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大阪高等裁判所 昭和60年(う)1312号 判決 1986年3月27日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武田忠嗣作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決の量刑は被告人を執行猶予に付さなかつた点において苛酷に失するとして、その不当を主張するので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するのに、本件は酒酔い運転(原判示第二)及び酒に酔つて正常な運転ができない状態であつたにもかかわらず普通乗用自動車を運転した過失により、交差点の中央付近で右折するべく一時停止していた被害者運転の自動二輪車に衝突し同人に原判示の傷害を負わせた(同第一)のに、救護、報告義務を尽くさず、いわゆる轢き逃げをした(同第三)事犯であり、右業務上過失傷害の過失及び結果ともに大きく、被害者には全く落度が認められないことなど諸般の事情に徴すると、その犯情は重く、被告人のまじめな勤務ぶり、実刑が家族に及ぼす影響、示談成立の見込みなど所論の情状を十分考慮しても、本件が執行猶予相当の事案とは認められず、被告人を懲役八月の実刑に処した原判決の量刑が刑期の点においても重すぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

なお、付言するのに、記録によれば、原裁判所は、原審第一回公判期日に行われた冒頭手続に際し、本件業務上過失傷害及び道路交通法違反の各訴因について、被告人が有罪である旨の陳述をしたので、本件を簡易公判手続によつて審判する旨決定し、証拠調べがなされたこと、次いで第三回公判期日において、検察官から前示業務上過失傷害の被害者の傷害につき「加療約四週間」とあるのを「加療約二七四日」と変更する旨の訴因変更請求がなされ、原裁判所はこれを許可し、被告人において変更後の訴因について「事実はそのとおり間違いない」旨陳述し、右変更後の訴因についての証拠調べがなされ、原審第四回公判期日において、原裁判所は、右変更後の訴因を含めた本件各公訴事実どおりの事実を認定した有罪判決を宣告したことが認められる。

ところで、簡易公判手続による審理中に訴因が変更された場合、変更された訴因についてさらに簡易公判手続による審理を続行するには、あらためて新訴因について被告人の有罪の陳述がなければならないと解されるところ、本件において、変更後の訴因につき単に「事実はそのとおり間違いない」旨の陳述がなされただけで、有罪の陳述が明示的になされていないことは前認定のとおりである。

しかし、記録を検討すると、右のように変更後の訴因について有罪である旨の明示的な陳述はなされていないものの、前示のように被告人が「事実は間違いない」旨陳述し、新訴因について有罪であることを争うような徴憑が全くないこと、前示のように被告人は原審第一回公判期日において本件業務上過失傷害の訴因全体について有罪の陳述をしているところ、本件訴因の変更は被害者の傷害の加療日数の変化に関するもので他の事実には全く変更がないこと、及び変更後の訴因についても、簡易公判手続により刑事訴訟法三〇七条の二、三二〇条二項に従つて証拠調べ手続がなされているのに対し、被告人及び弁護人から全く異議が申し立てられていないことが明らかであり、これらの諸事情を総合勘案すれば、変更後の訴因についての被告人の前示陳述には、同時に新訴因について有罪であることを認める趣旨の陳述が含まれているものと解釈することができる。もとより原裁判所裁判官としては、変更後の訴因について被告人が前示陳述をした際、刑事訴訟規則一九七条の二、二〇八条に基づき、被告人に対して新訴因についても有罪である旨の陳述をする趣旨であるか否かを釈明し、その結果を公判調書上明示しておくのが最も妥当な措置であると解され、本件の場合このような措置がとられていないことは記録上明白であるけれども、前記のような諸事情のもとで、変更後の訴因についても有罪である旨の被告人の陳述がなされているものと解釈される以上、新訴因について簡易公判手続により審判をした原裁判所の訴訟手続に法令の違反があるとして、原判決を破棄すべき場合にあたらないと判断する。

よつて、刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石松竹雄 裁判官鈴木清子 裁判官河上元康)

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