大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)811号 判決 1985年8月29日
控訴人
西島亀三郎
右訴訟代理人
池口勝麿
被控訴人
大和高田市大字曽大根
右代表者大和高田市長
森川保治
主文
一 原判決を取り消す。
二 本件を奈良地方裁判所葛城支部に差し戻す。
事実
第一 当事者の申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人が、大和高田市大字曽大根字中道七八三番一ため池二五八一平方メートルにつき二五八一分の四一五の共有持分を有することを確認する(本項は当審において請求を拡張したものである。)。
3 被控訴人は控訴人に対し、前項記載の土地から、ため池四一五・八平方メートルを分筆した上、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4 被控訴人は控訴人に対し、金五四万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年九月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
被控訴人は、当審において、適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、また、答弁書その他の準備書面も提出しない。
第二 主張及び証拠関係
控訴人及び被控訴人(代表者町総代加納 侃)の原審における主張及び証拠関係は原判決事実摘示第二及び第三記載のとおりである(ただし、原判決二枚目表末行の「玄治」を「亥治」と、同三枚目表三行目の「土地の」を「土地を所有し、」と各改める。)。
理由
一職権をもつて原審の訴訟手続の適否について判断する。
本件記録によれば、控訴人は、原告として、大和高田市大字曽大根七九四番堤塘四畝六歩(以下「本件土地」という。)の所有権をその先々代西島亀太郎、先代西島亥治を経由して承継取得したところ、本件土地について現在登記が存在しないが、同土地は同市大字曽大根字中道七八三番一ため池二五八一平方メートル(以下「本件ため池」という。)に包摂されているとして、本件ため池につき登記簿上所有名義を有する大和高田市大字曽大根を被告として、控訴人に対し本件ため池から本件土地四一五・八平方メートルを分筆した上、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をすることを求めるとともに、西島亀太郎が本件土地を被告に賃貸していたことを理由として昭和二二年度から昭和五三年度までの未払賃料の支払を求めるため、本件訴えを提起したものであることが明らかである。
ところで、控訴人の右分筆及び移転登記手続請求は本件ため池につき登記簿上所有名義を有する被告大和高田市大字曽大根を相手方とするものであるところ、このような場合、大和高田市の一部である被告同市大字曽大根は、本件ため池の登記簿上の所有主体ないしは設置主体として地方自治法第二九四条第一項にいう財産区に当たり、したがつて、財産区として訴訟上の地位を有するものと解すべく、また、未払賃料請求も、右財産区の保有する財産ないし公の施設である本件ため池の管理処分に関する事項というべきであるから、同請求についても前記移転登記手続等請求と同様、被告大和高田市大字曽大根は財産区として訴訟上の地位を有するものと解するのが相当である。してみると、原審における本訴各請求については、本来、大和高田市長が財産区である被告を代表して訴訟行為を行うべきものといわざるを得ない(地方自治法第二九四条第一項、第一四八条、第一四九条第六号)。
この観点に立つて本件記録を検討すると、控訴人は、原裁判所に、被告大和高田市大字曽大根の代表者として、町総代加納侃と記載した訴状を提出したこと、したがつて、右訴状副本は右町総代に送達され、大和高田市長に対しては送達されていないこと、右町総代は弁護士白井皓喜に訴訟委任し、以後の原審における訴訟手続は同弁護士によつてなされ、控訴人の請求をいずれも棄却する原判決の正本も右弁護士に対し送達されたこと、控訴人は右原判決に対し前記訴状同様大和高田市大字曽大根代表者町総代加納侃を相手方として本件控訴を提起したこと、控訴人は、その後、訴状及び控訴状に記載の被告及び被控訴人の代表者を大和高田市長森川保治と訂正する旨申立てたこと、同市長に対し右訂正後の訴状及び控訴状の各副本が送達されたが、同市長は、従前の訴訟手続において前記白井弁護士のなした訴訟行為を追認しない意思を表明していること、以上の各事実がそれぞれ認められる。
そうだとすると、本件訴状は訴訟上被告を代表する権限のない者に対し送達され、以後の原審における訴訟手続は右代表権のない者が委任した弁護士によつてなされてきたものであつて、原審の訴訟手続には重大な法律違背があるというべきである。なお、控訴人は本件控訴の提起に当たり前記事実摘示第一の一の2記載の請求を控訴の趣旨として掲げて訴えの変更の申立てをなしたものである(旧請求部分について適法な訴えの取下げ又は請求の放棄があつたと認められない以上、右訴えの変更は追加的訴えの変更とみるべきである。)ところ、控訴審における訴えの変更は、原審における適法な審理を前提とするものである以上、右訴えの変更の申立てがあつたからといつて、前記判断を左右するものではない。
二よつて、原判決は不当であり、なお適正な手続を履践して審理を尽くさせる必要があるから、原判決を取り消した上、本件を第一審裁判所である原裁判所に差し戻すこととし、民事訴訟法第三八六条、第三八九条第一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官村上明雄 裁判官小澤義彦 裁判官安倍嘉人)