大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)34号 判決 1984年5月31日
控訴人 三興化成工業株式会社
右代表者代表取締役 山下理敏
右代理人支配人 岩切務
被控訴人 摂津信用金庫
右代表者代表理事 大木令司
右訴訟代理人弁護士 荒川文六
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
理由
(一) 当裁判所も被控訴人の本訴請求は理由があると判断するが、その理由は、次の附加をするほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 被控訴人は本件仲裁契約の効力を受けないものであること後記のとおりであるが、効力を受けない仲裁契約によつて仲裁判断を受けた者が、当該仲裁判断の取消を求めて提起する訴訟についての管轄裁判所は、民訴法八〇五条一項によつて定めるべきであつて、同条二項の適用はないといわなければならないから、本件訴訟については、原裁判所が管轄を有すること明らかである。その点についての詳細は、原判決理由二に説示のとおりである。
(2) 控訴人と訴外会社との間において、「本件手形に関する紛争については、仲裁人をして仲裁させる」旨の仲裁契約がなされていたとしても、訴外会社から本件手形の裏書譲渡を受けた被控訴人が、右仲裁契約の効力を受けるためには、訴外会社と被控訴人との間において、右仲裁契約上の訴外会社の地位を被控訴人が承継する旨の合意をなすことが必要であると解されるところ、本件においては、被控訴人において右の合意をしたことが認められないから、被控訴人は右仲裁契約の効力を受けないものといわなければならない。
(3) 本件仲裁判断において、「控訴人と訴外会社との間の仲裁契約は、控訴人と被控訴人との間においても効力を有する」旨の判断がなされているとしても、もともと、右仲裁契約が被控訴人に対して効力を及ぼし得ないものであるとすれば、右の判断は何ら裁判所を拘束し得るものではなく、裁判所としては、右の判断と異なる判断をして、右仲裁契約に基づき被控訴人に対してなされた仲裁判断を取消し得るものといわなければならない。なお、大阪簡易裁判所が本件仲裁判断の原本を預かつたとしても、それは、同裁判所において、当該仲裁判断の内容については何らの検討を加えることなく、唯、単に民訴法七九九条二項所定の手続の一環として、当該原本を預かつたにすぎず、同裁判所が本件仲裁判断の判断内容を是認したことを示すわけのものではないこと勿論である。
(4) 本件仲裁判断取消請求が民訴法一九六条一項所定の財産権上の請求であることは、被控訴人の主張に照らして明らかであるから、本件仲裁判断を取消す判決は形成判決であるとはいえ、その確定前に、確定したと同様の効力を与える趣旨を以て、右判決に仮執行の宣言を付するのは可能であるというべきである。原判決に仮執行の宣言を付したことは、違法ではない。
(なお、訴訟当事者が裁判所に対し書証の写を提出しただけでは、民訴法三一一条所定の書証の申出をしたことにならないのは勿論である)。
(二) そうすると、被控訴人の本訴請求を理由ありとして認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条一項により、本件控訴を棄却する
(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 坂上弘 小林茂雄)