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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)1号 判決 1984年4月13日

控訴人(原告) 中村唯行 外一名

被控訴人(被告) 神戸市長 神戸市垂水区長

主文

1  原判決中、控訴人中村唯行の被控訴人神戸市長に対する昭和五八年三月一四日付審査請求棄却裁決の取消しを求める訴えを却下した部分を取消す。

2  本件のうち前項の訴えに関する部分を神戸地方裁判所に差戻す。

3  控訴人中村唯行のその余の控訴を棄却する。

4  控訴人中村良子の控訴を棄却する。

5  控訴人中村良子と被控訴人らとの間で生じた控訴費用は同控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める判決

(控訴人ら)

1  原判決を取消す。

2  被控訴人神戸市長が昭和五八年三月一四日付で控訴人中村唯行に対してした審査請求棄却の裁決を取消す。

3  被控訴人垂水区長は原判決別表(一)3、4記載の土地の固定資産課税台帳上の地目を宅地に原状回復せよ。

4  被控訴人垂水区長は原判決別表(一)記載の各土地について固定資産課税台帳の登録事項の誤りをすべて右台帳から削除せよ。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人ら)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張

次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの当審主張)

1 固定資産課税台帳の縦覧後に、その記載に重大な錯誤があることを発見したときは、区長はその登録事項の修正を行わなければならず、これを怠ることは違法である。また、右の誤つた登録にもとづき課税することも、錯誤にもとづくものであつて違法である。

2 固定資産課税台帳の登録事項のうち控訴人らにおいて不服のあるのは地目に関する部分であるが、これは不動産登記簿にも登記されている事項であるから、固定資産評価審査委員会において審査決定する事項ではない。

三 証拠<省略>

理由

一  控訴人中村唯行の審査請求棄却裁決の取消しの訴えについて

右訴えは、被控訴人垂水区長の控訴人中村唯行に対する固定資産税及び都市計画税賦課決定について控訴人中村唯行の申立てた審査請求を棄却した被控訴人神戸市長の裁決の取消しを求めるものであり、その違法事由として主張するところは、固定資産課税台帳に記載の地目、課税標準額に誤りがあるというにある。

原判決は右のような争訟は地方税法四三四条二項に違反し許されないところであるから、右の訴えは不適法であるとしてこれを却下している。

しかしながら、右訴えは、固定資産税等賦課決定ではなく、裁決の取消を求めるものであるから、まず行訴法一〇条二項の適用が問題となるところ、同項は取消しの理由の制限を定めたものであつて、訴えの適法要件を定めたものではないから、原告が右訴えにおいて現在のところ、原処分等の瑕疵は主張しているが、裁決固有の瑕疵は主張していない場合であつても、そのために裁決取消しの訴え自体が不適法となるものではないと解される(東京高昭和五〇年(行コ)第三九号、七〇号同五三年一月三〇日判決、行裁集二九巻一号二二頁及びその原審静岡地昭和四八年(行ウ)第二号同五〇年五月八日判決・行裁集二六巻五号七〇四頁、東京高昭和五五年(行コ)第一一五号同五六年一一月一〇日判決・労働判例三七五号一七頁及びその原審東京地昭和五五年(行ウ)第一〇七号同五五年一二月一日判決・労働判例三五三号一九頁、東京高昭和五六年(行コ)第八号同五六年八月二七日判決・行裁集三二巻八号一四七二頁及びその原審東京地昭和五五年(行ウ)第二〇号同五六年二月二六日判決・行裁集三二巻二号二九九頁)。地方税法四三四条二項も、固定資産評価審査委員会の決定の取消の訴え以外の訴えにおける主張制限を定めたものであつて、その趣旨とするところは行訴法一〇条二項と同様であると解される。

したがつて、控訴人中村唯行の右裁決取消の訴えについて、これを不適法として却下した部分の原判決は失当であるから、この部分を取消したうえ、右裁決につき固有の瑕疵の有無についての実体的審理をさせるため、本件のうち右部分を原裁判所に差戻すこととする。

二  控訴人中村良子の審査請求棄却裁決の取消しの訴えについて

控訴人中村良子は控訴人中村唯行の代理人として審査請求をしたというのであるが、審査請求の代理人は自分では審査裁決の取消しの訴えを提起する利益を有しないし、他に控訴人中村良子が右訴えを提起する利益を有すると解させる事実は認められないから、同控訴人の右裁決取消しの訴えは不適法であり、これを却下した原判決は結論として正当である。

三  固定資産課税台帳上の登録事項の原状回復、削除を求める訴えについて

当裁判所も右の訴えは不適法であると判断するが、その理由は次に付加するほか、原判決理由二項(九枚目表五行目から一〇枚目裏三行目まで)に説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、九枚目裏最終行の「唯行所有地」から一〇枚目表四行目の「更に、」までを削除する)。

控訴人中村唯行は自分の所有地についての固定資産課税台帳に記載の評価額に誤りがあると考えるときは、固定資産評価審査委員会に審査請求をし、同委員会の決定に対し訴えを提起することができるが、本件のような訴えを提起することは許されない。

四  結論

よつて、原判決中、控訴人中村唯行の裁決取消しの訴えを却下した部分を取消したうえこの部分の本件を原裁判所に差戻し、控訴人中村唯行の控訴の趣旨3、4項の訴えを却下した原判決は正当であるからこの部分の同控訴人の控訴を棄却し、控訴人中村良子の控訴の趣旨2ないし4項の訴えを却下した原判決は正当であるから同控訴人の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九五条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 上田次郎 広岡保 井関正裕)

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