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大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)2号 判決 1986年2月25日

控訴人 亡矢野由蔵訴訟承継人兼本人 矢野武雄

右訴訟代理人弁護士 駒杵素之

被控訴人 大阪市東長居土地区画整理組合

右代表者清算人 松本清治郎

<ほか一〇名>

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2(一)  被控訴人大阪市東長居土地区画整理組合が原判決添付別紙第一目録記載の各土地及び同別紙第二目録記載の各土地についてなした昭和二四年三月二五日付各仮換地指定の取消処分及び昭和三五年三月三一日付各土地についての換地処分は、いずれも無効であることを確認する。

(二) 被控訴人番号5、6の各被控訴人は、控訴人に対し原判決添付別紙第一目録記載の(三)の一覧表記載の各建物のうち、それぞれ同表において自己がその所有者とされている建物を収去して、同目録記載の(二)の③の土地を明渡せ。

(三) 被控訴人番号7ないし11、13、14、16、17、19ないし21、26ないし28、31ないし33、37、38、40の各被控訴人は、控訴人に対し原判決添付別紙第二目録記載の(三)の一覧表記載の各建物のうち、それぞれ同表において自己(訴訟承継人についてはその前主)がその所有者とされている建物を収去して、被控訴人番号7ないし11、13、14の各被控訴人は同目録記載の(二)の③の土地を、被控訴人番号16、17、19ないし21、26ないし28、31の各被控訴人は同目録記載の(二)の①の土地(但し、被控訴人番号19、28の各被控訴人は同目録記載の(二)の①及び⑤の各土地)を、被控訴人番号32、33、37、38、40の各被控訴人は同目録記載の(二)の⑤の土地を明渡せ。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

第二当事者の事実上の主張

当事者双方の事実上の主張は左記に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  控訴人矢野由蔵は昭和三五年死亡し、控訴人矢野武雄はその相続人として権利義務一切を承継し、その訴訟手続を承継した。

2  被控訴人(被控訴人番号11)浅野末三は昭和五三年六月二七日死亡し、その相続人である浅野妙子、梅野栄美子の両名が権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号13)堀泰は昭和五六年一一月二〇日死亡し、その相続人である堀達が権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号14)滝野正福は昭和四七年一二月一一日死亡し、相続人滝野隆子が権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号16)岩井二三雄が昭和四六年七月一九日死亡し、その相続人である岩井冨子、岩井春隆の両名が権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号19)本田信太郎が昭和五五年七月二一日死亡し、その相続人である本田繁が権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号20)藤井庄二郎が昭和四四年四月六日死亡し、その相続人である藤井久夫がその権利義務一切を承継し、被控訴人(被控訴人番号32)福内政郎が昭和五六年一一月一九日死亡し、その相続人である福内文子、福内博康の両名が権利義務一切を承継し、それぞれがその訴訟手続を承継した。

3  原判決は、被控訴人大阪市東長居土地区画整理組合が昭和二四年三月二五日付でした原判決添付別紙第一目録及び同第二目録記載の(一)の各土地についての各仮換地指定の取消処分及び昭和三五年三月三一日付でした右各土地についての各換地処分が重大かつ明白な瑕疵があることを認めながら、行訴法三一条一項を適用して、いわゆる事情判決をもって本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効確認を求める控訴人の請求を棄却したが、本件についていわゆる事情判決をした原判決は不当である。すなわち、控訴人は、被控訴人組合に対し、換地地積が減じられた原因となった本件区画整理地域の耕作者は不法耕作者であるから離作補償の必要のないことをつとに主張し、かつ、大阪地方裁判所昭和二五年(ワ)第一五三四号事件において、その旨争い、控訴人の主張が認容されたので、その旨被控訴人組合に通告し、被控訴人組合が本件各換地処分を決定する以前に本訴を提起して、右と同旨の主張を継続してきたものであるから、本訴提起の時点を基準として判断すると本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効確認を求める控訴人の請求を認容するについて、法律上、事実上の支障はなんら存しないというべきである。原判決が事情判決をもって控訴人の右請求を棄却した理由は、本訴提起後の審理期間が長期に及んだ間に生じた事情であるのみならず、控訴人はその受けた仮換地について、後日、本換地のなされた関係者に対しては訴を提起し、該土地についての法律状態を明らかにした。してみると、本件係争土地部分に限っては、その権利関係を明白ならしめるものである以上、その影響はなんら他に及ぶものではなく、本件地区内の他の土地について権利関係が確定されている以上は、被控訴人組合は右事実を前提として控訴人に対し、換地処分を進めれば足り、本件係争土地関係者の経済上の利害を精算して処理すべきものである。仮に、本件整理土地全域にわたり昭和一八年の仮換地に復し、あらたに本換地処分をする必要があるとしても、本件の固定事実を覆すことなく精算金をもって処理しうるものであるから、行訴法三一条一項を適用して、損失を控訴人のみ帰せしめることは、控訴人に対し過重の負担を強いるものであって、不当である。

二  被控訴人らの主張

控訴人の主張2は被控訴人らの関係当事者は関係部分を認める。

第三当事者双方の証拠関係《省略》

理由

当裁判所は、亡矢野由蔵の被控訴人組合に対する同被控訴人が亡矢野由蔵に対してした本件換地処分、控訴人矢野武雄の被控訴人組合に対する同被控訴人が同控訴人に対してした本件換地処分のうち、原判決添付別紙第二目録記載の(四)の①③④の各処分の無効確認を求める部分は不適法であるから却下すべきものとし、亡矢野由蔵の被控訴人組合に対するその余の請求及び控訴人矢野武雄の被控訴人組合に対するその余の請求は行訴法三一条に従い棄却するとともに、本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分(但し、右却下した部分を除く。)が違法であることを宣言し、控訴人の被控訴人組合以外の被控訴人らに対する請求は理由がないから棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、左記に付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人主張1の事実は、被控訴人らにおいて、明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、控訴人主張の2の各事実は、被控訴人らの関係当事者において、関係部分につき認めて争わないところである。

二  控訴人は、原判決が被控訴人組合において昭和二四年三月二五日付でした原判決添付別紙第一目録及び第二目録記載の各(一)の各土地についての各仮換地指定の取消処分及び昭和三五年三月三一日付でした右土地についての各換地処分が重大かつ明白な瑕疵があることを認めながら、行訴法三一条一項を適用して、いわゆる事情判決をしたのは不当であると主張する。しかしながら、行訴法三一条一項は、公共の福祉の強い要請のあるときは違法処分の効力を維持し、その取消の請求を棄却することができるとした、いわゆる事情判決の制度であるが、違法処分の効力を維持すること自体が事柄の性質上当然に公共の福祉をなにがしか害することになるはずであるから、違法処分を取消さないで存置するために生ずる公益侵害の程度よりも、違法処分を取消すことにより生ずる新たな公益侵害の程度がはるかに高い場合にだけ同法条の適用が許されるべきものであると解すべきである。そして、いわゆる、事情判決の制度は、取消訴訟についてだけ規定されているのであるけれども、行訴法三一条一項の規定は、法政策的考慮に基づいて定められたものではあるが、しかしそこには、行政処分の取消の場合に限られない一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられるのである(最高裁判所昭和五一年四月一四日判決、民集三〇巻三号二二三頁参照)。引用の原判決理由説示によれば、被控訴人組合は、本件施行地区の全域にわたって、仮換地指定処分を取消して、全く別個の本換地をしてしまい、それを前提に土地の権利関係、利用関係が今日まで二〇年以上の長きにわたって築かれたものであって、本件仮換地指定処分の取消が無効になると昭和一八年の仮換地指定処分が復活し、被控訴人組合としては控訴人に対し約二万四〇〇〇平方メートルについて本換地を進めなければならなくなり、とりわけ本件が我国の戦後の一大変革である農地改革を背景としており、本件提訴以来既に二〇年以上も経過し、その間の社会的、経済的事情が著変しているのみならず、本件施行地区が広大で利害関係のある者が多数であるというのであるから、本件仮換地指定の取消処分及び本件仮換地処分を無効とすることにより、広大な土地、多数の利害関係者について生じる各種の法律関係及び事実状態を一挙に覆滅し去ることは、著しく公共の福祉に反するものといわなければならないが、他方、控訴人及び亡矢野由蔵は、本換地の一部を他に売却して利益を受けているのみならず、控訴人としては、被控訴人組合に対し、損害賠償を請求する余地が全くないわけではなく、控訴人の損害の程度は比較的僅少であるというのであるから、本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効を確認しないで存置するために生ずる公益侵害の程度よりも、本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効確認をすることにより生ずる新たな公益侵害の程度が遙かに高い場合に当るというべきであって、行訴法三一条一項の規定に含まれている一般的な法の基本原則に従って、事情判決ができると解するのが相当である。控訴人は、原判決が事情判決をもって控訴人の本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効確認を求める請求を棄却した理由は、控訴人が本件訴えを提起した後の審理期間が長期に及んだ間に生じた事情であるのみならず、控訴人は本件土地区画整理地域の耕作者が不法耕作者であるとして大阪地方裁判所昭和二五年(ワ)第一五三六号事件において不法耕作者と小作契約関係がないことの確認を求め、右事件は昭和三〇年八月二五日控訴人らの請求を認容する判決が言渡され、右判決は、昭和三四年六月二六日確定したのであるから、本件について、いわゆる事情判決するのは不当であると主張するが、右事情が本訴提起後の審理期間が長期に及んだ間に生じたものであり、控訴人が本件区画整理地区の不法耕作者に対し、控訴人主張の訴えを提起し、控訴人が勝訴判決を受け、右判決が確定したとしても、本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効を現時点で確認することは、公益侵害の程度が遙かに高いといわなければならない。行政処分の無効確認判決の第三者効を是認しない立場に立ったとしても、右の結論にはなんら影響を与えるものではない。控訴人の主張は採用できない。

三  控訴人は、被控訴人組合以外の被控訴人らに対し、本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分が無効であることを前提として、本件仮換地指定による原判決添付別紙第一目録、同第二目録の各(二)の各仮換地の使用収益権に基づき、右各仮換地に建物を所有して各仮換地を占有しているとして、その建物の収去とその敷地である仮換地の明渡しを求めているのであるけれども、控訴人と被控訴人組合との間で本件仮換地指定の取消処分及び本件換地処分の無効確認を求める請求が訴えの利益を欠くか、または、公共の福祉に適合しないとして許されないものである以上、控訴人が原判決添付別紙第一目録及び同第二目録の各(二)の各仮換地の使用収益権を有することを主張することができなくなるのであるから、控訴人の被控訴人組合以外の被控訴人らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よって、被控訴人組合が亡矢野由蔵に対してした本件換地処分、控訴人に対してした本件換地処分のうち、原判決添付別紙第二目録記載の(四)の①、③、④の各処分の無効確認を求める部分は不適法であるから却下すべく、控訴人の被控訴人組合に対するその余の請求は行訴法三一条一項に従い棄却するとともに、本件仮換地指定の取消処分及び本件仮換地処分(但し、右却下した部分を除く。)が違法であることを宣言し、控訴人の被控訴人組合以外の被控訴人らに対する請求は理由がないから棄却すべきであって、控訴人の本件控訴は理由がないから民訴法三八四条により棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九五条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 田坂友男 阪井昱朗)

<以下省略>

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