大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)23号 判決 1987年9月29日
控訴人(原告) 深尾照夫
被控訴人(控訴審被告) 国
主文
控訴人の当審における新請求を棄却する。
新訴に関する訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立て
(控訴人)
一 被控訴人は控訴人に対し、六二七五万七二一〇円及びこれに対する昭和六一年四月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被控訴人の負担とする。
三 仮執行の宣言を求める。
(被控訴人)
一 控訴人の請求を棄却する。
二 訴訟費用は一、二審を通じ控訴人の負担とする。
三 仮執行の宣言の申立が認容されるときは、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。
第二主張
(請求原因)
一 昭和四八年五月二日、訴外深尾茂(以下亡茂と略称する)が死亡し、その妻である訴外深尾ひな、その直系卑属である控訴人、訴外深尾敦、同正(非嫡出子、上記三名の訴外人については以下名前のみで略称する)の四名が亡茂の遺産を相続することとなつた。
二 亡茂の遣産は、まず、正の申立により昭和四九年六月三日に成立した調停(神戸家庭裁判所尼崎支部昭和四八年(家イ)第四一号)で、正の取得分と他の相続人の共有財産(持分は、ひなが一三分の五、控訴人と敦が各一三分の四)とに分割され、後者については昭和四九年九月一五日に遺産分割の協議が成立した。
三 前記相続人四名は、法定の納税申告期限である昭和四八年一一月二日に、遺産分割未了のまま、所轄税務署の担当係官の指示に従つて、同税務署長に相続税の申告をした。
四 その後も右税務署から強力な指示があつて、右相続人らはその都度これに従い申告内容の修正を重ねた後、昭和五〇年七月七日に、前記遺産分割の結果をも加味した最後の相続税修正申告書を所轄税務署長に提出した。
五 なお、前項の修正申告額について、訴外岩永清が死後認知され、相続人が一名増加したため、控訴人らは、昭和五二年一〇月二九日更正の請求書を提出し、同年一一月一〇日に相続税額の一部について減額更正された。
六 右最終の修正申告による控訴人の取得財産の総額は二七億八二二一万六二七五円、債務及び葬儀費用の額は七億二九九七万〇三七二円、差引純資産額は二〇億五二二四万五〇〇〇円であり、最終的に確定した控訴人自身の相続税額は一三億八五二五万六二〇〇円となつている。
また、控訴人の相続税法第三四条による連帯納付責任額は、次の1の額から2ないし4の額を差引いた六億六二二九万六四八三円である。
1 取得財産額 二七億八二二一万六二七五円
2 債務控除の額 七億九九七〇万〇三七二円
3 相続税額 一三億八五二五万六二〇〇円
4 登録免許税額 四六九万三二二〇円
七 控訴人は、自己の右相続税につき昭和五四年八月までに本税一〇億一六五八万二〇八五円、利子税二億一五二三万五二〇〇円、合計一二億三一八一万七二八五円を納付したほか、連帯納付義務があるとされている他の相続人の相続税についても、別紙相続税納付表(以下別表という)記載のとおり、合計一三億一八一四万六九〇〇円を右時点以前に納付している。
八 ところが、大阪国税局長は、控訴人の固有財産であつた別紙物件目録記載の物件を公売し、昭和六一年一月三一日にこれを訴外日立造船不動産株式会社に三億〇四〇〇万円で売却する旨を決定するとともに、同代金のうち、一六万九〇〇〇円を滞納処分費に、その余を左のとおり充当した。
1 控訴人本人の延滞税の納付 一億一九五九万二九六〇円
2 連帯納付義務にもとづく納付
(一) ひなの延滞税分 一億三五八九万三六〇〇円
(二) 敦の延滞税分 四八三四万四四四〇円
(一)、(二)の合計一億八四二三万八〇四〇円
九 しかしながら、以下のとおり、控訴人の納付すべき相続税等は、前項の公売時点では存在しないものというべきであり、前項1は納税義務がないか、あるいは少くとも何らかの是正措置が必要であるのにこれをしないで敢えて徴収されたものであり、同2は納税義務がないのに徴収されたものであつて、いずれも公法上の不当利得として控訴人に返還されるべきものである。
1 控訴人取得資産中の株式の内容とその価格の下落について
(一) 前記の控訴人の取得資産の主要なものは、左記各株式(以下本件各株式という)であり、その評価合計額は前記差引純資産額を超え、取得財産に対する比率でも九一パーセント強を占めていた。
発行会社名
株式数
単価(円)
評価額(円)
永大産業
二〇四万三三三三
六九五
一四億二〇一一万六四三五
近畿プライウツド
一四万一〇〇〇
一一三四
一億五九八九万四〇〇〇
永大木材工業
九〇〇万
一〇四
九億三六〇〇万
姫路永大ハウス販売
二〇〇〇
二二九五
四五九万
北堀ベニヤ商会
一万二〇〇〇
二〇五
二四六万
丸永物産
六〇〇〇
二七六
一六五万六〇〇〇
広島永大ハウス販売
二〇〇〇
四九〇二
九八〇万四〇〇〇
二五億三四五二万〇四三五
(右各会社はいずれも株式会社である。以下右表示による)
(二) ところが、その後いわゆるオイルシヨツクに端を発したわが国経済の長期にわたる未曽有の大不況の結果、永大産業は昭和五三年二月二〇日に会社更生の申立をして事実上倒産し、控訴人が取得していた同社並びにこれと同時に同様倒産もしくは閉鎖のやむなきに至つた右各関連会社の株式は、すべて殆んど無価値となり、なかでも株式数の多かつた永大産業と永大木材工業の株式は、いずれも各更生計画において無償で消却されてしまつた。
なお、永大産業と永大木材工業の株式の一部(五〇万株)は、倒産よりも前にそれぞれ約四億四九五〇万円(平均単価二二〇円)と一億六五〇〇万円(単価三三〇円)で処分されているほか、近畿プライウツドの株式は増減資の後八三万円で公売されている。
2 控訴人のした前記相続税の各申告の無効について
前記1(一)記載の本件各株式が、その後無価値化した原因は、わが国経済の基本的、構造的弱点として、客観的には相続開始前から厳然として存在していたものにほかならず、とりわけ住宅関連産業は、過当競争のうえに、需要が延び悩みの傾向を見せ始めていた。そして、実際にもその後間もなくこれらの弱点や傾向が顕在化した本件においては、相続税評価の算出に際しても、当然このような事情が、評価を決める重要な一要素として考慮されるべきであつた。また、右各株式がいずれも転々流通の可能性のないいわゆる支配株で、しかもその多くは非上場の株式であつたことも看過されるべきではない。
しかるに、所轄税務署の担当係官は、これらの事情をすべて無視し、本件各株式の評価について、部内に示達されていたいわゆる相続財産評価に関する基本通達の画一的な基準による評価を絶対的なものとして控訴人らに押しつけ、専門的知識がなく、担当係官を信頼している控訴人らは否応なくこれに従わざるを得なかつた。
しかし、このような状況のもとでなされた控訴人らの前記各申告は、いずれも税務係官の誤つた指導による重大かつ明白な錯誤に基づくものであり、他に適切な救済方法がなければ、納税義務者の利益を著しく害することが明らかであるので、当然無効と解されるべきである(最高裁昭和三九年一〇月二二日判決、民集一八巻八号一七六二頁)。したがつて、右無効の申告に基づいて確定したとされる前記の控訴人の相続税債務は、もともと不存在というべきであるから、少くとも前記八1、2の各金員を当該各税に充当することは許されず、控訴人に返還されるべきものである。
3 災害被害者に対する租税の減免・徴収猶予等に関する法律(以下災害減免法という)の準用ないし類推適用について
右法律第四条は、「相続税……の納税義務者で災害により相続……に因り取得した財産について相続税法……の規定による申告書の提出期限後に甚大な被害を受けた者に対しては、命令の定めるところにより、被害があつた日以後において納付すべき相続税……のうち、被害を受けた部分に対する税額を免除する」旨規定しているところ、前記1(二)のような経済不況の結果、永大産業が倒産し、その各関連会社も同様の状態に追い込まれて、右各会社の株式がほとんど無価値となつてしまうという事態は、一般人の予期することができない社会経済事情の急変による大幅かつ異常な株価の下落であつて、社会通念上災害による被害と何ら変るところがないから、右規定は、当然本件のような場合にも準用もしくは類推適用されるべきである。
そこで、右災害減免法第四条、同法施行令第一一条により本件につき試算すると、控訴人の納付すべき相続税は四億円余に減免されるべきこととなるから、控訴人が昭和五四年八月までに前記七のとおり納付している以上、もはやそれ以上に納付すべき相続税は存しないものというべきである。
従つて、前記八1、2の各金員を当該各税の支払として納付すべき理由はないから、右金員は控訴人に返還されるべきものである。
4 課税における正義公平の観念にもとづく是正措置について
仮に、災害減免法第四条の規定の準用ないし類推適用が困難であり、また相続税の課税範囲や税率を如何に定めるかは、基本的には立法政策に委ねられているとしても、相続税が相続財産額を上廻るような課税を規定することによつて、相続制度そのものを事実上否定することは、とうていありうべきことではないから、事後的にもしろ、課税の対象とされていた経済的な利益が納税者本人の責には帰し得ない事情で失なわれ、課税をそのまま維持することが正義公平の観念に反すると認められる場合には、課税権者は右法条の精神ないしは条理に従つて何らかの是正措置を講ずべきであり、その措置をとらないで徴税を強行することは許されず、あえて徴収した租税は公法上の不当利得として返還すべきものである(最高裁昭和四九年三月八日判決、民集二八巻二号一八六頁参照)。
そして、本件相続財産中の前記株式についての事情からみると、本件については前記災害減免法の精神や条理に従つて是正措置を講ずべき場合に当るものと解すべきであり、右措置を講ずれば前項と同様に昭和五四年八月までに納付した額以上に納付すべき相続税は存しないものというべきである。
従つて、前記八1、2の各金員を当該各税の支払として納付すべき理由はないから、右金員は控訴人に返還されるべきものである。
5 相続税連帯納付責任の完了について
控訴人は、前記六のとおり六億六二二九万六四八三円の相続税連帯納付責任を負つていたところ、前記七のとおり昭和五三年五月一日までに右責任の履行として合計一三億一八一四万六九〇〇円を納付しているから、それ以上に右責任を負担すべき義務はない。
従つて、右時点以後に右責任にもとづく納付金に充当された前記八2の各金員は、控訴人にその納付義務のないことは明らかであるから、控訴人に返還されるべきものである。
一〇 よつて、控訴人は被控訴人に対し、不当利得返還請求として、前記八1、2の納付金のうち、六二七五万七二一〇円及びこれに対する本件訴えの変更許可申立書送達の日の翌日である昭和六一年四月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被控訴人の答弁)
一 請求原因一の事実は認める。
二 同二の事実のうち、遺産分割の協議の成立した日が昭和四九年九月一五日であることは知らないが、その余は認める。
三 同三の事実のうち、控訴人ら相続人四名が控訴人主張の日に、遺産分割未了のまま所轄税務署長に相続税の申告をしたことは認めるが、その余は争う。
四 同四の事実のうち、右相続人らが申告内容の修正をした後、昭和五〇年七月七日、遺産分割の結果を加味した最後の相続税修正申告書を所轄税務署長に提出したことは認めるが、その余は争う。
五 同五の事実は認める。
六 同六の事実は認める。ただし、控訴人が遺産分割により取得した財産は総額四三億五六二〇万五三五五円であり、右財産を取得することにかえて、他の相続人に対し一五億七三九八万九〇八〇円の債務を負担した結果(代償分割)、控訴人の取得財産の総額が計算上二七億八二二一万六二七五円となつたものである。
七 同七の事実のうち、控訴人固有の相続税を納付した事実は認めるが、その余は争う。なお、別表は、当該各相続人が本件相続に係る自己の租税を納付した状況を示すものであつて、控訴人が連帯納付義務を履行したものではない。
八 同八の事実は認める。
九 同九の冒頭の主張は争う。
同項1(一)の事実のうち、控訴人が本件各株式を取得していることは認めるが、右株式の取得財産に対する比率は争う。同比率は五八パーセントである。
同1(二)の事実のうち、永大産業が昭和五三年二月二〇日に会社更生の申立をしたこと及び近畿プライウツドの株式が八三万円で公売されたことは認めるが、その余は知らない。
同2の事実及び主張は争う。
同3の事実のうち、災害減免法第四条に控訴人主張のとおりの規定があることは認めるが、その余の事実及び主張は争う。なお、右法条では、災害被害者に対する税額を免除する方法については命令の定めるところに委ねることとなつているところ、同法施行令(昭和二二年政令第二六八号)第一一条第二項は「法第四条の規定の適用を受けようとする者は、その旨、被害の状況及び被害を受けた部分の価額を記載した申請書を、災害のやんだ日から二月以内に、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」と規定しているのであるから、災害被害者が災害による税額の免除を受けるためには、右手続を履践することを要するのである。したがつて、この手続を履践することなく、訴訟において直接税額が免除されるべき事由があつてこれにより免除されているとして、租税債務不存在の主張をすることは許されないから、同法にもとづく控訴人の主張はその前提において失当である。
同4及び5の各事実及び主張は争う。
(被控訴人の主張)
一 公法上の不当利得について
控訴人は、大阪国税局長が請求原因八のとおり控訴人所有物件を公売(以下本件公売という)して換価し、その換価代金につき昭和六一年二月三日付けで同項1、2の金額を配当(以下本件配当処分という)したことに対し、右配当処分に基づき各租税債権に充当された金員の一部である六二七五万七二一〇円が不当利得であるとして、右金額の返還を請求している。
しかし、本件公売及び右金額の配当は、いずれも大阪国税局長のした行政処分である。そして、行政処分は、重大かつ明白な瑕疵があつて法律上当然に無効であるか、あるいは権限のある機関によつて取り消されないかぎり、何人からもその効力を否定されず有効なものとして取扱うべきことを要求する効力(公定力)を有するものであり、その行政処分が無効であるか、または違法として取り消されて、法律上の原因なく利得したことが公に確定されないかぎり不当利得は成立しないものと解すべきである。
ところで、本件公売については、異議申立がなされたがその後取下げられて確定しており、また、本件配当処分についても不服申立期間内にその申立はなされず、もはや取消し得ないものとして確定しており、控訴人は、本件において、本件公売が無効となるような重大かつ明白な瑕疵の存することについては何ら主張、立証していないし、また、本件配当処分の無効原因に関しても、重大性について主張するのみで、それが明白な瑕疵であるとの点について何ら主張、立証していない。
従つて、控訴人の公法上の不当利得の主張は失当である。
二 相続税法第三四条の連帯納付責任の履行について
控訴人は、請求原因七において別表のとおり連帯納付責任の履行をした旨主張しているが、仮にその源資が控訴人の出捐によるものだとしても、以下のとおり、控訴人自身の連帯納付責任の履行とはいえない。
すなわち、右連帯納付責任は、共同相続人らに民法上の連帯保証類似の責任を負わせることによつて相続税徴収の確保を図るために共同相続人らに課した特別の履行責任であり、ある相続人の連帯納付責任の履行は自己の責任(債務)としての履行であるから、連帯納付義務者が納税者となる。したがつて、納税者たる連帯納付義務者の連帯納付責任の履行があつたとされるためには、連帯納付義務者が、国税通則法第三四条第一項、同法施行規則第五条所定の自己名義で作成された納付書を添えて自己の名において納付しなければならない。右納付書の作成は、大量かつ反復して発生する租税債権の特殊性から、その債権管理において煩雑な手続を要求することが困難であるために採用されているもので、これによつて税務行政の公正かつ円滑な運営が図られているのであるから、右書面の作成は、納税者が納税義務を消滅させるための要件とみるのが相当である。しかるに、控訴人が前記のように自己の連帯納付義務の履行と主張する納付は、いずれも本来の納税者名義の納付書が添付されており、控訴人のそれが添付されていないから、控訴人自身の右義務の履行とみることはできない。
従つて、控訴人の連帯納付義務が存在していた以上、これを徴収したことが公法上の不当利得となることはあり得ない。
(控訴人の反論)
一 公法上の不当利得について
被控訴人は、本件公売及び配当がいずれも大阪国税局長のした行政処分であることを理由に、同処分の無効が主張、立証されない限り、不当利得は成立しない旨主張している。
しかしながら、不当利得の成否は、究極的には正義公平の観念に従つて決せられるべき事柄であつて、法形式上の適否とは次元を異にする問題である。本件において、右の各行政処分が形式上確定していてその違法を争いえなくなつているとしても、すでに主張したように徴収金の保持を正当化できない事情がある以上、公法上の不当利得が成立しうるものというべきである。
二 連帯納付責任の履行について
被控訴人のその主張の様式に従つた納付書の作成が連帯納付義務消滅の要件である旨の主張は失当である。
すなわち、被控訴人は、国税通則法第三四条第一項を根拠に右主張をしているが、右条項は、その第二、三項との対比からも明らかなとおり、金銭納付の原則を宣明した規定に過ぎず、それ以上の納税義務消滅の要件を定めたものと解するのは相当ではない。というのは、収税事務の確実を期すための実際上の便宜に基づく訓示規定的な意味での要請はともかく、納付書または納税告知書の添付を求める法律上の必要性は、弁済における充当の指定以外には考えられず、その指定を被控訴人主張のような文書上の記載に限定しなければならない合理的な理由は見出しえないからである。さらに、国税通則法施行規則の別紙第一〇号書式(乙第三五号証)には、「納税者」の「納税地」や「氏名又は名称」を記載する欄はあるが、連帯納付義務を履行しようとする「納付者」の納税地等を記載する欄は特に設けられておらず、このような一般人にはとうてい考え及ばないような記載の有無のみによつて、納付者か否かを確定し、重大な法律効果の発生を左右するのは妥当ではなく、法の精神に適う所以でもないことも考慮すべきである。
従つて、控訴人自身の出捐によつて連帯納付義務を履行しており、所轄税務署の係官が右事情を知了していた本件においては、前記納付書の記載内容にかかわらず、連帯納付の効果が生じているものと解すべきである。
第三証拠関係<省略>
理由
一 請求原因一、五、六及び八の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 同二の事実のうち、正以外の相続人三名の共有財産についての遺産分割協議が昭和四九年九月一五日に成立したことは、原審における控訴人本人の供述により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証及び同供述によつて認められ、その余の事実は当事者間に争いがない。
三 次に、控訴人ら相続人四名が、法定の納税申告期限である昭和四八年一一月二日に、遺産分割未了のまま所轄税務署長に相続税の申告をしたこと(請求原因三の一部)、右相続人らが申告内容の修正をした後、昭和五〇年七月七日、遺産分割の結果を加味した最後の相続税修正申告書を所轄税務署長に提出したこと(同四の一部)、控訴人が自己の相続税につき昭和五四年八月までに本税一〇億一六五八万二〇八五円、利子税二億一五二三万五二〇〇円、合計一二億三一八一万七二八五円を納付したこと(同七の一部)及び控訴人が本件相続により本件各株式を取得したこと(同九1(一)の一部)は、いずれも当事者間に争いがない。
四 そこで、控訴人の取得財産の主要部分を占める本件各株式の評価額を請求原因九1(一)に記載の価額として申告した本件相続税の申告及び修正申告は無効である旨の控訴人の主張について検討する。
まず、相続税についても、その申告書の記載内容について錯誤があるときには、錯誤による無効を主張しうる場合がありうるが、それは、相続税法の定める右申告ないし修正申告、更正の請求等の制度の趣旨を考慮すると、右錯誤が客観的に明白かつ重大であつて、国税通則法等に定める是正方法以外にその是正を許さないとすると、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されるものと解すべきである(所得税に関する最高裁昭和三九年一〇月二二日判決、民集一八巻八号一七六二頁参照)。そして、右の申告についての錯誤が、同申告の内容となつている取得財産の評価額(結果的には税額にも影響することとなる)に関するときに、その錯誤が前記のように客観的に明白と解される場合というのは、右評価額が適正に算定された場合の評価額と相違していることが客観的にみて容易に判断しうる場合を指すものと解するのが相当である。
そこで、本件が右の場合に当るか否かを検討する。
まず、一頁から五頁まで及び一五、一六頁については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、成立に争いのない甲第一七、一八、二三号証、同乙第一号証、第二号証の一ないし三、第一二号証、当審証人小林憲夫、原審証人梅次秀文の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件相続税の申告ないし修正申告に際し、控訴人ないしその手続の依頼を受けた永大産業の社員の訴外小林憲夫らは、所轄の芦屋税務署又は大阪国税局の担当係官に右申告につき指導助言を求めたところ、右係官から本件相続に係る株式の評価方法として国税庁の相続財産に関する基本通達(昭和三九年四月二五日直資五六、直審(資)一七、以下基本通達という)の株式に関する部分が基準となる旨の指導を受けたこと及び控訴人主張の請求原因九1(一)記載の各株式の評価額は右基本通達の評価基準に合致した評価であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、控訴人主張のように、前記担当係官が控訴人らに対し、基本通達の基準が唯一無二の絶対的なものであるとしてこれを押しつけた事実は、前掲証人小林、原審証人大谷勉の各証言や原審における控訴人本人の供述によつても認めがたいし、他にこれを認めるに足りる証拠はない)。
ところで、控訴人は、請求原因九2記載の事情を考慮すると、本件相続による取得財産中の本件各株式の評価は、基本通達の基準によるのは不当であり、本件における右評価は不当に高額である旨主張しているので、本件について右基準を適用することの当否について検討する。まず、相続税法第二二条は、相続財産の評価は、同法第三章に特別の定のある場合を除いて、当該財産の取得時における時価による旨定め、株式の時価については特別の定めは設けられていない。そして、税務実務については、右評価基準として基本通達が出されているのであるが、控訴人が特に問題としている上場株式については、前掲甲第二三号証によれば、同株式の評価は、右通達一六九において、その株式が上場されている証券取引所の公表する課税時期の最終価格又は課税時期の属する月以前三か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下最終価格の月平均額という)のうち最も低い価額によつてなされることとなつていることが認められる。ところで、一般的について、株式の価格は、その発行会社の経営状態のほかこれと無関係の需給関係等から日々変動するものであるから、相続財産である株式の価格をその取得時点すなわち相続開始時点の取引価格に固定することは、その時点で一時的に騰貴した株価を評価額とする場合も生じ、納税者に過酷な結果となることもあり得るから、相当とはいえない。従つて、右株式の評価に当つては、相当な期間内における株価の変動を考慮するのが妥当であるが、右の考慮期間として基本通達では相続開始後のそれを考慮しないこととしている。この点の合理性が問題となるが、相続税は相続財産の取得時点すなわち相続開始時点で納税義務が成立し(国税通則法第一五条第二項第四号)、相続財産を取得したものは、相続開始のあつたことを知つた日の翌日から六月以内に相続税の申告をし、右期限までにその納付をする(相続税法第二七条、第三三条)こととなつているところ、右申告期限までの株価も考慮することとなると、相続開始後に株価の恣意的操作がなされるおそれがあり、かくては課税の公平を欠くに至るから、基本通達において相続開始後における期間についての株価の変動を相続株式の評価に当たり考慮していないことが不合理とはいえない。また、基本通達では、前記のように相続開始日の属する月以前三か月間の最終価格の月平均額を考慮することとしている点の合理性であるが、前記のように相続税法上相続財産の評価はその取得時における時価によることとなつている以上、株式についてのみ右時点より余り長期にまで遡つてその価格の変動を考慮して評価するのは相当でなく、この点でも期間的な制約があることは否定できないし、他方、前記のように三か月間の最終価格の月平均額と課税時期の最終株価のうち最低株価を採用することにより、一般的にいつて、相続開始時に一時的に騰貴した株価を評価額とすることを避けるという目的を満たす効果のあることは否定できず、多量の税務事務の処理と課税の公平を期するという要請も参酌すると、右の過去に遡る期間の考慮に関しても前記の株価についての通達の基準の合理性を否定するのは相当ではない。また、非上場株式についても、前掲甲第二三号証によれば、前記通達において、当該株式発行会社の規模等により評価方法についての具体的な基準が示されていることが認められるが、右基準について特に合理性を欠くものとみるべき点は存しない。さらに、控訴人は、本件各株式がいずれも転々流通する可能性のないいわゆる支配株である点やそれらの株式が相続開始時より以前から関連企業の不況傾向から価格の下落することが予想される状況にあつたことを考慮すると、前記通達の基準を適用して評価するのは相当でない旨主張するが、右支配株の点は、当該企業の支配関係を相続開始前と同様の状態に維持しつつ、右株式を譲渡するには通常の株式の場合にはみられない困難が伴うことは否定できないが、他面、支配株であつても換金可能であつて相応した取引価格がある以上、同額の財産を取得したものと考えざるを得ないのであつて、非支配株と特に区別して評価しないことが不合理とまではいえない。また、前記のような経済状況があるとしても、税務実務においてこれらの状況を的確に把握するのは困難であり、また、納税者において右の状況があると考える時は、取得後早期に処分して価額下落による損失を防止することも可能であることを考慮すると、相続株式の評価に当り右のような状況を特に考慮せず、株価自体の変動のみを考慮する基本通達の評価方法を採用することが特に不合理とはいえない。
以上に検討したところによれば、基本通達の評価基準にもとづいて本件各株式の評価をし、これに従つて相続税を算定している本件申告ないし修正申告が、その時点において、右株式評価(ないし税額算定)に関して、適正でないものと容易に判断しうる場合には当らないことが明らかであるから、右各申告が錯誤により当然無効である旨の控訴人の主張は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないものといわなければならない。
五 次に、災害減免法の準用ないし類推適用を前提とする控訴人の主張について検討する。
成立に争いのない甲第二五、二六、二八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四四号証、前掲証人大谷、同小林の各証言、及び控訴人本人の供述によれば、昭和四八年九月のいわゆるオイルシヨツクに端を発した我国経済の長期にわたる不況の影響を受けて、前記の永大産業及びその関連会社の業績は悪化して行き、昭和五三年二月二〇日には永大産業及びその関連会社である永大木材工業は会社更生の申立(この申立の事実は当事者間に争いがない)をするに至つたこと、その後同手続において両社の発行済株式は全て無償消却となつたこと及び本件各株式の発行会社である右二社以外の永大産業の関連会社も全て倒産状態となり、これらの会社の株式は、いずれも殆んど無価値となるに至つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
控訴人は、右のような事態は社会通念上災害による被害と何ら変るところがないとして、災害減免法第四条の準用ないし類推適用がなされるべき旨主張する。しかし、同法第一条では、同法の適用されるべき災害として「震災、風水害、落雷、火災、その他これらに類する災害」が挙げられており、右の「その他これらに類する災害」は右の具体的に挙示されている事由からみると、これらと同視すべき自然界に生じた災害を指すものであつて、控訴人主張のような経済事情の急変は、右の「災害」に該当しないことが明らかである。また、同法は、所定の災害により被害を被つた納税義務者について、一般的な租税法による税負担を例外的に減免する等の軽減措置を採ることを認めたものであるから、明示された事由(自然災害)をこえて同法をその余の事由にまで準用ないし類推適用することは、税負担の公平や統一的課税の面でも疑問の生ずるところである。さらに実質的にみても、同法所定の自然災害では、財産の被害は一般的にいつて災害によつて直接的に、そして即時に生じるのが通例であつて、その因果関係も容易に確認しうるのに対し、本件のように経済事情の変動による株価の下落については、右変動に対する株式発行会社の対応方策によつてその程度を軽減させたり、或いは著しい下落が生ずる以前の段階において右株式を処分するなどの方法により、被害の回避ないしその軽減の可能性があることは否定できないのであつて、自然災害の場合とは異なるところがあるから、両者を同等にみることは相当でない。従つて、右準用ないし類推適用は許されないものと解すべきである。
さらに、災害減免法第四条は、災害被害者に対する税額を免除する方法について命令の定めるところに委ねているところ、同法施行令(昭和二二年政令第二六八号)第一一条第二項は、「法第四条の規定の適用を受けようとする者は、その旨、被害の状況及び被害を受けた部分の価額を記載した申請書を、災害のやんだ日から二月以内に、納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」と規定しているのであるから、災害被害者が災害による税額の免除を受けるためには、右手続を履践することを要する。従つて、この手続を履践することなく、訴訟において直接税額が免除されるべき事由があつてその免除がなされているとして、租税債務が不存在であることを理由に不当利得の返還請求をすることは許されない。
従つて、控訴人の災害減免法にもとづく主張は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないものといわなければならない。
六 次に課税における正義公平の観念にもとづく控訴人の主張について検討する。
1 本件相続による控訴人の取得財産総額が二七億八二二一万六二七五円(なお、成立に争いのない乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が本件遺産分割により取得した財産は総額四三億五六二〇万五三五五円であるが、控訴人が他の相続人に対し、右財産を取得することの代償として一五億七三九八万九〇八〇円の債務を負担した結果、控訴人の取得財産総額が本文のとおりとなつたものであることが認められる)で、債務等を差引いた純資産額が二〇億五二二四万五〇〇〇円であるのに対し、控訴人の取得財産の一部である本件各株式の評価額合計は二五億三四五二万〇四三五円であつて、前記取得財産額の九一パーセント強(遺産分割により現実に取得した財産額の五八パーセント強)を占めることは前記のとおりである。そして、前掲甲第二五号証、いずれも前掲の控訴人本人の供述により真正に成立したものと認められる申第三四号証の一ないし一六、第三五号証の一ないし二二、第三六号証の一ないし一六、第三七号証の一ないし一二、第三八号証の一ないし三、第三九号証の一ないし六、第四〇号証の一ないし三、第四一号証の一ないし一八、第四二号証の一ないし一二及び右本人の供述によれば、控訴人は、前記修正申告の後前記会社更生の申立までの間に、永大産業の株式二七七万九二八八株を代金六億一三〇八万三九七一円(平均単価約二二〇円)で他に売却し、永大木材工業の株式五〇万株を一億六五〇〇万円(単価三三〇円)で永大産業に売却したことが認められ、また、近畿ブライウツドの株式が八三万円で公売されたことは当事者間に争いがない。そして、以上のように処分された以外の本件各株式については、いずれも殆んど無価値となるに至つたことは前記のとおりである。
2 ところで、控訴人は、右のように本件相続財産の主要な部分を占める株式が自らの責に帰し得ない事情で価値を失つている場合、課税をそのまま維持して徴収金を保持することは、正義公平の観念に反するものであつて公法上の不当利得となる旨主張している。
しかし、本件各株式のうちでその主要部分(評価額では全体の五六パーセント強)を占める永大産業の株式は、相続開始日(昭和四八年五月二日)の大阪証券取引所の終値ではその評価額(単価)を超えていた(前掲乙第一号証により認定)から、控訴人は現実に右評価額を下らない利益を右時点で取得していたものであるし、また他の株式についても、前記のように基本通達の評価基準に合致する評価がなされているのであるから、右基準の内容からみても相続開始時点において現実に右評価額を下らない利益を得ていたものと推認できること、一般的に株価は変動性を有するものであるうえ、成立に争いのない甲第一四号証の一ないし三によれば、永大産業の株式価格は昭和四三年末頃から急騰を続け、その後昭和四六年末頃に一旦やや下落した後再びもち直したが昭和四八年後半から下落傾向となるなど、変動性のある株式であることが認められるのであり、本件においては相続開始から前記の会社更生の申立(この手続において本件各株式の主要な部分が確定的に無価値となつたことは前記のとおりである)までには約五年の期間があつたことを考慮すると、控訴人としては、その相続税を納付するに当り、他の相続人との協議の成立に努力して、速やかに相続財産である本件各株式を物納するか、或いはこれを他に売却するなどして、その納付義務を遅滞なく履行すれば、本件におけるような株価の暴落による損害を回避することも不可能ではなかつたと解されること、さらに本件のように経済事情の変動の影響を受けた株価の下落という被害は災害減免法所定の自然災害による被害とは前記のように異なる面があること、控訴人指摘の最高裁判決の事案は、課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れによつて回収不能となり、結果的に所得がないのに課税した場合について、国は右貸倒れ額に相応する税額を不当利得として納税者に返還する義務があるものと認めたものであつて、本件のように一旦利益を取得した場合とは事案を異にし、右判決の法理を直ちに本件に適用できないことなどの事情を考慮すると、前項のように本件各株式の大半が相続開始後にその価値を殆んど失う事態が生じ、控訴人が自らの固有財産を処分するなどの方法により苦慮して納税している事情があるとしても、それによつて控訴人主張のような一般条項の適用により被控訴人の徴収金の保持が違法となつて公法上の不当利得が成立するものと解することはできない。従つて、控訴人の本主張もその余の点について検討するまでもなく理由がない。
七 相続税連帯納付責任完了にもとづく主張について
控訴人の本件相続税における連帯納付責任額が請求原因六のとおり六億六二二九万六四八三円であることは、前記のとおりであるところ、控訴人は昭和五三年五月一日までに右責任の履行として合計一三億一八一四万六九〇〇円を納付している旨主張しているので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第七八号証の一ないし三二、前掲証人小林憲夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件相続税について別表記載の各納税義務者の租税が、同表記載のとおり(ただし、同表のうち、ひなの本税五七万八四〇〇円の納付日は昭和四八年一一月二日、正の本税三〇四万〇六〇〇円の納付日は同月五日である)、納付されたこと及び右各納付の際に作成された納付書に記載された納付者の名義は、同表の昭和五三年五月一日に納付された敦の本税及び利子税につき担保提供者永大実業株式会社となつているほかは、全て同表の各納税義務者名義となつていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、被控訴人は、納税者である連帯納付義務者が自らの責任を履行したとされるのは自己名義で作成された納付書を添えて納付した場合に限るのであつて、そうでない場合は仮にその納税のため自らの源資を提供していても右連帯納付義務の履行をしたものとはいえない旨主張する。国税通則法第三四条第一項は国税の金銭による納付は納付書を添えてすべき旨定め、同法施行規則第五条はその書面の様式を定めているところ、所論の指摘するように、大量かつ反復して発生する租税債権の特殊性を考慮すると、租税行政の公正かつ円滑な運営を図るためには、形式的な書面上の記載を重視する必要性があることは否定できないが、しかし反面、納税者の利益も考慮すると、右形式的な記載を絶対的なものとし、納付書の記載を納税者の納税義務消滅の要件と解するのは相当ではない。納付書に記載された氏名の者を、特段の事情のない限り、その納税者とみるべきではあるが、納付書に記載された納税名義人でない連帯納付義務者が、右納税のため自らの源資を提供し、かつ、自らの連帯納付義務を履行することを国税の収納を行なう税務署の職員に明らかにしているような場合にまで、納付書にその氏名の記載がないことだけを理由に、右義務の履行を否定すべきものとは解されない。ただ、右のように連帯納付義務者が右源資を提供する場合、本来の納税義務者との間で、右提供金につき贈与の意思を有したり、或いは貸借関係が生じている場合もありうるから、右の源資の提供及び税務担当者がこれを知つていることのみでは足りず、自らの連帯納付義務を履行することを明らかにすることを要するわけである。
そこで、本件についてみると、成立に争いのない甲第七七号証、前掲証人小林の証言によりいずれも鉛筆書き記入部分が真正に成立したものと認められ、その余の部分については成立に争いのない甲第七九ないし八二号証の各一、二、右証人小林の証言、前掲の控訴人本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、前記のように納付された別表記載の各税の源資はいずれも控訴人自身が提供したものであることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はないのであるが、他方、前記の控訴人が自らの連帯納付義務を履行することを明らかにした点については、右証人小林の証言及び控訴人本人の供述によつてはこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前掲の甲第七八号証の一ないし三二によれば、前記の各税の納付は銀行や信用金庫を通じてなされていることが認められることからみると、控訴人が自ら連帯納付義務者として納付することを税務担当者に明らかにしていなかつたとみざるを得ない。
そうすると、控訴人主張のように別表記載の各税を自らの連帯納付義務の履行として納付したものとは認められないから、これを前提とする本主張はその余の点について検討するまでもなく採用できない。
八 以上のとおりであつて、被控訴人が請求原因八の各徴収金を保持することが違法である旨の控訴人の主張はいずれも理由がないから、控訴人の右主張を前提とする本件不当利得の返還請求は、その余の点について検討するまでもなく失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石川恭 大石貢二 竹原俊一)
物件目録
一 神戸市東灘区本山中町四丁目一五
田(現況宅地) 七一七平方メートル
二 同地上(家屋番号 一五番)
鉄筋コンクリート造陸屋根二階建居宅
一階 一九八・六八平方メートル
二階 一〇二・七七平方メートル
附属建物
コンクリートブロツク造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建車庫 六三・九六平方メートル
相続税納付表
納付日
(昭和・年・月・日)
深尾ひな
深尾敦
深尾正
計
本税
利子税等
本税
利子税等
本税
利子税等
本税
利子税等
48・11・1
578,400
21,226,300
18,696,900
3,040,600
43,542,200
49・4・25
7,941,400
10,884,600
16,770,100
35,596,100
49・11・2
106,900,000
64,140,000
85,000,000
51,000,000
42,000,000
25,200,000
233,900,000
140,340,000
50・10・27
28,796,500
17,716,270
7,587,230
77,412,770
45,900,000
113,796,500
63,616,270
50・10・28
14,916,830
42,000,000
22,680,000
42,000,000
37,596,830
51・2・4
3,263,300
4,590,000
2,268,000
10,121,300
51・7・12
336,000,000
13,608,000
336,000,000
13,608,000
51・7・20
2,153,800
2,857,300
2,153,800
2,857,300
51・11・2
61,335,000
32,384,800
85,000,000
44,880,000
146,335,000
77,264,800
52・7・7
2,142,000
1,342,200
2,142,000
1,342,200
53・5・1
15,214,300
720,300
15,214,300
720,300
計
226,777,600
132,421,200
304,091,600
151,289,800
439,810,700
63,756,000
970,679,900
347,467,000