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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)3号 判決 1984年5月31日

控訴人・附帯被控訴人(原告) 岡田清

被控訴人・附帯控訴人(被告) 大津市水道・ガス事業管理者 外一名

主文

一  本件控訴並びに本件各附帯控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は各附帯控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  本件控訴について

1  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

(一) 原判決を取消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人)大津市水道・ガス事業管理者(以下「被控訴管理者」という。)が被控訴人(附帯控訴人)日本電気ホームエレクトロニクス株式会社(以下「被控訴会社」という。)に対してなしているガス供給につき、昭和四九年四月一日以降昭和五四年三月三一日までの使用料のうち、金一億一三〇四万七五三五円の賦課、徴収を怠つている事実が違法であることを確認する。

(三) 被控訴会社は大津市に対し金一億一三〇四万七五三五円を支払え。

(四) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴管理者

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

3  被控訴会社

(一) 被控訴会社に対する本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

二  本件各附帯控訴について

1  被控訴人ら

(一) 原判決を取消す。

(二) 控訴人の本件訴えを却下する。

(三) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

2  控訴人

(一) 本件附帯控訴を却下する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

第二主張並びに証拠

当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  本件の如き、地方公共団体の営むガス供給事業等に関する法律関係については、通常、公企業の利用関係(あるいは給付行政のためにする契約)として論じられており、その内容については、普通、国の法令若しくは地方公共団体の条例、規則又は企業者が一方的に定める規定若しくは定款、約款等によつて画一定型化されており、利用者は、ただ、画一定型化された利用条件に従つて、公企業を利用し、その利益を享受することができるに過ぎないとされ、原則としては、ガス料金等の具体的な利用関係の内容は、企業者と利用者との自由な意思によつて定められるものとはなつておらず、この点において、私法上の契約とは基本的に異なる。

すなわち、公企業の利用関係の具体的内容、とりわけ料金については、当事者の自由な意思決定に委ねられているのではなく、国においては財政法三条で、地方公共団体においては地方自治法二二八条でそれぞれ法律、条例等で定めることとされているのである。従つて、法定された内容と異なる内容の契約は、右の趣旨から当然無効とされることについては改めて論ずるまでもないことである。

以上からして、本件ガス供給契約を私法上の契約と全く同一に論ずることは適切ではない。

2  仮に、本件ガス供給契約を私法上の契約として論ずるとしても、その具体的契約内容(料金等)は、地方自治法により、条例で定められなければならないものであり、本件ガス供給契約は強行法規違反あるいは公序良俗違反として無効といわざるを得ない。従つて、かかる無効な契約が表見代理の法理により有効とされる余地は全くない。

3  右のとおり、本件ガス供給契約が無効であることは、いずれからしても明らかであるが、右により無効とされる範囲と、無効とされた結果いかなる法律関係になるかについては以下のとおりである。

(一) まず、本件ガス供給契約は、地方自治法並びに条例に反するものであるから、その契約の全部が無効であると解さざるを得ない。そうなると、被控訴管理者は、条例に定めるガス料金の賦課・徴収を怠つていることになり、一方被控訴会社は、法律上の原因なくしてガスを利用したことになり、被控訴会社が既に支払つた料金との差額を不当に利得しているといわねばならない。

(二) 仮に、契約の全部が無効といえないとしても、本件ガス供給契約のうち条例に違反した料金を定めた部分について無効と解することも可能である。そうすると、右契約における料金は、条例に定められた料金がその契約内容となり、被控訴会社が現実に支払つた料金と、条例で定めている料金との差額の徴収を被控訴管理者が怠つていることとなり、被控訴会社は法律上の原因なくして右ガス料金の支払を免れたことになるのである。

(三) なお、被控訴管理者が被控訴会社に対し、被控訴会社が不当に利得したものとしてガス料金相当額の返還を求めないことは、被控訴管理者が被控訴会社に対し、右の不当利得に基づく債権の取立を怠つていると解することも可能であり、右は、地方自治法二四二条一項所定の「徴収を怠る事実」に該当するといわねばならない。

(四) 以上のとおり、いずれの解釈をとるにせよ、被控訴管理者が被控訴会社に対し、条例に定めるガス料金の賦課若しくは徴収を怠つている事実は明らかであり、被控訴会社が条例に定める料金と「特別料金」との差額を不当利得していることは明白である。

4  仮に、本件ガス供給契約に民法一一〇条の規定の適用の余地があるとしても、被控訴会社は、議会における議決、条例における特別の定め等については全く調査しておらず、ただ単に被控訴管理者の行為であるから、その権限について信じたというにすぎず、民法一一〇条の正当事由を欠くことは明らかである。

5  原判決の損害についての判断は、特別料金を実施しなかつた場合には使用量が減ずるであろうことを前提としているのであり、この考え方が非論理的で不当なものであることはいうまでもない。

6  附帯控訴は、被控訴人が第一審判決よりさらに自己に有利な判決を求める申立である。しかしながら、被控訴人らの本件附帯控訴は、請求棄却を訴え却下に変更する旨申立るものに過ぎず、被控訴人らにおいて何ら利益のある申立ではない。よつて本件附帯控訴は不適法であり、却下されるべきである。

(被控訴人ら)

1  「賦課・徴収を怠る事実」の違法確認を求める請求は不適法である。

(一) 地方自治法においては「徴収」という用語は多義的に用いられていて、不当利得に基づく債権の取立てという意味をも包含させている場合のあることは当然のことであるが、必要なことは、地方自治法上多義的に用いられている「徴収」なる用語につき、同法二四二条における一義的な意味を確定することである。そして同法二二三条、二二四条ではいずれも徴収なる用語を「行政処分」の意味に使用していること、また沿革的にみても、この「賦課、徴収を怠る事実」の違法確認請求ないし監査請求が認められるようになつたのは、昭和三八年法律第九九号による地方自治法の改正によるものであつて、従来の制度下では認め得べくもなかつた事項を新たに規定したものであること、さらに、不当利得に基づく債権の取立てを怠つているということは、債権という形態の財産の「管理」を怠つているということにほかならないところ、同法二四二条は「財産の管理を怠る事実」を違法確認請求の一形態として規定しているのであるから、それで必要かつ十分なわけであり、いままた、「徴収」を怠る事実の違法確認として重複して規定しなければならない必要は毫もないことを併せ考えれば、同法二四二条にいわゆる「徴収」とは、既に発生している債権の取立てを意味せず、それは行政処分を意味すると解すべきものであることは明らかである。

(二) ガス料金については「賦課、徴収」という法律関係は存しない。それはあくまで契約関係に基づく債権債務関係であり、行政処分に基づく債権債務関係ではない。従つて、ガス料金について「賦課、徴収を怠る事実」の違法確認請求の如きは、地方自治法二四二条、二四二条の二の認めない請求であつて不適法である。

2  本件ガス供給契約は有効である。すなわち、本件ガス供給契約は、ガス事業法の定めるところに従い締結されているものであつて、ガス事業法上はまさに適法なものであり、いささかも違法視すべき瑕疵は存在しないのである。地方自治体の全てがガス事業を営むわけではないから、ガス事業を営む地方自治体に対しては、ことガス事業に関する限りは、ガス事業法が地方自治法の特別法として適用されるのである。大津市は、ガス事業法一七条に基づき通商産業大臣(以下「通産大臣」という。)の認可を受けたガス供給規程(「大津市ガス供給条例」をもつて認可を受けている。)または同法二〇条但書に基づく通産大臣の認可を受けた特別供給条件に基づき、需要者との間にガス供給契約を締結し、ガスの供給を行つているのであつて、このような供給契約の締結が違法とされ、無効とされる何らの理由もなく、本件ガス供給契約の締結が適法かつ有効であることは明らかである。そして、地方自治体の経営するガス事業のガス料金については、ガス事業法が地方自治法の特別法として適用されるのであつて、地方自治法の使用料に関する規定の適用はないものである。

(被控訴会社)

1 本件ガス供給契約は適法有効なものであるが、仮に控訴人の主張を前提としても、被控訴管理者が大津市を代表してガス供給契約を締結する基本的権限を有することは明らかであり、しかも本件ガス供給契約は、ガス事業法上の一般ガス事業者の代表者が需要者と締結する供給契約と同じく私法上の契約に属するものであるから、本件各ガス供給契約の締結については民法一一〇条の規定の適用ないし類推適用が認められることは明らかであり、被控訴会社において、被控訴管理者が本件ガス供給契約を締結する適法な権限を有することに疑いをさしはさむ余地がなく、被控訴管理者が正当な権限を有すると信ずべき正当事由の存在を否定し得ない本件においては、本件各ガス供給契約の効力は否定し得ないのである。

2 本件ガス供給契約による損害は存在しない。すなわち、被控訴会社は、従来自社のガス発生炉によるガスを使用していたが、大津市から都市ガス供給の全般的効率を向上させるために、都市ガス購入に協力するよう要請されたので、大口需要者に対する特別供給条件の適用を前提に都市ガスを使用する態勢に切り換えたものである。そして右契約上特別料金が設定されているとはいえ、他方被控訴会社には最低責任使用量が課せられ、仮令実際の使用量が右責任使用量に達しない場合においても、責任使用量に相当する額の支払義務を負担することになつているのみならず、さらに需給契約量を超過して使用した場合には、その超過分について特別料金の定めが適用されないことになつているのであつて、これらの条件が、総合的にみて、市ガス事業の経営安定に大きく寄与し、一般需要家の負担増大を防止しているのであるから、本来、この制度は、大津市等の利益をも考慮してとられたもので、およそ損害を生ずるなどといえる筋合にはないものである。

理由

一  控訴人が大津市民であることは、控訴人と被控訴会社との間では争いがなく、被控訴管理者において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

二  被控訴人らの本案前の主張について

1  被控訴人らは、地方自治法二四二条一項所定の「公金の賦課若しくは徴収」とは、行政主体が法令の規定に基づき優越的地位において住民に対して金銭給付義務を発生せしめる行政処分をすることを意味するが、契約によつて発生するガス料金債権については右のような法律関係はあり得ないから、同法二四二条の二所定の訴訟の対象とはなり得ない旨主張する。

しかしながら、地方自治法において、「賦課」とは、被控訴人らが主張する如く、地方公共団体が法令の定めるところによりその優越的地位において住民に対して金銭給付義務を課する行政行為をいうのであるが、「徴収」とは、公金についてみても、地方公共団体の歳入を調定し、納入の通知をし、収納する行為をいうのであつて、同法上「徴収」という用語は、地方税(同法二二三条)ばかりではなく、分担金(同法二二四条)、使用料(同法二二五条)、加入金(同法二二六条)及び手数料(同法二二七条)等にも用いられており、要は、地方公共団体がその有する債権を取立てて収納する行為をいうに過ぎないものである。それ故同法二四二条にいう「徴収」も、地方税や分担金のみならず使用料や手数料債権の収納をも意味すると解するのが相当であつて、必ずしも強制徴収等の行政処分を意味するとは解し得ない。

また、被控訴人らは、すでに発生している債権は、同法二四二条一項所定の財産に属するものであつて、その管理上の不作為は同条同項の財産の管理の問題であつて「徴収」の問題ではない旨主張する。

しかしながら、地方公共団体の経営するガス供給事業に基づくガス料金は、契約によつて生じる債権ではあるが、地方自治法二二五条にいう公の施設の利用についての使用料に該当すると解すべきところ、同法二四二条にいう財産には公金は含まれないと解すべきであるから、ガス料金については財産の管理を怠る事実の問題は生じる余地はなく、仮に同条にいう財産に該当するとしても、徴収の対象となる債権は、調定及び納入の通知をしているものであるから、すでに発生している債権であり、前記のとおり、これを収納する行為が徴収であり、同法二四二条一項所定の管理とは、文字どおりの管理であつて、徴収を除く債権の消滅の防止ないしは侵害に対する対処等を意味すると解すべきであるから、被控訴管理者が被控訴会社に対し、ガス料金の徴収を怠ることは、同法二四二条一項にいう「徴収を怠る事実」として、同法二四二条の二第一項三号、四号所定の訴えの対象となるものというべきである。

よつて控訴人の本件訴えは適法であり、被控訴人らの主張は理由がない。

2  なお、被控訴人らは、訴え却下の判決を求め、予備的に請求棄却の判決を求めているところ、原判決が請求棄却の判決をなしたのであつて、被控訴人らにとつて不利益な判決を受けたのであるから、訴え却下の判決を求める控訴ないし附帯控訴は訴えの利益があるというべく、もとより被控訴人らの本件各附帯控訴は有効であつて不適法とするいわれはない。

3  出訴期間についての当裁判所の判断は、原判決理由二1(原判決九枚目表三行目から同裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。

三  そこで、本件ガス供給契約の効力について判断する。

1  大津市が昭和一二年からガス供給事業を営んでいること、被控訴管理者が右ガス供給事業に関して供給契約の締結や料金の徴収等一切の権限を有すること、被控訴会社が昭和四九年四月一日から昭和五四年三月三一日までの間、被控訴管理者との間で本件ガス供給契約を締結して大津市からガスの供給を受けたこと、被控訴管理者が右契約に基づき右期間中のガス料金として原判決添付別表(一)<2>記載の金額を被控訴会社から徴収したことは、控訴人と被控訴会社との間ではいずれも争いがなく、被控訴管理者において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  成立に争いのない甲第四号証の一、二、乙第七ないし第九号証、同第一〇号証の一、二、同第一一ないし第一三号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一ないし第三号証、同第四号証の一、二、同第五号証、原審における被控訴管理者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、大津市はガス事業法(昭和二九年法律第五一号)にいう一般ガス事業者として、通産大臣の許可を受けて、一般の需要に応じてガスを供給する事業を営んでいるものであつて、同法一七条に基づき、ガス料金その他の供給条件については、供給規程として大津市ガス供給条例を制定して通産大臣の認可(同法五二条、同法施行令七条で同法一七条及び同法二〇条但書の通産大臣の権限は通商産業局長に委任されている。以下同じ)を受けていること、一般ガス事業者は右認可を受けた供給規程以外の供給条件によりガスの供給をしてはならない(同法二〇条本文)が、特別の事情がある場合において、通産大臣の認可を受けた場合この限りではない(同法二〇条但書)ところ、被控訴管理者は、被控訴会社との間で、右認可を受けたガス供給規程たる大津市ガス供給条例と異なる供給条件を定めた本件ガス供給契約をほぼ一年毎に締結し、その都度同法二〇条但書に基づいた通産大臣の認可を受けていること、本件ガス供給契約は、大津市が大口需要家の使用を増進させ、かつ、ガス事業を健全に発展させるため被控訴会社に申入れて締結されるようになつたものであるが、その内容は、一定範囲内の使用量についてのガス料金は、大津市ガス供給条例所定の料金より低額(以下「特別料金」という。)とされているが、被控訴会社には責任使用量の定めがあつて、仮令現実の使用量が責任使用量に達しない場合であつても、責任使用量に相当する額の支払義務を負担することになつており、逆に需給契約量を超過して使用した場合には、その超過分については右特別料金の適用がないことなどを基本としていること、大津市ガス供給条例中には、昭和二六年頃から「本市は、特別の事情がある場合には、大阪通商産業局長の許可を受けて、この条例以外の供給条件によることがある。」旨の規定(特別供給規定)が存するが、本件ガス供給契約の内容である供給条件については条例では定められてはいないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  ところで、地方公共団体の経営するガス供給事業に基づくガス料金は、地方自治法二二五条にいう使用料に該当することは前述のとおりであるが、同法は、使用料の徴収に関することを地方公共団体の議決事項とし(同法九六条一項四号)、さらに、使用料に関する事項については条例で定めなければならない(同法二二八条一項)としている。その趣旨は、使用料に関する事項を議会の議決にかからしめることによつて、当該地方公共団体の財政の健全化を図ることはもとより、適正な使用料に基づく施設の利用によつて住民の福祉の向上、増進を図るという見地から、使用料の金額を住民の受ける利益の程度等を勘案した公正妥当なものに定め、また、住民相互間の不当な差別的取扱いを禁じようとするものである。

4  本件ガス供給契約における特別料金の定めは、前記のとおり、条例で定められたものではなく、ガス事業法二〇条但書の通産大臣の認可によつて効力を生じているので、使用料を条例で定めるべきことを規定している地方自治法ないしは大津市ガス供給条例とガス事業法との関係について検討する。

地方自治法は全ての地方公共団体に適用されるが、地方公共団体の全てがガス事業を営むわけではないから、ガス事業を営む地方公共団体に対してのみガス事業法が適用されること、地方公共団体の自主立法たる条例で定めた供給条件(ガス料金)がガス事業法上通産大臣の認可を必要とし、右認可がない限り効力を生じないこと、そればかりか、通産大臣は、ガス料金その他の供給条件が社会的経済的事情の変動により著しく不適当となり、公共の利益の増進に支障があると認めるときは、一般ガス事業者に対し、相当の期限を定め、供給規程の変更の認可を申請すべきことを命ずることができ、右期限までに認可の申請がないときは、供給規程を変更することができる(ガス事業法一八条)ことに照らせば、ことガス事業については、ガス事業法が地方自治法の特別法として適用されると解すべきである。

しかしながら、ガス料金について、ガス事業法が地方自治法の特別法であるとしても、ガス事業法によつて地方自治法の適用全てが排除されるわけではなく、使用料を条例で定める旨の地方自治法はガス事業法の下でも適用されるのであり、ただ両法が矛盾抵触する場合にのみ、ガス事業法が優先的に適用されると解すれば足りることである。すなわち、例えば、一般ガス事業者(地方公共団体)が通産大臣の認可を受けないで供給規程(条例)に定める以外の条件によつてガスを供給した場合、それが条例に定める料金より低額であつて地方公共団体に損害が生じている場合には、単にガス事業法上の問題であるばかりでなく、地方自治法二四二条の問題となるのである。そして条例は地方公共団体の自主立法権の発現ではあるが、それは無制限なものではなく(地方自治法一四条一項参照)、ことガス料金については、ガス事業法の枠内でしか自主的な定めはできないが、通産大臣といえども、料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであつて、定率または定額をもつて明確に定められていて、特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものでないなどの条件に適合していると認められるときは、認可しなければならない(ガス事業法一七条二項)のであるから、その限りで地方公共団体は地方自治法の精神に則り自主的に定め得るのである。

5  そこで本件ガス供給契約の効力について検討するに、前記のとおり、本件ガス供給契約は被控訴管理者が契約締結権限に基づき被控訴会社と締結したものであつて、大津市ガス供給条例所定の料金より低額な特別料金の定めはあるものの、必ずしも被控訴会社に一方的に利益になる契約ではなく、大津市のガス事業の経営の安定にも寄与しており、特別の事情がある場合として、通産大臣がガス事業法二〇条但書に基づいて認可したものであり、ガス料金に関してはガス事業法が地方自治法の特別法として適用されるのであるから、仮令本件ガス供給契約上の特別料金が条例によつて定められたものではなく、かつ、条例の定めと異なるところがあつても、違法無効の問題は生じないといわなければならない。

なお、本件ガス供給契約はガス事業法二〇条但書の通産大臣の認可を受ける限り有効であるから、大津市ガス供給条例中の特別供給規定の存否によつてその効力に影響を受けるものでないことは、以上の説示からも明らかなことである。

四  以上によれば、本件ガス供給契約は有効であるから、これが無効であることを前提とする控訴人の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

五  よつて、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は結局相当であつて、本件控訴並びに本件各附帯控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里 田坂友男 島田清次郎)

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