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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1647号 判決 1986年5月20日

昭和五九年(ネ)第一六四七号事件控訴人 同年(ネ)第一六三五号事件被控訴人 (第一審原告) 大自工業株式会社

右代表者代表取締役 濱浦紀代輝

右訴訟代理人弁護士 中谷茂

右訴訟復代理人弁護士 山口勉

昭和五九年(ネ)第一六四七号事件被控訴人 同年(ネ)第一六三五号事件控訴人 (第一審被告) 西尾正美

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 河野宗夫

同 服部成太

昭和五九年(ネ)第一六四七号事件被控訴人 同年(ネ)第一六三五号事件控訴人 (第一審被告) 斎藤良治

右訴訟代理人弁護士 駒場豊

昭和五九年(ネ)第一六四七号事件被控訴人 (第一審被告) 伊場惣一郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 伊場信一

右訴訟復代理人弁護士 畑井博

主文

一  第一審原告の第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治に対する控訴及び請求の減縮に基づき原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治は、第一審原告に対し、各自金三八四四万五六四七円及びうち金三七三七万四四六〇円に対する昭和五七年七月一三日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一審原告の第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄に対する控訴及び第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治の第一審原告に対する各控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ、第一審原告と第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄との間においては第一審原告の負担とし、第一審原告と第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治との間においては同第一審被告らの負担とする。

四  この判決の主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  第一審原告

(一)  第一六四七号事件の控訴の趣旨

1 原判決を次のとおり変更する。

2 第一審被告らは第一審原告に対し、各自金三八四四万五六四七円及びうち金三七三七万四四六〇円に対する昭和五七年七月一三日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は第一、二審を通じて第一審被告らの負担とする。

4 第二項は仮に執行することができる。

(二)  第一六三五号事件の控訴の趣旨に対する答弁

1 第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治の各控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は同第一審被告らの負担とする。

二  第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治

(一)  第一六三五号事件の控訴の趣旨

1 原判決中第一審被告ら敗訴部分を取り消す。

2 第一審原告の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審を通じて第一審原告の負担とする。

(二)  第一六四七号事件の控訴の趣旨に対する答弁

1 第一審原告の控訴を棄却する。

2 控訴費用は第一審原告の負担とする。

三  第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄

(第一六四七号事件の控訴の趣旨に対する答弁)

1 第一審原告の控訴を棄却する。

2 控訴費用は第一審原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  第一審原告は、自動車部品等の製造販売を目的とする株式会社であり、同種商品の販売を目的とする株式会社ウエステル(以下、単に「ウエステル」という。)に対し、昭和五六年八月二一日から同五七年二月二〇日までの間、次のとおり代金合計七一七四万四三七〇円相当の自動車部品等を売り渡し、その代金の支払のために原判決添付別紙約束手形目録記載の約束手形計一八通を受け取った。

(1) 昭和五六年八月二一日から同年九月二〇日まで      八三〇万円相当

(2) 同年九月二一日から同年一〇月二〇日まで       一七三〇万円相当

(3) 同年一〇月二一日から同年一一月二〇日まで  二〇一二万九一六〇円相当

(4) 同年一一月二一日から同年一二月二〇日まで  二一六〇万九〇四五円相当

(5) 昭和五七年一月二一日から同年二月二〇日まで  四四〇万六一六五円相当

2  ウエステルは、負債約一〇〇億円をかかえて昭和五七年三月二四日倒産し、東京地方裁判所に会社更生の申立てをしたが後日これを取り下げ、自己破産の申立てをして破産宣告を受けた。

第一審原告は、ウエステルから、昭和五八年七月二一日に一四三五万九〇八七円を、昭和五九年一一月一九日に一二九四万六一五三円を各破産債権の配当として受領し、これをいずれも元本に充当したがその余の支払を受けることはできず残額四四四三万九一三〇円相当の損害を被った。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると次のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  ウエステルの事実上の創業は、第一審被告西尾正美の先代西尾浩一が、昭和五年六月、自動車部品用品を販売する西尾商店を個人企業として開業したことにさかのぼるが、右事実は昭和一三年五月合名会社西尾商店に継承され、さらに昭和二二年七月八日、自動車部品用品の販売等を目的とし資本金一九万五〇〇〇円をもって株式会社西尾商店が設立され、同社の商号がその後株式会社ニシオを経て昭和四八年七月に株式会社ウエステルと変更されたものである。資本金は数次の増資を重ねて昭和五四年六月には七〇〇〇万円となった。発行済株式の八五・七パーセントは第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同西尾弘ら西尾一族が所有し、その余を他の役員及び従業員が所有するという典型的な中規模同族会社であり、業界の老舗であるとともに昭和五四年度以降の月間売上高の平均は一〇億円に達する同業者の第一の大手である。

2  ウエステルは一見順調に業績をのばしてきたかの如くであったが、その内実は第二次石油ショック以降の業界の構造的不況の影響を受け昭和五一年度以降取引先の倒産が相次ぎ昭和五六年三月決算期における回収不能額累計は二億七二〇〇円に及び、昭和五七年三月決算期における回収不能額は三億五六〇〇万円に達した。また、業界の過当競争に伴う値引販売に加え、返品が多く、これらの戻り品は通常の価額で他に転売することが不可能であるため利益率の低下をもたらし経営成績が著しく悪化するとともに、売掛金の回収不能額の増加に伴い運転資金の窮乏をきたし、昭和五六年一〇月ころからは資金ショートの手当てに追われてその対策に腐心しているうち、いわゆる街の金融屋に一億円の約束手形を詐取され、加うるに昭和五七年一、二月の閑散期に売上げが急激に落ちこんだため、同年三月二五日満期の約束手形の決済ができなくなり、同月二四日、東京地方裁判所に会社更生の申立てをしたが、更生の見込みが立たないとして同年六月二二日その申立てを取り下げるとともに自己破産の申立てをし、同日破産宣告を受けた。

3  第一審被告西尾正美は昭和二二年七月株式会社西尾商店の設立と同時に同社の代表取締役に就任し、昭和五六年九月西尾弘が代表取締役となるまでその地位にあり、以後は取締役会長となり、ウエステルの経営全般を統轄していた。

4  第一審被告西尾茂宣は同西尾正美の弟で株式会社西尾商店の設立と同時に同社の常務取締役となったが、昭和四九年には子会社の株式会社ダイニの代表取締役を兼務し、昭和五六年九月に株式会社ダイニがウエステルと合併した以後はウエステルの専務取締役に就任し、同社の経営全般に従事した。

5  第一審被告斎藤良治は、昭和四七年に取締役総務部長、昭和五四年に常務取締役となり、ウエステルの経理担当取締役として同社の経理、財務全般を掌理していた。

6  第一審被告伊場惣一郎は昭和四〇年ころウエステルに従業員として入社したが、昭和四六年五月取締役に就任し、ユーザーに対する直販店の経営部門を担当していた。

7  第一審被告伊場日出雄は昭和三三年ころウエステルに従業員として入社したが、昭和五二年秋に取締役に就任し、管理部長を兼務して人事部門を担当していた。

二  《証拠省略》を総合すると次のとおり認められる。

1  ウエステルの昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの昭和五二年度における実際の収支決算は当期損益において一億一〇九四万二二四九円の損失であったにもかかわらず、第一審被告西尾正美は経理担当取締役である第一審被告斎藤良治のいうままに売上原価を過少に計上する方法により当期利益が五〇五万七〇〇〇円であるとする虚偽の内容を記載した損益計算書、貸借対照表等の計算書類を作成し、これを同社取締役会に付議して出席取締役である第一審被告全員の賛成による承認決議を得た。

2  ウエステルの実際の収支決算においては棚卸商品の価格を適正に評価し、また取引先の倒産による回収不能の債権額を落とすと、その昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの昭和五四年度における当期損益は九一九九万円の損失となり、また、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの昭和五五年度における当期損益は二億九八七万円の損失であったにもかかわらず、第一審被告西尾正美は同斎藤良治の意見を採用して不良債権を控除せず、棚卸商品約二億円の架空計上をする方法により、昭和五四年度における当期損益を二五八九万六七三五円の利益とし、昭和五五年度におけるそれを三二九〇万二五一四円の利益とする虚偽の内容を記載した各損益計算書、貸借対照表等の計算書類を作成し、これを同社取締役会に付議して出席取締役である第一審被告全員の賛成による承認決議を得た。

《証拠判断省略》

三  第一審原告が自動車部品等の製造販売を目的とする株式会社であり、ウエステルに対し自動車部品の販売をしていたこと並びに請求原因2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると次のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  第一審原告はウエステルに対し、昭和五六年八月二一日から昭和五七年二月二〇日までの間、請求原因1記載のとおり代金合計七一七四万四三七〇円相当の自動車部品等を売り渡し、その代金支払いのために原判決添付別紙約束手形目録記載の約束手形一八通を受け取ったが、前記認定のとおりの経緯によってウエステルは倒産し、破産宣告を受けるに至ったため、第一審原告は、右代金のうち一四三五万九〇八七円を昭和五八年七月二一日に、一二九四万六一五三円を昭和五九年一一月一九日に各破産債権の配当として受領し、これをいずれも元本に充当したけれどもその余の支払いは受けることができず、その残額四四四三万九一三〇円相当の損害を被った。

2  第一審原告は昭和五〇年ころからウエステルと継続的取引に入ったがその信用調査を昭和五三年、五四年、五六年、五七年に各一回ずつ計四回データバンクに依頼して代金回収の確保をはかっていた。データバンクは右信用調査をするについてはウエステルから直接計算書類等の資料を入手して主として右資料に基づき自社の分析した判断の結果を加えて調査報告書を作成し、これを第一審原告に交付していた。第一審原告はこのようにしてウエステルの前記昭和五二年度損益計算書、貸借対照表が添付され、かつ、それに基づいて作成された昭和五四年一月二三日付調査報告書を遅くとも同月二六日ころに、前記昭和五四年度損益計算書、貸借対照表に基づいて作成された昭和五六年六月一一日付調査報告書を遅くとも同月一四日ころに、また、前記昭和五五年度損益計算書、貸借対照表が添付され、かつ、それに基づいて作成された昭和五七年一月一二日付調査報告書を同月一五日ころに、それぞれ入手したが、前認定のとおりこれら調査報告書に添付され、また、その基礎資料とされたウエステルの計算書類が虚偽記載であったため、本件取引当時ウエステルは経営成績が悪化し売掛金の回収不能額の増加に伴い運転資金の窮乏をきたしていたにもかかわらず、同社は継続的に利益を計上していて倒産する危険性はないものと考えて同社との取引を継続し代金決済もすべて同社振出しの約束手形ですることに応じたことにより前記のとおり商品代金のうち四四四三万九一三〇円の弁済を受けることができない結果となり同額の損害を被ったものと推認される。

四  おもうに商法二六六条ノ三第一項後段(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの。同条について以下同じ。)の責任については同項前段と同じく悪意、重過失を要件とし、ただ、立証責任の転換により、当該取締役が相当の注意を用いたにもかかわらず計算書類等に虚偽の記載があることを知りえない事情にあったことが認められる場合に限って賠償責任を免れることができると解するのが相当である。

いまこれを本件についてみるのに、前記認定のとおり、第一審被告西尾正美は虚偽の記載のあるウエステルの昭和五二年度、五四年度、五五年度の決算案を作成してこれをいずれも同社取締役会に付議し出席取締役である第一審被告全員の承認決議を得たというのであり、商法二六六条ノ三第二項により準用される同法二六六条二項により第一審被告西尾正美以外の第一審被告についても右虚偽の記載のある決算案を作成したものとみなされることになるところ、第一審被告西尾正美、同斎藤良治がその虚偽記載であることを知って右決算案を作成し、また、取締役会において賛成の決議をしたと認められることは前記認定事実から明らかであるというべく、また、第一審被告西尾茂宣についてもそのウエステルにおける地位、職務の内容及び代表取締役西尾正美の弟であることに照らすと、同第一審被告が相当の注意を用いても右決算案に前記虚偽の記載があることを知ることができない事情にあったとは未だこれを認めるに足りないというべきである。したがって、右第一審被告ら三名は商法二六六条ノ三第一項後段に基づき第一審原告が右虚偽記載により被った前記損害を連帯して賠償すべき責任があるものといわなければならない。

しかしながら、第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄については、前記認定のとおり、両名とも従業員として採用された後、社内において昇格した取締役であるのに加えて、第一審被告伊場惣一郎はユーザーに対する直販店の経営部門を、第一審被告伊場日出雄は管理部長を兼務し人事部門を各担当していて計算書類の作成等には直接の関係がないばかりでなく、《証拠省略》によれば、ウエステルにおける同第一審被告らの立場は取締役会において決算案の内容について質問をし糾明できるようなものではなかったことが認められ、これらの事実関係に徴すると右第一審被告らは相当の注意を用いても右決算案に虚偽の記載があることを知りえず、したがってこの点につき悪意はもとより重大な過失はなかったものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右第一審被告らに対する請求はこの点において理由がない。

五  以上の事実によれば、第一審被告西尾正美、同同西尾茂宣、同斎藤良治は、第一審原告に対し連帯して①損害賠償金銭元本四四四三万九一三〇円から第一審原告が控除する西尾弘の弁済分七〇六万四六七〇円を差し引いた三七三七万四四六〇円及びこれに対する弁済期の後日である昭和五七年七月一三日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金及び②西尾弘の弁済分七〇六万四六七〇円及びウエステルの昭和五八年七月二一日弁済(配当)分一四三五万九〇八七円以上合計二一四二万三七五七円に対する昭和五七年七月一三日から第一審原告の自陳する右各弁済の日の以前である昭和五八年七月一二日までの民法所定年五分の割合による遅延損害金一〇七万一一八七円を支払うべき義務を有することが明らかであって、第一審原告の右第一審被告ら三名に対する請求はいずれも理由がありこれを認容すべきものであるが、第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄に対する請求はいずれも理由がなく棄却を免れない。

よって、第一審原告の第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治に対する控訴はいずれも理由があり、なお、第一審原告は当審において請求を一部減縮したので、原判決主文第一、二項をその限度で変更することとし、第一審原告の第一審被告伊場惣一郎、同伊場日出雄に対する控訴並びに第一審被告西尾正美、同西尾茂宣、同斎藤良治の第一審原告に対する各控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条に従い、仮執行の宣言については同法一九六条に従って、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 東條敬 裁判官馬渕勉は転補につき署名、捺印できない。裁判長裁判官 乾達彦)

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