大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)2393号 判決 1984年10月30日

控訴人

高麗人蔘酒造株式会社

右代表者

宝城醇周

右訴訟代理人

村林隆一

外七名

被控訴人

サントリー株式会社

右代表者

佐治敬三

右訴訟代理人

原増司

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、人蔘酒及びその容器に原判決別紙(二)記載の標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示し、輸入してはならない。

(三)  被控訴人は、前項の人蔘酒及び容器を廃棄せよ。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(五)  仮執行宣言。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

二  当事者の主張

次のとおり付加・補正するほかは、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決事実の補正

原判決七枚目裏八行目と同九行目の間に「高麗カステラ(三〇類)昭和五二年出願」を挿入し、九枚目表七行目の「韓国においては、」から同九行目までを「最近大韓民国では政治的事情から「朝鮮」という名称を嫌い、「高麗」なる名称を使用する風潮にあるが、これは同国内に限つてのことで、同国の旅行案内の一部にこれが現われているにすぎない。」と改め、一三枚目表八行目から同一〇行目までを削除する。

2  当審における主張

(一)  控訴人

(1) 薬用人蔘について「高麗人蔘」の名称が韓国内で普通名称として使用されているとしても、わが国内においてそのようなことはない。被控訴人提出の各証拠を見ても、「高麗人蔘」の名称が韓国内で普通名称として使用されていることを証明するものは存在するが、わが国内でも同様に使用されていることについてはこれを証明するものはない。ただ、右名称が「朝鮮人蔘」の別称として認識されていることを証明するものが存在するだけである。したがつて、薬用人蔘についてわが国内で「高麗人蔘」の名称の使用が皆無とはいえないにしても、これが普通名称として使用されたことなどありえない。

(2) 仮に、薬用人蔘について「高麗人蔘」の名称がわが国内において普通名称として使用されているとしても、薬用人蔘酒について「高麗人蔘酒」の名称が普通名称として使用されていることはない。薬用人蔘は古くからわが国に存在していたが、薬用人蔘酒はそうでなく、洋酒と同じ瓶に詰め、箱に入れて販売したのは戦後控訴人が初めてである。被控訴人は最近韓国から輸入してわが国内での販売を始めたばかりである。「高麗人蔘酒」の名称が普通名称になつていることなどありえない。

(3) また仮に、「高麗人蔘」及び「高麗人蔘酒」の各名称が普通名称になつているとしても、控訴人は本件商標権を有するものであるから、商標法二六条一項二号により右各名称について本件商標権が及ばないというためには、右各名称が本件商標登録ののちに普通名称となつたものでなくてはならない。しかし、右各名称についてこのような事情は認められないから右各名称は同条同項同号所定の普通名称に該当しない。したがつて、その使用が本件商標権を侵害することは明らかである。

(4) 次に、被控訴人製品には「秘苑」という登録商標の記載があるが、商標は同一製品に二個以上の使用を禁止しているものでもないから、被控訴人製品に右登録商標の記載があるからといつて、被控訴人使用の本件標章が本件商標権を侵害するものと認定するのになんら妨げとなるものではない。

(二)  被控訴人

(1) 韓国内では「高麗人蔘」が薬用人蔘の普通名称として専ら使用されているため、日本人が韓国内で見聞し、また同国から輸入する薬用人蔘についてはすべて「高麗人蔘」の表示がされていることになるが、わが国内で使用される薬用人蔘の大半が韓国から輸入されている現状からすると、わが国内においても「高麗人蔘」が薬用人蔘の普通名称となつていることは当然である。

(2) 右(1)のとおり、わが国内においても「高麗人蔘」は薬用人蔘の普通名称であるが、このような普通名称に続けて「茶」、「エキス」、「粉末」、「酒」等を付して商品の普通名称としたり、品質表示をすることは日常的に行われているところであるから、「高麗人蔘酒」をもつて普通名称と解するのになんらの支障もない。

理由

一当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加・訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決理由の訂正

原判決一五枚目表一行目の「そのうえ、」から同四行目の「販売されていること、」までを「そのうえ、被控訴人製品のほかにも、外箱に「高麗人蔘酒」と記載された薬用人蔘酒が韓国から、「開城高麗人参(蔘)酒」と記載された薬用人蔘酒が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)からそれぞれ輸入され、わが国で販売されていること、」と訂正する。

2  控訴人の当審における主張に対する判断

(一)  主張(1)及び(2)について

「高麗人蔘」が薬用人蔘の普通名称であること、「高麗人蔘酒」が普通名称である「高麗人蔘」を酒精分に漬け込んだものを表わす普通名称として、不可分一体となつて被控訴人製品の内容物を表わす表示として用いられていることについては、いずれも先に引用した原判決理由中の認定判断のとおりであつて、この認定を左右する証拠もないので、(1)及び(2)の主張は採用できない。

(二)  主張(3)について

右主張は、控訴人が普通名称である「高麗人蔘」及び「高麗人蔘酒」について商標権を有することを前提とするものであるが、このような前提事実は到底認められない。もともと控訴人の本訴請求は被控訴人の標章「高麗人蔘酒」が控訴人の本件商標「高麗」の商標権を侵害するとするものであつて、控訴人自身「高麗人蔘」又は「高麗人蔘酒」の標章について商標権を有するなどと主張していないことが、その主張自体から明らかである。そうすると、右主張(3)は控訴人の請求を理由あらしめる主張と矛盾するものであつて、いずれにせよ、その余の判断を待つまでもなく、採用するに由ない。

(三)  主張(4)について

たとえ、被控訴人製品に「秘苑」という登録商標の記載があつても、被控訴人使用の標章が本件商標権を侵害するときは、その認定をするに妨げないことは控訴人主張のとおりである。しかしながら、被控訴人使用の標章が本件商標権を侵害しないとする当裁判所の判断は、先に引用した原判決理由中の説示どおりであつて、商標「秘苑」の存在とは直接のかかわり合いのないことが明らかである。したがつて、(4)の主張は当裁判所の認定判断を左右するものでない。

二よつて、右判断と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(石井玄 高田政彦 礒尾正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例