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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)922号 判決 1984年10月16日

控訴人

久田篤

右訴訟代理人

松本俊正

被控訴人

金澤光雄

右訴訟代理人

東浦菊夫

広瀬英二

主文

原判決中控訴人敗訴部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、原判決添付別紙不動産目録記載の建物を明け渡せ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ控訴人の負担とする。

この判決の主文第二項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠<省略>

理由

一本件建物が訴外小宮山みよじ(持分三分の一)、同小宮山純一(持分の三分の二)の共有であり、本件建物の敷地(以下、本件土地という。)が小宮山純一(持分五分の三)、訴外小宮山八重(持分五分の二)の共有であつたこと、本件土地、建物について昭和五六年九月四日付をもつて売買を原因とする右共有者から被控訴人への所有権移転登記が経由されていること及び控訴人が昭和五八年三月二〇日以降本件建物を占有していることはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、昭和五六年九月五日、被控訴人は小宮山純一に対し、一五〇〇万円を弁済期昭和五七年九月四日、遅延損害金年三〇%の約定で貸し渡したこと、昭和五六年九月四日、本件土地、建物の共有者である小宮山みよじ、小宮山八重は小宮山純一とともに右債務の譲渡担保として本件土地、建物所有権を被控訴人に移転し、前記のとおりその所有権移転登記をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二当裁判所も控訴人がその主張の賃借権をもつて被控訴人に対抗することができないとするものであり、その理由は原判決がその理由の五項(原判決五枚目裏一〇行目から六枚目表末行まで)に説示するところと同一であるから、これを引用する。

三譲渡担保権者は、債務者が弁済期を徒過し被担保債務の履行をしなかつたときは、これにより取得した目的不動産の処分権の行使による換価手続の一環として、債務者に対し右不動産の引渡しを求めることができるとともに、第三者がこれを占有している場合には、第三者が譲渡担保権者に対抗することのできる占有権原を有しない限り、その第三者に対し右不動産の明渡しを求めることができると解するのが相当である。したがつて、被控訴人に対抗しうる占有権原を有しない控訴人に対する本件建物の明渡請求は理由がある。

四被控訴人の本訴賃料相当損害金請求は、債務者が被担保債務の弁済期を徒過し、その履行をしなかつたときは、譲渡担保権者が当然に目的不動産の所有権を確定的に取得し、その使用、収益機能をも取得するに至ることを前提とし、控訴人の本件建物占有により、被控訴人がその使用、収益を妨げられたことを理由とするものである。

しかしながら、不動産譲渡担保権者は、債務者が期限に債務を履行しないことにより、目的不動産の換価処分権能を取得するが、いまだ目的不動産の所有権を確定的に取得したことにはならず、右所有権が確定的に譲渡担保権者に帰属するのは、譲渡担保権者がその取得した換価権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己に帰属させた時、すなわち評価清算の時であり、右評価清算がなされたというためには、譲渡担保権者が債務者に対し単に自己に確定的に目的不動産の所有権を帰属させる旨の意思表示をするだけでは足りず、目的不動産の適正評価額が被担保債権の額(換価のための費用を含む。以下同じ。)を超えるときにはその差額を清算金として支払う旨の通知を併せてすることが必要であり、また、目的不動産の評価額が被担保債権の額を超えないときはその旨を通知することを要すると解するのが相当である(仮登記担保契約に関する法律二条参照)。そして、右清算手続をすることにより目的不動産の所有権が確定的に譲渡担保権者に帰属するまでの間は、譲渡担保権者の目的不動産に対する権利は被担保債権の担保目的実現のためのものとしての限定があり、特段の事情のなし限り目的不動産の使用、収益権能をともなうものではないと解される。したがつて、右評価清算前において、譲渡担保権者が目的不動産の換価手続の一環として第三者に対しその占有する目的不動産の明渡しを求めることができる場合においても、明渡しを拒否して占有を継続する右第三者に対し、所有権を侵害されたことにより賃料相当の損害を被つたとしてその賠償を求めることは、評価清算前においても自らが目的不動産の使用、収益することができる旨の約定があるなど特段の事情のない限りできないというべきである。

被控訴人は、本件土地、建物につき右評価清算をしたこと又は評価清算前においても自らがその使用、収益をすることができる旨の約定があるなどの特段の事情についてなんらの主張をしないので(その存在を窺うことのできる証拠もない。)、その余の点について判断するまでもなく、その損害賠償請求は理由がなく棄却を免れない。

三以上のとおりであつて、被控訴人の本件建物明渡請求はこれを認容すべきであるが、その損害賠償請求は理由がなくこれを棄却すべきものであるから、これと異なる原判決中控訴人敗訴部分を変更することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(乾達彦 東條敬 馬渕勉)

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