大阪高等裁判所 昭和60年(く)140号 決定 1985年11月04日
少年 O・T(昭60.11.1生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年の作成した抗告申立書記載のとおりであるが、(一)少年は、原決定第二の非行事実を行なつていないといつて事実誤認を主張し、(二)初等少年院に送致しながら、少年審判規則38条2項による短期処遇の勧告をしなかつたのは、著しく不当であるというのである。
(一) 事実誤認について
本件少年保護事件記録を調査して検討するのに、少年が原決定第二の強要の非行を行なつたことは優にこれを認めることができる。原審は、被害者Aを証人として原審判廷において取調べも行つているが、その証言は、少年や少年の母の在廷する面前でなされており、しかも、少年の母からも質問まで受けながら、少年から被害を受けた旨を断言していて十分信用できるものと認められる。これに関する少年の弁解は一件記録に照らし信用できず、論旨は理由がない。
(二) 処分の不当について
前示事件記録に本件少年調査記録を併せて調査するのに、少年のこれまでの非行歴は原決定が示すとおりであるが、これによれば、少年には、中学1年生当時から男子児童に性器を出させていたずらする等の本件非行と類似する異常な行為が見受けられること、前件の恐喝非行事実により、昭和60年5月31日少年鑑別所に送致されながら、保護者が監督を約し、少年自身男子児童に恐喝やわいせつな行為をしない旨誓約したため、同年6月24日観護措置を取消されて両親の許に帰宅したものの、間もない同年7月7日原決定第一の非行に及んでおり、前件で同年7月24日保護観察に付された後の同年9月1日更に原決定第二の非行に至つたものであること、その他少年の性格、性癖、智能、家庭の保護能力等からすれば、原決定のいうとおり、施設に収容して矯正教育を施す必要があり、しかも、そのためにはこの際短期処遇では不十分と考えられるから、その旨の勧告をしなかつた原決定が著しく不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 原田直郎 裁判官 荒石利雄 谷村允裕)
抗告申立書<省略>
〔参照〕原審(大阪家 昭60(少)8478、9073号 昭60.10.2決定)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は
1 昭和60年7月7日午前8時45分ころ、大阪市○○区○○×丁目×番××号○○ハイツ7階階段踊り場で、同年5月に自慰行為を強要したことのあるB(当時14歳)に対し、金を無心し断わられると「ズボンを脱げ」等と申し向け、断わられるや髪の毛を引つ張つたり左頬を1回殴打する等の暴行を加え、「おばあちやん車でひいたる、弟をしばいたる。」「お前そこから飛び降りろ、自殺にみせかけて死ね。」などと脅迫して畏怖させ、更に「最後やからやれ」と申し向けて、同児をしてやむなくズボン等を脱がせて自慰行為をさせ、もつて同児をして義務なき事を行なわせた
2 同年9月1日午後6時20分ころ、大阪市○○区○○×丁目×番××号○○○マンシヨンエレベーター内で、因縁を付けて同所に連れ込んだA(当時14歳)に対し、「お前さつきから態度でかいんじや」と申し向けて胸倉をつかむ暴行を加えた後、そのころから同日午後6時40分ころまでの間、同マンシヨン屋上階段踊り場で「センズリこけ」と脅迫し、陰茎を握るなどの暴行を加えて畏怖させた同児に自慰行為をさせ、更に「お前スツポンポンになれ」と脅迫して全裸にさせ、もつて同児をして義務なき事を行なわせた
ものである。
なお、少年は捜査段階から一貫して本件2の非行事実につき否認しているが、証人Aの当審判廷における証言及び同人の司法警察員に対する供述調書は、C子、D子の司法警察員に対する各供述調書と対比して十分に信用でき(少年は当初、証人尋問に立会うことを拒否し、少年を犯人だと断定して証言する同証人に対し「質問はない」と述べた。)、これに反する少年のアリバイを含む各供述内容は信用できない。
(法令の適用)
非行事実1、2につき各刑法223条1項
(処遇の理由)
少年は昭和57年の中学1年生当時から男子児童に性器を出させていたずらするなどの行為がみられ、中学2年の昭和58年5月ころから男子小中学生を対象に恐喝行為を始め、同年7月にはEと共同して恐喝をし、その際被害児童に性器を出させライターを近づけるなどしたため児童相談所に通告され指導を受けたが、中学3年の昭和59年6月に同様に恐喝をし、その際被害児童のズボンの中に手を入れ、また同月カツターナイフを携帯していたため、両事件で、昭和60年2月1日試験観察決定を受け同年3月18日不処分となつた。
その後、少年は別紙前件非行事実の各非行を惹起していることが判明したため観護措置決定を受け、同年6月17日の前件第1回審判期日に前件非行事実1、3については大筋で認めるが細部を否認し、同2、4、5については全面的に否認したため、被害児童・共犯者を証人尋問した結果、同月24日の第3回審判期日に前件非行事実1、3、4を全面的に認めるに至り、当初否認した理由につき「なんで嘘ついたというと、やつていないというと、ばれへんと思つたからやつたのです」と供述した。同審判期日において少年は今後2度と男子児童に恐喝やわいせつ行為をしないことを誓い、保護者が監督を確約し、付添人が身柄請書を提出したため、観護措置取消決定を受け、その後再非行はなく家族と共に平穏に生活しているとして、同年7月24日の前件第4回審判期日に前件非行事実1ないし5を認定した上保護観察決定を受けた。しかし、今回判明したところによると、少年は前件第3回と第4回審判期日の間に本件1の非行事実を惹起し、更に保護観察決定後も定職につくことなく本件2の非行事実を惹起している。
以上のような経緯や本件及び前件各非行事実、家裁調査官作成のEの調査報告書によると少年は男子児童に恐喝やわいせつ行為をする性癖があり(関係資料によると少年は男子児童の性器に安全ピンやヘアピンを使つてわいせつ行為をしている可能性が強い。)、限界級の低知で性格発達障害があるため要保護性が大きく、少年のこれまでの生活状況、交遊環境、自己本位で攻撃性が強い性格、保護者の乏しい保護能力等から、社会内処遇にはさしたる効果も期待できず、このまま家庭に復帰させれば、再び同種非行を犯すことになる虞れが多分にあるので、施設に収容の上、規律正しい集団生活の中で、これまでの生活態度を改めさせるとともに、社会規範に対する正しい考え方を養うため、矯正教育を施すことが相当であり、少年を初等少年院に送致することとする。なお、関係資料を検討するも、少年につき心身に著しい故障があるとは認められない。
よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 水谷正俊)
(別紙)
(前件非行事実)
少年は
1 E(昭和42年2月6日生)と共謀の上男子中学生から金員を喝取することを企て、昭和59年12月8日午後6時ころ、大阪府豊中市○○町×丁目×番児童公園内で、F(当時13歳)、G(当時13歳)に対し「お前ら金持つとるか、しばいたろか」などと申し向けて脅迫して同児らを畏怖させ、即時同所でFから現金1万1000円、Gから現金300円の交付を受けてこれを喝取した
2 Eと共謀の上、前同様、昭和60年2月10日午後0時ころ、大阪市○○区○○×丁目×番××号○○○マンシヨン屋上でH(当時13歳)、I(当時13歳)を脅迫して畏怖させ、即時同所でHから現金2500円、Iから現金1500円の交付を受けてこれを喝取した
3 Eと共謀の上、前同様、同月25日午後6時ころ、大阪市○○区○○×丁目×番○○住宅南側3階と4階の間の階段踊り場で、J(当時14歳)を脅迫して畏怖させ、即時同所で同児から現金8900円在中の財布1個(時価2000円相当)の交付を受けてこれを喝取した
4 同年5月11日午後5時45分ころ、豊中市○○×丁目×番先路上で、K(当時12歳)を脅迫して畏怖させ、即時同所で同児から現金2850円の交付を受けてこれを喝取した
5 同月12日午後1時ころ、豊中市○○町×丁目×番×号○○ビルマンシヨン駐車場へ、L(当時13歳)及びM(当時13歳)を連れ込み同所で同児らに自転車用ワイヤー錠をちらつかせるなどして脅迫し、即時同所で畏怖したLから現金5000円の交付を受けてこれを喝取した
ものである。