大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)2153号 判決 1985年3月15日
控訴人(附帯被控訴人) 大昭化学工業株式会社
右代表者代表取締役 松浦照福
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 吉田大地
右両名訴訟復代理人弁護士 仙頭幹夫
被控訴人(附帯控訴人) 帝新販売株式会社破産管財人 奥中克治
主文
控訴人(附帯被控訴人)らの本件控訴及び附帯控訴人(被控訴人)の本件附帯控訴は、いずれもこれを棄却する。
控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)らの負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人(被控訴人)の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という)ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という)の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
三 附帯控訴の趣旨
1 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
2 控訴人らは各自被控訴人に対し、三八万一五七七円及びこれに対する昭和五八年五月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
四 附帯控訴の趣旨に対する答弁
1 被控訴人の本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者双方の主張は次のとおり附加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人らの当審主張
1 原判決は、被控訴人が破産法一〇四条四号の相殺禁止の主張をしていないのに、同主張をした旨事実の摘示をしてこれを認めているので、弁論主義違背の違法がある。
2 控訴人松浦が関西実業に対し、破産会社の関西実業に対する債務五〇万円を支払ったことによって、破産会社に対し同額の求償権を取得したのは、破産法一〇四条四号但書の「法定の原因に基づくとき」に該当するので、求償権を自動債権とする控訴人らの相殺は許されるべきである。即ち、控訴人松浦は、破産会社の代表取締役大原実の子であり、かつ同人死亡後同社の実質上のオーナーともいうべき大原愛子より頼まれて、関西実業の厳しい取立を防止するため、親切心で五〇万円を出損したものであって、実価の低落した債権を買い求めて相殺しようとする弊害を防止しようとする同条同号の立法趣旨に反するものではない。したがって、形式的に同条同号を適用して控訴人らの相殺を許さないのは正義に反するので、同条同号但書の「法定の原因に基づくとき」を類推適用すべきである。
《以下事実省略》
理由
当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、原判決が認容した限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり附加訂正するほか原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 《証拠訂正省略》
2 原判決一〇枚目表八、九行目を「右認定事実によれば
破産会社は、昭和五五年一二月二六日ころ控訴人らに対し、三八万一五七七円を寄託していないことは明らかである。また被控訴人は、金が高橋から返還を受けた右三八万一五七七円を昭和五六年一月一〇日控訴人らのもとに持参したと主張し」と改める。
3 原判決一〇枚目裏九行目「被告松浦」以下同一一枚目表六行目までを次のとおり改める。
《証拠省略》によれば、控訴人松浦は破産会社の代表者大原実の親しい友人であったが、大原実死亡後同人の長女で破産会社の従業員の大原愛子(当時未成年者)の了解を得て、控訴会社は丸栄に破産会社の債権者委員長になって貰うため、丸栄に対する破産会社の債務七七万七六五五円を支払ったこと、破産会社は代表者大原実の個人会社で、同人死亡後新たな代表者は選任されず、そのため破産会社は意思決定をする人物がいないまま大原愛子らを中心に残務整理に入ったことが認められ、これに反する証拠はない。
右認定事実によれば、破産会社が丸栄に対する債務の弁済を控訴会社に依頼した事実を認めることができず、他に右依頼事実を認めるに足りる証拠はない。
よって抗弁1は失当である。
4 控訴人らの当審主張1について
本件記録によれば、被控訴人が、原審の昭和五九年三月一四日付準備書面に基づいて、破産法一〇四条四号の相殺禁止の主張をしたと解することには疑問がないではないが、原判決はその旨の主張があったものと理解してこれに沿う事実摘示をしており、被控訴人は当審第一回口頭弁論期日において、原判決事実摘示のとおり右主張を援用していることが明らかである。
そして右主張の当否についての当裁判所の判断は、原判決理由の判断と同一である。
5 控訴人らの当審主張2について
破産法一〇四条四号但書の「法定の原因に基づき債権を取得するとき」とは、当事者の作為によることなく専ら法律の規定(例えば相続、合併のような一般承継、事務管理、不当利得、不法行為)に基づいて債権を取得することをいい、当事者間の法律行為に基づき債権を取得した場合はこれを含まないと解するのが相当である。
ところで、控訴人松浦の関西実業に対する破産会社の債務の支払は、前示のとおり、破産会社の依頼がなく、かつ破産会社の意思に反し、又は破産会社の不利なることが明らかでない場合であるから、事務管理による支払となり、控訴人松浦は事務管理による求償権を取得した(民法七〇二条一項)と解される。
しかしながら、控訴人松浦の求償権の取得は事務管理に基づくとはいっても、同控訴人の作為によるものであって、委託(当事者間の法律行為)に基づく求償権取得とその相殺の許否につき別異に取扱うべき合理性もなく、到底破産法一〇四条四号但書の法定の原因による債権取得とはいえない。これを実質的にみても、控訴人松浦が破産会社の債務を弁済しなければ、破産手続の開始により関西実業は破産債権者として弁済を受けられるにすぎないのに、同控訴人がそれを弁済し、求償権と同控訴人に対する破産会社の消費寄託債権が相殺されてしまうと、関西実業の債権が全額弁済されたことになり、しかも破産会社の控訴人らに対する消費寄託債権は、本来は現実に破産会社に弁済されるはずだったのに相殺によって決済され、破産会社の財産はその分だけ不当に減少してしまうという不都合が生じ、破産債権者間の公平及び破産財団の保持をはかるために設けられた破産法一〇四条の相殺禁止の趣旨にもとることになるものである。
よって控訴人らの当審主張2は採用できない。
以上の次第で、右判断と同旨の原判決は相当であるから、控訴人らの本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九三条に則り主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 緒賀恒雄 馬渕勉)