大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)57号 判決 1984年11月13日
控訴人 田中俊一郎 ほか一名
被控訴人 芦屋税務署長
代理人 高田敏明 足立孝和 ほか二名
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人が控訴人田中俊一郎に対して昭和五四年五月三一日付でした相続税についての更正処分のうち、納税すべき相続税額三五八六万五五〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。
被控訴人が控訴人田中清野に対して昭和五四年五月三一日付でした相続税についての更正処分のうち、納税すべき相続税額七九万八六〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
当事者双方の主張は次のとおり附加・訂正・削除するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人ら
1 原判決二枚目裏六、七行目「別紙(二)の各確定申告欄」の記載を本判決別紙各確定申告欄記載のとおり改める。
2 同二枚目裏末行の次に「本件更正処分は、分与財産の取得に要した費用の控除を一切認めず、かつ審判確定時の昭和五二年七月一一日当時の相続税法を適用せず、吉太郎の死亡時である昭和四三年一〇月二七日当時の相続税法を適用したもので、併せてこれに基づき本件過少申告加算税賦課決定処分をしたものである。」を加える。
3 同五枚目裏一、二行目「(すなわち死亡時)」とあるを削除する。
4 私法上の財産取得時期と相続税法上の財産取得時期との関係について、相続税基本通達一・一の二共―八の(一)は、「財産取得の時期につき、停止条件付の遺贈でその条件が遺贈者の死亡後に成就するものについては、その条件が成就した時」と定めているところ、停止条件付遺贈の場合は、相続税法上何の例外規定も存しないにもかかわらず、通達自身で私法上の効力発生の時期と合わせてその財産の取得時期(納税義務の成立時)を条件成就の時と定めているのであるから、本件のような分与審判の確定時に財産を取得することが明らかな財産分与による財産取得の場合も、右と同様私法上の効力発生時期と合わせてその財産の取得時期(納税義務の成立時)を分与審判の確定時と解すべきは当然のことである。
二 被控訴人
1 控訴人らの当審の附加訂正の主張1、2は認め、同4のうち通達の内容は認めるが、その余は争う。
停止条件付遺贈の場合も、法定相続人課税方式による遺産取得税方式により相続開始時の相続税法を適用すべきで、条件成就時の相続税法は適用されるべきではない。
第三証拠 <略>
理由
一 当裁判所も控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に附加・訂正・削除するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一七枚目裏九行目の次に「してみると、本件の争点は、第一に財産分与の審判により取得した財産に適用すべき相続税法は、財産分与の審判確定時の相続税法によるのか、吉太郎死亡時のそれによるのかという点であり、第二に分与財産の取得に要した費用(分与財産の一割)の控除を認めるべきか否かの二点に尽きるので、以下検討する。」を加える。
2 原判決二二枚目裏初行から同二三枚目表七行目までを次のとおり改める。
(ハ) しかし、私法上の分与財産取得時期如何にかかわらず、法三条の二が被相続人からその財産を遺贈されたものとみなして相続開始時にその財産を取得したものとした趣旨は、前記のとおり財産分与制度が遺言制度を補充するためのものであるところから、課税面においてもこのことを考慮し、分与財産は被相続人から遺贈によつて取得したとみて相続税の課税対象とすることが相当であり、また分与財産の取得が遺贈によつて被相続人から財産を取得した場合、及び法三条のみなし遺贈の場合とその実質において相違がないと解されたためである。そして分与財産を課税対象とするためには、相続法の課税体系(法定相続分課税方式の導入による遺産取得課税)に合致させる必要があるので、分与財産の取得を遺贈による取得(即ち相続開始時の取得)とみなしたものである。
従つて本件財産分与による私法上の財産取得時期が相続開始時から長期間を経過したからといって、そのために法三条の二を別異に解すべきではない。(因みに、相続の場合でも、例えば共同相続人間で相続権の存否等について争いがあるため長期間遺産分割が行われず、そのため共同相続人が実質的にみて相続財産を長期間取得できなかつたと同視できる場合もあることに思いを致すべきである。)
なお、法三条の二において、分与財産の価額を分与時の時価としたのは、財産の分与が相続財産法人において相続財産の清算(相続債権者及び受遺者に対する弁済等)が行われ、その後残存する財産のうちから行われるためであつて、財産分与時(審判確定時)に租税債務が成立することを前提とするものではない。
3 原判決二四枚目裏三行目「経緯」の次に「、並びに基礎控除制度は一連の税額算出過程の一要素にすぎず、これだけとりだしてその不当性を云々することは必ずしも当を得ないこと」を加える。
4 原判決二七枚目裏一、二行目「本件更正処分の」から三行目までを「本件更正処分の計算過程は本判決別紙更正欄及び備考欄のとおりで、控訴人らの納付すべき相続税額は控訴人俊一郎につき五八四八万八六〇〇円(百円未満切捨て)、同清野につき一三〇万二四〇〇円(百円未満切捨て)となる。」と改める。
5 控訴人らの当審の主張4について
停止条件付遺贈でその条件が遺贈者の死亡後に成就するものについては、私法上及び税法上その条件が成就した時をもつて受遺者の受遺財産取得時と解するのが相当である(同旨の相続基本通達が存することは当事者間に争いがない)ところ、停止条件成就による受遺者の納税義務の成立時は、国税通則法一五条二項四号により右財産取得時(右条件成就時)であるけれども、その適用すべき相続税法は、前述のとおりすべての相続納税義務者につき相続開始時を基準とした課税を行う相続税法の課税体系(法定相続人課税方式による遺産取得税方式)によれば、相続開始時の相続税法である。
してみると、控訴人らの右主張4はその前提を欠き採用できない。
二 そうすると控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用につき民訴法八九条、九三条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 乾達彦 東條敬 馬渕勉)
別紙 <略>