大判例

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大阪高等裁判所 昭和59年(う)919号 判決

論旨は,原判決は,被告人がA女外6名の女性を,自己の管理する場所に居住させてこれに売春させることを業とした旨の事実を認定し,売春防止法12条所定のいわゆる管理売春罪の成立を認めたが,被告人は,自己の経営する個室付浴場(いわゆるトルコ風呂)の控室を右女性らの勤務場所として利用させていたにすぎず,その場所を起臥寝食の場所とさせていたわけではなく,また,被告人が同女らに対して課していた無断欠勤,遅刻,外出等の禁止及びその場合の制裁の取決めなどは形式的なものであって,必ずしも取決めどおりに履行されていなかったのであるから,被告人は右女性らを自己の管理する場所に居住させてこれに売春させることを業としていたものではない。そもそも,同条所定のいわゆる管理売春罪は,女性に対する支配拘束性の高度な娼家型売春を取り締まることを目的として制定されたものであって,原判決が,本件のように女性に対する支配拘束性のない事案につき同罪の成立を認めたのは外形的形式的な管理型態を実質的なものと見誤った結果,事実を誤認したものである,というのである。

そこで,検討するのに,そもそも売春防止法は,「売春が人としての尊厳を害し,性道徳に反し,社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ,売春を助長する行為等を処罰する」こと等を目的として(同法1条),売春を助長する各種の典型的な行為類型を拾い出したうえ,これらの類型にあたる行為をした者に対し,違法性の程度に応じ種々の法定刑を規定しているが,同法12条所定のいわゆる管理売春罪は,所論も指摘するとおり,主として伝統的な娼家型管理売春を念頭に置いて立案されたものである。同条が,いわゆる管理売春罪の法定刑の上限を,同法違反罪のうちで最高の懲役10年及び罰金30万円と定めているのは,自己の支配力の及ぶ場所に女性を起臥寝食させ,売春を強要するような典型的な管理売春行為は,女性の醜業への従事を単に助長するだけでなく,女性を全人格的に支配してその醜業からの離脱を困難ならしめ,かつ,自らはこれによって経済的利益を得ようとするものであって,女性の人権を侵害すること著しく,人間としてきわめて恥すべき行為であるという認識に立つものと考えられる。ところが,最高裁判所の判例は,すでに,女性を自己の管理支配する場所に起臥寝食させていなくても,客待ち等のため,これを相当長時間自己の管理支配する場所に待機させて,いつでも客に提供できる態勢をとっている場合で,女性の売春につき支配関係の認められるときは,同条にいう「居住させ」及び「売春させ」の要件を満たすという解釈を示している(最高裁昭和42年(あ)第605号同年9月19日第三小法廷決定・刑集21巻7号985頁,最高裁昭和42年(あ)第2514号同43年11月21日第一小法廷判決・裁判集刑事169号479頁)。そして,右の解釈によると,女性が自ら任意に定めた住居を有し,右住居から客待ち場所への出勤ひいてはその醜業からの離脱が最終的にその自由意思に委ねられている場合であっても,同条違反罪の成立がありうることとなり,これが,同条の文理及び前記のような同条の直接の立法趣旨からやや離れた見解であることは,これを否定することができない。しかし,女性を自己の管理支配する場所に起臥寝食させていない場合であっても,客待ち等のため相当長時間かかる場所に待機させて,いつでも客に提供できる態勢をとっているときには,その間の拘束時間の長さの程度,拘束性の強弱,客をえり好みすることの許否,売春の対価の分配方法等,営業者が女性に課す勤務条件のいかんによっては,営業者が女性を場所的・物理的・心理的・経済的に支配拘束して,売春を慫慂し,売春による利益の分配にあずかることになるという意味において,前記のような典型的な管理売春行為と共通の性格を有するものがありうるのであり,同法12条所定の罪の法定刑の下限がその余の同法違反の罪のそれと同一であること及び同法1条所定の同法の窮極の立法趣旨などをも考慮すると,その違法性の程度において典型的な管理売春行為に比べ一歩を譲るものがあるとはいえ,かかる行為もまた同条による処罰の対象に含まれると解することに,合理的な理由がないとはいえないから,当裁判所においても,前記判例の見解に従うこととする。もっとも,女性を自己の管理支配する場所に待機させるだけで,そこに起臥寝食させていない場合は,起臥寝食させている場合に比べ女性に対する営業者の支配力がやや弱いことは明らかであるから,それにもかかわらず「売春させ」の要件が充足されるためには,前記のような具体的な勤務条件及び営業者の具体的行動等諸般の事情を総合して,営業者が事実上女性を醜業に従事せざるをえないように仕向けていたかどうかを慎重に判断する必要がある。

そこで,かかる観点のもとに本件につき検討するのに,原判決挙示の証拠によれば,被告人の原判示個室付浴場の経営型態に関し,次の諸事実が認められる。すなわち,

1 被告人は,遊客との売春を行うことを条件として雇い入れた女性(いわゆるトルコ嬢)約17名(但し,本件において起訴されているのは,そのうち7名との関係のみである。)を,早番,中番,遅番の三班に分け,早番は午後2時ころから,中番は午後4時ころから,遅番は午後6時ころから,いずれも翌日の午前2時ないし同2時30分までの間,同浴場控室に待機客待ちさせて無断外出を禁止し,いつでも客の求めに応じうる態勢をとっており,女性の被拘束時間は短かい日で8時間,長い日で12時間半にも及ぶこと,

2 雇入れに際し,被告人は女性らに対し,無断欠勤の場合は即刻解雇,遅刻した場合は客付けの順番を一巡とばす等の制裁があることを告げて現実にもこれを実行する一方,毎月一定数以上の指名客をとるようノルマを課し,指名客数がこれに満たない場合は自主的に退店するよう予め申し渡しており,また,月間の成績上位者は部屋持ちにして優遇するなど,賞罰の両方から女性を締めつけ,もとより客のえり好みはこれを許さなかったこと,

3 被告人は,遊客から,入浴料としてまず6,000円を徴したうえ,女性が遊客から受け取るべき売春料(60分間で基本料金2万円,但し,20分超過ごとに延長料金3,000円を加算)のうち,基本料金から3,000円及び延長料金のほぼ全額を取得(但し,40分以上の延長の場合に限り女性に1,000円を返戻)することとしており,女性には,遊客から受け取る売春料以外に収入の途を与えていなかったこと,

などの事実が認められる。

かかる事実関係に照らして考察すると,たしかに,被告人は,女性らを自己の管理支配する場所に起臥寝食させていたわけではなく,また,女性らに売春を強要していたものでもその醜業からの離脱を著しく困難ならしめていたものでもないけれども,自己との契約関係に入った女性らの身体の自由を相当長時間拘束してこれを自己の管理支配下に置き,いつでも遊客の求めに応じうる態勢を整えたうえ,前記のような契約関係等を利用して同女らに売春を強く慫慂し,自己の割り当てる遊客と売春せざるをえないように仕向けていたと認められるから,すでに述べた意味において,女性らを自己の管理支配する場所に「居住させ」「売春させ」たものといわざるをえない。

もっとも,所論は,被告人が定めていた前記2のような制裁・規律は全く形式的なものであって,被告人は,無断遅刻による客付の一巡飛ばしや無断欠勤による解雇などは一度も実行したことがなく,申し出があれば女性らの外出を拒んだことはないなどと主張し,原審証人A女及び被告人の原審及び当審公判廷における各供述中には右所論に副う部分もあるが,右各供述は,B男,A女,C女及びD女らの検察官に対する各供述調書の記載に照らしてにわかに措信し難いばかりでなく,かりに所論のように,右制裁が必ずしも厳格には守られないことがあったとしても,被告人がそのような制裁措置をとる旨女性らに申し渡していたこと自体は所論もこれを争わないところ,これが,被告人のとっていたその余の措置とあいまって,女性らの行動を相当強く制約する効果を有するものであったことは,疑いのないところであるから,いずれにしても,前記の結論を左右するものではない。また所論は,遊客の選択が女性の自由意思に委ねられていたとも主張し,被告人も,当審公判廷において右所論に副う供述をしているが,右供述は,被告人の検察官に対する昭和59年2月16日付供述調書の記載に照らし,信用することができない。

以上のとおりであって,論旨は理由がない。

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