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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)1803号 判決 1985年9月26日

控訴人(被告) 河村商事株式会社

参加人 株式会社松寺

脱退被控訴人(原告) 大阪三惠株式会社

原審 大阪地方昭和五八年(ワ)第二七号(昭和五九年二月二八日判決、一六巻一号一三八頁参照)

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は参加人に対し、金一〇八万五一〇〇円及び内金八四万五一〇〇円に対する昭和五八年一月一八日から、内金二四万円に対する昭和五九年二月二八日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  参加人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用及び参加により生じた費用は、第一、二審ともこれを三分し、その二を参加人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決は、参加人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立て

一  参加人

1  控訴人は、原判決添付目録(二)及び(三)記載の標章を同目録(七)・(八)表示の態様で使用したマフラーを販売してはならない。

2  控訴人は参加人に対し、金五五〇万円及び内金三五〇万円に対する昭和五八年一月一八日から、内金二〇〇万円に対する昭和五九年二月二八日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  参加により生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。

との判決並びに1、2項につき仮執行宣言を求める。

二  控訴人

1  参加人の請求をいずれも棄却する。

2  参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決事実第二請求原因から第五原告の認否と反論(原判決一四枚目表八行目末尾)までのうち「原告」とあるのをすべて「脱退被控訴人」と、「被告」とあるのをすべて「控訴人」とそれぞれ改める。

二  原判決二枚目裏六行目(編注、一六巻一号一四一頁一四行目)の「有する」を「昭和四四年一二月前主松本善治から譲り受けて取得し、同四六年三月四日その移転登録を、同五四年一一月二九日その更新登録を受けた」と、同三枚目表八行目(同上、一四二頁三行目)の「現に」を「少なくとも昭和五五年ころから」と各改め、同五枚目表八行目(同上、一四三頁一〇行目)末尾の次に左のとおり加える。

「なお、丙標章については図形の類似を問題にしているのではなく、そのうち文字の使用が本件商標権を侵害する旨主張するものである。そして、その図形と文字は不可分一体の関係にはないから、右図形のみを商標的に使用する場合まで本件商標の禁止権が及ぶと主張するものではない。」

三  同五枚目表一一行目(同上、一四三頁一二行目)の「五六年度」の次に「(昭和五五年暮から同五六年三月ころまで)」を、同行(同上、一四三頁一二行目)の「五七年度」の次に「(昭和五六年暮れから同五七年三月ころまで)」を、同一二行目(同上、一四三頁一二行目)の「万枚」の次に「、同五八年度(昭和五七年暮から同五八年三月ころまで)二万枚」を各加え、同裏二、三行目(同上、一四三頁一四行目)の「七〇〇〇万」を「一億一〇〇〇万」と、同三行目(同上、一四三頁一四行目)の「三五〇万」を「五五〇万」と、同四行目(同上、一四三頁一五行目)の「がある」を「を負担するに至つた」と各改め、同五行目冒頭から同九行目(同上、一四三頁一六行目から一八行目)末尾までを次のとおり訂正する。

「五 参加人は、脱退被控訴人から、当審係属後である昭和五九年四月一七日本件商標権を譲り受け、同年七月三〇日その移転登録を了した。

又参加人は、右移転登録に伴い脱退被控訴人から、同年九月四日脱退被控訴人の控訴人に対する前記一切の損害賠償請求権の譲渡を受けた。

脱退被控訴人は、控訴人に対し、昭和五九年九月五日到達の文書により、右債権譲渡をした旨通知した。

六 よつて、参加人は控訴人に対し、乙、丙各標章を付したマフラーの販売の差止めと、損害金五五〇万円及び内金三五〇万円については不法行為後である昭和五八年一月一八日(脱退被控訴人の本件訴状が控訴人に送達された日の翌日)から、内金二〇〇万円については不法行為後である昭和五九年二月二八日(原判決言渡しの日)から、各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

四  同五枚目裏一一行目(同上、一四三頁末行)の「、二」を削り、同行末尾の次に「同二中販売の始期及び現に販売しているとの点は争い、その余は認める。控訴人が後記のとおり本件マフラーを訴外株式会社コンセプトから仕入れて販売したのは昭和五六年夏ころ以降であり、同社の親会社である訴外株式会社シヤボーハウス三矢が昭和五八年八月一一日倒産して以来両会社とも業務を停止していることから、そのころ以降控訴人は本件マフラーの仕入れ、販売を一切していない。」を加え、同六枚目表一行目(同上、一四四頁二行目)の「五は争う」を「六は争い、五は認める」と改める。

五  同七枚目表四行目(同上、一四四頁一七行目)の次に改行の上左のとおり加える。

「 更に後記(四1(一)ないし(三))のとおり重大な登録無効原因を有する本件商標にあつては、その権利範囲すなわち禁止権の及ぶ領域は、一般の有効な商標権についての類似範囲よりも格段に狭く、出願したとおりの構成と一字一画違わない完全に同一の構成を有する標章にのみ及ぶと考えるべきであるところ、乙、丙各標章が右出願したとおりの構成と一字一画まで同一でないことは一見して明らかである。」

六  同八枚目表二行目(同上、一四五頁一〇行目)の「販売している」を「販売したものである」と、同裏八行目(同上、一四五頁一九行目)の「七日」を「一七日」と各改め、同九枚目裏四行目(同上、一四六頁一〇行目)の「販売している」の次に「ほか昭和五三年ころから原判決添付目録(五)、(六)記載の形態で本件商標を腕カバーに使用している」を加え、同七行目(同上、一四六頁一二行目)末尾の次に左のとおり付加する。

「更に訴外株式会社ポパイは、著作権者に無断でポパイの図柄や文字を使用してその著作権を侵害しているのであるが、その本店所在地、目的、代表取締役ほか一名の取締役が各々脱退被控訴人のそれらと同一であることに鑑みれば、同社は脱退被控訴人の分身的存在であり、右著作権侵害行為は脱退被控訴人自身の侵害行為と同視しうるものである。」

七  同一〇枚目表二行目(同上、一四六頁一六行目)の次に改行の上左のとおり加える。

「(三) かつて本件商標権者であつた松本善治の業務を継いでいた長男が、キング・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨン極東代表の根本畏三に会い、本件商標を草とり用の腕カバーに使い著作権を侵害していて申し訳ないと謝つた際、根本が同人に対し、全くの厚意から、松本に対してのみかつ腕カバーに関してのみ本件商標の使用を黙認したことがあるが、その黙認を受けた者から商標権を譲り受けた者が著作権者を訴えるとすれば、それは正に恩を仇で返すもので、著しく信義則に反する。

(四) 参加人はポパイキヤラクターが有する顧客吸引力に只乗りする目的で脱退被控訴人から本件商標権を譲り受けた。したがつて、松本、脱退被控訴人、参加人は、著作権者に先回りしてポパイキヤラクターの著名性を自己の商業活動に利用したもので、不正競争の典型といえる。いうならば参加人は、商標法上も、不正競争防止法上も、著作権法上も是認されない行為を目的として本件商標権を譲り受けたものであつて、その態度は著しく悪質である。」

八  同一〇枚目表三行目末尾(同上、一四六頁一七行目の「侵害している原告」)の次に「から本件商標権及び債権の譲渡を受けた参加人」を、同一一枚裏一〇行目(同上、一四八頁三行目)の「二条」の次に「一項」を、同一二枚目裏四行目(同上、一四八頁一四行目)の「しかし、」の次に「仮に本件商標権の行使が右著作権と抵触するとしても、」を各加え、同一三枚目裏一二、一三行目(同上、一四九頁一〇行目)の「六年足らず」を「あと約四年(昭和六四年六月七日まで)」と改め、同末行(同上、一四九頁一〇行目)の次に改行の上左のとおり付加する。

「(五) 著作権者らは、昭和五一年ころまで本件商標の指定商品にポパイ漫画を商標として使用したことなく、最近右使用をするに至つた。これは、右著作権の保護期間が前記のとおり昭和六四年六月七日に満了するため、今後不正競争防止法の保護を得る目的で、従来からの経緯から本件商標権を侵害することを十分知つた上、本件商標の指定商品に「POPEYE」の文字を統一使用したものである。」

九  同一四枚目表一行目(同上、一四九頁一一行目)の「(四)」を「(五)」と改め、同五行目(同上、一四九頁一二行目)の次に改行の上左のとおり付加し、同六行目(同上、一四九頁一三行目)の「4」を「5」と改める。

「4 控訴人は、ポパイ漫画の著作権が昭和四年一月一七日に取得された旨主張するのであるが、著作権者も当然商標登録出願できるのにもかかわらず、本件商標が出願された昭和三三年六月二六日までの約二九年間、出願する権利を行使せず、本件商標が出願公告された後も何らの異議申立てをせず、さらに前記根本畏三が昭和三五年ころ本件商標登録の存在を了知したのにもかかわらず、著作権者は最近まで商標権者に対し商標の使用差止めを求める等の何ら積極的な行動をとつていない。このような場合、失効の原則により権利の効力は失われ、控訴人が本訴において、参加人の商標権の行使につき著作権に基づく権利濫用の主張をすることは許されないというべきである。」

第三証拠<省略>

理由

一  原判決理由中一ないし五(理由冒頭から原判決二五枚目裏七行目末尾まで)において説示するところは、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、当裁判所の判断と同一であるからこれを引用する。

1  原判決理由一ないし五中「被告」とあるのをすべて「控訴人」と改める。

2  原判決一五枚目表二行目(編注、一六巻一号一四九頁一七行目)の「原告」を「脱退被控訴人」と、「有している」を「取得した」と各改め、同三行目末尾(同上、一四九頁一八行目冒頭の「と」)の次に「。ただし、始期及び現に販売しているとの点を除く。」を、同六行目(同上、一四九頁一八行目末尾)の「)」の次に「、同五(本件商標権と損害賠償請求権を参加人に譲渡したこと)」を各加え、同七行目(同上、一五〇頁一行目)の「原告」を「参加人」と改める。

3  同一六枚目裏二行目(同上、一五一頁一行目)の「呼称」を「称呼」と改め、同一七枚目裏一二行目(同上、一五二頁三行目)の「一致する」の次に「結果、右を総合すれば乙丙各標章は本件商標に類似する」を加え、同行末尾(同上、一五二頁三行目)の次に改行の上左のとおり付加する。

「 控訴人は、登録無効原因を有する本件商標にあつてはその権利範囲は一般の類似範囲より格段に狭く解すべき旨主張するが、後(五1)に判断するのと同じ理由により、商標登録を無効とする審判が確定する前に無効原因の存在を理由として禁止権の及ぶ範囲を格段に狭く完全同一の場合に限定すべきものではないと解すべきである。けだし、商標の登録手続に関し審査主義を採用して権利の法的安定を図つている以上、無効審判手続によることなく審査の内容について適否を判定し、結果としていつたん付与された権利の範囲を制限的に解するのでは、制度の趣旨を没却することとなるからである。したがつて、控訴人の右主張は採用できない。」

4  同一八枚目表末行(同上、一五二頁一一行目)の「当該著作権に及ばない」を「制限される」と改め、同行末尾の「著作権」から同裏一行目の「として」まで(同上、一五二頁一一行目の「著作権者」から「として」まで)を削り、同七行目末尾「及」から同八行目末尾まで(同上、一五二頁一五行目の「及び」から末尾まで)を「、第八号証の二、第五七、第六六号証及び原審における脱退被控訴人代表者の供述並びに弁論の全趣旨によると、」と改め、同一九枚目表九行目(同上、一五三頁四行目)の「(別紙目録(四)記載のもの)」を削り、同一〇行目(同上、一五三頁五行目)の「その後」の前に「原判決添付目録(四)記載のもの。」を加える。

5  同二〇枚目表二行目(同上、一五三頁一三行目)の「同社は、」の次に「一九四三年(昭和一八年)一二月三一日親会社である訴外ザ・ハースト・コーポレーシヨンに対して右著作権の独占的利用権を許諾し、ザ・ハースト・コーポレーシヨン(ライセンサー)の一部門であるキング・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨンは、」を加え、同五行目冒頭から同六行目(同上、一五三頁一五行目の「被告は、」から一六行目)末尾までを「被服及び身回り品雑貨の卸販売業を営む控訴人は、同年夏ころから昭和五七年一二月中旬までの間コンセプト社(ライセンシー)が右許諾に基づいて製造した本件マフラーを仕入れて各小売店へ販売した。」と改める。

6  同二〇枚目裏一行目(同上、一五四頁二行目)の「は」を削り、同二一枚目表末行(同上、一五四頁一六行目)の「ライセンサー」を「ライセンシー」と改め、同裏七行目(同上、一五五頁二行目)の「名前は」の次に「、たとえそれが直ちにキヤラクターの姿態を思い浮かべるような名前であるとしても、」を加え、同八行目(同上、一五五頁二行目)の「のであるから」を「と解されるから」と改める。

7  同二三枚目表七行目冒頭から同二四枚目表末行の末尾まで(同上、一五六頁四行目冒頭から一五七頁一行目末尾まで)を次のとおり改める。

「 次に丙標章中「POPEYE」の文字部分についてみると、右ポパイの名称自体に著作物性のないことは前述のとおりであるけれども、前示フアンシフル・キヤラクターの名称が、その姿態(図形)を要部としそれに付随し一体として説明的に結合したものでそれが漫画の人物などの名称である場合にまで、文字部分のみが商標権の侵害に当たるとすることは、本来著作物としての保護を受ける図形に名称を付加した一事をもつて全体として著作権の効力を主張しえない結果を招来することになり、著しく妥当を欠く。したがつて、このような場合には、右文字部分を付加したことは商標権の侵害にはならないものと解するのを相当とするところ、丙標章における「POPEYE」の文字は、右図形に付随し、それと一体をなして説明的に結合した名称と認められるから、丙標章は全体として、本件商標権に対する侵害とはならず、したがつて商標権に基づく禁止権ないし損害賠償請求権の行使を受けないものというべきである。

5 ところで、登録商標が著作権と抵触する場合に、商標法二九条に基づき商標権の効力を否定できるのは、当該著作権者又は著作権者から複製許諾を受けた者に限るものではないと解するのが相当である。けだし、右の場合には一般的に専用権が制限されると解するのが条文に忠実であるところ、右法条に相対的な効力しか認めないと、専用権が制限されるのに禁止権や損害賠償請求権だけが存在することとなつて不合理であるからである。右のように解したところで、先行著作権を援用し得ない第三者に対しては、著作権法又は不正競争防止法による救済(差止請求権及び損害賠償請求権の行使)に委ねれば足りることであるから、商標権者に不利益を生ずる筋合いはない。したがつて、本件においては、漫画ポパイのキヤラクターのライセンサーであるザ・ハースト・コーポレーシヨンから許諾されているライセンシーはコンセプト社であり、控訴人は同社の製造にかかる商品を買い受けた者で、直接著作権者から複製許諾を受けた者ではないけれども、本件商標権の効力を否定しうると解すべきである。」

8  同二四枚目裏二行目(同上、一五七頁二行目)の「原告は」を「控訴人が」と、同四行目(同上、一五七頁三行目)の「基づき差止請求権を有する」を「対する侵害行為となる」と、同二五枚目表一行目(同上、一五七頁八行目)の「禁止権」を「商標権」と、それぞれ改め、同裏七行目(同上、一五七頁末行)の次に改行の上左のとおり付加する。

「3 そのほか控訴人は、脱退被控訴人が昭和五三年ころから原判決添付目録(五)、(六)記載の形態で本件商標を腕カバーに使用して、キング・フイーチヤーズの著作権を侵害している旨主張する。そして、前記争いのない事実と成立に争いのない甲第七、八号証、第三〇号証、乙第七四、七五号証、当審証人根本畏三の証言、原審における脱退被控訴人代表者の供述によれば、本件商標権のもと権利者(原始商標権者)である松本善治は、昭和二八年ころからポパイの図柄と文字を組み合わせた商標をつけた腕カバー(農家が農作業の際腕に着用する保護カバー)を製造販売していたが、そのころすでにポパイの人物図形及び文字につき登録されていた商標(昭和一四年四月二一日出願、同年八月三日広告、同一五年一月二三日登録。登録番号第三二六二〇六号。本件商標の連合商標)を昭和二九年九月に前主澤村末次郎から譲り受けた後昭和三〇年三月に株式会社丸善商店を設立し会社として右事業を続け、同三四年六月に本件商標の登録を受けていたところ、営業が不振となつたことから、昭和四四年一二月ころ本件商標、連合商標ともこれを脱退被控訴人に譲渡し、以後脱退被控訴人がポパイの図柄と文字を組み合せた商標付きの腕カバーを製造販売していること、昭和五三年ころにおいては、販売した腕カバーの包装紙にはポパイの文字と頭部の図形(原判決添付目録(五))、商品にはラベルと織りネームにポパイの文字(同目録(六))を付した商標をつけていたこと、右ポパイの頭部の図形は、漫画の主人公たるポパイの顔であることは直ちに認識できるが、本件商標、連合商標中の図形(いずれも全身図で、顔面の描写は鮮明でない。)とは同一性の認められないこと、がそれぞれ認められる。

ところで、商標の専用権(使用権)の範囲は、禁止権(差止請求権)の範囲とは異なり、登録商標と同一性のあることを要することは、法文上明らかであるから、脱退被控訴人の腕カバー包装紙における商標の使用は、ポパイ漫画の著作権を侵害している疑いのあるものである。

もつとも、前掲乙第七四号証、当審証人根本畏三の証言により真正に成立したものと認められる乙第四一号証及び同証言、原審における脱退被控訴人代表者の供述によれば、松本善治は、昭和三五年ころ、ポパイ漫画のライセンサーたるザ・ハースト・コーポレーシヨンのキング・フイーチヤーズ・シンジケート・デイヴイジヨン極東代表者(ソール・リプレゼンタテイブ)根本畏三から、腕カバーについてはポパイの図柄を商標として使用することを黙認する旨複製の許諾を受けたことが認められる(しかし、だからといつて脱退被控訴人が当然に自己のために右許諾を援用できるものではない。)。

更に控訴人は、訴外株式会社ポパイがポパイの図柄を無断使用して著作権を侵害しているのは、脱退被控訴人自身の行為と同視しうると主張する。そして、原本の存在及び成立に争いのない乙第三〇、第三一、第三八号証によれば、株式会社ポパイは、脱退被控訴人と本店所在地、目的、代表取締役ほか一名の取締役が共通であるところ、昭和四五年八月一日発行の大阪市職業別電話番号簿に、ポパイの文字とともに漫画ポパイの全身姿態と認識できる図柄入りの広告を掲載していることが認められ、右はポパイ漫画の著作権を侵害している疑いのあるものである。

控訴人は、右事実関係から、脱退被控訴人の本件商標権に基づく権利行使は権利の濫用であると主張する。

しかしながら、脱退被控訴人が漫画ポパイの著作権侵害行為をしていることになるとしても、本件において脱退被控訴人が、行使せんとする権利は控訴人が著作権の及ばない乙標章を使用したマフラーを販売することにより本件商標権が侵害されたことに基づく差止請求権ないし損害賠償請求権であつて、著作権に対する前記侵害行為と行使せんとする右権利の取得との間には信義則の有無を論じなければならないような密接な関係は認められないし、右権利行使を許したところで、その結果が反社会性を帯びるものでもない。そして、仮に右の場合権利の濫用として脱退被控訴人の権利行使が許されないとすれば、必然的に漫画ポパイの著作権者から脱退被控訴人に対する著作権侵害に基づく権利の行使も許されないこととならざるをえず、かくては権利の実現が広い範囲において果たされない結果を招き、その結果の妥当でないことは明らかである。

次に控訴人は、腕カバーに本件商標を使用することを黙認したのに著作権者を訴えるのは信義に反する旨主張するが、その主張によつても、黙認した相手は松本善治であつて、脱退被控訴人でも参加人でもないから、右主張は理由がない。

又、控訴人は、参加人がポパイキヤラクターの顧客吸引力に只乗りする目的で本件商標権を譲り受けたもので不正競争の典型であり著しく悪質である旨主張する。

しかし、右事実関係を認めるに足る証拠がないばかりでなく、「只乗り」なる概念が不明確であつて、これを「対価を払わずに他人の業績を巧みに利用する」との趣旨だとすれば、それは常に必ずしも違法行為となるとは限らないであろうし、成立に争いのない乙第一七号証、前掲乙第四一号証、当審証人根本畏三の証言、原審における脱退被控訴人代表者の供述によれば、ポパイ漫画のライセンサーであるザ・ハースト・コーポレーシヨンがわが国においてポパイキヤラクターの商品化事業に乗り出したのは昭和三五年ころ以降であつて、澤村末次郎が連合商標の出願をした昭和一四年四月二一日当時にはポパイキヤラクターを登録商標とすることから保護すべき法的利益の対象となるものは何ら存在しなかつたこと、ザ・ハースト・コーポレーシヨン極東代表者の根本畏三は脱退被控訴人に対し、昭和五五年六月二日ころ代理人たる西村輝男弁護士を通じて本件商標権を買い取りたい旨申し入れるまで、何らの申入れをしたこともないことが認められることからすれば、控訴人の右主張も採用し難いものである。

したがつて、控訴人の権利濫用の主張はいずれも理由がない。」

二  以上説示のとおりであつて、控訴人は、乙標章を原判決添付目録(七)、(八)の態様で使用したマフラーを販売することにより脱退被控訴人の本件商標権を侵害したということができる。

ところで、成立に争いのない丙第一六号証の一、二、第一七号証、前掲乙第五七号証及び当審証人根本畏三の証言によれば、コンセプト社は、親会社である訴外株式会社シヤポーハウス三矢が昭和五八年八月一一日不渡手形を出して倒産したことに伴い同月二二日同様に倒産し、その結果控訴人はその後乙丙標章のついたマフラーを仕入れることができず、したがつて昭和五八年夏以降は本件マフラーを販売していないことが認められる。

してみると、参加人において、控訴人が本件マフラーの販売を現に継続していることを前提とする主張をするのみで、右認定による事実関係(倒産による仕入れの中止)の存在にもかかわらず将来本件商標権が控訴人により侵害される蓋然性があることにつき主張立証をしない以上、参加人の控訴人に対するマフラー販売差止請求は失当というほかない。

三  控訴人が本件マフラーをコンセプト社から仕入れて各小売店に販売することを始めたのは、さきに認定したとおり昭和五六年夏ころ以降であるから、参加人の主張中控訴人が昭和五六年度(昭和五五年暮から昭和五六年三月ころまで)に本件マフラーを販売したとの点は理由のないことが明らかである。

しかし、控訴人が昭和五六年夏ころから同五七年暮までの間乙標章を原判決添付目録(七)、(八)の態様で使用したマフラーを販売したことは控訴人の認めるところであるから、右が本件商標権の侵害に当たることはさきに説示したとおりであり、右侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行為は過失によつてなされたものと推定される(商標法三九条、特許法一〇三条)。

したがつて、控訴人は脱退被控訴人に対し、右不法行為によつて脱退被控訴人の受けた後記損害(侵害行為が認められれば損害の発生は推定される。)を賠償すべき義務を負担するに至つたのであり、参加人が脱退被控訴人から右債権の譲渡を受けたことは前示のとおりである。

四  そこで脱退被控訴人の受けた損害額について検討する。

1  原審における脱退被控訴人代表者の供述中には、控訴人の本件マフラーの販売数量について、昭和五六年度(同年秋冬分)が約一万五〇〇〇枚、同五七年度(同年秋冬分)が約二万枚であるとする部分があるが、これは、控訴人がコンセプト社から著作物の複製につき許諾を受けた枚数のことであるとの誤つた事実関係を前提としているので採用できない。

前掲甲第四号証の四、五、乙第五七号証によれば、昭和五六年夏から同年末にかけて控訴人がコンセプト社より仕入れて小売店に販売した乙標章の付されたマフラーは一万五六五〇枚(小売単価一八〇〇円)であり、昭和五七年夏から同年末にかけて同様仕入れ販売したマフラーは四〇〇〇枚(小売単価二〇〇〇円)であることが認められるが、右数量をこえて控訴人が乙標章の付されたマフラーを販売したことを認めるに足る証拠はない。

2  原審における脱退被控訴人代表者の供述及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一九号証並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証によれば、脱退被控訴人は参加人に対し、昭和五七年五月三一日から同五八年五月三〇日までの間本件商標権につき通常使用権を許諾し、その対価として参加人は三〇〇万円を支払う旨約していること、右代価は、参加人から、マフラーの販売数量が年間三万三〇〇〇枚、小売販売単価が一八〇〇円なので、使用料率を五パーセントとしてほしい、との申入れがあつて算出されたものであること、脱退被控訴人は、訴外株式会社テスコノに対し、昭和四七年ころ、販売価額の一パーセントの使用料の約定で本件商標権の通常使用権を許諾していること、をそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右によると、脱退被控訴人が第三者に本件商標を貸与した際通常受けるべき使用料率は、その平均値が小売販売価額の三パーセントであると認められる。

3  そうすると、商標法三八条二項により脱退被控訴人が控訴人に対して請求しうる金銭(使用料)相当の損害金は、昭和五六年暮から昭和五七年三月ころまでに小売された分(昭和五六年夏ころから同年末ころまでに卸売された分)が一万五六五〇枚に単価一八〇〇円を乗じた額に対する三パーセントの使用料に当たる八四万五一〇〇円であり、昭和五七年暮から昭和五八年三月ころまでに小売された分(昭和五六年夏ころから同年末ころまでに卸売された分)が四〇〇〇枚に単価二〇〇〇円を乗じた額に対する三パーセントの使用料に当たる二四万円であつて、その合計は一〇八万五一〇〇円となる。

五  以上のとおりであつて、参加人の控訴人に対する本訴請求は、損害金一〇八万五一〇〇円及びこれに対する不法行為の後であり参加人において請求するところの内金八四万五一〇〇円については昭和五八年一月一八日から、内金二四万円については昭和五九年二月二八日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当と認めてこれを認容すべきであるが、その余はすべて失当としてこれを棄却すべきである。

よつて、参加人の当審における参加と脱退被控訴人の脱退により訴訟手続の承継が行われる関係になると解すべきであることと、原判決が結論において当裁判所の判断と異なることから、原判決を参加人と控訴人との間において変更することとし、訴訟費用及び参加により生じた費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九四条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上明雄 堀口武彦 小澤義彦)

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