大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)911号 判決
【主文】
1 原判決を次のとおり変更する。
2 神戸地方裁判所姫路支部が昭和五六年(手ワ)第二〇号事件について昭和五六年四月二七日に言渡した手形判決を取消し、右事件に関する被控訴人の請求を棄却する。
3 神戸地方裁判所姫路支部が昭和五六年(手ワ)第一二二号事件について昭和五六年一一月三〇日に言渡した手形判決のうち、同判決手形目録⑦の約束手形金中二六万〇一〇九円及び同目録⑧ないし⑫の約束手形金各五〇万円、並びに右⑦の約束手形金中二六万〇一〇九円及び右⑧の約束手形金に対する昭和五八年一月一日から各完済まで年六分の割合による金員の支払を命じた部分を認可する。
4 右3の手形判決のうち、右3に認可した部分以外の部分を取消し、この取消部分に関する被控訴人の請求を棄却する。
5 訴訟費用は第一、二審とも(手形訴訟分も含む)五分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。
【理由】
一手形関係の事実
控訴人が本件手形を振出したこと、被控訴人が本件手形(一)ないし(四)を満期に支払場所で支払のために呈示したが支払のなかつたこと、被控訴人が本件手形(四)ないし(一五)を現に所持していることは当事者間に争いがなく、本件手形(一)ないし(三)を所持していることは、被控訴人が甲一ないし三号証を提出したことにより明らかである。
二原因関係の事実
次の3の事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は<証拠>によれば次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。
1 伍代産商は、被控訴人からプラスチック成形機を仕入れてこれを販売することを目的として設立された会社であつて、従前よりその取締役三名のうち二名は同時に被控訴人の取締役であり、その本店は昭和五六年九月以降は被控訴人の本店内に置かれている。成形機の売買は、法律上、外形上は被控訴人より伍代産商へ、ついで顧客へ順次売渡す形式をとつている。しかし、伍代産商は被控訴人の販売部門の一部というべき実質を有しており、この両者は共同して成形機の販売活動を行つている。本件成形機の販売においても、被控訴人は伍代産商と共同して、被控訴人自身が控訴人に本件成形機を売却した旨の虚偽の販売通知書(乙一号証)を作成し控訴人に交付して契約が成立しやすいようにし、また、後記のとおり、回収した本件成形機は被控訴人の所有に戻されている。伍代産商より顧客に販売された成形機についても、被控訴人の帳簿上は被控訴人から直接顧客に販売されたように記載されているし、伍代産商が締結した売買契約についても被控訴人自身が契約解除通知を出したことがあり、この両者は一体として成形機の販売を行つていた。
2 北門宏允は伍代産商から代金割賦払の約で本件成形機を買受けて、その代金支払のために約束手形を振出したいと考えたが、既に銀行取引停止処分を受けていたため、手形金支払のための当座取引をすることができなかつた。そこで北門宏允は控訴人に対し、手形金の支払資金は北門において手形満期日以前に控訴人の口座に振込んで支払うから、姫路信用金庫と当座取引をして北門宛に約束手形を振出してくれるように依頼した。控訴人はこれを承諾し、右当座取引契約をしたうえ本件手形を北門宏允に振出し、同人はこれを伍代産商に対し、後記3の代金支払のために裏書した。このころに後記3の売買契約が締結された。伍代産商は本件手形を被控訴人に裏書した。
3 北門宏允は、昭和五四年五月一六日伍代産商から本件成形機二台を代金一五〇〇万円で買受けた。
4 右売買契約では次のように約定された。
(一) 代金は昭和五四年八月より昭和五七年一月まで、三〇回に分割して、毎月末日に五〇万円宛を支払う。
(二) 売買機械の所有権は売買代金完済時まで売主に留保され、完済時に買主に移転する。
(三) 買主が売買代金の支払を怠つた場合、売主は売買機械の返還を請求できる。
5 控訴人としては、北門宏允に対しては本件手形を裏書譲渡すべき何の金銭債務もなく、ただ北門の伍代産商に対する右売買代金支払のために用いる目的と同時に、北門の右債務の支払を確実にさせる担保の目的、換言すれば右手形金の範囲内で保証するのと同趣旨の目的で右手形を振出したものであつた。伍代産商及び被控訴人は、本件手形が右の趣旨で振出、裏書されるものであることを、北門及び控訴人との間で了解していた。それのみならず、控訴人が姫路信用金庫と当座取引をし、手形用紙の交付を受けるためには、売主名義の割賦販売通知書及び割賦販売契約書写を同金庫に提出する必要があつたので、伍代産商及び被控訴人は共同して、被控訴人が控訴人に本件成形機を割賦販売した旨の同金庫宛の前記割賦販売通知書(乙一号証)及び伍代産商が控訴人に本件成形機を割賦販売した旨の契約書写(乙二号証。伍代産商と北門宏允間の契約書((甲四号証))の買主欄を控訴人名に変造コピーしたもの)を作成し、これらを控訴人に交付することにより、控訴人が右の趣旨で約束手形を振出すことに協力した。このようにして、伍代産商及び被控訴人は既に銀行取引停止処分を受けた北門宏允に機械を売却したにも拘らず、それよりも信用力のある控訴人振出の手形を支払のため及び担保の趣旨で取得することができた。
6 本件成形機は昭和五四年六月末ころ北門宏允に引渡された。
7 本件売買代金のうち、昭和五五年五月迄に支払われるべき分、及び同年七月より一一月までに支払われるべき分の計七五〇万円は弁済期に支払われたが、昭和五五年六月に支払われるべき分及び昭和五五年一二月以降に支払われるべき分の計七五〇万円(本訴請求の手形金に相当する分)は現在に至るまで支払われていない。
8 北門宏允は昭和五五年一〇月末ころ伍代産商との間で、北門の伍代産商に対する別個の債務の弁済にかえて本件成形機のうち一台を返還するか、本件成形機の売買代金は従前どおり支払う旨の約定をして、右成形機一台を引渡した。そのころ、伍代産商はこれを被控訴人に譲渡し、被控訴人はこれを売却した。
9 伍代産商及び被控訴人は、昭和五六年二月一三日ころ、北門宏允が八千代倉庫産業株式会社に預けていた本件成形機の他の一台を、同会社の承諾は得たが、北門宏允や控訴人の承諾は得ないままで持帰り、保管していたものの、昭和五七年末ころにはこれを他に売渡した。
10 伍代産商は昭和五六年九月一三日ころ、控訴人に対しては右9の本件成形機一台を返還するから引渡の日時場所を連絡するように通知したが、買主である北門宏允に対しては右本件成形機を返還する旨の提供をしたことはない。
11 右8の本件成形機一台の昭和五五年一〇月末ころの時価は約三七五万円、右9の本件成形機一台の昭和五七年末ころの時価は約一〇〇万円であつた。
右2、5の認定に反する部分の控訴人本人の尋問の結果は、<証拠>と対比して信用することができない。
また、証人橋本和義の証言(当審)中には、昭和五五年一〇月に引取つた際の右8の本件成形機一台の評価は、売買価格七五〇万円より割賦支払期間中の利息と運搬費とを差引いた時価六〇〇万円の三〇パーセントに当る一八〇万円であり、昭和五七年末にもう一台の右9の本件成形機をスクラップ価格で処分をしたとの部分がある。しかし、被控訴人は本件成形機の売却価格を立証する具体的資料を提出しないから、右の供述だけで信用できるものとすることはできないし、特別の減損があつたとの立証もない本件において、売買時点よりの期間を考慮すると、右供述のような多額の減価があるものとは容易に信用することができない。<証拠>によれば、本件成形機は塩化ビニール樹脂を成形、加工する機械であり、昭和四六年に新品として製造されたものであるが、昭和五四年の本件売買の直前に整備してその価値を向上させてあつたこと、本件成形機と同種の新品機械の昭和五四年六月時点における価格は約一〇〇〇万円であることが認められ、本件売買価格より割賦支払期間中の金利及び運搬費を控除すると、本件成形機の北門宏允に引渡された昭和五四年六月末の時点における時価は一台当り六〇〇万円と推認されるところ、所得税における減価償却に関する基準(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)を適用して、右各時点における減価償却後の価格を算定すると、同省令三条の方法によるかどうか、定額法、定率法のいずれをとるかによつて異なつてくるが、右供述におけるような低い額とはならないことは明らかである(もつとも右基準は課税の関係で定められたものであるから、時価を正確に反映するものではないが、一応の基準として考慮に入れることは許されよう)。
<中略>
七担保保存義務違反の抗弁について
前記一、二認定の事実によれば、控訴人は、保証人類似の地位にあり、北門宏允の代金債務の支払がされれば自己の手形債務を免れることができる関係にあり、この関係は売主の伍代産商及び現在の手形債権者である被控訴人も熟知し、この関係を前提として手形を取得したものであるから、控訴人は本件成形機売買代金債務の「弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者」(民法五〇〇条)と解すべきである。被控訴人の指摘する回り手形の振出人や裏書人は、本件の控訴人の場合とは異なり、所持人との間に、本件におけるような担保の了解、合意(前記二5)がないのであるから、これと本件の控訴人とを同一視することはできない。
本件成形機の売買契約においては、代金は三〇回に分割して支払い、その完済までは本件成形機の所有権は売主の伍代産商に留保する旨約されていることは前記二4に認定のとおりであるところ、前記甲四号証の契約書によると、更に機械は代金支払前に買主に引渡され、その修理費、保険料の負担、滅失、盗難等の危険は買主が負担し、機械には買主が保険料を負担して損害保険契約を締結し、保険金債権につき売主の売買代金債権のために質権を設定するなどが約されており、右所有権留保は専ら売主の売買代金確保の担保目的でされたものと認めることができる。この事実によれば、右売買において売主の伍代産商に留保された所有権は、民法五〇四条にいう「担保」と解すべきである。
伍代産商は、昭和五五年一〇月末ころ、本件成形機一台を他の債務の代物弁済として返還をうけ、これを被控訴人に譲渡し、被控訴人はこれを他に売却し、また、昭和五七年末ころ他の本件成形機一台を他に売却したものであるから、伍代産商はこれらにより故意に担保を喪失したものであり、控訴人は右各時点において本件各成形機の時価相当額の限度で本件手形金、利息の債務を免れたものというべきである。
昭和五五年一〇月末における本件成形機一台の時価が三七五万円であり、同五七年末における本件成形機一台の時価が一〇〇万円であつたことは前記二11に認定のとおりであるから、控訴人は、民法五〇四条により、昭和五五年一〇月末日の時点で、本訴請求の債務のうち三七五万円、つまり原判決別紙目録(一)ないし(七)の手形金各五〇万円、同目録(一)の手形金五〇万円に対する満期の翌日の同年七月一日より同年一〇月三一日まで一二三日間の利息一万〇一〇九円、及び同目録(八)の手形金のうち二三万九八九一円の支払を免れ、同五七年一二月三一日の時点で本訴請求の債務のうち一〇〇万円、つまり同目録(八)の手形金のうち右以外の二六万〇一〇九円、同目録(九)の手形金五〇万円、同目録(一〇)の手形金のうち二三万九八九一円の支払を免れたものというべきである。なお、同目録(八)ないし(一五)の手形金につき昭和五七年一二月末までの間について、遅延損害金が生じないことは後記八に判示のとおりである。
右の民法五〇四条の抗弁は、前記一の認定事実によれば、被控訴人にも対抗できるものと解される。
<以下、省略>
(上田次郎 道下徹 井関正裕)