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大阪高等裁判所 昭和59年(う)390号 判決 1984年10月16日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武川襄作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意一(訴訟手続の法令違反の主張)について。

論旨は、本件については、検察庁においてその捜査に関与した司法修習生が、原審弁護人のもとで本件の弁護活動にも関与し、原審公判期日における検察官の論告及び弁護人の弁論の両方を実質的に行なつており、この点で原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ考察するに、記録及び当審における事実取調の結果によれば、

(一)  本件の捜査を担当した京都地方検察庁検事青木捷一郎は、右捜査中、被告人の了承を得たうえ、自らも同席している場において、当時同検察庁において検察事務を修習中であつた荒川英幸外一名の司法修習生に被告人からの事情聴取を行なわせ、聴き取つた内容を右荒川修習生においてまとめた原稿を添削して同修習生に浄書させたのち、これを自ら被告人に読み聞かせ、内容に間違いのないことを確認させて被告人の署名押印を得、供述調書(原審で取調べた被告人の検察官に対する昭和五八年一一月一〇日付供述調書)を作成したこと、

(二)  京都弁護士会所属の弁護士金川琢郎は、昭和五九年一月二〇日に京都地方裁判所から本件の国選弁護人に選任されたが、それからまもなく当時自分のもとで弁護修習中であつた前記荒川修習生を伴つて前記検察庁へ本件に関する記録の事前閲覧に赴いた際、同修習生から、検察修習中に同修習生が前記のとおり本件捜査に関与したことを告げられるとともに、本件の弁護活動に関わることを避けようかという申し出を受けたので、その必要はないと考えてその旨答え、かつ、今度は立場を変えて本件を検討し、弁護要旨を起案してみるように勧め、一方、被告人に対し、右のような同修習生の立場を説明したうえ、これに弁論要旨を起案させることの了解を求め、これを得たのち、同修習生が起案した弁論要旨を被告人に見せたところ、内容についても賛同を得たので、同年二月一七日の原審第一回公判期日において、証拠調終了後、同修習生の浄書した右弁論要旨の書面に基づいて弁論を行ない、同書面を原裁判所に提出したこと、なお、右公判中、同弁護士は右荒川修習生を弁護人席には同席させず、傍聴人席で傍聴させたこと

が認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。所論は、同修習生が検察官の行なう論告をも実質的に行なつたものである旨主張するが、証拠上かかる事実は認められない。

そこで、右認定の事実関係に基づいて考えるに、前記荒川修習生は、修習のため、検察官の捜査活動のうち被告人からの事実上の事情聴取、供述調書の原稿作成及びその浄書、並びに弁護人の弁護活動のうち弁論要旨の原稿作成とその浄書に関与したものであるところ、右の行為は、検察官や弁護士の指導のもとに、修習の目的で事件を取り扱うものであつて、もとより弁護士法二五条四号などの取扱禁止規定は適用されないと解されるけれども、当事者対立構造を採る刑事訴訟制度の建前や、刑事司法の公正な運用という理念に照らすと、たとえ修習という目的に出るものであつても、事件の関係者や一般人をして、対立当事者としての検察官及び弁護人の職務遂行の厳正さに疑念を生じさせるおそれがあると考えられるから、同修習生は、右のように捜査手続に関与した以上、弁護活動に関与することは一切避けるのが望ましい措置であつたとはいえ、右行為は、原審における弁護人の訴訟行為を直接行なつたものでないことはもちろん、これに不当な影響を及ぼしているとも考えられないから、これを実質的に行なつたともいえないので、いまだ原審の訴訟手続を違法とすべき場合には当たらないというべきである。論旨は理由がない。

控訴趣意二について。

論旨は、原判決の量刑不当を主張するので、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して考察するに、本件は、書店などを経営する被告人が、販売目的をもつてわいせつ写真集五〇七冊を所持していたという事案であつて、その所持の規模が大きく、所持の態様も芳ばしくないもので、その犯情は必ずしも軽いものとはいえないから、被告人が本件所持に際し、右写真集が未青年の眼に触れないよう配慮していたこと、被告人に前科がなく、反省の態度も認められること、更にはわいせつ文書等についての所論のような近時の社会風潮など、所論の諸点を含め被告人に有利な事情を十分斟酌しても、被告人を懲役六月、二年間刑執行猶了に処した原判決の刑が重きに過ぎるとは認められない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用を被告人に負担させることにつき同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(環直彌 高橋通延 青野平)

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