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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1297号 1985年3月19日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社 柄谷工務店

右代表者代表取締役

柄谷順一郎

右訴訟代理人弁護士

前原仁幸

被控訴人(附帯控訴人)

池田青茲

右訴訟代理人弁護士

上原邦彦

垣添誠雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき、

附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、原判決により支払いを命ぜられた金員のほかに金二〇九万三一一〇円及びこれに対する昭和五九年一二月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  当審における訴訟費用は全部控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

(一)  本件控訴について

控訴人(附帯被控訴人。以下控訴人という)は、「原判決を取消す。被控訴人(附帯控訴人。以下被控訴人という)は控訴人に対して、控訴人・使用者(事業主)、被控訴人・労働者の関係がないことを確認する。被控訴人は控訴人から金九万六、九五〇円の支払いを受けるのと引換えに、控訴人に対し、原判決添付別紙第三株券目録記載の株券を引渡せ。被控訴人の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

(二)  附帯控訴について

被控訴人は、主文第二項と同旨及び「附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、控訴人は附帯控訴棄却の判決を求めた。(被控訴人は、附帯控訴により当審で反訴請求を拡張したものである。)

二  当事者双方の事実上、法律上の主張、証拠の提出援用及び書証の認否は、次のとおり付加するほか原判決事実適示と同じであるからこれを引用する。但し原判決五枚目裏一行目に「通信を発した」とあるのを「通信文を発した」と改め、八枚目表六行目の「終了した」に続けて「にも拘らず被控訴人はこれを争っているの」を加える。

(控訴人の主張)

(一)  控訴人会社は、柄谷工務店事業の事業主であって、被控訴人に対しては事業主である使用者の関係にはない。

被控訴人は、柄谷工務店事業の事業主の立場で事業主の利益のために安全衛生、業務開発など全社的利害がある部門の担当者として就業し、事業の業務運営を実施し組成していたものである。このように被控訴人は、事業主である控訴人の利益であるとして事業主から許容されかつ評価されていた地位、職務にある者であり、労働組合法二条但書一号にいう使用者の利益を代表する者というべきである。したがって、被控訴人は労働組合の加入、結成などの行為を回避しなければならない者である。

(二)  労働関係の利害調整は、労働法令の遵守権限者である国民に最終の権限が帰属し、司法裁判所にはこのような利害調整の権限行使を許されていない。

また就労していない者に対する民法を適用しての賃金支払は、右の利害調整の点からいって認めるべきではない。

(被控訴人の反論)

被控訴人の職務は、上司である部長又は主幹を補佐する内容のものであり、被控訴人が労働組合法二条但書一号にいう使用者の利益を代表する者にはあたらないことは明白である。

控訴人の主張は、労働組合法二条但書一号の「使用者の利益を代表する者」とは使用者が利益代表者と認めた者であるとする定義をつくり、上司を補佐するに過ぎない従業員でも使用者が利益代表者と認めれば利益代表者となるとし、裁判所、地労委などの国家機関にその認定の権限がないという独自の見解を述べているにすぎない。

(被控訴人の当審における反訴請求の拡張について)

一  被控訴人の主張

(一)  被控訴人は、昭和五五年七月に夏期賞与として金五一万一、八五二円を、同年一二月に年末賞与として金五三万四、七〇三円をそれぞれ控訴人から支給された。

(二)  控訴人は、その従業員に対し、昭和五六年七月一一日と同年一二月一〇日、同五七年七月一二日、同年一二月一一日、同五八年七月一一日、同年一二月一〇日、同五九年七月一一日及び同年一二月一〇日に、七月は夏期賞与、一二月は年末賞与を、いずれも前年を上回る水準の金額で支給した。

(三)  そこで被控訴人は、昭和五八年及び同五九年度の夏期、年末賞与として、昭和五五年度に支給を受けた前記の夏期、年末賞与の合計金額である一〇四万六、五五五円の倍額に当る二〇九万三一一〇円を控訴人から支給されえたはずである。

(四)  控訴人の被控訴人に対する解雇は無効であるから、被控訴人と控訴人との間には引続き雇用契約関係が存在している。したがって控訴人は被控訴人に対して、夏期、年末の賞与を支払うべき義務があるから、昭和五八年、同五九年度の夏期、年末賞与分にあたる金二〇九万三一一〇円及びこれに対する最終の弁済期の翌日である昭和五九年一二月一一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  右主張に対する控訴人の認否

被控訴人の右主張の(一)、(二)の事実は認める。同(三)、(四)の主張は争う。

(新証拠関係)…略

理由

一  本訴請求及び反訴請求について

当裁判所も控訴人の被控訴人に対する昭和五六年三月二六日付本件解雇は、被控訴人が控訴人会社従業員の間で労働組合を結成しようと活動を続けたことの故をもってなしたいわゆる不当労働行為で、就業規則にも違反し無効であり、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がなく、被控訴人の控訴人に対する反訴請求はいずれも理由があるものと認定判断するものであって、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決理由一ないし五に説示のとおりであるからこれを引用する。当審における証拠調の結果も右認定判断を左右しない。

(一)  原判決一七枚目表三行目、同裏九行目、一八行目表二行目、二三枚目裏七行目にそれぞれ「労組法二条一号但書」とあるのをいずれも「労組法二条但書一号」と改める。

(二)  原判決一七枚目表一二行目に「請求原因3」とあるのを「請求原因4」と改める。

(三)  原判決一七枚目裏五行目の「接衝」とあるのを「折衝」と改める。

(四)  原判決一八枚目表九行目に「労該」とあるのを「当該」と改める。

(五)  原判決二四枚目表一〇行目の次に行をあらためて次のとおり加える。

「(六) 労組法二条但書一号の趣旨は、使用者側の組合に対する干渉を排除し労働組合の自主性を確保するために、労働者であってもその者の参加を許すことによって使用者からの自主独立性が損われるおそれのある一定の者を組合員から排除すべきものとするにあり、この使用者の利益を代表する者に該るか否かは、右の観点からその者の権限ないし職務を当該事業に即して実質的に判断すべきものであって、控訴人主張のように使用者の側からみてその者が使用者の利益を図っていたと認められるか否かによって判断すべきものではない。このことは以上の説示により明らかである。

また控訴人会社が『柄谷工務店事業の事業主』の主体としての立場として理解したからといって労組法二条但書一号の使用者の利益を代表する者の意義を異別に解すべきなんらの理由にもならないし、いわんや司法権の判断の及びえないものとする控訴人の主張は独自の見解というほかない。」

(六)  原判決二五枚目裏四行目の次に「控訴人は就労していない者に対する賃金支払は認めらるべきでないと主張するが採用し難い。」を加える。

二  附帯控訴による反訴請求の拡張について

控訴人の被控訴人に対する昭和五六年三月二六日付本件解雇が無効であり、被控訴人と控訴人との間には引きつづき雇用契約関係が存続しているものというべきことは前記一のとおり補正のうえ引用の原判決説示のとおりであるほか、当審における反訴請求の拡張についての被控訴人の主張(一)、(二)の事実はいずれも当事者間に争いがないから、被控訴人は昭和五八年度、昭和五九年度における各夏期賞与、年末賞与として、昭和五五年度に支給を受けた夏期、年末賞与の合計金額である金一〇四万六五五五円の倍額の金二〇九万三一一〇円を控訴人から支給を受けうるものということができる。

したがって、控訴人は被控訴人に対し、右金二〇九万三一一〇円及びこれに対する最終の弁済期の翌日である昭和五九年一二月一一日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

三  以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求をすべて棄却し、被控訴人の反訴請求をすべて認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、被控訴人の附帯控訴に基づく請求の拡張は前記二に説示のとおりいずれも正当として認容すべく、当審における訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 畑郁夫 裁判官 亀岡幹雄)

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