大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)25号 判決 1983年11月22日
控訴人(原告) 東洋シート労働組合
被控訴人(被告) 神戸地方法務局 伊丹支局供託官
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人に対し昭和五五年三月二七日付でした、昭和五四年(金)第三八一号供託金に対する払渡請求認可処分(同年六月二〇日付)の取消処分を取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。但し、原判決九枚目裏五行目「原告の主張」を「原告の反論」と改める。
一 控訴人の当審での新たな主張
1 原判決は、「旧東洋シート支部が昭和五四年四月から同年五月にかけて総評全国金属労働組合を組織脱退し控訴人名に名称変更した際、伊丹分会では反対者がいなかつたけれども、広島分会では四、五名の組合員が組織脱退に反対し東洋シート支部名で労働組合を結成し、現在広島において控訴人との間で争訟中である。右認定事実に照らせば、本件全証拠によつても、控訴人と旧東洋シート支部とが同一性を有し東洋シート支部が現存しない団体であるとはいまだ認めえないから、控訴人の主張はその前提を欠くものといわなければならない。」旨認定判断している。しかし、昭和五八年八月一九日に言渡された右争訟事件(広島地方裁判所昭和五四年(ワ)第五三七号事件)の判決は、「支部組合(旧東洋シート支部)は、昭和五四年四月二〇日、二一日の各分会大会決議により、その組織を挙げて全金(総評全国金属労働組合)から脱退し、東洋シート労働組合すなわち被告(控訴人)の名を称するに至つたものと認められる、したがつて、被告組合は支部組合と同一性を有するものと結論される。」と認定判断し、明確に控訴人と旧東洋シート支部との同一性を肯定しているから、原判決がいうように控訴人の主張は前提を欠くとはいえなくなつた。
2 旧東洋シート支部は、伊丹分会と広島分会をもつて組織する労働組合であつたが、伊丹及び広島の両分会は、遠隔地にあつて両分会員全員が集合することは事実上困難であつたところから、それぞれ独立に機関及び会計を有していたのであつて、旧東洋シート支部は、二個の権利能力なき社団によつて構成される連合体型の労働組合とみるべきものである。ところで、本件弁済供託金員は、旧東洋シート支部伊丹分会が同分会に所属する組合員から徴収した闘争積立金を兵庫労働金庫に預け入れていたものである。預金者の名称は旧東洋シート支部になつているが、これは旧東洋シート支部伊丹分会のことである。すなわち、この預金は、旧東洋シート支部伊丹分会という一個の権利能力なき社団が旧東洋シート支部という名称で預け入れたものである。したがつて、本件還付請求の許否を決するにあたつては、控訴人と旧東洋シート支部伊丹分会との同一性を検討すれば足りるのであつて、旧東洋シート支部広島分会における内部分裂騒ぎはこれとは無関係である。
3 そして、本件弁済供託金員が旧東洋シート支部伊丹分会所属組合員の闘争積立金であることは、原判決添付別紙添付書類目録記載(5)の議事録(甲第一〇号証)によつて明らかであり、旧東洋シート支部伊丹分会においては総評全国金属労働組合からの組織脱退に際し組合の分裂はなく、控訴人と旧東洋シート支部との間に同一性が存することは、右目録記載(1)の書面(甲第六号証)及び右議事録によつて明らかである。
4 したがつて、本件還付請求には、還付を受ける権利を有することを証する書面の添付があつたものというべきであつて、本件処分は違法な処分である。
二 右主張に対する被控訴人の認否と反論
控訴人の当審での主張はすべて争う。
債権者不確知を理由とする供託金について払渡請求がなされた場合に、請求者が正当な払渡請求権者であるか否かにつきなされる供託官の審査及び同審査に対する司法審査は、当該供託書副本と供託金払渡請求書及びその添付書面のみによつてなされるべきであるところ、控訴人が提出援用する前記判決書(甲第二一号証)は右書面にはあたらないから、控訴人の前記一1の主張はその前提を欠くもので失当である。
第三証拠<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審での新たな主張に鑑み、次のとおり説示を付加するほか、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。但し、原判決一七枚目表末行「乙第二号証の二」の次に「、同第三号証」を加え、同裏六行目「東洋シート名で」を「東洋シート支部から」と、六、七行目「不服の申立て」を「審査請求」とそれぞれ改める。
1 控訴人は、旧東洋シート支部と控訴人とは同一性を有し、東洋シート支部は事実として存在しないから、このような場合には、被供託者の一方の承諾に代えてその者が存在しないことを明らかにする書面を添付すれば足りるとしたうえで、当審において、東洋シート支部と控訴人との間の争訟事件(広島地方裁判所昭和五四年(ワ)第五三七号事件)の判決が旧東洋シート支部と控訴人との同一性を明確に肯定している旨主張し(当審での新たな主張1)、右判決正本(甲第二一号証)を証拠として提出する。
しかし、供託金払渡請求についての供託官の審査の資料とされるのは、右請求にあたり関係人から提出された資料に限られ、右請求についての供託官の処分に対する司法審査の資料とされるのも、これと同じであると解すべきであることは、原判決の詳細に説示するとおりであるところ、前記判決正本がこのような資料にあたらないことは明らかである。のみならず、成立に争いのない甲第二一号証によれば、前記争訟事件は、東洋シート支部の控訴人に対する訴外株式会社東洋シートの広島工場内の組合事務所の明渡及び右事務所内の什器備品等の引渡請求事件であり、右訴訟では元来旧東洋シート支部に帰属していた右事務所の使用借権・占有権及び什器備品等の所有権が東洋シート支部に帰属するに至つたかそれとも控訴人に帰属するに至つたのかという点が争いとなり、前記判決も有権的には右の点について判断しているにとどまる(もとより本件預金債権の帰属の点に触れたものではない)ことが認められる。
したがつて、控訴人のこの点の主張は理由がない。
2 控訴人は、次に、本件弁済供託金員は元来旧東洋シート支部伊丹分会の資産であり、したがつて現在では右分会の後身である控訴人の資産であつて、そのことは本件還付請求の添付書類によつても明らかである旨主張する(当審での新たな主張2ないし4)。
しかし、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件弁済供託金員の供託者たる兵庫労働金庫への預金者が旧東洋シート支部伊丹分会ではなくて旧東洋シート支部であることは明らかであり、右乙第一号証及びいずれも成立に争いのない乙第二号証の一ないし九によれば、本件弁済供託の供託書、本件還付請求の請求書及びその添付書類だけを資料として審査した限りでは、控訴人が旧東洋シート支部とは同一性を有する団体であり本件弁済供託金員の還付請求権の唯一の権利者であるとは必ずしも断じえないことが認められる。
してみれば、本件還付請求は、請求者たる控訴人が真正の還付請求権者であることの証明がないことに帰するのであり、右請求を認めた本件認可処分は不当であつて、これを取消した本件処分は正当であるといわなければならない。
したがつて、控訴人のこの点の主張も理由がない。
二 よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今中道信 露木靖郎 齋藤光世)