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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)274号 判決

【主文】

一  原判決中控訴人株式会社滋賀相互銀行、同西岡義雄、同株式会社明和工業、同玉載洙、同林満則、同今井洪俊、同瀬田住販株式会社各敗訴の部分をいずれも取消す。

二  右各控訴人らに対する被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  控訴人織田権一、同林榮子の各控訴を棄却する。

四  訴訟費用<略>

【判旨】

一請求原因に対する判断

1 被控訴人と控訴人織田との間では請求原因1の事実については争いがなく、被控訴人と控訴人玉、同林満則、同林榮子、同今井、同瀬田土地開発との間では右1の事実のうち控訴人織田が宅地建物取引業を営む者であることについては争いがなく、弁論の全趣旨によつてその余の事実が認められ、被控訴人と控訴人西岡、同滋賀相互銀行、同明和工業との間では弁論の全趣旨によつて右1の事実が認められる。

2 請求原因2の事実については、本件売買契約締結の日を除いて、その余の事実は当事者間に争いがない。

右争いがない事実と<証拠>を総合すると、本件対象土地(一)、(二)は山本恒生(以下、「山本」という)の所有に属するものであり、また本件対象土地(三)ないし(二)は被控訴人の所有に属するものであつたところ、被控訴人は、本人兼山本の代理人として本件対象土地を控訴人織田に売却することとして、昭和四九年三月一二日、同控訴人との間で本件売買契約を締結し、その際、売主を被控訴人のみとし、買主を控訴人織田とする不動産売買契約証書(乙第一号証)を作成したが、本件対象土地(一)、(二)が山本の所有であるところから、同月二九日、売主を被控訴人と山本の両名とし買主を控訴人織田とする不動産売買契約証書(甲第一号証)を新たに作成したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、本件売買契約締結の日は昭和四九年三月一二日であることが明らかである。

なお<証拠>を総合すると、本件対象土地は多数の土地に分筆され、または分筆されたものが合筆されるなどしているが、本件土地のうち、(一)の(1)の土地、(二)の土地、(四)の(1)、(2)の各土地、(五)の土地はいずれも本件対象土地(一〇)から分筆された土地(即ち、大津市田上里町字山畑ケ七一四番三の土地。以下、地番のみにて土地を表示するときは「大津市田上里町字山畑ヶ」の部分を省略したものとする)に七三二番一の土地を合筆した土地から数筆に分筆されたもののうちの五筆であり、また(一)の(2)の土地は本件対象土地(四)が数筆に分筆されたもののうちの一筆であり、また(一)の(3)の土地は本件対象土地(五)から分筆された七三四番六の土地から更に分筆された土地であり、また(三)の(1)、(3)、(4)の各土地は本件対象土地(八)が数筆に分筆されたもののうちの三筆であり、(三)の(2)の土地は本件対象土地(九)が二筆に分筆されたもののうちの一筆であること(したがつて本件土地はすべて被控訴人所有で山本恒生所有ではないこと)、が認められる。

3(一) 被控訴人主張の所有権留保などの特約(請求原因3(一))について

<証拠>を総合すると、

本件対象土地は、昭和四七年頃、控訴人織田が宅地に造成して分譲販売する目的で五名の地主から代金五〇〇〇万円余で買受け、一部分宅地に造成したが、自己への所有権移転登記をせぬまま、昭和四八年二月に近畿住宅土地販売株式会社(代表取締役辻覺)へ代金六二五〇万円にて売却した土地六〇三三平方メートルの中に含まれるものであるが、同年三月頃、被控訴人と山本において代金を負担して右近畿住宅土地販売株式会社から代金七五〇〇万円にて買受けたものであること、

被控訴人と山本とは、宅地に造成して分譲販売する目的で本件対象土地を買受けたものであるが、前々所有者であり、且つ宅地造成の経験もあり、地元の事情にも明るい控訴人織田に対し、本件対象土地の開発申請手続を依頼したり、また旧地主から被控訴人や山本への所有権移転登記手続や本件対象土地の分筆登記手続などを司法書士に委任することを依頼し、控訴人織田がこれらに応じていたところ、昭和四九年二月頃本件対象土地を宅地造成して分譲販売する事業を継続する意慾を喪失して控訴人織田に対して本件対象土地の買受け方を打診するに至り、結局前示のとおり同年三月一二日本件売買契約が締結されるに至つたものであること、

しかしながら、控訴人織田はその頃本件売買代金を一括して支払い得る資力を有しなかつたので、本件売買契約において一応は手附金分を除いた本件売買代金の支払・所有権移転登記・引渡の各履行期を同年一一月三〇日と定めたものの(なお、乙第一号証「不動産売買契約書」の第三ないし第五項中に右各履行期として「昭和四九年一一月三一日」とあるのは「昭和四九年一一月三〇日」の誤記であるものと認められる)、本件売買代金を分割して支払うことを了解してくれるよう求め、被控訴人はこれを承諾した上、双方は売買代金の未払額相当部分の本件対象土地の所有権は被控訴人に留保し、控訴人織田が本件売買代金の一部を逐次支払うのと引換えに、本件対象土地のうち右支払額に相当する部分の土地の所有権を順次同控訴人に移転することを約したが、分譲宅地の販売を円滑ならしめるため控訴人織田が本件対象土地を第三者へ売渡す際には同土地が同控訴人の所有に属するものであるとして販売することを承諾したこと、

控訴人織田は、本件売買契約締結の少し前頃から被控訴人より本件対象土地の引渡を受けて宅地造成に着手し、右契約締結後もこれを継続して多数に区画された宅地を造成し(右宅地造成工事については控訴人織田は当初のうちは広瀬工務店に、後には山田辰雄の経営する山田建設工業に請負わせた)、造成の完了した部分について順次買受人を見つけて販売して行つたが、その際右買受人に対して、不動産売買契約証書(乙第一号証)などを示して、右部分の登記簿上の所有名義は被控訴人であるけれども実際上は控訴人織田の所有に属するものである旨説明し、また右買受人への所有権移転登記については、被控訴人から控訴人織田へ、同控訴人から買受人たる第三者へと順次移転登記を経由する場合もあつたが、その多くは、被控訴人から直接右第三者へ移転登記する方法(いわゆる中間省略登記)によつて行い(なお、乙第一号証、不動産売買契約証書第一一項には「所有権移転登記をする際買主の都合により買受人の名義を何人かに替えることがあつても売主は異議なくこれを承諾する」との記載がある)、また被控訴人への本件売買代金の支払については、控訴人織田が他から工面してきた金員による場合もあり、本件造成宅地の売得金による場合もあつたこと、

被控訴人は、控訴人織田が本件対象土地(造成宅地)を第三者へ分譲販売するに際して、その売買契約、代金の授受、所有権移転登記手続などの一切に立会したことがなく、ただ、後に示すとおり、本件対象土地の所有権移転登記手続に必要な書類を控訴人織田に交付していただけであつたこと、

本件売買契約締結の後においても、被控訴人は本件対象土地の一部を物上保証に供したり(乙第一〇号証参照)、自らの借入金債務の担保に供したり((一〇)の登記、乙第一四、第一五号証参照)していたが、右担保権はいずれも本件土地の登記上の所有名義が控訴人織田に移転されるまでに消滅させていたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する証人山本恒生、同山田辰雄の各証言の一部、原審(第一、二回)及び当審における被控訴人、控訴人織田各本人尋問の結果の一部はいずれも信用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二) 請求原因3(三)の事実のうち、被控訴人と控訴人織田との間では、(一)の登記が経由されたこと、被控訴人と控訴人玉との間では、(一)、(三)の各登記が経由されたこと、被控訴人と控訴人林満則、同林榮子との間では、(一)、(五)、(六)の各登記が経由されたこと、被控訴人と控訴人今井、同瀬田土地開発との間では、(一)ないし(四)の各登記が経由されたこと、被控訴人と控訴人西岡との間では、(一)の(4)の登記、(二)の(1)、(三)、(四)の各登記のうちの(四)の土地についての登記、(七)の登記がそれぞれ経由されたこと、被控訴人と控訴人滋賀相互銀行、同明和工業との間では、(一)の(4)、(五)の各登記、(二)の(1)、(三)、(四)の各登記のうちのいずれも(四)、(五)の各土地についての登記、(七)の登記、(八)の登記、(九)の登記がそれぞれ経由されたことについては争いがない。

(三) そうすると、(一)の登記は、本件土地の所有権が被控訴人に留保されている以上、実体に符合しない登記であることが明らかである。

4 (一)の登記が無効な登記申請行為に基くものである旨の被控訴人の主張(請求原因4)について

(一) 控訴人織田による権利証書などの無断使用(請求原因4の(一))について

<証拠>を総合すると、

被控訴人は、前示のとおり、本件売買契約締結前から控訴人織田に対して本件対象土地について旧地主から被控訴人への所有権移転や分筆などの各登記手続を司法書士に依頼して行う事務をひろく委任していたが、右契約締結後は、被控訴人への右移転登記のほか、控訴人織田から、本件対象土地の買受人への所有権移転登記を要するとか、本件対象土地の分筆、合筆、地積訂正などの登記を要するとか連絡してきた際には、本件対象土地の被控訴人の権利証書(即ち、旧地主から被控訴人への所有権移転登記済みの証書。以下、これを単に「権利証書」という)や、被控訴人の署名(もしくは、被控訴人の意思に基づく記名)及び名下の押印があり不動文字部分を除くその余の事項を記載すべき部分が白紙の登記申請用の委任状(以下、これを単に「白紙委任状」という)や、被控訴人の印鑑登録証明書を同控訴人に交付したほか、買受人への所有権移転登記を要する際には、被控訴人の署名(もしくは、被控訴人の意思に基づく記名)及び名下の押印があり、継続用紙との契印のある、不動文字部分を除くその余の事項を記載すべき部分が白紙の不動産売渡証書(以下、これを単に「白紙売渡証書」という)をも控訴人織田に交付して、同控訴人が右の各登記申請を司法書士に委任することを承認していたこと、

そして、被控訴人は、当初の間は、権利証書については、右各登記手続に要する部分を含む権利証書を、その必要の都度控訴人織田に預け、右各登記手続が終了した後に同控訴人から返却を受けていたが、昭和五〇年三月頃には同控訴人から、分筆、合筆などの登記手続に要る旨の連絡を受け、本件対象土地残部の全部の権利証書や、それまでに分筆登記などを済ませた旨の記載のある証書などを同控訴人へ交付したこと、

控訴人織田は、前示のとおり、本件対象土地を多数区画の宅地に造成したうえ、右宅地を第三者に売却していたが、被控訴人は同控訴人から右宅地が売却され買受人への所有権移転登記を要する旨の連絡を受けた際には、買受人の数に応じてではなく、売却された宅地の区画数に応ずる数の白紙委任状、白紙売渡証書、被控訴人の印鑑登録証明書を交付していたので、例えば買受人一名が二区画以上の宅地を買受けた場合には、買受人へ所有権移転登記をするためには、被控訴人から一旦控訴人織田へ右登記をする場合であれ、また被控訴人から直接買受人へ右登記をする場合であれ、被控訴人が控訴人織田へ交付した白紙委任状等の各一通を使用すれば足りるところから、同控訴人の手許には未使用の白紙委任状等が数通づつ残ることになつたが、被控訴人は、その後に宅地が第三者へ売却された際には結局右白紙委任状等が必要となるとの考えから、残余の白紙委任状等の返還を求めなかつたこと、

また、被控訴人は控訴人織田から分筆、合筆などの登記に必要がある旨の連絡を受けた際にも、右分筆登記等の手続に要した数より多数の白紙委任状、被控訴人の印鑑登録証明書を同控訴人に交付していたこと、

被控訴人は、野田からの借入金債務につき昭和四九年一二月一〇日(四)の土地に譲渡担保権を設定し、昭和五〇年一月九日右土地につき野田への(一〇)の登記を経由したが、その後野田との合意のうえ右担保関係を解消したので控訴人織田に依頼して(一〇)の登記の抹消登記手続をすることとし、右登記手続に必要な書類を同控訴人に交付しておいたこと、

また花野は、昭和五〇年一月二八日控訴人織田から(五)の土地を買受け、同月二九日中間省略の方法で被控訴人から直接花野への所有権移転登記(即ち(一一)の登記)を経由していたが、その後右買受対象地を七一四番一一の土地に変更し、同土地について所有権移転登記を経由し、(一一)の登記の抹消登記手続をすることとして、同登記手続に必要な書類を控訴人織田に預けておいたこと、

控訴人織田は、本件売買代金のうち合計金七一七〇万円を支払つたが、本件対象土地のうち本件土地の代金額に相当する分の本件売買代金を被控訴人に支払つてはいない(なお、控訴人織田は昭和五〇年九月三〇日手形を不渡として事実上倒産した)ことから、特約によつて本件土地の所有権が控訴人織田には移転せず、従つてまた、所有権移転登記手続をもなし得ないものであるにもかかわらず、後に説示するとおり、(一)、(四)、(五)の各土地を控訴人玉からの借入金債務の担保に、また(二)、(三)の各土地を林満則からの借入金債務の担保にそれぞれ供することとし、これに先立つて、被控訴人から交付を受けていた権利証書、白紙委任状等、(一〇)の登記の抹消登記手続に供すべき書類、及び花野から交付を受けていた(一一)の登記の抹消登記手続に供すべき書類を、被控訴人に無断で使用し、司法書士に委任して(一)ないし(三)の土地につき被控訴人から控訴人織田への、また(四)の土地につき野田から控訴人織田への、また(五)の土地につき花野から控訴人織田への、各所有権移転登記(即ち、(一)の登記)を経由したこと、

以上の事実が認められる。

右認定の事実関係によれば、控訴人織田は、被控訴人に対して本件土地の代金額に相当する分の本件売買代金を被控訴人に支払わないまま、被控訴人や花野(その実質は被控訴人であるというべきである)から交付を受けた権利証書その他の書類を、被控訴人に無断で使用したものであるから、本件土地についてなされた(一)の登記は、被控訴人の意思に基づかない登記申請行為によつて生じた登記であることが明らかである。

(二) 被控訴人と控訴人織田との間の同時履行の関係(請求原因4の(二))について

前示のとおり、控訴人織田の本件売買代金支払義務と被控訴人の本件対象土地の所有権移転登記手続義務とは同時履行の関係にあるものというべきである。

そして、被控訴人と控訴人織田との関係においては、同控訴人が、被控訴人に合計金七一七〇万円を支払つただけであるので、本件土地の代金額相当の本件売買代金支払義務の履行の提供をせぬ限り、被控訴人は本件土地の所有権移転登記手続を履行すべき義務を拒絶し得るものであるところ、本件において、控訴人織田が右支払義務の履行の提供をなした旨の主張並びに立証はない。

5 本件売買契約の解除について

被控訴人は、昭和五〇年一〇月二五日本件土地相当分につき本件売買契約解除の意思表示をした旨主張するが、被控訴人の立証その他本件にあらわれた全証拠によつても右解除の意思表示がなされたことを認めるに足りない(なお、仮に右解除の意思表示がなされたとしても、後記認定の事実及び説示に照らせば、被控訴人は右解除を理由として控訴人織田を除くその余の控訴人らにそれぞれの登記の抹消登記手続を求めることはできない)。

二抗弁に対する判断

1 控訴人織田の抗弁(同抗弁を援用する控訴人林満則、同林榮子、同西岡、同滋賀相互銀行、同明和工業につき同じ)について

(一)(1) 控訴人織田は本件売買契約締結と同時に本件対象土地(従つて本件土地)の所有権を取得した旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、被控訴人と控訴人織田との間では、本件対象土地のうちの被控訴人が本件売買代金の一部として控訴人織田から支払を受けた金額相当分の土地を除いた土地分については、被控訴人に所有権が留保され控訴人織田の被控訴人に対する右土地部分についての所有権移転及びその移転登記義務とが同時履行の関係にあるものであるから、本件売買契約が締結されたからといつて右契約締結と同時に控訴人織田へ本件対象土地(従つて本件土地)の所有権移転の効力が生じたものとはいえない。

そうすると控訴人織田の右主張は失当である。

(2) 次に、控訴人織田は、本件売買契約締結当日、本件売買代金の支払に変えて額面合計一億一〇一七万円の本件手形を被控訴人に振出交付したので、本件対象土地(従つて本件土地)の所有権を取得した旨主張する。

そして、控訴人織田が被控訴人に対して本件手形を振出交付したことは被控訴人と控訴人織田との間では争いがなく、<反証排斥判断略>、他に控訴人織田の右主張部分を肯認し得る証拠はない。

そうすると控訴人織田の右主張は失当である。

(3) 以上のとおりであるから、被控訴人は約定の所有権移転登記期日である昭和四九年一一月三〇日以降控訴人織田に対して本件対象土地(従つて、本件土地)についての所有権移転登記手続をなすべき義務がある旨の控訴人織田の主張は失当である。

(二) 控訴人織田は、本件手形が再三書替えられるなどし、被控訴人が本件売買代金残金の支払延期を承諾したことから、被控訴人主張の同時履行の関係が切断された旨主張する。

そして、<証拠>を綜合すると、本件手形が再三書替えられるなどし、また被控訴人が控訴人織田に対して本件売買代金残金の支払延期の承諾をした旨の控訴人織田の主張事実を肯認し得るところであるが、前示の同時履行の関係からすれば、被控訴人と控訴人織田の関係においては、右支払の延期された代金(即ち、未払い代金)額に相当する分の本件対象土地の所有権も、これに応じて被控訴人から控訴人へ移転せず、従つて所有権移転登記義務の履行期も到来しないものというべきである。

そうすると控訴人織田の右主張は失当である。

(三) 控訴人織田は、(一)の登記はすべて被控訴人の承諾の下に経由した旨主張するが、前示のとおり、(一)の登記はすべて被控訴人に無断で経由したものであると認められ、控訴人織田の右主張は失当である。

(四) 以上のとおりであつて、控訴人織田の抗弁はすべて理由がなく、被控訴人と控訴人織田との関係においては、本件土地についての(一)の登記は実体的要件からみても形式的要件からみても無効であるといわなければならないから、控訴人織田は被控訴人に対し、本件土地についての(一)の登記の抹消登記手続をなすべき義務がある。

2 控訴人織田を除くその余の控訴人らの抗弁について

(一) 控訴人玉の(三)の登記、同林満則の(五)の登記、同林榮子の(六)の登記、同今井の(二)の(2)の登記の各取得経緯等について

(1) 控訴人玉の(三)の登記について

<証拠>を綜合すると、

控訴人玉(別名玉川幸雄)は金融業者であるが、金融斡旋業者である横田義一(以下、「横田」という)の紹介で、控訴人織田から宅地造成費用にあてる資金の借入依頼を受け、被控訴人と控訴人織田との間の不動産売買契約証書(乙第一号証)を示され、「田上湖南台分譲地」と称する現地に赴いた際には、同控訴人の商号である「出上開発不動産」を表示し区画図を記載した大型の看板や現場事務所、未完成建物等を実見したり、附近住民から分譲地を控訴人織田から買受けた旨を聞くなどし、本件対象土地が同控訴人の所有に属するものと信じて、これを担保に同控訴人に金銭を貸付けることにしたこと、

控訴人玉は、昭和五〇年三月六日、控訴人織田との間で、(四)の土地について(同土地については、控訴人玉は控訴人織田から、同控訴人の所有に属するものであるが、同控訴人が同土地を野田名義として担保に供したことがあつたので同人名義となつている旨の説明を受けた)極度額を五〇〇万円とする根抵当権設定契約、代物弁済予約、地上権設定契約を締結し、同日(一)の(4)の登記に続いて根抵当権設定登記、代物弁済予約の仮登記、地上権設定登記を経由し、また同年五月三〇日、控訴人織田との間で、(五)の土地について(同土地については、控訴人玉は控訴人織田から、同土地は一旦花野が買受け、同人所有名義に登記されたが、同人が買受対象土地を他の土地に変更したので、所有名義は花野になつているが控訴人織田の所有に属するものである旨の説明を受けた)、極度額を四五〇万円とする根抵当権設定契約、代物弁済予約、地上権設定契約を締結し、同月三一日、(一)の(5)の登記に続いて根抵当権設定登記、代物弁済予約の仮登記、地上権設定登記を経由し、更に同年九月二日、控訴人織田との間で(一)の土地について極度額を六五〇万円とする根抵当権設定契約、代物弁済予約、地上権設定契約を締結し、同月三日、(一)の(1)の登記に続いて根抵当権設定登記、代物弁済予約の仮登記、地上権設定登記を経由したこと、

控訴人玉は、あらかじめ控訴人織田との間で、同控訴人が不渡手形を出すなどした場合には、控訴人玉が控訴人織田から根抵当権等の設定を受けていた(一)、(四)、(五)の各土地を譲渡担保として取得し得る旨約し、所要の書類を受領していたので、控訴人織田が手形を不渡りとした日(九月三〇日)の後の日である同年一〇月六日、同控訴人から同年九月二七日付譲渡担保を原因とする(一)、(四)、(五)の各土地の所有権移転登記(即ち、(三)の登記)を経由したこと、

控訴人玉の控訴人織田に対する貸金は合計金一三〇〇万円程であつたこと、

以上の事実が認められ<る。>

(2) 控訴人林満則の(五)の登記、同林榮子の(六)の登記及びその効力について

<証拠>によつて本件対象土地の分筆登記手続に関する事務を控訴人織田に依頼していたことが認められること(右認定に反する証拠はない)から、被控訴人が本件対象土地の分筆に要する書類の被控訴人名義による作成権限を控訴人織田もしくは同控訴人から依頼を受けた者に授与したものと推認されるので、<証拠>を総合すると、

控訴人林満則は、金融業者であるところ、金融斡旋業者である前記横田の紹介で、控訴人織田から宅地造成費用や土地の買い増し費用にあてる資金の借入依頼を受け、横田から(二)の土地などについては未だ控訴人織田への所有権移転登記が経由されてはいないが、昭和四九年初め頃に同控訴人が買受けたものであるなどの説明を受けたり、同控訴人から本件売買契約締結の証書である同年三月一二日付不動産売買契約証書(乙第一号証の原本)の提示を受けたり、同控訴人から交付を受けた「田上湖南台分譲地」と題し、同控訴人の屋号である「田上開発不動産」の記載のある図面(乙第五四号証)に基づいて(二)の土地の位置の説明を受けたほか、(二)の土地を現地に見分に行くなどした(その際、控訴人林満則は、現地に控訴人織田の事務所があることや、またその附近に右図面記載内容と類似の記載のある大型の看板が立てられているのを見た)こと、

そのうえで、控訴人林満則は、昭和五〇年四月九日、控訴人織田との間で(二)の土地について極度額を四〇〇万円とする根抵当権設定契約、代物弁済予約、地上権設定予約を締結し、同日、(一)の(2)の登記に続いて(五)の(1)の登記の経由を受け、また同年八月二八日、控訴人織田との間で、(三)の土地について、極度額を六〇〇万円とする根抵当権設定契約、地上権設定予約を締結し、同月二九日(一)の(3)の登記に続いて(五)の(2)の登記を経由したこと、

控訴人林満則の控訴人織田に対する貸金は合計金九一〇万円程であつたこと、

控訴人林満則は、後に示すとおり、控訴人今井が(二)、(三)の各土地に根抵当権設定契約等に基づいて(二)の(2)の登記を経由していたところから、同年一〇月六日頃、控訴人今井や控訴人織田と相談した際、(二)、(三)の各土地を控訴人今井及び同林満則の両名において売却し、その売得金によつて右両名の控訴人織田に対する債権の弁済にあてることとし、そのために右各土地の登記上の所有名義を控訴人織田から一たん控訴人林満則に移転する旨のおよその方針が立てられ、控訴人織田から(二)、(三)の各土地についての同控訴人の権利証書(乙第三、第四号証)、不動産売渡証書、委任状などを受領し、同月九日頃同控訴人の印鑑登録証明書の交付を受けたが、他の控訴人らの承諾を得ることなく(控訴人織田はおそくとも一〇月二〇日頃所在不明になつた)、ほしいままに自己の妻である控訴人林榮子に所有権移転登記をすることとし、右書類を利用し同月二三日に、同月九日付売買を原因とする同控訴人から控訴人林満則の妻である控訴人林榮子への所有権移転登記((六)の登記)を経由し、現在に至つていること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、控訴人林満則の(五)の登記は、被控訴人との関係での効力の有無についてはともかく(この点については後に判断する)、控訴人織田との関係では実体関係に符合するものというべきである。

しかしながら、控訴人林榮子の(六)の登記は、控訴人林満則が控訴人織田の承諾を得ることなく、かつ控訴人林榮子と控訴人織田との間に登記原因が存在しないのにかかわらず勝手に経由したものであるから、控訴人織田との関係においても有効なものとは解し難い。従つてその余の点について判断するまでもなく控訴人林榮子の(六)の登記は無効であり、同控訴人は被控訴人に対し、右登記の抹消登記手続をする義務がある。

(3) 控訴人今井の(二)の(2)の登記について

<証拠>を綜合すると、

控訴人今井は、控訴人織田が旧地主から本件対象土地の所在する田上里町の土地を買い集めていた昭和四七年頃に同控訴人と知り合い、その附近に所在する同控訴人の事務所へ立寄つたり、同控訴人の依頼に応じて右土地購入資金に供するために金五〇〇万円程を貸付け、間もなくその返済を受けたりなどしていたが、その後暫く同控訴人との往き来はなかつたところ、昭和四九年三月頃、同控訴人から本件対象土地の開発資金に供する金銭の借入申込を受け、不動産売買契約証書(乙第一号証)を提示されて同控訴人が本件対象土地を取得したことや、同土地を借入金の担保に供する旨などの説明を受けたり、現地において同控訴人の依頼を受けた広瀬工務店が宅地造成工事を行つているのを現認したりなどしたうえ、その後間もなく、同控訴人が被控訴人から交付されていた前示の権利証書、白紙売渡証書(乙第二七号証の二)、白紙委任状(同証の三)、被控訴人の印鑑登録証明書(同証の四)の交付を受けたので、本件対象土地が今後順次第三者へ販売されて行くことを考慮し、担保権設定登記をしないままに金五〇〇万円を貸付けたが、右権利証書については、その後間もなく控訴人織田が本件対象土地の一部に買受人がつき、同人へ所有権移転登記をする必要上返却してもらいたい旨の連絡を受けて、同控訴人に返却したこと、

控訴人今井は、右貸金のうち金四〇〇万円の返済を受けたが、金一〇〇万円の貸付残があり、その後も同控訴人の申込に応じて金銭を貸与していたことから、被控訴人の印鑑登録証明書の登記手続上の有効期限が経過するまでに、控訴人織田を通じて、被控訴人の新らしい印鑑登録証明書と差し替えて貰つていたところ、昭和五〇年九月下旬頃、控訴人織田から、未だ第三者に売却されていない本件対象土地について、同控訴人が控訴人玉、同林満則に対して各負担する債務のための担保権を設定し、その旨の登記が経由されている旨聞知し、またその頃控訴人今井の同織田に対する貸付金が合計一五〇〇万円となつていたことから、同年九月二五日、本件土地のほか本件対象土地(七)から分筆された七六一番一の土地につき、控訴人織田との間で極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権設定契約、代物弁済予約を締結し、同月二九日、本件土地につき(二)の(2)の登記を経由したこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二) 控訴人玉の(三)の登記、同林満則の(五)の登記、同今井の(二)の(2)の登記の効力について

既述のとおり、被控訴人は控訴人織田に対し本件土地の所有権を留保したうえで売渡したものであるから、控訴人織田は実体上本件土地の所有権を取得しないことになるし、また、被控訴人は本件土地について控訴人織田に所有権移転登記をすることを承諾していなかつたものであるから、控訴人織田に対し経由された所有権移転登記((一)の登記)は被控訴人の意思に基づかない登記であるということになる。

しかしながら、前認定のように、被控訴人は、本件売買契約により、本件土地を含む本件対象土地を控訴人織田に売り渡し、同控訴人との関係では本件土地の所有権を留保しつつも、対外関係では本件土地を同控訴人所有の土地として分譲宅地の買受人たる第三者に売渡すことを承諾していたものであり、本件土地相当分の代金が未払いであつたため本件土地について控訴人織田もしくは右第三者に所有権移転登記することを承諾していなかつたとはいえ、本件売買契約締結前においては、旧地主らから被控訴人に対する本件対象土地の所有権移転登記その他の登記手続を司法書士に委任する事務を同控訴人に広く委任していたほか、本件売買契約締結後においては、控訴人織田から本件対象土地中の各分譲宅地の買受人への所有権移転登記の必要を連絡してきた都度、本件対象土地中該当土地の権利証書、白紙委任状、被控訴人の印鑑証明書、白紙売渡証書を交付し、同控訴人が被控訴人に代つて右登記手続を司法書士に委任することを承認し、昭和五〇年三月頃に至つては、本件対象土地残余土地の全部の権利証書を同控訴人に交付し、宅地買受人たる第三者への所有権移転登記に要する枚数以上の白紙委任状、印鑑証明書、白紙売渡証書を渡した場合においても爾後の登記にそなえてそれらの返還を求めることをせず、ほかに(一〇)(一一)の各登記を抹消するに必要な書類をも同控訴人に交付していたものであり(このことが(一)の不実の登記を発生させ第三者に本件土地を控訴人織田の所有であると誤信させた重大な原因になつていることは明らかである)、控訴人織田においては、被控訴人との合意に基づいて本件土地を同控訴人の所有であると称したうえ、第三者に対して譲渡担保権、抵当権その他の担保権を設定し、被控訴人より任意に交付を受けていた前記書類をその委託の趣旨にそむいて使用して右各担保権設定登記を経由したものであり、右第三者たる控訴人玉その他の控訴人においては、本件土地が控訴人織田の所有であると信じ右各担保権の設定に応じたものであり、前記認定の諸事情によれば、右控訴人らがそのように信じたのについては過失がなかつたものということができるから、民法九四条二項、一一〇条の法意に照らして、被控訴人は、右控訴人らに対しては、控訴人織田が本件土地の所有権を有しなかつたこと及び控訴人織田に対して経由された所有権移転登記((一)の登記)の無効であることを主張することができないものと解するのが相当である。また、被控訴人は同時履行の抗弁権を有しているが、この抗弁権は控訴人織田に対するものであつて同控訴人と取引行為をした控訴人玉らに対するものではなく、右控訴人らに対する関係では、控訴人織田に対する所有権移転登記は有効なものと取り扱われ、表見代理人に類する地位にある控訴人織田において譲渡担保権その他の担保権を設定し現実に金融を得るなどして当該の登記に照応する利益を得ている以上、被控訴人は右抗弁権をもつて右控訴人らに対抗することができないものと解すべきものである。

そうとすれば、被控訴人は、控訴人玉との関係では、控訴人織田と控訴人玉との間で(一)(四)(五)の各土地について締結された譲渡担保契約及びこれを原因として経由された(三)の登記、控訴人林満則との関係では、控訴人織田と控訴人林満則との間で(二)(三)の各土地について締結された根抵当権設定等の契約及びこれを原因として経由された(五)の登記、控訴人今井との関係では、控訴人織田と控訴人今井との間で本件土地について締結された根抵当権設定等の契約及びこれを原因として経由された(二)の(2)の登記の各無効を主張し得ないものといわなければならない。

また、控訴人織田と右控訴人らとの右各取引行為及び右各登記が法律上有効なものと取り扱われる結果、右控訴人らから更に登記を受けた控訴人らは、その登記に照応する実体上の登記原因が存するかぎり、被控訴人に対しそれぞれの登記の有効を主張し得るものであると解すべきである。

(三)(1) 控訴人今井の(二)の(1)の登記、同瀬田土地開発の(四)の登記の効力について

<証拠>を綜合すると、控訴人今井、同瀬田土地開発は、昭和五〇年一二月四日、控訴人玉から同控訴人が譲渡担保権を取得していた(一)、(四)、(五)の各土地を代金一三五〇万円にて買受け、(二)の(1)及び(四)の登記(同登記は共有登記である)を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、控訴人今井、同瀬田土地開発は(一)、(四)、(五)の各土地の所有権を有効に取得したものというべきであり、(二)の(1)及び(四)の登記は有効のものというべきである。

(2) 控訴人西岡の(七)の登記の効力について

<証拠>を綜合すると、控訴人西岡は、昭和五一年一月一六日、控訴人今井、同瀬田土地開発から右控訴人両名の共有にかかる(四)の(2)の土地(同土地の所有権を右控訴人両名が有効に取得したことについては前示のとおりである)及び同瀬田土地開発所有にかかる右土地上の別紙第三物件目録記載の建物を買受け、同月一七日いずれも所有権移転登記(右土地については(七)の登記)を経由し、その頃から右建物に居住していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、控訴人西岡は(四)の(2)の土地の所有権を有効に取得したものというべきであり、(七)の登記は有効のものというべきである。

(3) 控訴人滋賀相互銀行の(八)の登記の効力について

<証拠>を綜合すると、控訴人滋賀相互銀行は、昭和五一年一月一六日、控訴人西岡に対し金七五〇万円を利息月0.81パーセントの約定にて貸付け、同控訴人の右貸付金返済債務を担保するため同控訴人所有にかかる(四)の(2)の土地(同土地の所有権を同控訴人が有効に取得したことについては前示のとおりである)につき抵当権の設定を受け、同月一七日(八)の登記を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、控訴人滋賀相互銀行は控訴人西岡から(四)の(2)の土地につき有効に抵当権の設定を受けたものというべきであり、(八)の登記は有効のものというべきである。

(4) 控訴人明和工業の(九)の登記の効力について

<証拠>を綜合すると、控訴人明和工業は、昭和五一年一月一四日頃までに、控訴人今井、同瀬田土地開発から右控訴人両名共有にかかる(五)の土地(同土地の所有権を右控訴人両名が有効に取得したことについては前示のとおりである)を買受け、同月一七日(九)の登記を経由したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、控訴人明和工業は(五)の土地の所有権を有効に取得したものというべきであり、(九)の登記は有効のものというべきである。

(四) そうすると、その余の抗弁につき判断するまでもなく、控訴人織田、同林榮子を除くその余の控訴人らの各登記(即ち(二)ないし(五)、(七)ないし(九)の各登記)はいずれも被控訴人に対してその効力を主張し得るものというべきである。

三結論

以上の次第であつて、控訴人滋賀相互銀行、同西岡、同明和工業、同玉、同林満則、同今井、同瀬田土地開発(即ち、瀬田住販株式会社)の各控訴はいずれも理由があるから、原判決中右控訴人らの敗訴の部分を取消して被控訴人の右控訴人らに対する請求をいずれも棄却し、控訴人織田、同林榮子の各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却す<る。>

(今中道信 露木靖郎 齋藤光世)

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