大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)932号 判決 1984年11月28日
控訴人(原告) 辻本嘉義
被控訴人(被告) ミノルタカメラ株式会社
原審 大阪地方昭和五八年(ワ)第五二〇九号(昭和五九年四月二六日判決、一六巻一号二八二頁参照)
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審での新請求にかかる訴えはいずれもこれを却下する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一控訴人の申立て
1一 原判決を取り消す。
二 控訴人が左記載の特許を受ける権利及び米国特許権(以下、本件各権利という)につき、(一)(三)については二分の一、(二)については五分の一の持分権を有することを確認する。
(一) 特開昭五四―一三九七二七の発明
米国特許第四二七四七二〇号の同発明
(二) 特開昭五〇―九二一二七の発明
米国特許第三九七二〇五六号の同発明
(三) 特開昭五四―三六九三二の発明
2 当審での訴えの交換的変更に基く新請求として
本件各権利につき被控訴人が別紙記載の五つのことを履行しないときは、控訴人は被控訴人との間で締結した本件各権利の譲渡契約を、控訴人において何らの対価(損害金)を支払うことなく、解除する権利を有することを確認する。
3 右訴えの交換的変更が認められない場合の当審における予備的新請求として
一 本件各権利につき、被控訴人は控訴人に対して相当対価として次の金員を支払え。
(1) 被控訴人が権利を実施する場合には実施製品出荷価格の二〇〇分の一(共同発明の場合その五分の二)。
(2) 被控訴人が第三者に対し権利実施を許諾する場合には実施製品出荷価格の一〇〇〇分の一五(共同発明の場合その五分の二)。
二 左記条件が成就したときは、本件各権利は、訴提起七年経過後、控訴人に復元帰属することを確認する。
(1) 被控訴人が訴提起後七年の間に権利を実施しないこと。
(2) 被控訴人が訴提起後七年の間に第三者に権利の実施を許諾しないこと。
三 被控訴人が右一項の相当対価を支払わないときは、控訴人は被控訴人との間で締結した本件各権利の譲渡契約を、控訴人において何らの対価(損害金)を支払うことなく、解除する権利を有することを確認する。
4 訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二被控訴人の答弁の趣旨
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審での予備的新請求を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。
第三当事者双方の主張
左のとおり附加するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
(控訴人の主張)
1 控訴人は被控訴会社の処遇に不満があつたため昭和五八年一一月一五日被控訴会社を退職し、よつて両者の使用者、従業者関係は終了した。
そこで、控訴人は、右事態の変更に応じて、本訴における請求を前記第一2記載の請求趣旨のとおり交換的に変更する。
また、仮に右訴えの交換的変更が認められない場合には、原審での請求が認められないことを慮つて、当審において予備的に前記第一3の一ないし三記載の請求趣旨のとおり追加請求する。
2 なお、控訴人が当審での新請求において述べている控訴人、被控訴人間の譲渡契約とは被控訴人が原審で本件各権利について主張している譲渡契約である。
また、控訴人が新請求において被控訴人に請求しようとしている相当対価額は、いずれも被控訴会社規則、規程、細則中の職務発明に対する対価に関する定めが特許法三五条三、四項に反し無効であることを前提としていることはいうまでもない。
そして、右規則等が無効である所以は原審で主張したとおりである。
(被控訴人の主張)
控訴人の訴えの交換的変更には同意しない。
第四証拠関係<省略>
理由
1 まず、控訴人の当審における訴えの交換的変更については、被控訴人においてこれに同意しないから、原審における控訴人の請求は当審においてもなお審判の対象とする必要があるところ、当裁判所も控訴人の原審での請求は失当であると認めるものであつて、その理由とするところは原判決理由説示と同一であるからこれをここに引用する。
2 次に、このような場合、控訴人が交換的新請求(2の請求なお、数字は前記事実欄の第一控訴人の申立て部分の追番号による。以下同じ。)をなお維持する趣旨であるのか、あるいは当審での予備的新請求(3の一ないし三の請求)のみを審判の対象としたい趣旨であるのか必らずしも明らかでないが、当裁判所としては控訴人に有利にこれを前者の趣旨と解して以下これらの各請求の当否について検討する。
(一) まず、控訴人の2および3三の請求は、いずれも将来における被控訴会社の一定の作為または不作為を条件として、控訴人、被控訴会社間の本件各権利譲渡契約につき控訴人に解除権の存することの確認を求めるものであるが、このような確認請求は、第一に確認を求める権利関係が将来発生することが必らずしも確定的でない一定の条件にかかるものである点において、すなわち、不確定な将来の権利関係の存否確認を求めるものである点において、即時確定の必要と利益を欠くというほかなく、また第二に確認請求にかかる権利が契約解除権(形成権)である点において確認対象が迂遠であつて、直接的かつ効果的でないからこの点でも確認の利益を欠くものである(このような場合、控訴人としては解除権行使の結果生じた権利関係そのものを直接確認の対象とすべきである。そして、本件では控訴人の前記確認請求の趣旨をこのような形に引き直して善解することも全体として困難である。)。
したがつて、右2および3三の確認請求は訴えが不適法であるというべきである。
(二) また、3一の給付請求は支払いを求める金額が不特定であるほか、その請求が将来の条件にかかる給付を求めるものであるところ、現在の段階でこのような将来給付を求めなければならない必要性を認めることができないから(民訴法二二六条)、いずれにしてもその訴えは不適法というほかない。
(三) 次に、3二の確認請求もその対象とする権利関係が将来の条件にかかるものであるから、前記(一)の第一で説示した理由により確認の利益と必要を欠くものであることが明らかである。
したがつて、右3二の確認請求もその訴えが不適法である。
(四) なお、付言するに、仮に控訴人の当審における新請求にかかる訴えが適法であることを前提として、控訴人の右各新請求の趣旨を検討しても、控訴人の右新請求は、要するに、(ア) 控訴人、被控訴人間の職務発明の対価に関する定めが特許三五条三、四項に反し無効であることを前提とするか、または、(イ) 両者間の本件各権利譲渡契約が一定の条件成就により解除できるか、あるいは本件各権利が当然に控訴人に復帰することを前提とするものと解されるところ、(ア)の前提を容認し難いことは原判決が詳細に説示するとおりであり、(イ)の前提についても、成立に争いない乙第四ないし第六号証(被控訴会社規則、規定、細則)を通覧しても控訴人の右のような主張を裏付けるに足る特約は見当らず、また民法その他の法律上これを首肯すべき定めもない。したがつて、控訴人の当審での新請求はいずれにしても実体法上も理由を欠くものである。
3 よつて、控訴人の本件控訴を棄却し、当審における各新請求にかかる訴えを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 今富滋 畑郁夫 亀岡幹雄)
別紙
(1) 被控訴人が出願審査請求しないこととした場合に、控訴人に権利復元の通知をすること。
(2) 被控訴人が訴提起から七年後に権利を運用しないこととした場合に、控訴人に権利復元の通知をすること。
(3) 被控訴人が第三者に権利を譲渡する場合に、控訴人の同意を得ること。
(4) 被控訴人が権利を実施する場合に、控訴人に相当の対価として実施製品出荷価格の二〇〇分の一(共同発明の場合その五分の二)を支払うこと。
(5) 被控訴人が日本国内の第三者に対し権利実施の許諾をする場合に、控訴人に相当の対価として実施製品出荷価格の一〇〇〇分の一五(共同発明の場合その五分の二)を支払うこと。
以上