大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)544号 判決 1983年7月19日
昭和五八年(ネ)第五四四号事件控訴人 昭和五八年(ネ)第五一九号事件被控訴人 (第一審原告) 平野武雄
右訴訟代理人弁護士 柴山正實
昭和五八年(ネ)第五一九号事件控訴人 (第一審被告) 株式会社港不動産
右代表者代表取締役 吉原実
昭和五八年(ネ)第五四四号事件被控訴人 (第一審被告) 三吉商事株式会社
右代表者代表取締役 田中正昭
主文
一 昭和五八年(ネ)第五一九号事件について
第一審被告株式会社港不動産の本件控訴を棄却する。
二 昭和五八年(ネ)第五四四号事件について
(一) 原判決中、第一審原告と第一審被告三吉商事株式会社に関する部分を取消す。
(二) 第一審被告三吉商事株式会社は、第一審原告に対し、金八五〇万円およびこれに対する昭和五五年七月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用中、昭和五八年(ネ)第五一九号事件の控訴費用は第一審被告株式会社港不動産の負担とし、昭和五八年(ネ)第五四四号事件の訴訟費用は、第一審原告と第一審被告三吉商事株式会社との間に生じた分は第一、二審とも第一審被告三吉商事株式会社の負担とする。
四 この判決の第二項の(二)は仮に執行することができる。
事実
一 当事者双方の求めた裁判
(一) 昭和五八年(ネ)第五一九号事件について
第一審被告株式会社港不動産(以下第一審被告港不動産という)は、「原判決中第一審被告港不動産に関する部分を取消す。第一審原告の第一審被告港不動産に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、第一審原告は控訴棄却の判決を求めた。
(二) 昭和五八年(ネ)第五四四号事件について
第一審原告は、「原判決中、第一審原告と第一審被告三吉商事株式会社(以下第一審被告三吉商事という)に関する部分を取消す。第一審被告三吉商事は第一審原告に対し、金八五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告三吉商事の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、第一審被告三吉商事は控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張、証拠関係
当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用及び書証の認否は、左記に訂正、付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
(一) 訂正
1 原判決五枚目表六行目から一〇行目までを全文削除し、これに代えて次のとおり加える。
「 (1) 被告港不動産は不動産の売買ならびに仲介を業とするものであり、本件土地についての右建築規制の如き重要事項の説明義務は、売主が不動産業者である場合には土地売買に附随する売主としての当然の義務であり、不動産売買契約上の売主の債務の性質を有する。しかるに被告港不動産は買主である原告の本件土地購入の目的を知悉していながら右重要事項の説明義務を履行せず開発行為の許可を受けただけで家を建築できるように説明した。」
2 原判決五枚目裏四行目に「解除されたから」とあるのを「解除したから」と改める。
3 原判決六枚目表一行目に「説明しかしなかった債務不履行がある。」とあるのを「説明しかしなかった。」と改める。
4 原判決六枚目表七行目に「完工険査証」とあるのを「完工検査証」と改める。
5 原判決六枚目表一一、一二行目に「状態に至ったのであって、少なくとも……」とあるのを「状態に至ったのであって、被告三吉商事の右不法行為により、少なくとも……」と改める。
(二) 第一審原告の第一審被告三吉商事に対する主張
第一審原告は、第一審被告三吉商事に対し、本件売買契約の仲介人としての説明義務違反により第一審原告の被った損害について、不法行為に基づく損害賠償を請求しているものであり、第一審被告三吉商事の右損害賠償義務は第一審被告港不動産が第一審原告に対して負うべき債務不履行に基づく損害賠償義務と不真正連帯債務の関係に立つものであって、第一審原告が右第一審被告両名に対し同時に請求することを妨げるべき理由はない。しかも第一審被告三吉商事は本件売買契約に存する違約金条項を承知のうえで本件売買契約のあっせん、仲介をなし、第一審原告をして契約締結にいたらしめたものであるから、第一審原告の被った損害額についてはとくに反証のない限り手附金相当額とすべきものである。かりに第一審原告が第一審被告三吉商事の右不法行為により被った損害が第一審被告港不動産に没収と称してとられた手附金相当額であるとしても第一審被告港不動産にはこれを返還する意思も資力も有していないから、第一審被告三吉商事は右同額の損害を被らせたことになり、その損害を賠償すべき責任がある。
理由
一 当裁判所も、本件売買契約につき取引完了後遅滞なく家を建築できる状態にして本件土地を引渡すことが売主の債務の内容となっていたこと、本件土地に家屋を建築するには都市計画法に基づき開発行為について開発許可を受けたうえ、開発許可を受けた者が開発行為に関する工事を完了し検査済証の交付を受けることが必要(以下本件建築規制という)であるが、本件土地にかかる建築規制の存することについて本件売買契約の締結の際に不動産業者たる売主の第一審被告港不動産及び宅地建物取引業に従事し本件売買契約の仲介をなした第一審被告三吉商事の両名が説明義務を尽さなかったものであり、第一審被告港不動産の右説明義務の不履行を理由として第一審原告がなした本件売買契約の解除の意思表示は有効であると認定判断するものであって、その理由は原判決の理由の一ないし三に説示するところと同じであるからこれを引用する。
但し原判決一六枚目裏の六行目の「三 被告港不動産の売主としての責任」の次行に、
「 本件売買契約の売主たる第一審被告港不動産が不動産の売買、仲介を業とするものであることは同被告が自認するものであるところ、かかる不動産業者たるものが売主として取引の当事者となっている場合には、本件建築規制の如き事項の説明義務は本件土地売買に附随する売主としての当然の義務というべきであるが、第一審被告港不動産は本件売買契約の締結に際してかかる説明義務を尽さなかったばかりでなく、」
を挿入する。
原判決一七枚目表五行目から一〇行目までを次のとおり改める。
「したがって第一審原告は第一審被告港不動産に対して同被告の債務不履行を理由とする解除にともなう約定違約金中、手附金相当の金八五〇万円とこれに対する遅滞後である本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年七月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めうるものというべきである。」
二 第一審被告三吉商事の仲介人としての責任
(一) 第一審原告は、第一審被告三吉商事に対し、不法行為に基づく損害賠償を求め、第一審被告三吉商事が本件売買契約の仲介人としての説明義務を尽さなかったことにより第一審原告の被った損害として手附金八五〇万円相当の賠償を請求するので案ずるに、《証拠省略》によれば、第一審被告三吉商事は宅地建物取引業に従事し、取引主任者たる訴外田中正昭を担当者として本件土地の売買の媒介をなしたものであることが認められる外、引用の原判決認定の事実によれば、第一審被告三吉商事は第一審原告が本件土地を購入のうえ右土地上に家を建てる計画であることを知悉していたものであるにもかかわらず昭和五四年五月一七日の本件売買契約成立当時本件土地に家を建てるには堺市宅地開発指導要綱に基づく開発許可を取得したのみでは足りず、本件建築規制すなわち開発行為についての開発許可を取得したうえ開発許可を受けた者による右許可に従った開発工事を完了させ、その工事完了検査証の交付を受けることが必要であり、このような建築規制を受ける土地であることを取引主任者たる訴外田中正昭をして第一審原告に説明させなかったものであることが明らかである。
このように第一審被告三吉商事がその媒介にかかる売買により土地を取得しようとする者に対してその売買契約が成立するまでの間に取引主任者をしてこれらの重要な事項の説明義務を尽さなかったことは、明らかに宅地建物取引業者に対し重要事項の説明等の義務を課した宅地建物取引業法三五条一項に違反するものである。しかも宅地建物取引業法が宅地建物取引業者にこのような重要事項の説明等の義務を課しているのは、宅地建物取引業者の関与する宅地建物の取引における購入者の利益の保護を図ることを配慮したものであって、このことは同法の一条、三一条の規定からみても明白であり、したがって第一審被告三吉商事が右重要事項の説明義務を尽さなかったことが違法であるというべきことは明らかである。
(二) 右(一)に認定の事実及び引用の原判決認定の事実によれば、第一審被告三吉商事はその仲介にかかる本件売買の買主たる第一審原告に対して取引主任者たる田中正昭をして本件土地に関して前記の本件建築規制についてなんら説明をさせなかったものであるから、第一審被告三吉商事には少なくとも過失が存するものと認められる外、引用にかかる原判決認定の事実によれば第一審原告は本件土地に家を建てるには開発許可で足りるとの認識のもとに本件売買契約をなしたものであり、開発許可後の開発工事の完了とその検査証の取得が必要であるとの本件建築規制を知っていたならば、本件土地を買受けることをしなかったものと認められるから、第一審被告三吉商事が本件建築規制の説明義務を尽さなかった不作為とこれにより第一審原告が被った損害との間に因果関係が存するものと認められ、したがって第一審被告三吉商事は第一審原告が被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものというべきである。
(三) なお、本件売買が取引中止となった理由についての第一審被告三吉商事の主張が採用できないことは、引用の原判決の理由(一四枚目表末行から一五枚目裏三行目まで)に説示のとおりである。
(四) そこで進んで第一審原告が第一審被告三吉商事の右不法行為によって被った損害額について考えるに、引用の原判決認定の事実によれば、第一審原告は第一審被告港不動産との本件売買契約の締結に際して手附金として金八五〇万円を第一審被告港不動産に交付したが、右手附金の返還を受けられないまま今日にいたっているものであるから、他に特段の反証のない限り右手附金八五〇万円相当額の損害を被ったものと認めるのが相当である。
そして第一審被告三吉商事が第一審原告に対して負うべき不法行為に基づく損害賠償義務と、第一審被告港不動産が前記認定のとおり売主として第一審原告に対して負うべき債務不履行に基づく損害賠償義務とは、第一審被告両名がそれぞれの立場において第一審原告が被った損害を填補すべきいわゆる不真正連帯債務の関係にあるものというべきである。
三 以上のとおりであるから第一審原告の第一審被告港不動産、同三吉商事に対する請求はいずれもすべて正当として認容すべきである。
よって、昭和五八年(ネ)第五一九号事件の第一審被告港不動産の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、同年(ネ)第五四四号事件の第一審原告の第一審被告三吉商事に対する本件控訴はすべて理由があるから、原判決のうち第一審原告と第一審被告三吉商事に関する部分を取消したうえ、第一審原告が第一審被告三吉商事に対し、金八五〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年七月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める第一審原告の請求をすべて認容すべく、民訴法九六条、九五条、八九条、一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)
<以下省略>