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大阪高等裁判所 昭和59年(行ス)2号 決定 1984年10月01日

抗告人

金菊仙

右代理人

宮崎定邦

外一〇名

相手方

大阪国税局収税官吏

小山和男

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す」との裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙記載のとおりである。

そこで考えてみるに、本件記録によれば、当裁判所も、抗告人が提起した本件差押処分取消請求訴訟は大阪地方裁判所の土地管轄に属すると判断するが、その理由は、原決定理由説示のとおりである。

なお、行政事件訴訟法一二条二項にいう「特定の場所に係る処分」とは、特定の場所においてなされた処分ではなくして、特定の場所を限定し、当該場所自体を処分の要素としてなされた処分をいうものと解すべきところ、本件差押処分は、相手方が抗告人を被差押者として、兵庫県川西市内に所在する抗告人経営に係るパチンコ店「サンエイセンター」内において、抗告人占有中の動産を差押えたものであるから、右店舗内においてなされた処分ではあるけれども、動産に対する差押処分の核心をなすものは、被差押者と被差押物件とであつて、差押がなされた場所は、被差押物件が存在していた場所としての意味を有するにすぎないというべきであるから、本件差押処分も、相手方が抗告人を相手方として、抗告人占有中の動産を差押えた点が核心をなすのであり、その要素は、処分の相手方が抗告人であることと、処分の対象が本件差押動産であるという二点であつて、右店舗ないしその所在地は、右動産が存在した場所としての意味しか有さず、それが本件差押処分において有する意義は、極めて乏しいというべく、本件差押処分は、右法条二項にいう「特定の場所に係る処分」ではないといわなければならない。

そうすると、右と同旨の見解の下に、前記訴訟を神戸地方裁判所から大阪地方裁判所に移送した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。よつて、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(小林定人 坂上弘 小林茂雄)

申立ての趣旨

本件を大阪地方裁判所に移送する。

申立ての理由

一 本件差押処分取消請求事件は、被告が、訴外株式会社富士砕石に対する法人税法違反嫌疑事件を調査するため、昭和五九年五月二三日国税犯則取締法二条に基づき兵庫県川西市久代二ノ七九ノ一所在のパチンコ店サンエイセンター(以下「サンエイセンター」という。)において、訴状別紙物件目録記載の各物件に対してした差押処分(以下「本件差押処分」という。)の取消しを求めるというものである。

ところで、本件差押処分の執行停止の申立ては本案訴訟に付随し、原告の権利・利益を仮に保全する裁判であり、本案訴訟の管轄裁判所が執行停止の申立てについて審理する権限を有することはいうまでもなく、行訴法二八条は、この趣旨を規定したものである。

しかるに、本件申立てに係る本案訴訟である本件差押処分の取消訴訟は、被告の所在地である大阪地方裁判所の管轄に属することは、同法一二条一項により明らかであるから、本件の管轄裁判所が大阪地方裁判所であることはいうまでもない。

もつとも、同条二項は、「特定の場所に係る処分」についての取消訴訟は、その場所の所在地の裁判所にも提起することができる旨規定しているが、本件差押処分は、右「特定の場所に係る処分」には当らないので、同処分の取消訴訟は御庁の管轄に属するものではないといわなければならない。

すなわち、右「特定の場所に係る処分」とは、行政処分が特定の場所に関係があるということではなく、当該行政処分の行政目的が特定の場所に関係があるということではなく、当該行政処分の行政目的が特定の場所と結び付けられている処分すなわち特定の地点または区域において一定の行為をする権利、自由を付与する処分、あるいは特定の地域を定めて一定の行為の制限・禁止をする処分をいうものと解されている(杉本良吉・行政事件訴訟法の解説四八ページ、東京高裁昭和五五年一一月二〇日決定、行裁例集三一巻一一号二四二九ページ)ところ、国税犯則取締法二条に基づく差押えは、収税官吏がこの行為を実施することにつき適法であるかどうか等を職務上の独立を有する裁判官による公正な立場からの事前の審査を得たうえ、収税官吏が有体物を保全するために強制的にその占有を取得する処分であり、したがつて、差押処分は差押えをなすべき物件が所在する場所において実施した処分であつて、「特定の場所に関係のある処分」であるということはできても、特定の場所において一定の行為をする権利、自由を付与する処分でないことはもとより、特定の場所において一定の行為の制限・禁止をする処分でもないのであるから、「特定の場所に係る処分」と解することは到底できないのである。

二 以上のとおりであるから、本件申立事件の本案訴訟は行訴法一二条一項により、被告の所在地の大阪地方裁判所の管轄に属するので、本件申立事件の管轄裁判所も同法二八条により大阪地方裁判所であるといわなければならないのであり、したがつて、同法七条、民訴法三〇条一項に基づき本申立てに及ぶ次第である。

原告は国犯法に基づく差押処分は行訴法一二条二項の「特定の場所に係る処分」である旨主張する。

しかしながら、国犯法に基づく差押えとは、物を保全するためにその占有を強制的に取得する強制処分をいうところ、本件差押処分も、大阪地方裁判所裁判官川久保政徳から発付された許可状によつて、被告において適法にサンエイセンターの店舗及び事務所にある物の占有を強制的に取得することのできる権限が付与されたことに基づき、被告が同所において疎甲第一号証の差押目録記載の各物件の占有を強制的に取得したものであつて、特定の場所において特定の行為をなした行政処分であるのに過ぎないのである。したがつて、被告がなした本件差押処分には、特定の場所において一定の行為をする権利、自由を付与するとか、あるいは一定の行為を制限、禁止するとかいつた要素・性格を有してはいないのであるから、本件差押処分を行訴法一二条二項の「特定の場所に係る処分」であるということはできないといわなければならない(なお、国犯法に基づく差押処分の一連の手続において「特定の場所に係る処分」に相当する行為の性格を有しているのは、強いていうならば、収税官吏が特定の場所にある物の占有を強制的に取得することが適法であるかどうか等を事前に審査したうえ、これを肯認したところの裁判官の許可であるということができるものと思料される。)。

なお、原告は、同人は犯則嫌疑者ではないのであるから、本件差押処分が実施された場所を管轄する裁判所にも本件差押処分の取消訴訟の管轄を有すると解すべきであり、さもないと、収税官吏が遠隔地において差押処分を実施した場合には、被差押処分者に酷な結果となる旨主張する。しかしながら、取消訴訟の管轄がどこの裁判所に属するかを判断するについて、原告が犯則嫌疑者であるか否かということは全く関係のない事項であり、また、国犯法一二条一項によれば、収税官吏の権限には地域的限界があるのであるから、原告が想定するような場合は、ごく限られた例外的な場合に過ぎないのであつて、この様なごく限られた例外的な場合を想定して取消訴訟の管轄を判断する必要性はないというべきである。そして、原告が想定するような場合と同じような国民に酷な事態は、全国に一か所しかない行政庁に係る行政処分(例えば、特許庁長官の処分あるいは中央行政庁の処分)には常に生じることであり、行訴法一二条一項が取消訴訟の管轄について、行政庁の所在地の裁判所に管轄が属する旨規定した結果であつてやむを得ないものといわなければならない。

以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張には理由がない。

原告の反論

被告は、本件差押処分の取消訴訟は被告の所在地である大阪地方裁判所の管轄に属するものであり、また本件仮差押処分は行政事件訴訟法第一二条二項の「特定の場所に係る処分」ではない、と主張する。

しかしながら、原告が取消を求める本件差押処分はまさに行政事件訴訟法第一二条第二項の「特定の場所に係る処分」である。

被告もいうとおり、行政事件訴訟法第一二条第二項の「特定の場所に係る処分」とは、特定の場所地域において一定の行為をなす処分、あるいは特定の地域を定めて一定の行為を制限禁止する処分をいうものである。

また被告が引用する東京高裁昭和五五年一一月二〇日決定は、東北・上越新幹線工事実施計画変更に関する運輸大臣の認可処分の取消を求める行政訴訟をその建設路線の一部である浦和地域の住民が浦和地方裁判所に提起したのに対し、運輸大臣が管轄違を理由として東京地方裁判所に移送の申立てをした件に関するものであるが、同決定は「運輸大臣の認可によつて特定の建設路線地域において工事が実施される権限が日本国有鉄道又は日本鉄道建設公団に与えられることとなり、その場合当該建設路線地域(浦和)の所在地の裁判所(浦和地方裁判所)にも管轄がある」としたものである。

本件は、大阪地方裁判所裁判官の発付する差押許可状により、大阪国税局収税官吏は株式会社富士砕石にかかる法人税法違反嫌疑事件について差押権限が与えられ、しかもその権限は差押をすべき物件の所在するいろんな多数の場所での差押権限を含んでいるものである。

申立人が本件訴訟で取消を求めているのは、大阪地方裁判所裁判官の差押許可状発付処分でもなく、また株式会社富士砕石にかかる法人税法違反嫌疑事件についての大阪国税局収税官吏がすでになした差押処分全般でもない。

申立人が本件訴訟で取消を求めているのは、被告がその権限にもとづいて「川西市に所在する申立人経営にかかるサンエイセンターの店舗及び事務所」においてなした差押処分である。

これはまさに特定の場所(サンエイセンター)において一定の行為をなす処分(差押)であり、行政事件訴訟法第一二条第二項の「特定の場所に係る処分」に当たるものである。また前記決定の趣旨(これは元の認可処分の取消まで求めているが、本件ではそこまで求めているわけではない)以上に直接的に行政事件訴訟法第一二条第二項に該当するといえるもので、被告が言うような単に「特定の場所に関係のある処分」に過ぎないということはできない。

本件差押処分によつて権利侵害をされたのは、嫌疑者である株式会社富士砕石ではなく第三者である原告であることからいつても、この理は首肯されなければならない。そうでなければ、大阪国税収税官吏の差押権限により仮に北海道で差押処分を受けたり、沖縄で差押処分を受けたものも全て(嫌疑者本人であればともかく)大阪地方裁判所にしか管轄が認められないという不合理な結果を来すことになり、国民の裁判を受ける権利を出来るだけ保障しようとする行政事件訴訟法の趣旨にも反することとなろう。

よつて、この点に関する被告の主張は理由がない。

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