大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)102号 決定 1984年12月10日
主文
一 第一審相手方の抗告により、原審判を次のとおり変更する。
第一審相手方は第一審申立人に対し、金一〇七万二五〇〇円をこの決定確定の日から一か月以内に支払え。
第一審相手方は第一審申立人に対し、昭和五九年一二月一日から婚姻又は別居の解消に至るまで一か月金七万五〇〇〇円の割合による金員を毎月末日限り支払え。
二 第一審申立人の本件抗告を棄却する。
理由
一 抗告の趣旨及び理由
1 第一審申立人
別紙一記載のとおり。
2 第一審相手方
別紙二記載のとおり。
二 当裁判所の判断
1 本件婚姻費用分担の申立てについての当裁判所の判断は、次のとおり付加訂正するほかは原審判理由説示(原審判五枚目裏九行目まで)と同一であるから、これを引用する。
(一) 原審判二枚目表一三行目の「家事調査官」を「家庭裁判所調査官」と改め、同裏一三行目の「同五八年」の次に「一月本件婚姻費用分担の調停申立てをするとともに、同年」を、同三枚目表一行目の「結局」の次に「いずれの調停も」をそれぞれ加え、同裏一二行目の「父・相手方共有名義」を「第一審相手方名義」と改める。
(二) 原審判五枚目表一三行目の「である。」の次に「なお、第一審申立人は、上記子の消費単位及び婚姻費用分担額は現実の子の養育費に照らして不当に低い旨主張するが、満四歳の本件未成年子について上記消費単位は低すぎるものではなく、また、上記婚姻費用分担額についても不当とは認められない。」を加える。
(三) 原審判五枚目裏三行目の冒頭から同九行目の末尾までを次のとおり改める。
「そうすると、昭和五六年五月一七日から昭和五九年一一月末日まで(四二・五月)の間の過去の婚姻費用の分担額は、計算上は金三一八万七五〇〇円となる。
ところで、第一審相手方は、別居に際して第一審申立人は預貯金等の通帳等を携行し、その払戻しを受けているから、これは婚姻費用として支払われたものとして扱うべきであると主張し、第一審申立人は、これを婚姻費用に充当すべきではなく別途清算すべきであると主張する。
よつて検討するに、前記各資料によれば、(1)当事者双方は婚姻後別居に至るまでの間もともに医師として稼働しそれぞれ相当の収入をあげていたこと、(2)第一審申立人は別居に当たり、同居期間中に双方の収入の余剰をもつて積み立ててきた預貯金等(第一審申立人名義の元本約一〇〇万円の貸付信託及び約三〇万円の定期預金並びに第一審相手方名義の元本約一六〇万円の貸付信託、約八三万円の定期預金及び約五〇万円の定額郵便貯金)の通帳、証券及び使用印鑑を携行したこと、(3)第一審相手方は第一審申立人が右預貯金等を子の養育費に充当するものと考えて右携行を承諾していたこと、(4)別居中第一審申立人において、第一審相手方名義の一六〇万円の貸付信託を除く前記各預貯金等を解約し払戻しを受けて生活費に充当したこと、(5)右一六〇万円の貸付信託については、別居後、名義人である第一審相手方において、銀行に対し払戻しを停止する措置を講じていたが、昭和五九年三月八日ころ、銀行に対しては証券所持人である第一審申立人による払戻しを停止する措置を解除する旨及び第一審申立人に対しては、所持する証券により払戻しを受けてこれを婚姻費用に充当することを承認する旨の各意思表示をしたこと、(6)この結果右貸付信託については第一審申立人においていつでも払戻しを受け得る状態にあること(しかも、貸付信託の性質上、証券を所持しない第一審相手方においては当該貸付信託の払戻しを受けることはできない。)並びに(7)昭和五八年九月九日の調停期日において、当事者双方は、第一審申立人が携行した前記通帳、証券に係る預貯金等を持分各二分の一の共有財産として婚姻費用分担額の算定に当たり清算することに同意していることがそれぞれ認められる。
右認定の各事実によれば、第一審申立人が現に払戻しを受け、又はいつでも排他的に払戻しを受け得る状態にある預貯金等元本合計約四二三万円の少なくとも二分の一に相当する金二一一万五〇〇〇円については、第一審相手方が第一審申立人に婚姻費用の分担として支払つたものとみなして、過去の婚姻費用として第一審相手方が計算上支払うべきものとされる金額から右金額を控除するのが当事者双方の衡平にかなうものというべきである。
したがつて、第一審相手方は第一審申立人に対し、昭和五六年五月一七日から昭和五九年一一月末日までの間の婚姻費用としては、計算上の分担額である前記金三一八万七五〇〇円から支払ずみとみなされる右認定の金二一一万五〇〇〇円を差し引いた残額金一〇七万二五〇〇円を、また、昭和五九年一二月一日から婚姻又は別居の解消に至るまでの間の婚姻費用としては、一か月金七万五〇〇〇円の割合による金員を毎月末日限りそれぞれ支払うべきである。なお、右のうち過去の婚姻費用分担金一〇七万二五〇〇円については、この決定確定後一か月を限度として支払うべきものとするのが相当である。
抗告理由に則して記録を検討するも、右に説示したほかには原審判に違法不当の点は認められない。
2 よつて、第一審相手方の本件即時抗告は右の限度で理由があるから、右抗告により、これと結論を異にする原審判を変更し、第一審申立人の本件即時抗告は、理由がないから棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 堀口武彦 安倍嘉人)
別紙一
抗告の趣旨
原審判を次の通り変更する。
一 被抗告人(相手方)は抗告人(申立人)に対し、昭和五六年五月一八日からこの審判確定の日まで一ヶ月二五万円の割合による金員を、この審判確定の日から一ヶ月を限度として支払え。
二 被抗告人(相手方)は抗告人(申立人)に対し、この審判確定の日の翌日から婚姻又は別居の解消に至るまで一ヶ月二五万円の割合による金員を毎月末日限り支払え。
抗告の原因
一 原審判は、過去の分担額および将来の分担額の算定につき、抗告人にとつて極めて不利な資料、基準により決定した結果、これら分担額は、実情に沿わない不当な低額に押さえられている。
まず第一に、被抗告人の収入額につき、抗告人は、被抗告人の申告した収入額が、同居していた昭和五六年五月当時に比して相当低額にとどまり、被抗告人がアルバイト収入の大部分を申告していない疑いが濃厚である旨申立て、より徹底した調査と被抗告人の協力方を要求していたのに、これらはいずれも実現しなかつた。このため、原審が算定の基準とした両当事者の昭和五七年度の収入は、抗告人が約五七六万、被抗告人が約六〇九万と僅少差にとどまつている。
抗告人は○○保健所及び母子センター所属の医師で、月曜日から金曜日は午前九時一五分から午後五時三〇分まで、土曜日は九時一五分から午後一時一五分までが正規の勤務時間である。抗告人は、月曜日から木曜日までは長女を保育園に迎えに行くため、午後五時三〇分に病院を出るが、金曜日は会議があり、土曜日は残業があつて、保育園の閉園時刻に間に合わず、抗告人の父親が代わりに長女を迎えに行つている。抗告人は、帰宅後の時間を長女の養育に充てているから、現在の勤務時間以上にアルバイト等をする余地は全くない。
これに対して、被抗告人は、公務員ではあるが、いわゆる日中のアルバイトが毎週二単位(一日分)公認されている他、子の監護の負担がないため、夜間は全く自由に稼働できる立場にあり、被抗告人が申告しているアルバイト収入一五三万一九〇〇円は、週一単位(午前中か午後)分のアルバイトにしか相当しない。従つて、被抗告人は夜間全くアルバイトをしないとしても、さらに一単位分(週一回午前か午後)の稼働能力を有するから、少なくとも現在のアルバイト収入を二倍に見積もつて算定すべきである。
第二に、被抗告人は、自己の財産についても虚偽の申告をしていると思われる。すなわち、原審判によれば、現在、被抗告人およびその両親、姉が居住する建物は、被告人とその父親の共有名義であるかの如くであるが(原審判三丁裏)、本抗告状添付の建物登記簿謄本によれば、建物は当初から被抗告人の単独所有名義になつていて、父親が持分を有した事実はない。被抗告人が土地のローンも含め、毎月九万円のローンを当事者同居の時期から支払つてきたことは、原審で提出した抗告人作成の家計簿からも明らかであり、被抗告人は十分な資産を有する。
二 原審は、分担金の算定にあたり、抗告人、被抗告人の消費単位を各一〇五としたのに対し、長女の消費単位をその半分にも足りない四七と評価した。
しかし、本年満四歳になる長女の養育に大人以上の費用がかかることは、子供を養育した経験のある者なら否定出来ない事実である。抗告人は原審において具体的な資料をもとに、長女の養育に要する費用の主張をした。原審申立人第二準備書面で明らかな通り、長女の住居費を算入しなくとも、最低一六万五八六〇円の費用がかかり、この金額は長女が成長するにつれ増加することは確実である。しかるに、原審判は、この現に抗告人が支出し続けている養育費の半分にすら充たない金額しか被抗告人に分担させなかつた。しかも、過去の費用に関しては、二年七ヵ月余りで総額二〇〇万円、一ヶ月六万四五〇〇円しか認めていない。昭和五七年度の収入を基礎に負担額を算定しておきながら、昭和五七年度および昭和五八年度の負担額が算定額より低いのは、全く納得できない。
三 被抗告人は、抗告人が○○信託銀行○○○支店に自己の収入から預金していた被抗告人名義の元金一六〇万円の定期預金につき、別居後、抗告人に対する支払を停止するよう同支店に働きかけ、抗告人は、これまで上記預金の払戻しを受けられなかつた。ところが、被抗告人は、原審判が下つた直後に原審判の命ずる二〇〇万円の支払を、上記預金で履行する旨抗告人に対し通知して来た(通知書添付)。
しかし、原審判五丁裏「ところで、申立人は申立人、相手方名義の預金通帳を持つて別居しており、そのうちいくらかの預金を払戻していることが窺われるけれども、右預金債権については婚姻又は別居の解消時又はこれに至る過程でも当事者の協議により清算するのが相当であつて、この預金債権が当然に婚姻費用にあてられるべきものとも認められないから、右預金債権により婚姻費用が清算されたものとしてこれを差引かないこととする。」の判断で明らかな通り、原審判は、預金による本件婚姻費用の分担金の清算はさせない趣旨であるから、被抗告人の申出は全く原審判を無視した不当なもので、被抗告人は原審判にすら従わない意図を明確にしているのである
四 以上、原審判は、抗告人の負担を考慮せず、不公平な金額しか認めていないので、抗告に及んだ。
別紙二
抗告の趣旨
一、原審判を取消す。
二、相手方の申立を棄却する。
との裁判を求める。
抗告の理由
一、原審判は第一項において、昭和五六年五月一八日から同五九年二月末日までの婚姻費用として、金二〇〇万円の支払いを抗告人に命じているが、不当であるので取消さるべきである。
即ち、抗告人は昭和五六年五月一七日、相手方との離婚を合意して別居するに際し、抗告人ら夫婦の全財産である預貯金の証書及び通帳を印鑑とともに相手方に交付したが、これは長女里美の養育費に充当する趣旨のものであつた。
しかるところ、相手方は相手方名義の○○銀行定期預金元本金一〇〇万円、同人名義○○銀行定期預金元本金三〇万円を解約して払戻しを受けた上費消し、また抗告人名義の○○銀行定期預金元本金八三万円、同人名義の郵便定額貯金元本金五〇万円について解約して払戻しを受けた上費消している。これらは全て婚姻費用として使用されたものであることは明らかである。
さらに、抗告人は昭和五九年三月八日付書面をもつて、抗告人名義の○○信託銀行○○○支店貸付信託元本金一六〇万円について、相手方が解約して払戻しを受けることを承認したので、右金員を婚姻費用として使用することが可能である。
これらすべての預貯金を合計すると、元本だけでも総額金四二三万円になるのである。
そうすると、これらの金員は全て婚姻の解消若しくは別居の解消に至るまでの間の婚姻費用に充当さるべきものである。
二、しかるところ、原審判は法の解釈を誤り、右預貯金を全く婚姻費用に充当しなかつたものであるから、取消しを免れないものである。
よつて、抗告人は現時点において婚姻費用の負担義務はないこととなるので、原審判は第二項を含め取消しの上、相手方の申立を棄却すべきである。
〔参照〕原審(大阪家 昭五八(家)三三八五号 昭五九・二・二九審判)
主文
一 相手方は申立人に対し、二〇〇万円を、この審判確定の日から一ヶ月を限度として支払え。
二 相手方は申立人に対し、昭和五九年三月一日から婚姻又は別居の解消に至るまで月額七万五〇〇〇円を毎月末日限り支払え。
理由
申立の趣旨
相手方は申立人に対し、昭和五六年五月一八日から毎月二五万円の割合による金員を支払え。
申立の実情
申立人と相手方は夫婦であつて、その間に長女が出生しているところ、申立人は相手方の所為により別居を余儀なくされ、昭和五六年五月一七日から別居している。
相手方は申立人に対し、別居後生活費の送金をしない。相手方にはアルバイト収入を含め月額六〇万円の収入があり、申立人の収入との間に三〇万円の差がある。申立人は、長女の養育に要する費用として毎月一六万五〇〇〇円を支出しており、更に住居費がいるとすれば三万円を要する。また、申立人は長女の養育のためにかなりの時間的肉体的精神的負担を負つている。
よつて、申立人は相手方に対し、別居時から月額二五万円の割合による婚姻費用分担金の支払を求める。
当裁判所の判断
一 当庁昭和五七年(家イ)第一八四八号事件、同五八年(家イ)第八四三号事件各記録同五八年(家イ)第五六号および本件記録中の資料、当庁家事調査官の調査報告書、申立人・相手方各審問の結果によれば、以下の事実が認められる。
(一) 申立人(昭和二五年一月八日生)と相手方(昭和二五年三月二四日生)は昭和五四年九月三〇日結婚式を挙げ、同五五年二月八日届出をした夫婦であつて、その間に昭和五五年七月三〇日に長女里美が出生している。
(二) 申立人と相手方とは結婚生活の在り方についての意見の不一致など種々の原因が重なつて次第に不和になり、申立人は昭和五六年五月一七日里美を連れて、相手方と暮らしていたマンションから実家に戻り、同月中に申立人所有の家財道具なども実家に運び以後両者は今日まで別居を続けている。
(三) 相手方は、昭和五七年五月当裁判所に夫婦関係調整(離婚)の調停申立をし、調停が試みられたが、同年一〇月不成立になつた。相手方は同月中に大阪地方裁判所に離婚訴訟を提起し、現に右訴訟は係属中である。その間申立人は、同五八年三月当裁判所に夫婦関係調整(円満和合)の調停申立をしたので、同年九月まで再び調停が試みられたが結局成立するに至らなかつた。
(四) 申立人は別居前から現在まで引続き市立母子センターに勤務する医師であつて、勤務先から受ける給与賞与の総収入は、昭和五七年度で六六五万二〇三四円であり、社会保険料、源泉徴収税八八万九四九五円を差引いた残りの収入は五七六万二五三九円になり、他に収入はない。
申立人は、別居後、長女と共に米穀商をしている両親の許(他に保健婦をしている妹も同居)で暮らしている。
(五) 相手方も医師であつて、○○○○大学医学部麻酔学教室に医局長代理として勤務しているほか少くとも週一回アルバイトをしている。勤務先からの昭和五七年度総収入は昭和五七年度五四二万六四五四円、源泉徴収税社会保険料等六七万一九二五円を控除した残収入は四七五万四五二九円になり、その他アルバイトによる収入は一五三万一九〇〇円、源泉徴収税一九万三一一〇円、控除後の収入一三三万八七九〇円になる。
以上を合計すると六〇九万三三一九円になる。
(申立人は、同居当時相手方には月収二九万円にも上るアルバイト収入があり、したがつて、その後も同程度のアルバイト収入があると主張し、相手方は現在の地位、病院側の事情から以上につきるとする。別居前の状況からすると、他に収入があると窺われないでもないが、これを確定しうる資料はなく、したがつて、上記確定しうる収入を基準として考えることとする)。
相手方は、別居後実家に戻り、両親・姉と共に、父所有名義の土地上に建てられた父・相手方共有名義の家に住み、相手方名義の住宅ローン債務に基づき毎月三万二八六四円を支払つている(父・年金生活、姉秘書として勤めている)。
(六) 長女里美は申立人の両親が病弱であるため保育園に通園している。申立人は保育園に入園するために他にアパートを借り、賃料九五〇〇円を支払い、また通園のため保育料四万一〇〇〇円(同五七年度は三万七五〇〇円)父母会費四〇〇円のほか、通園のための交通費、食費、衣料費、玩具代、雑費を支払い、更に学資保険料一万四一〇〇円を支払つている(いずれも月額)。
二 以上認定事実をもとに本件婚姻費用分担金の相当額について判断する。
本件においては、申立人・相手方共に相当の収入があり、自己の生活費をそれぞれ自弁しうるから結局のところ、長女里美の養育費を如何に支弁するかにつきる。
そこで、先づ、申立人・相手方の合算収入を基礎として労研方式(後記のとおり単位を修正)により分担額を試算することとする。
先づ、双方の職業を考慮すると、職業費は双方とも控除後の収入の二割五分が相当である。
次に、申立人は女性であるが、医師として男性同様の職場で働いており、かつ、長女を単独保育していることを考慮し、申立人・相手方共に消費単位を一〇五とする。長女について、前認定の状況のもとにあることを考慮し消費単位を四七とし、これにより一応試算することとする。
なお、住民税等の税、住民費等の支出の点についてはあらかじめ控除することなく総経費の中に含ませて消費単位による方式で一応試算することとする。
(申立人)
5,762,539×(1-0.25) ≒ 12 = 360,158・・ ≒ 360,000(円)
(相手方)
6,093,319×(1-0.25) ≒ 12 = 380,832・・ ≒ 380,000(円)
両者の職業費を控除した残収入を合算すると、
360,000+380,000 = 740,000(円)
(申立人・長女の相当生活費)
740,000×(157/(47+110+110)) = 435,131・・ ≒ 435,000(円)
(内長女の分 740,000×(47/267) = 130,262・・ ≒ 130,000(円)
(相手方の負担すべき分)
435,000-360,000 = 75,000(円)
以上の試算(上記試算は昭和五七年度の収入を基礎とするものであるが、前後の年度においてもさして変化がないので一応これを基準とする)長女の年齢、支出状況、その他本件にあらわれた諸般の事情に照らすと、現段階においては、相手方が婚姻費用の分担として負担すべき相当金額は月額にして七万五〇〇〇円と認めるのが相当である。
三 本件婚姻費用分担の始期については、長女について要扶養状態が生じ、相手方も了知したと認められる別居時から支払わせるのが相当である。
ところで、申立人は申立人、相手方名義の預金通帳を持つて別居しており、そのうちいくらかの預金を払戻していることが窺われるけれども、右預金債権については婚姻又は別居の解消時又はこれに至る過程でも当事者の協議により清算するのが相当であつて、この預金債権が当然に婚姻費用にあてられるべきものとも認められないから、右預金債権により婚姻費用が清算されたものとしてこれを差引かないこととする。
四 したがつて、相手方は申立人に対し、昭和五九年三月以降婚姻又は別居の解消に至るまでの間月額七万五〇〇〇円を毎月末日限り持参又は送金して支払うべきものと認める。
次に、別居時の昭和五六年五月一八日から同五九年二月末日までの分(二年七ヶ月余)については、前記資産額、当時の事件本人の年齢等諸般の状況を考慮すれば、相手方が分担すべき額としては二〇〇万円をもつて相当とする。なお、右金員についてはこの審判確定後一ヶ月を限度として申立人に支払うべきものと認める。
よつて、主文のとおり審判する。