大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)15号 判決 1984年1月25日
京都市南区鳥羽南唐町一七番地
控訴人
民秋俊夫
右訴訟代理人弁護士
村山晃
同
稲村五男
同
川中宏
同
渡辺哲示
同
加藤英範
同
森川明
同
村井豊明
同
宮本平一
同
渡辺馨
同
近藤忠孝
京都市下京区間ノ町五条下ル
被控訴人
下京税務署長
今福三郎
右指定代理人
高田敏明
同
中野英生
同
岩本省三
同
沖田吉三郎
同
工藤敦久
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人に対して昭和五〇年七月一日付でなした昭和四八年分所得税の更正処分のうち、総所得金額について三〇〇万九五〇〇円を超える部分を取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求め、
被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上・法律上の主張及び証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。
控訴人の補充主張
一 推計の必要性について
所得税の課税は自主申告に基づく実額課税が原則で推計課税は例外であるから推計の必要性の判断は慎重であるべきであるのに、原判決は被控訴人係官が一回二時間弱話合っただけで控訴人の協力が得られなかったとし、また控訴人の確定申告書には所得金額から書かれていて収入金額必要経費の記載がないことをも理由の一として安易に推計の必要性を肯認したことは違法である。
二 推計の合理性について
推計課税の合理性(限りなく実額課税に近いということ)の主張・立証責任はあくまで被控訴人にあり同業者率を使ったからといってその点が突然転換されるものではない。控訴人が同業者の中で平均的業者に位するとの事実も被控訴人において主張・立証すべく、平均からの偏位を主張する者にその点の立証責任があるとすべきではない。
とくに本件の予備的主張の同業者率については採用された同業者数は多いが同業者毎にみた差益率、一般経費率のバラつきは最高、最低が二倍強になっており、それらを含めて平均化したからといって合理性を生ずるか甚だ疑問である。
三 控訴人の特殊事情について
申告によって税額が確定するという申告納税制度のもとでは更正処分は明らかな不利益処分であり、その場合不利益を課す側に立証責任があることは自明であるから推計により更正するに当っては「特別事情が存在しない」ことも処分者側で立証すべきであらう。
本件においては原審以来主張してきたとおり控訴人は昭和四八年当時業界えの卸を始めたばかりで新規取引先開拓の必要性は極めて高く、かつ極く近所で三和食品の安売りがあり、これらの兼合いもあって安売りを余儀なくされた事情があったから、この点は充分に考慮さるべきである。
右に対する被控訴人の認否、反論
控訴人の当審補充主張はいずれも争う。
一 推計の必要性について
被控訴人の係官は所得税法二三四条一項により質問検査をしたものであるが、その質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない細目については質問検査の必要があり、かつこれと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度に止る限り権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきところ、本件においては原審以来主張してきたとおり、係官は控訴人方に多数回臨場し適正必要な限度において調査の理由、必要性を告知して帳簿書類の提示等調査の協力を要請したのに控訴人の協力を得られなかった為やむを得ず推計に移ったものでその間に何ら控訴人のいう様な違法はない。
なお控訴人は一貫して実額算定の基礎となる帳簿書類を提出しておらず被控訴人が実額を算定できなかったのは控訴人の非協力のせいであって被控訴人が実額把握の努力を怠ったからではない。
二 推計の合理性について
控訴人は被控訴人の援用した同業者、同業者率の合理性を争うが失当である。援用した同業者らの氏名を公表しないことは守秘義務上当然であり、同業者率についても被控訴人管内の同業者の青色申告決算書に基いて無作為かつ機械的に抽出されたものでその抽出に被控訴人の恣意が介在する余地はなく各同業者間の個別的営業条件は平均値化することで捨象され、更に同業者の実在性、資料の正確性が担保されているから推計の方法として合理性があり抽出数による同業者率の客観性と共に本件における推計の合理性を認めるに充分である。
控訴人は自己の所得に関し最もよく知悉している者であるから実額を主張して反証を上げることは容易であるのにそれをせずして一方的に被控訴人の推計の合理性を争うのは失当である。
三 控訴人主張の特殊事情について
同業者間に営業条件の差があるのは当然のことであってその平均値を求めるのが推計の目的であるから同業者の平均値化による推計の場合には同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は無視することができるし、また納税者の個別的営業条件の如何はそれが当該平均値化による推計自体を不合理ならしめる程度の顕著なものでない限りこれを斟酎することを要しない。
そして控訴人の営業条件は原審で主張したとおり同業者の平均よりはるかに悪いものであるとはいえないから、控訴人のこの点の主張も失当である。
新証拠
控訴人は当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。
理由
当裁判所も本件更正処分には控訴人主張の違法はなく適法有効で控訴人の本訴請求は理由がないと認定判断するものであって、その理由は次に控訴人の当審補充主張に対する判断を附加するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。当審における控訴人本人尋問の結果のうち、引用の原判決認定に反する部分は原判決と同一理由により措信し難く、他にこれを左右するに足る証拠はない。
一 控訴人は先ず推計の必要性の判断は慎重にされるべきであると主張する。所得税の課税は実額課税が原則で推計課税は例外であることは所論のとおりであるが、税務職員が納税者の申告した所得金額に不審を抱いたときは所得税法二三四条一項により質問検査をなす権限が与えられているのであって引用の原判決理由中の推計の必要性についての認定事実(原判決理由四一)によれば被控訴人が控訴人の昭和四八年度分所得について推計課税の方法をとるに至ったのはやむを得ざるに出てたものと認めるに充分であって控訴人のこの点の主張は採用し難い。
二 控訴人は次に推計の合理性を争うが引用の原判決が詳細に説示する(原判決理由四2(一)、(二)、(三)、(四))とおり被控訴人の援用した同業者率はいずれも合理的なものであったと認められ、控訴人の当審主張はいずれも認め難いから控訴人のこの点の主張も採用し難い。
三 控訴人は更に昭和四八年当時控訴人は安売を余儀なくされた特殊事情があったと主張するが、その認め難いことは原判決理由四2、(五)に説示するとおりであり右の様な特殊事情の不存在まで被控訴人において立証すべきであるとは解し難いが、右引用の理由説示によればかかる特殊事情は存在しなかったと認められる(控訴人の当審における供述中右の特殊事情のあったことをいう部分の採用し難いことは先に判示したとおりである。)から控訴人の右主張も失当である。さすれば控訴人の本訴請求は失当であるから棄却すべくこれと同旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今福滋 裁判官 西池季彦 裁判官 亀岡幹雄)