性を抜きにして実用新案権の権利範囲を考えることはできないし、どのような技術的条件のもとに転用するのか、限定してその要旨を実質的に認定しなければならないからである。

(六)  してみると、被告装置(一)は、本件考案と構成要件を異にし、その権利範囲に属しないとしなければならない。

4  被告装置(二)のU字溝方式が本件考案と構成要件を異にし、その権利範囲に属しないことについての認定判断は、次のほか原判決理由説示(原判決四九枚目裏末行目(同上、四六二頁七行目)から五二枚目裏四行目(同上、四六四頁八行目)まで)と同一であるからこれを引用する。

(1)  原判決五〇枚目裏一行目(同上、四六二頁一四行目)の「地域」の次に「(プレイグランド外の地域及び連絡通路を含む。)」を加える。

(2)  第一審原告らは、U字溝方式の図面に表示されているパイプ(16)とオープン方式の図面に表示されている支柱(5)とは同一の物であり、U字溝方式は部分的・補助的であつて必要不可欠でない旨をるる主張するが、右主張を首肯するに足りる証拠はない。

5  本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿つて多数の支柱を立設してあること」について。

本件実用新案公報によると、本件考案は、ゴルフバツクをプレイヤーに随伴させて芝生の上を運搬しながら、芝生を傷つけないことを目的としていることが明らかである。右目的及び同公報添付第1図に照らせば、「ゴルフコースに沿つて多数の支柱を立設してあること」は、各ホール内ではフエアウエイの中心線附近か少なくともフエアウエイに接して支柱を立設することを要するとしなければならない。蓋し、そうでないとゴルフバツクをプレイヤーに随伴させることができないからである。

しかるに、被告装置(一)及び(二)につき、前記要件を具備していることを認めるに足りる証拠はない。かえつて、被告装置(一)及び(二)添付の各第4図によると、被告装置(一)及び(二)は右要件を具備しないことが認められる。

なお、原判決事実摘示(本判決引用)によれば、第一審被告らは、第一審原告主張の請求原因二、五、六を争つていることが明らかである。してみれば、第一審原告の自白撤回・禁反言に関する主張は、前提を欠き採用することができない。

6  よつて、被告装置(一)及び(二)が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする第一審原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきである。

三  以上の次第で、本訴請求を一部認容した原判決は相当でないから、民訴法三八六条により第一審被告ら敗訴部分を取り消し、第一審原告らの請求(拡張部分を含む。)を棄却し、同法三八四条により第一審原告らの控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山忍 惣脇春雄 辰巳和男)

別紙(一)

一、添付図面の説明

(一) 第1図は本件実用新案公報実施例図記載の軌条の形態、第2図はその改良型で、現実に各ゴルフ場に設置されているものの形態、第3図は第2図の軌条をU字溝内に設置した形態である。

(二) 第4図は第一審被告らの製造販売しているオープン方式の軌条の形態、第5図は第4図の軌条をU字溝内に設けるため、支柱をU字溝底に埋設した形態、第6図は軌条をU字溝内に設けるため、支柱をU字溝側璧の地中に埋設した形態(第一審被告らの製造販売しているU字溝方式)である。

(三) 第7図は第3図のU字溝方式の斜視図、第8図は第6図のU字溝方式の斜視図である。

二、図面についての考察

1 オープン方式とU字溝方式の比較

(一) 第1、2、3図について

これらは、第一審原告会社の装置のもので、第1、2図はオープン方式、第3図はU字溝方式である。

そして、第3図のU字溝方式は、軌条がU字溝内に存在するがこれは第2図の支柱をU字溝底に立設しているだけのことであつて、自走車輌を走行せしめるための軌条が支柱によつて保持されている形態において第2図と異なるところはない。

(二) 第4、5、6図について

第4図および第6図は、第一審被告らの製造販売しているオープン方式及びU字溝方式の装置であり、第5図は第4図の支柱をU字溝底に立設した形態の想定図である。

そして、第4図と第5図の関係は、第2図と第3図の関係と全く同様であり、第6図は支柱をU字溝側璧の外方に埋設した点で第5図と異なるが、自走車輌を走行せしめるための軌条を支柱によつて保持していることにおいて、第4図第5図と異なるところはない。

2 各U字溝方式の比較と本件考案の思想

第3図、第5図、第6図の各U字溝方式はそれらの図面及び第7図、第8図より明らかな如く、互換可能であつて、作用効果上に若干の微差があるとしても、自走車輌を走行せしめる軌条装置としては均等であり、本件考案の「自走車輌を走行せしめるための軌条をゴルフコースに沿つて敷設する」という思想、そしてこの「軌条はゴルフコースに沿つて立設した支柱上に敷設する」という思想において、各U字溝方式もオープン方式も異なるところはない。

第1図<省略>

モノレール装置考案時、レール計画図

ハンコウ興産(株)方式

第2図<省略>

改良型、上下2本式レール設置図

ハンコウ興産(株)方式

第3図<省略>

U字溝内の敷設

ハンコウ興産(株)方式

第4図<省略>

1本レール設置図

モノレール工業(株)方式

第5図<省略>

第6図<省略>

U字溝へ取付

モノレール工業(株)方式

第7図 U字溝内の敷設方式説明図<省略>

第8図 U字溝内の敷設方式説明図

モノレール工業(株)方式

図<省略>

別紙(二)

「被告装置(一)の表示」第四図(第一審原告第七準備書面、同被告第九準備書面により補正)<省略>

別紙(三)

「被告装置(二)の表示」第四図(第一審原告第七準備書面、同被告第九準備書面により補正)<省略>

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